第94話 新たな子爵が赴任してきた
「おはよう、ジョン」
人形ジョン『おはよう、アン』
「ねえ、ジョン、今日もウルフ狩りでいいの」
人形ジョン『そうですね。しばらくはウルフでいいでしょう』
「そうだね。あまり大物を討伐すると面倒だしね」
いつもの薬草採取する草原で、シェルターから外にでる。
薬草は枯れてしまったものが多いが、まだ果実は残っていた。
カリン、ぶどう、リンゴなどを採取していく。
「そろそろ、森に入る?」
人形ジョン『そうですね。ある程度採取出来たので行きましょうか』
ウルフに囲まれるのも、慣れてきた。
シェルターで幻影魔物と戦う訓練が身についてきたのかもしれない。
10頭くらいまでなら、問題なく倒せる。
ジョンは、それ以上でもなんなく倒せている。
血の匂いを嗅ぎつけたのか、ワイルドボアが凄い勢いで近づいてきた。
結界で包みこみ動きが取れないようにして、ジョンが一太刀で首を落とした。
「ちょっと、焦っちゃった。こんな場所でもワイルドボアが出てくるんだね」
人形ジョン『冬になる前に食料となる魔物を漁っているのかも知れませんね』
「そっか、でもワイルドボアは冬眠とかはしないよね」
人形ジョン『そうですね。ただ寒くなると魔物の活動も狭くなるのかも知れません』
「そうだよね。人間も寒いと動きたくないもんね」
「大物も仕留めたことだし帰ろうか」
「こんにちは、レジーナさん」
「こんにちは、アンさん、ジョンさん」
「今日は薬草が少しと、果実になります」
「ああ、もう寒くなってきたからね」
「解体所に行ってきますね」
「その間に仕分けしておくよ」
「こんにちは、今日はウルフとワイルドボアになります」
「なんだ。ワイルドボアまで仕留めてきたのか」
「ええ、ウルフを討伐していたら、血の匂いで寄ってきたのか急に表れたんです」
「そうか、それは災難だったな」
「そうですよ。倒せてホッとしましたよ」
「ハハ、そうだな。でもこれからはワイルドボアも出てくるから気をつけるんだぞ」
「はい、分かりました」
「レジーナさん、これが解体所からの査定です」
「はいよ、じゃあ合わせてこれが今日の会計だよ」
「はい、ありがとうございます」
「それと、ギルマスが話しがあるらしいから、案内するよ」
「えっ、そうなんですか。分かりました」
トントン「アンさんとジョンさんをお連れしました」
「ああ、入れ」
『「こんにちは、ギルドマスター」』
「悪いな。とりあえず座ってくれ」
「今まで、モーラの世話をありがとうな」
「すっかり元通りになって、これから真っ当な仕事もできるようになった」
「本当にアンちゃんのおかげだよ。ありがとう」
「いえ、私もモーラさんが元気になられて嬉しいです」
「これから、モーラさんはどうするんですか」
「ああ、ここのギルドで働かせることにしたよ」
「まあ、受付は難しいだろうから、裏方の仕事をとりあえずさせようと思っている」
「そうなんですね。それは良かったです。働く先があるのか心配していました」
「まあな、身寄りもないし、あの仕事だったからな。普通に仕事を探すのは難しいだろ」
「でも、治ったばかりですから、大丈夫なんですか」
「はじめは、身体が慣れるように短い時間からするから問題ないさ」
「そうですね。体力が戻るまではそのほうがいいですね」
ギルマスと話しをしていると、階段のほうが騒がしい。
バタバタと音がすると、いきなりドアが開けられた。
「よう、ジェームス久しぶりだな」
「アリソン子爵様、来客中なんですからダメですよ」
「いいじゃねえか、俺とジェームスの仲なんだから」
「いいえ、お客様に失礼ですよ」
「おっ、来客中か、それは悪いことしたな」
「俺は、ジュリアス・アリソンだ。今度、男爵から子爵になってな、この土地に来たんだよ」
「おい、ジュリアス。ノックもなしに失礼だぞ」
「なんだよ、固いこと言うなよ」
「アンちゃん、悪いな。こいつは昔からの知り合いでな。悪い奴ではないんだが、礼儀がなってなくてな」
「いえ、では私たちはこれで失礼しますね」
「ああ、悪かったな。またよろしく頼むよ」
「なんだよ。俺が来たからって、慌てて帰らなくてもいいだろ」
「いえ、もう話しは終わりましたから」
「いいじゃねえか、俺もここに来たばかりだからよお、知り合いも増やしたいんだよ」
「私たちは、ただの冒険者ですから」
「俺も、冒険者だぞ。こいつと一緒でAランクなんだ」
「えっと、子爵閣下ですよね」
「ああ、ついこの前まで男爵だったんだが、急に呼び出されて、子爵にさせられてここの土地に来ることになったんだ」
「なんでも、ここに居た子爵が居なくなったとかで、無理やり子爵にさせられたんだよ」
「ああ、なるほどなぁ。それはまあ、災難だったな」
「そうだろう。俺だって男爵になるのすら断ったのによお、今度は子爵になれなんて酷すぎるだろう」
「子爵になんてなったら、余計に面倒ごとが増えるだけだろ。断ったのによお、他に成り手が居ないんだとさ」
「まあ、誰も問題を起こした子爵の後は継ぎたくないよなぁ」
「なんだよ、やっぱり何かやらかしたんだな」
「ああ、そうだ。前デップ子爵の使用人が平民たちに暴行をくわえた他にも、とある人にも媚薬を飲ませたことが問題になってな、それで僻地に飛ばされたんだ」
「そんなことがあったのか、それじゃあ、ここの町の連中からはいい顔されないか」
「いや、まあ、新たに来た貴族にはそうは思わないんじゃないか」
「そうか、それならいいんだけどよお」
「それよりも、兄ちゃんたちは、それなりの腕っぷしだな」
「いえ、私たちはDランクですので、それほどではありません」
「へえー、Dランクねぇ。でも実力は俺と同等じゃないか」
「これから、模擬戦をしようぜ。いいだろう」
「いえ、私たちはもう帰りますので」
「なんだよ。時間はあるんだろ、いいじゃないか」
「・・・・・」
「時間があるなら、こいつとやってみたらどうだ。Aランクと模擬戦するのも勉強になると思うぞ」
「そうだろう。さすが、ジェームスだ」
いや、別にこの人と戦わなくても、シェルターでも人形相手にいくらでも模擬戦できるし。
はっきり言って、もう子爵とは関わりたくないし。
「いえ、お貴族様とはご遠慮させていただきます」
「なんだよ、そのお貴族様って。俺はなんちゃって貴族だから心配はいらないよ」
はぁ、そんな馬鹿な話しがありますか。貴族は貴族だ。
「まあ、アンちゃんが貴族と関わりあいたくないのは良く分るがな、こいつは貴族の仮面をかぶった冒険者だから安心していいぞ」
「そうだぞ、俺の本業は冒険者だからな。貴族なんてえのは、押し付けられただけだから」
念話『どうする、ジョン。この人断ってもしつこそうだよ』
人形ジョン『そのようですね。では一回だけしてみますか』
「分かりました。一回だけでいいんですね」
「やったぁ、じゃあ早速訓練場に行こうぜ」
「悪いな。アンちゃん、ジョン。一回すれば気が済むと思うからさ」
本当だろうな。ギルマス。違ったならば恨むぞ。
訓練場には、昼間だからか数人冒険者が居るだけだった。
「悪いな。これからこいつが模擬戦をするから、場所をあけてくれるか」
「じゃあ、兄ちゃんからやろうか」
「ジョン、頑張ってね。でも無理はしないで」
人形ジョン『はい』
ジョンには、バリアを張ってあるが、強めにかけ直しておく。
お互いに、木剣を選び離れた位置に立つ。
「では、これから一本勝負をする。始め!」
ギルマスの掛け声を皮切りに、ジョンが最初に動く。
主に上半身を狙い、右に左に上から下からとあらゆる方向から攻めていく。
相手もAランクだけのことはあり、軽く交わしているようにみえる。
長く打ち合いも続き、時にはフェイクもありながら、ジョンも攻め続けている。
基本、ジョンは疲れ知らずなのでいつまでも打ち合いを続けることが出来てしまう。
相手も十分に楽しんだと感じたのか、反撃に出てきた。
さすがAランクなのか、打ち込んでくる力も強いし、動きも早い。
右に左にと、受けにくい箇所を攻めてくる。
だが、ジョンとて負けてはいない、身体や腕、手首を器用にかえしながら受けていく。
「ピー!!! 制限時間終了」
「両者、引き分け」
あー、これって時間制限があったのか。
「なんだよぉ。もう少しやらせてくれてもいいんじゃないか」
「馬鹿を言うな。これ以上やっても同じだろ」
「あーあ、ちょっとばかし身体が鈍っているかもなぁ。鍛え直さないと」
「兄ちゃんはつえーなあ」
人形ジョン『いえ、まだまだ鍛え中です』
「そうか。いやあ、いい運動になったよ」
「じゃあ、次は嬢ちゃんだな」
「えっ、私もするんですか」
「そりゃそうだろ。兄ちゃんとばかり訓練していると偏るぞ」
「偶には、違う体格、違う手法の相手とやるのも、良い訓練になるぞ」
チラッとジョンを見ると頷いているので、受けることにする。
私もバリアを強めにかけ直す。
木剣を幾つか触り手に馴染むものを選んだ。
「じゃあ両者位置について、始め」
ギルマスの合図で私から攻めることにした。
待っていると強く打ち込まれそうだと思ったからである。
正当法でいけば勝てそうもないので、急所ばかりを狙うことにした。
身長差もあるから攻撃しやすいかも。
まずは、下半身から狙っていく。
足首に膝の裏、腿と同じ箇所を何度も狙う。
一度や二度ならば大したダメージは受けないが何度も受けると蓄積してくる。
下半身が避けられて打ち込めない時は、脇腹、肩と狙いを変える。
模擬戦の場合は首から上は危険なので撃たないのが原則である。
相手もこちらの動きがわかるとすぐに交わしてくる。
私の方は、受け流しも得意とするのでいくら力強く打ち込まれても問題ない。
女性や小柄な人には、取得しておくべき技術なのだ。
私もジョンと同じように体力はすぐに回復するので、いつまでも対戦できるのだ。
あとは、気力次第だ。
経験や技術では負けているはずなので、とにかく素早くすばしっこく動き打つのだ。
これは、大人の相手ほど嫌がる戦法である。
「はぁー、嬢ちゃんはすばしっこいなあ」
そんなことを言いながらも、力強く打ち込んでくる。
普通ならば、とてもじゃないが受けきれないはずなのだ。
卑怯ではあるかもしれないが、腕だけに身体強化を掛けていたのだ。
そうでなければ、あんな大きな身体をした男相手では、こちらの腕が壊れてしまう。
これは、必然なのだ。
「ピー!!! 制限時間終了」
「両者、引き分け」
おっ、こっちも時間切れか。
なんとか、負けることなく終了出来て良かった。
これは、良い経験になったかも。
人形たちも色んな手法があり、それぞれ異なるのでとても勉強にはなるが、この人は別格である。
「いやあー、久しぶりに楽しかったなぁ」
「いいよなぁ。ジェームスは、俺と変わらないか」
「はっ、冗談でもお断りだね。誰が好き好んで当主になんてなるものか」
「それに、ギルマスだって楽じゃないんだぞ」
「書類整理が山ほどあるんだからな」
「あー、それは俺も嫌だわぁ」
なんだ、同じ脳筋タイプか。
「しかし、兄ちゃんも嬢ちゃんも強いよなぁ。それでDランクなのかあ」
「ええ、ゆっくりと進みますので」
「いいねぇ。今ぐらいが一番楽しいときだよなあ」
「まあな、無理にランクなんて上げる必要は無いからな」
「おいおい、ギルマスとしちゃあ、上位ランクが沢山いたほうが便利だろう」
「まあ、そうなんだが、若い奴らには無理をさせたくないからな」
「そうか、まあそうかもな。無理に上がって怪我でもしたら大変だからな」
「今日はありがとうな。おかげでスッキリしたよ」
「おい、お前は当主なんだから、貴族の仕事だけしていりゃあいいんだよ」
「なんだよ。冷たいことを言うなよ。同じ仲間だろ」
「いいや、お前とはもう違うんだから。いい加減自覚しろ」
「どうせ、部下や側近たちを困らせてばかりいるんだろ」
「そんなことはないぞ。あいつらは自主的に協力してくれているんだ」
「どうせ、お前が逃げてばかりいるから仕方なく手伝っているんだろうよ」
「なんだ、分かっているじゃないか」
「あーいうのは、出来る奴がやればいいんだよ」
「じゃあ、そろそろ俺も帰るかな。探しに来られそうだからな」
「まさか、黙って来たんじゃないだろうな」
「馬鹿言え、ちゃんとお前に挨拶してくるって言って来たさ」
「そうか、でも早く帰らないと本当に呼びに来ると思うぞ」
「あっ、それはやばいかも。じゃあ今度こそ帰るよ。またな」
「はぁ、やっと解放されたか」
「アンちゃんもジョンもお疲れ」
「いい勝負だったぞ」
「そうですか、ありがとうございます」
「でも、もうやりたくないですよ」
「まあな、でも悪い奴じゃあないんだ」
「でも、貴族ですよね。もう二度もあったのですから、懲り懲りです」
「ま、アンちゃんたちの気持ちも分かるけれどな」
かなり時間も取られたので、さっさと帰ることにした。
アンたちが帰った訓練場では。
「おいおい、あの子たちはDランクだよな。あの貴族らしい人と互角に戦っていたよな。凄くないか」
「ああ、そうだよな。時々見かけるよ」
「いつもあの二人で行動しているみたいだぞ」
「あの二人はチームを組んでいるのかな。俺たちのチームに入らないか誘ってみるか」
「いや、やめておいたほうがいいぞ、前にあの子たちに絡んだ奴らは追い出されたって聞いたぞ」
「そうなのか。でも丁寧な感じで良さそうに見えたけれどな」
「まあ、どうなってもいいならば、誘ってみれば」
「なんだよ。怖い事言うなよ」
「しかし、俺たちよりも強い事は確かだな」
「ハハハ、それは言えてるよ。俺たちも頑張らないとな」
「あー疲れたね。ジョン」
人形ジョン『ええ、本当に。もう関わりたくは無いですね』
「ほんと、そうだよね。でもあの感じだとまたギルマスに会いに来るんじゃない」
人形ジョン『そうですね。ギルマスと同じタイプのようですから、仕事から逃げて来そうです』




