第95話 ジョンは鬼教官
「おはよう、ジョン」
人形ジョン『おはよう、アン』
『今日は、シェルターで訓練をしましょう』
「いいけれど、急にどうしたの」
人形ジョン『昨日の模擬戦でもっと訓練をしないとダメなのが良く分りましたから』
「でも、相手はAランクだったでしょ。仕方ないんじゃないの」
人形ジョン『そうですね。ランクでいえば私たちはまだDランクですから、昨日の勝負は良く出来たほうだとは思います』
『ですが、まだまだ上がいるということです』
『どこまで強くなればいいのか、正直分かりませんが、自分を守るためにも強くなって困ることはありません』
『アリソン子爵のデータとその騎士団の騎士団長、副団長、上位3名のデータは取り込んであります』
『地球の剣術動画を見た後は、データを取り込んだ人形との模擬戦をします』
『その後、休憩をしたら、幻影魔物のウルフとワイルドボアと戦いましょう』
「なんだか、今日はハードな日になりそうだね」
訓練場に移動して、剣術の動画を見る。
色んな人の動画があり、動作も細かく説明され、なぜその動作をする必要があるのかまで説明され、とても分かりやすい。
〇〇流といくつもの流派もあり、見ているだけで楽しいし参考になる。
昔は秘匿された流儀でも現在は公開しているところも多い。
平和な世の中になり、剣で戦うこともなくなったので、秘匿する必要もないのかもしれない。
動画を一通り見てから、今度は実際に試してみる。
手の動きや足の動きを何度も繰り返して、やっと身体に覚えさせられる。
これを頭で考えずにスムーズに動くようにするまでが簡単ではない。
幾つもの流派を取り入れるのが、良いのか悪いのか分からないが、自分の身体に馴染めば、良いとこ取りとなっていいんじゃないかと思う。
これは、しばらくは毎日練習するようだな。
今度は、人形相手の訓練だ。
どのようにして相手のデータを取得しているのかは分からないが、これは他者に知られたら不味いことだろうな。
知らない間に自分の特技がコピーされるわけだから、大問題だ。
だから、これは私とジョンだけのマル秘事項になる。
昨日模擬戦をしたアリソン子爵から相手する。
一人ずつ訓練するのかと思えば、一人のデータを二体の人形にダウンロードしているようだ。
これで私とジョンが同時にアリソン子爵と訓練することができる。
なるほど、時間の無駄を考えたのか。
これならば、訓練が終わった時にジョンと相手についての話し合いができる。
昨日のアリソン子爵は、初めての相手でもあり模擬戦なので全力は出していない。
だが、人形には全力で戦うように指示してある。
人形には軽い手合わせから本気モードまで、いくつかの段階を指示できるようになっている。
アリソン子爵は一度対戦しているので、本気モードにしてある。
他の人たちは、手合わせから始め次に本気と段階を踏むようにするつもりである。
いきなり本気モードでもいいのだが、こちらも身体が馴染んでからのほうが訓練としてはいいからね。
アリソン子爵は、昨日よりも力があり、動きも早い。
これでは受け流すのもなかなか難しい。
まともに受けてしまえば、手から剣が飛ばされ、私自身も倒されてしまうだろう。
剣で受け流しながら素早く移動する。
けして、その場にとどまってはダメなのである。
私も受けてばかりではいられない、致命傷になるように攻めていく。
私も人形も体力は回復するのでいくらでも戦えてしまう。
これではきりがないので、時間制限を設けている。
15分休憩する。
その間にジョンと対戦して感じたことや苦戦したことを軽く話しをした。
次は、騎士団長が相手。
アリソン子爵は冒険者っぽい戦い方に感じたが、団長は貴族らしく感じた。
貴族っぽさなんて知らないけれど。
なんかね、戦い方が力強いけれどスマートに見えた。
やっぱり、一番強いのかな。
どこを攻めてもかわされてしまう。
だが、こっちだって負けてはいられない、フェンイトを交えつつ急所を狙って打つ。
防戦となったが、なんとか時間制限までは守られた。
やはり、経験の差が出たのだろう。
ジョンにどうだったか聞いたが、防戦ではなかったが対等まではいかないようだ。
ジョンでも経験の差が出たのか。
これはもっと訓練しないとまずいかも。
いや、どこを目指しているんだよと思うが、鍛えれば自分の強みにもなるのだから頑張るしかない。
15分休憩して、次は副団長。
副団長って、次の団長候補なのか側近にちかい立場なのかよく分からない。
いずれにしても強いのは間違いないだろう。
こちらは団長とは違い動きが細かい。
微妙な差で身体全体を攻めてくる。
相手が細かく攻めてくるせいで、こちらの動きも細かくなってしまう。
大ぶりな動きならば、受け止めやすいし、攻めやすい。
なんかチマチマ攻撃されているようで、イライラしてくる。
これも相手の狙いかもしれない。
相手のペースに乗らないように、こちらは一点集中型で攻撃する。
なんども同じ箇所を攻撃されれば、ダメージも大きいはず。
この副団長は側近タイプだな。
なんとか、時間制限までは保てた。
ジョンのところに行き「ねえ、この人って、チマチマと、前回とは微妙にずらした位置を攻撃してこない」
人形ジョン『そうなんです。全体的に微妙にずらしながら攻撃してくるので、受けるのも体勢をかえる必要がでてきて非常にやりづらいです』
「なんか、性格がでてるよね」
人形ジョン『ええ、陰湿なタイプですよ』
ジョンと同じ感想だったので安心する。
こんなタイプもいるのだと知ることができてよかったかも。
次は、上位3名だ。
冒険者タイプと貴族タイプのそれぞれだった。
冒険者タイプはどちらかというと力技的な攻撃、貴族タイプは型に合わせたような攻撃だ。
どちらも実力はあるようだ。
とりあえず、時間内に勝敗は決まらなかった。
「ジョン、どうだった」
人形ジョン『人形たちと訓練してきた時とは違いますね』
『人形も強いはずなんですが、実際に個々の人間のデータの方が色んな特徴がでています』
『これは、毎日訓練する必要がありそうです』
「そうなんだよね。剣術って性格がでるのかもね」
「もしくは、育った環境か教えてくれた人の影響なのかわからないけれど」
人形ジョン『そうですね。これは色んな人のデータを集めたほうが良い経験になります』
お昼休憩をしたら、幻影魔物との訓練だ。
まずは、ワイルドボアから。
人形ジョン『最初は、魔法を使わず剣だけで倒してください』
えー、あのデカさを魔法無しで。
うーん、怖いけれど仕方ない、正面に立ち構える。
真っすぐに走ってくるワイルドボアを待ち構えて、近づいてきたら横に避けて首を狙い剣をふるう。
深く斬りこめたと思うが倒すまでにはいかなかった。
再度こちらに向かってくるので、先ほどとは逆から首を斬りつけ、続けて足も斬りつける。
足のほうが効いたのか、ふらつきながら倒れる。
すかさず、傍に行き首を上からたたっ斬る。
首を落とすまで出来なかったが致命傷にはなった。
15分休憩したら、またワイルドボアと戦う。
2回目なので、先ほどよりは緊張することなく、待ち構えることが出来た。
正面に立ち向かってくるのを待つ。
少し早めに横にずれて、確実に首を狙えるようにする。
力強く斬りこめることが出来たが、首は落とせていない。
だが、深く斬りこめたので、パタンと倒れた。
すぐに駆け寄り、首を落とすつもりで上から剣を振り落とす。
今度は、きちんと首を落とせた。
私の力では、一発で首は落とせないのか。
「ねえ、ジョン。私では一回で首を落とすのは難しいかな」
人形ジョン『そうですねぇ。やはり女性のアンでは難しいのかも知れません』
『ただ、身体強化をもう少し強くすれば出来るようになるかも知れませんね』
『それも、訓練すればです』
「そっか、やっぱり訓練は必要なのか」
人形ジョン『では、次はウルフにします』
中央に立ち、ウルフが出てくるのを待つ。
10頭のウルフが現れる。
一斉には襲ってこず、まず3頭がくる。
3頭のウルフならば、確実に首を狙って落とせる。
次は、残りの7頭が一斉にくる。
前後左右とくるが、なんなく斬り捨てていく。
全部が首を狙えてはいないが、首や胴体を斬っていき全てを倒せた。
人形ジョン『もう、10頭ならば確実に倒せますね』
『では、次は15頭にしましょう』
同じように中央に立ち、待ち構える。
15頭が現れ、5頭が先陣をきる。
ギルドで売ることを考えると、首を狙い胴体は避けて訓練するのがいいのだが、今は全部を倒すことが目標なので斬りこむ箇所までは気を使えない。
素早く動き、確実にとどめをさせるようにしていく。
5頭を倒すと、また5頭が襲ってくる。
そして、5頭を倒すと残りの5頭が襲ってくる。
15頭が一斉に襲ってはこない。
一人に対して15頭が襲っても、身体にたどり着けないからである。
半分以上は仲間の身体にかみつくことになるだろう。
まずは、3頭から6頭ぐらいで頭、手、足をそれぞれが狙って噛みつくようにするはずだからね。
人形ジョン『全部倒せましたね。でも、出来るならば首だけを狙えるようにするといいです』
「そうなんだけれど、倒すことに集中すると、どうしても胴体を斬ってしまうね」
人形ジョン『まあ、段々慣れていけば、首だけを狙えるようになるでしょう』
人形ジョン『それでは、次で最後にしましょう』
えっ、まだやるんだ。
仕方なく中央に立つ。
5頭だけが現れる。
あれ、今度は5頭なの。
5頭ならば首を狙って倒せる。
1頭を倒すと、追加で1頭が現れる。
また、1頭を倒すと追加で1頭が現れる。
これでは、いつまでたっても5頭がいる状態だ。
なんだよ、これは。全然減らないじゃないか。
もう何頭斬ったかわからない。
数なんて数えていられず、ただひたすら斬る。
ようやく、残りの1頭を倒せた。
「はぁ~、やっと終わった」
人形ジョン『良く出来ました』
「ジョン、多すぎじゃない」
人形ジョン『いいえ、そんなことはありません』
『いつも、10頭とか15頭だけしか現れないとは限りませんから』
「そうだけれど、今は確実に倒すことを訓練しているんじゃないの」
人形ジョン『そうです。倒すことが一番ですが、売り物になるように倒すのも訓練ですから』
やっぱり、ジョンは訓練になると鬼教官になる。
人形ジョン『今日は、これで終わりにします』
『しばらくの間は、この訓練を続けましょう』




