表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/114

第87話 治癒ギルドで講習

「ねえ、ジョン。講習当日は、直接治癒ギルドに行くの。それともまた馬車で行く」

人形ジョン『そうですね。門での入出を調べられると困りますね』

「でも、また借りるのも面倒だよね」

「馬車はあるんだから、馬も人形でそれらしく作れないの」

人形ジョン『あー、その手がありましたか。分かりました。上手く出来るか分かりませんがやってみます』

「約束の時間が10時30分だから、当日の出発だと間に合わないよね。また、ホテルに泊まる?」

人形ジョン『そうですね。仕方ありません、また前回と同じホテルに泊まりましょう』

「馬と馬車はどうする。預けるの、それとも収納にしまう、でも上手く出来る場所があるかな」

人形ジョン『探してみます』

「私は、新しい録画魔道具を作ってくるね」


録画魔道具は講習の様子を記録するのだから、人よりも高い場所か同じ高さにするのがいいよね。

四角い形にして置けるようにするのと引っかけることも出来るようにしようか。

置くにしてもある程度は幅がないと、安定が悪くなるから、2cmぐらいの幅でいいか。

上部をL字型フックの形とただの四角だけの形の二種類を作る。

石は、目立たないように水晶にしよう。

半円にして、鉱物に埋め込むようにすればいいかな。

台座になる部分は、銀にしよう。

これは、置く場所によっては、目立つかもしれない。

今回は、隠ぺい魔法をかけるので気がつかれないだろうが、他の素材でも作ってみるか。

黒曜石とシルバーブラックにしよう。

全体が黒色ならば、目立たないし暗闇でも大丈夫だろう。

石は光沢が出ないように、表面はつや無しで処理した。


看護師の服が白なので、録画機能を付与したアクセサリーも新しくした。

石は、ローズクォーツにし、しずく型で、ピアスは耳に固定出来るようなタイプ、ネックレスの石も2cmの小ぶりなサイズにした。

看護に派手なアクセサリーは似合わないからね。


後は、地球のネット通販で私の看護師用の靴とジョンの制服と靴を購入。

介護用クッションとブランケットも数枚を購入した。


翌日も朝にモーラさんの家に行きリハビリの指導をしてから、薬草採取に向かう。

モーラさんとレジーナさんには、明日は用事があるので来れないと断っておいた。


午後には、お嬢様風の服に着替えて馬車に乗り込み、門から出てキルィ町に向かう振りをした。

門から見えない場所に来て、シェルターに戻り、キルィ町のホテルに向かう。

早めに予約しないと空きが無くなってしまうかもしれないから。

前回と同じホテルでスイートルームの予約がとれたので、今度はキルィ町の門近くの場所に馬車で出る。

馬と馬車は、ホテルの裏に止める振りをして空間にしまう。

色々と誤魔化して、馬車で来ましたよと装うのも大変である。


「色々誤魔化すのも大変だよね」

人形ジョン『そうですが、調べられることを考えますと仕方ありません』

「これだから、貴族相手は嫌だよ」

「明日の講習は無事に終わるといいね」

人形ジョン『そうですね。今回限りだといいですね』

ジョン、それはフラグっていうんだよ。


翌日、10時を過ぎて治癒ギルドに向かう。

歩いていくか迷ったけれど、最初の印象が大事かもしれないと馬車で向かうことにする。

歩いてもすぐなのに、見栄をはるのも大変だ。

私は高級なワンピースにジョンはモーニングスーツにした。

普通のスーツと迷ったが、これもまた見栄のためである。


治癒ギルドの入り口には、すでにギルマスと他に男性が二名立っていた。

馬車を止め、ジョンが御者台から降りて、エスコートしてくれる。

治癒ギルドの人は、慌てて馬車係の人を呼びに行き馬車を移動させてくれた。


「こんにちは、パーラさん」

「こんにちは、スペンサー様、タンディ様。ようこそいらっしゃいました」

「今日はわざわざお越しいただきありがとうございます」

「紹介いたします、サブマスのクーパー・ビショップと指導責任者のグレン・カレルです」

「サブギルドマスターをしております、ビショップとお申します。本日はよろしくお願いいたします」

「指導責任者をしております、カレルと申します。本日はよろしくお願いいたします」

「スペンサーと申します。彼はタンディと申します。本日はよろしくお願いいたします」


「では、講習室にご案内いたします」

「はい、お願いいたします。本日の受講者は何名いらっしゃいますか」

「人数を減らしまして、15名になります」

「当初は何名でしたの」

「はい、50名です」

「そこから、15名ですか、減らすのは大変でございましたでしょう」

「それはまあ、大騒ぎでした。皆出席したい者ばかりでしたので、最終的にはくじ引きで決めました」

「まあ、そうでございましたか、それは大変でしたね」

「でも、その方が平等でよろしいですね」


私とジョンは、建物の中に入る前に、身体にバリアと10cmほどの結界を張ってある。

「部屋に案内されると、受講者たちは席に着いていた。

私たちが部屋に入ると、それまでざわついていたが、シーンと静まりかえった。

「こちらが講習してくださる、スペンサー様とタンディ様です」

「スペンサーと申します。本日はよろしくお願いいたします」

人形ジョン『タンディと申します』

それでも、静かなままだった。

部屋に入ってすぐに、隠ぺいで、記録魔道具を部屋の8か所の壁に取り付けた。

もちろん、魔法でやったので、誰にも気がつかれてはいない。

「では、スペンサー様、講義をよろしくお願いいたします」


「本日は、ギルドマスターのパーラさんより、介護補助運動についてお話しするようにご依頼がございました」

「介護補助運動は、寝たきりにならないため、寝たきりの方は筋力を落とさない為にも必要なことでございます」

『身体を動かさないままでおりますと、筋力が衰え関節も硬くなり、酷くなりますと身体が固まったままの状態になってしまいます」

「実際に、患者様に補助運動をする場合は、負荷をかけずに関節、筋肉を緩めていくことが必要です」

「ゆっくりと軽く動かすことが筋肉の維持につながります」

「これから、実習を行いますが、その前に質問のある方はいらっしゃいますか」

シーンとしたままである。

これは、聞く気があるのか、聞いていないのか、全く分からない。

ギルマスの顔を見ると、頷いているので実習することにする。

「実習室は別にあるのですか」

「はい、別の部屋にベッドが用意してございます」

「分かりました。実習するための服に着替えたいのですが、どこか着替えることが出来る部屋はございますか」

「ああ、そうでございますね。それでは、こちらの部屋をお使いください」

「外でお待ちしております」

私とジョンは部屋に入り、魔法で鍵をかけ認識阻害のある結界をはる。

部屋にも気配察知をかけるが誰かがいたり、覗いたりしているものはいなかった。

結界の中で、私とジョンは『チェンジ』で、看護服に着替える。


「お待たせいたしました」

「えっ、そちらの服は」

「これは、患者様を介護するときやリハビリをするときに着る制服になります」

「商業ギルドにも登録はしてございます」

「そうでしたか、それは動きやすそうな服ですね」

「ええ、伸縮しますので腕や足は曲げても服が引っ張られたりしないので便利です」


ベッドのある実習室に案内される。先ほどの部屋に設置した、記録魔道具は回収済みで実習室に再度設置する。

「まずはギルドマスターからお願いしてもよろしいでしょうか」

「はい、ごもっともでございますね。私からお願いしましたからな」


「では、仰向けでベッドに寝ていただけますか」

「始めさせていただきます」

「スペンサーと申します。本日のリハビリを担当させていただきますので、よろしくお願いいたします」

「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」

「はい、パーラと申します」

「はい、パーラ様ですね。よろしくお願いいたします」

「リハビリを始める前に、どこか身体で痛い場所はございますか」

「特にはないです」

「動かしづらいところはございますか」

「特にはないです」

「そうでございますか、それでは、足首から動かしていきます」

「緊張せずにリラックスしていきましょう」

「足首を少しだけ持ち上げますね」

足首を持ち、私の膝の上に乗せる。

「まずは、足の指から動かしていきます。指を曲げて伸ばしてを三回します」

ゆっくりと指を曲げ、指を伸ばす。

「呼吸は止めないでくださいね。鼻から息を吸って口から息を出します」

「指を曲げます。息をゆっくり吸って、指を伸ばします。息を口からゆっくりと時間をかけて吐き出します」

「指を曲げます。息を吸って、指を伸ばします。息を吐いて」

「はい、それではもう片方の足も同じようにします」

反対側に移動して、足の指を動かす。

「次は、足首を上下に動かします。呼吸も同じように吸って吐いてを繰り返します」

「足首を持ち上げますね。上に曲げます。息を吸って、下に曲げます。息を吐いて」

三回行い、片方の足首も行う。

「次は、膝を曲げます。かかと膝裏に手を当ててゆっくりと曲げます」

「痛くないですか」

「痛くないです」

「ふくらはぎを桃の裏側に着くように軽く押します」

「ゆっくりと戻します」

「この時も鼻から息を吸い、口からゆっくりと吐き出します」

「痛いようでしたら言ってください」

「次は、両膝を立てます」

「足首とふくらはぎを持って膝を立たせます。もう片方の足も同じように立たせます」

「手の平を下に向けて身体の脇に置いてください。では両膝を左右に倒していきます」

「右に倒します。ゆっくりと戻し、左に倒します」

「この時も呼吸は止めずに吸って吐いてを繰り返します」

「痛くは無いですか」

「はい、大丈夫です」

「無理に膝をベッドにつける必要はございません」

「両膝を左右に動かすことが大切です」

「次は肩甲骨です。片方の手を肩甲骨に当て、もう片方の手は肩の関節に置きます」

「肩甲骨を支えながらゆっくりと上に上げ、ゆっくりと下にさげます」

それからも、手の指、手首、肘、肩と動かしていく」

「はい、これで終了です」

「いかがでしたか」

「はい、特に痛みを感じることがなく、関節や筋肉の動きが良くなったような気がします」

「これで、やり方は分かりましたか」

「はい、分かりました」


「それでは、今度はサブギルドマスターの方が横になり、リハビリを受けて、ギルドマスターが施術をしてみてください」

「私がですか」

「はい、そうです。隣で見ていますので、違っている場合は説明いたしますので」

「はい、分かりました」

サブマスがベッドに横になり、ギルマスの施術が始まる。

「患者様が安心するように、声をかけてから始めましょう」

名乗りあってから始める。

動作をする時も、一声かけてから始めている。

自分で体験したからか、スムーズに進む。

「呼吸を止めることなく、吸って吐いてを繰り返してくださいね」

「痛かったら言ってください」

「ゆっくりと動かしましょう」

「力を入れて動かす必要はございません。身体が動く通りに手を添えるイメージで」

「動きがゆっくりで軽く動かしているので、リハビリをする方も物足りないように感じるかもしれませんが、ゆっくりな動きでも筋肉には負荷が掛かっていますので大丈夫です」

全ての施術が終わったので。

「ギルドマスターいかがでしたか、力加減とか分かりましたか」

「そうですね。今までは早く動かしたり無理に曲げようとしたりしておりましたが、軽く動かすだけでも良いと分かりました」

「サブギルドマスターは、施術を受けていかがでしたか」

「はい、ゆっくり無理なく動かされているのに、関節や筋肉がしっかりと動いているのが分かりました」

「では次は、指導責任者のカレルさんが受けて、サブギルドマスターのビショップさんが施術してください」

「はい、今度は俺たちもやりたいです」

「そうですね。皆さまにも体験していただきましょう」

「ですが、まずは責任者の方々に、しっかりと覚えていただく必要がございます」

「はい、分かりました。次は僕たちです」

サブマスの施術が始まる。

私とギルマスの施術の仕方を見ているし、自分も体験しているのでスムーズに行われた。


次に、受講者たちがギルマスたちの施術を受けていき。

その時も傍で見て指導もおこなった。


そんな時に一人の受講者が「私は、スペンサー様の施術を受けたいです」

「ギルドマスターたちからの施術もいいですが、こんな機会はありませんので、直接受けてみたいです」

ギルドマスターとも相談して、私が行うことになった。

「ショー・ライアンです」

「スペンサーと申します」

「どこか痛いところはございますか」

「いえ、無いです」

「では、足の指から始めます」

膝に乗せて足の指を動かしていく。

順調に施術していったが、腕を動かそうとしている時に、事件は起こった。

「パチン」と大きな音がした。

私が屈んで腕を曲げようとしている時に、胸を触ろうとしたのだ。

もちろん、結界を張っているので触れられることは無い。

私は、とっさに二歩ほど後ろに下がった。

「ギルドマスター、今のをご覧になりましたか」

「えっ、いや、見えていません」

「彼は今、私の胸を触ろうとしました」

「はっ、僕はそんなことはしておりません」

「言いがかりをつけないでいただきたい」

「そうだぞ、平民のくせに、ライアン様に楯突くなんて何様だ」

「はぁ、サブギルドマスターと責任者の方はどうですか」

「いえ、私も後ろから見ていましたので、分かりません」

「私もです」

「ほら見ろ、誰も見ていないんだ」

「言いがかりをつけて、貴族である私を侮辱したんだ、どう責任をとる」

「あなたが、胸を触ろうとしたことは事実でございます」

「パチンと音がしたことが証明です」

「そんな音は、貴様が出したんだろう」

「ギルドマスターどうしますか、このままでは実習は出来ませんでしょう」

「仕方ありません、これで本日の講習は終了となります」

「ギルドマスター、この女の処分はどうするんですか」

「このまま、帰すんですか」

「正式に僕の家から抗議します」

馬鹿なお坊ちゃんだ。

「では、他の方は解散にして、こちらの方と私たちで話し合いをいたしましょう」

「スペンサー様、誠に申し訳ございません」

「ギルドマスター、こんな平民に頭を下げる必要はないですよ」

「侮辱罪で捕まえましょう」

その言葉を聞いた瞬間にジョンからの殺気が凄かった。

念話『ジョン、腹が立つけれど、落ち着こう』

人形ジョン『これが落ち着いていられますか、アンが侮辱されたんです』

『そうだけれど、後で色々考えよう』

人形ジョン『分かりました』

「では、私たちは、執務室に移動しましょう」

ギルマスたちと私たちとこの男が移動する。

取り巻きたちも後を付いてくるが部屋には入れない。

「それで、この女をどう処分しますか」

「ライアン、君にはガッカリしたよ。最近は真面目に仕事もしているから見直していたのに」

「なんですか、まるで私が犯人みたいじゃないですか」

「ああ、スペンサー様の言う通りだろう」

「証拠は、証拠はあるのか。私は子爵家の息子だぞ、どうなるか分かっているのか」

「君の父上もさぞガッカリされるだろう」

「ふざけないでください。私は何もしていません。この平民女の言いがかりです」

「おおかた、そんな事を言って、私から慰謝料でも踏んだくろうと考えたのでしょう」

「仕方ありませんね。こうまで言われるのでしたら、証拠を見せましょう」

「はっ、そんなものあるはずがないだろう。これだから、平民は馬鹿なんだ」

ジョンがネクタイピンを外して、テーブルの上に置く。

壊されたり、いたずらされたりしないように結界をはる。

「では、証拠をお見せいたしましょう」

「再生」

ライアンを施術始めたところから、映し出される。

「な、な、なんだこれは」

「黙って見なさい」

問題の場面になる、しっかりとライアンの手が私の胸を掴もうとしている姿が映し出された。

「こ、こんなのは詐欺だ。出鱈目だ、インチキだ」

「さては、最初から仕込んでいたな」

「なんて、汚い女なんだ」

「では、次の記録をみせましょう」

今度は、斜め後ろから映した画像を見せる。

それにも、はっきりとライアンの手の動きがわかる。

「これで、言い訳は出来まい。ライアン君は本日付けで解雇する。もちろん、このことは父上にも報告する」

「もう、出て行きなさい」

「嘘だ、私は嵌められたんだ。私は悪くない」

サブマスに捕まれ、ドアの外に連れて行かれた。

「ライアンの下品な行動は証明された。本日をもって解雇する」

「荷物をまとめて出て行きたまえ」

取り巻きたちが騒いでいるが、「静かにしろ、お前たちもグルだったのか、それならば一緒に解雇するぞ」

そう言われると、取り巻きたちは逃げて行った。

指導責任者の人がついて行き、荷物をまとめさせるようだ。

サブマスは部屋に戻り「誠に申し訳ございません。お詫びのしようもございません」

「念のためと用意しました魔道具が使うことになってしまいました。とても残念です」

「ギルドマスター、私が罰せられることはないですよね」

「はい、もちろんでございます」

「このことは、子爵家にも報告いたします」

「その子爵家から苦情が届くことはないですよね」

「はい、それはそのように契約もしておりますから」

「そうですか、安心はできませんが、仕方ないですね」

「私たちは、これで失礼させていただきます」

「このことは、契約書に署名もしてくださった、商業ギルドのグリーンさんには報告いたします」

「では、失礼いたします」


私たちは、気が重いなか商業ギルドに向かった。

「スペンサーと申しますが、グリーンさんはいらっしゃいますか」

「お約束はされていますか」

「いえ、しておりません」

「では、確認して参りますので少々お待ちください」


「こんにちは、スペンサー様、タンディ様」

「こんにちは、グリーンさん」

「お部屋にご案内いたします」

いつもの部屋に通される。

「それで、いかがいたしましたか、本日は治癒ギルドで講習する予定でございましたでしょう」

「ええ、講習はしてきましたが、また、トラブルが起きました」

「えっ、またでございますか」

「ええ、ほぼ順調に講習会は進んでいたのですが、最後のほうで受講者の方が施術を体験しておりまして、一人の男性が私を指名したものですから、その方にも施術しておりました」

「そうしましたら、屈んだ隙をねらったのでしょう。胸を触ろうとしまして」

「でも、結界を張ってあるので触られることはございませんで、『パチン』と音をさせるようにしましたから」

「執務室に移動して話し合いをしましたが、自分はやっていない、詐欺だとか嵌められたと騒ぎ始めたものですから、記録映像を見せました」

「もちろん、どの魔道具からも記録されています」

「彼は本日付で解雇されました」

「ライアン子爵家の人のようです」

「私は、子爵家の方とは相性が悪いようです」

「そんな、スペンサー様は何も悪うございませんのに」

「パーラさんは、契約書に書かれているので、子爵家に罰せられることは無いと言われましたがどうでございましょう」

「子爵家のご当主様と契約している訳ではございませんから」

「いえ、そのようなことはございません、その為の契約書ですから」

「そうですよね」

「一応、報告までと思い伺いました。私どもは早くこの町から出た方がいいと思います」

「もしかしたら、門衛に止められてしまうかもしれませんので」

「えっ、まあ、ごもっともでございますね。こちらもギルマスとも相談いたしますので、お気をつけてお帰りください」

「はい、ありがとうございます」


ジョンとギルドを出て、速攻でこの町を脱出した。

しばらく馬車で走ってからシェルターに戻り、ダーニュ町に到着予定時間にまた外に出て馬車で帰ってきた。

なんだか、既成事実を作るのも馬鹿らしいが、騒ぎが起こったから尚更しかたない。


「ジョン、疲れたねぇ」

人形ジョン『あの男は消してしまいましょう』

「いや、そんなことをしたら、真っ先に私たちが疑われるよ」

人形ジョン『では、あの男をどう処分すればいいでしょう』

「いやいや、とりあえずそのままでいいから」

「相手の親もどう出てくるか分からないし」

「なんか、受けなければよかったね」

人形ジョン『申し訳ございません。私も良かれと思い勧めてしまいました』

「いや、ジョンのせいじゃないよ。やっぱり本だけでは分からないことも理解できるしね」

「はぁ、本当に子爵という存在とは相性が悪いんじゃない」


「疲れたから、お風呂にでも入ろう」

人形ジョン『はい、私が洗って差し上げます』

「えー、いいよぉ」

人形ジョン『大丈夫です。その後はマッサージもしますから』

なんか、やる気も動く気力もないので、ジョンに洗ってもらうことにした。

これで、いいのか私。


【商業ギルド キルィ町 side】

トントン「グリーンです」

「入れ」

「どうした」

「今、スペンサー様がいらして、治癒ギルドの事を聞きました」

「あいつら、やらかしましたよ」

「はっ、何を」

「ライアン子爵の坊ちゃんが、スペンサー様の胸を触ろうとしたらしいです」

「それで、大騒ぎになり記録映像を証拠として見せたそうです」

「その男は本日付で解雇されたようですが、子爵家がどう対応するか分からないので、すぐに帰られました」

「はぁー、まったく治癒の奴らも馬鹿なのか」

「その為に、契約書も書いたんだろう」

「スペンサー様は、何か罰が下されるかもしれないからと、急いで町を出るそうです」

「もう、出たかもしれません」

「ああ、そうだな。万が一門で止められたらどうしようもないからな」

「それで、治癒の奴らはどうするんだ」

「対処するから問題ないと言われたそうですが、契約書には子爵家とはしていないからと、スペンサー様は心配されておりました」

「どうするか、俺たちからも治癒に抗議するか」

「それだけじゃ足りないな。本部にも至急連絡しよう。後は、薬師ギルドにも連絡して何かあった時にも協力してもらおう」

「そうですね。急いで、本部と薬師に連絡いれます」

「まったく、スペンサー様が貴族嫌いになるのも分かるよ」


【商業ギルド 王都本部 side】

「ギルマス、大変です、またキルィ町から緊急で連絡がきました」

「また、あの商会です」

「はぁ、またかよ。あの商会で緊急以外はないのかよ」

書簡を受け取り、読んでいく。

「また、とんでもないことになっているじゃないか」

「また、トラブルですか」

「ああ、治癒ギルドで起こったみたいだ」

「はっ、治癒ならばうちは関係ないですよね」

「それが、治癒の契約書にキルィ町のサブマスも署名しているそうなんだ」

「なんでそんなことに」

「あの商会が用心のために、商業ギルドにもサインさせたんじゃないか」

「現にトラブルが発生したから、本部にも連絡がきただろう」

「治癒だけで、丸め込まれないようにしたんじゃないか」

「それで何があったんです」

「ああ、どうも治癒で商会が講習をしていたら、馬鹿な貴族が嬢ちゃんに手を出したらしい」

「えっ、殴ったんですか」

「そっちの手じゃねえよ。卑猥なほうだよ」

「えー、それは怒りますよ」

「ああ、だが相手は貴族だ、平民だからと馬鹿にしたようだし、逆に罰してやると騒いだそうだ」

「嬢ちゃんたちは、慌てて町を出たそうだ」

「まあ、当然ですね」

「はぁ、また会長に報告しないと、治癒の本部とも相談かな」

「頑張ってください」

「ああ、胃が痛くなりそうだ」


トントン「ギルマスのリッキーです」

「入りなさい」

「おや、浮かない顔ですね」

「彼はいつもですよ」

「あの商会がトラブルにあったと、キルィ町から報告がありました」

「えっ、なんですって」

「実際には、治癒ギルドでですが、キルィ町のサブマスが念のために関わったようです」

会長は、急いで書簡を読みだす。

「なんてことです。可愛そうに」

「まだ、少女ですのに」

「えっ、会長、彼女がどうされたのですか」

「ああ、治癒で講習をしている最中に、受講者に襲われたらしい」

「そんな、怪我は大丈夫ですか」

「そうじゃない、卑猥なことをされたようだ」

「だが、結界を自身に掛けていて、触られてはいないようだ」

「相手が貴族だから、どうなるのか心配しているようだ」

「そんな、治癒は何をしていたんですか」

「おおかた、油断していたんだろうさ」

「あの記録魔道具を使って、証拠を突き付けたらしいがな」

「あー、あれを使ってしまったのですね」

「まあ、商会の方が用心深かったってことだ」

「さすが、あの商会ですね」

「それで、どうするんですか」

「ちょっと、治癒に抗議に行ってくるよ」

「はい、お伴いたします」

こうして、アンの知らないところで王都でも大騒ぎとなっていったのである。


【治癒ギルド キルィ町 side】

「どうしますか、スペンサー様の心配している通りになってしまいましたよ」

「あれだけ、注意したからと安心してしまった」

「もう、スペンサー様は、我々を信用してくれませんよ」

「ああ、そうだよな」

「それに、本当に子爵家からの抗議とか罰はないんでしょうね」

「それは、当然だ」

「でも、スペンサー様も心配されていましたよね。子爵家とは契約していないからと」

「いや、そこは治癒として契約しているし、ライアンだって治癒の一員として参加しているんだ。子爵に何か言われる筋合いはない」

「ですが、もし、子爵がスペンサー様を召喚するように命令されたら、逆らえませんよ」

「え、そ、そうだな。召喚されたらそうだな」

「そうだなじゃないですよ。どうするんですか」

「このままだと、スペンサー様を守れませんよ」

「はぁ、まったく、あのライアンめ、あいつもメンバーから外しておけばよかった」

「そうですね。あんなのは外せばよかったんですよ」

「今さら言っても仕方ないな」

後日、取り巻きたちにも抗議文を送りつけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ