第84話 狙われた理由
「今日はひどい目にあったね」
人形ジョン『本当ですよ。生きた心地しませんでしたよ』
「ごめんね。ジョン」
人形ジョン『しばらくの間は、外出するのを控えたらどうですか』
「でもさぁ、モーラさんのリハビリがあるじゃない」
人形ジョン『でも、アンの依頼は終わっていますよね』
「そうなんだけれどね。経過観察もしたいじゃない」
「リハビリを続ければ、どんな感じで回復していくのか分かるしさ」
人形ジョン『仕方ないですね。でも情報源の犯人は捕まっていませんからね。まだ注意は必要ですよ』
「うん、分かっている」
人形ジョン『では、明日からは一緒に行動しましょう』
日課になりつつある、モーラさんの家に行く。
「おはようございます。モーラさん」
「おはようございます。アンさん」
「調子はいかがですか」
「身体を動かしているお掛けで、とても体調がいいです」
「無意識に寝返りを打ったりしています」
「そうなの、それはとても良い事です」
「健康な体は、自然と寝ていれば寝返りは打つんです」
「だから、健康な身体になってきている証拠ですね」
「とりあえず、クリーンと鑑定をします」
「クリーン」「鑑定」
「今日も身体の異常はありません」
「では、リハビリをしていきましょう」
足首、腿、腕、身体と順番に動かしていく。
今は、各10回ずつこなしている。
「痛くありませんでしたか」
「はい、気持ちよいです」
「お水をお願いします」
身体を動かした後は、必ずコップ一杯の水を飲ませるようにしている。
「お水のおかわりはしますか」
「はい、お願いします」
「では、もう一杯お願いします」
「それと、桶とタオルもお願いします」
桶とタオルにクリーンを掛けてからお湯をはる。
「今日も汗をかいていますから、顔から丁寧に拭いてあげてくださいね」
「では、お大事に」
「はい、ありがとうございました」
モーラの家を出るとき、ジョンには認識阻害と隠ぺいをかけてもらった。
よほど魔力察知の出来る人でなければ、ジョンのことは分からない。
私も軽く認識阻害をかけている。
周囲50mに、気配察知と風魔法で声を拾うようにした。
これで悪意や悪だくみをしている人の声が聴けるからだ。
数人が尾行しているのが分かる。
話し声が聞こえてきた。
「あれが対象者だ。気がつかれないようにしろ」
その声を風に乗せて、本人たちには分からないように、遠くまで飛ばした。
そうすれば、周りにいる一般人や衛兵の人たちにも声が届くからだ。
どこで声をかけるかとか、捕まえてしまえとか話し合っているのも分かる。
一般の人は、物騒な会話が聞こえてくるので、キョロキョロしているが、そんな人は見つけられない。
衛兵の人たちも最初は驚いていたが、段々慣れてきたのか声をする方を探し出した。
さすがである。
気配察知で確認していると、一人また一人と捕まっていった。
これで、今日は安心かな。いや、家に帰るまでは安心したらダメたな。
そんなことを気にしながら歩いていくと、ギルドに着いた。
「おはようございます。、レジーナさん、ギルドマスターはいらっしゃいますか」
「おはよう、アンさん。ギルマスの部屋まで案内するよ」
「おはようございます。ギルドマスター」
「おはよう、アンちゃん」
「報告があるんだ」
「あの衛兵の件なんだが、情報を漏らしたのは、下働きの子の母親だった」
「えっ、そうなんですか」
「ああ、ただ悪気があったわけではなくて、店先に店主と世間話のつもりで話していたそうだ」
「それを偶々あの衛兵が聞いていて、手柄になると思って犯行に及んだらしい」
「もし上手くいかなくても、脅して金を巻き上げればいいと考えていたようだ」
「処分はまだ決まっていないが、たぶん鉱山送りになるだろう」
「はあ、偶々ですか」
「何て運が悪いんでしょう」
「まあ、そう思うよな」
「それでだ、衛兵は捕まったが、母親の会話を聞いていたのが、奴だけとは限らない」
「だから、しばらくの間は十分注意してくれ」
「分かりました」
「モーラさんの家からギルドに来る途中も、物騒な会話をしている人たちがいました」
「私を尾行していたんだと思います」
「何、本当か」
「はい、ですがたぶんその人たちは、衛兵に捕まったと思います」
「はぁ、どうしてだ」
「会話を風に乗せて遠くまで飛ばしていたので、一般の人や衛兵にも届いていたと思います」
「ハハハ、凄いなアンちゃんは、それでそいつらは捕まったのか」
「たぶんですが、そう思います。ただ、それが全員ではないですよね」
「他の場所で待機している人や本拠地にいる人もいるでしょうから」
「ああ、そうだな。まだ安心は出来ないな」
「しばらくは、ジョンと一緒に行動した方がいいんじゃないか」
「はい、今ジョンはギルドの外で見張っています」
「そうか、抜かりはないんだな」
「まあ、そうですね」
「母親の世間話がとんでもなく広がりますね」
「ああ、恐ろしい話しだよ」
「一応、母親にもあの子にも釘は指したから、今後はうかつに話したりしないだろう」
「そうでしたか、ありがとうございます」
「いや、元は俺の依頼からだからな」
「あーそれで、モーラさんは寝返りも打てるようになりました」
「順調に身体が回復し始めていますね」
「良い傾向だと思います」
「そうか。日に日に回復していくな」
「はい、これで普通の食事が出来るようになれば、もっと回復も早くなるでしょう」
「ああ、本当に食事は大事だ」
念話『ねえ、ジョン。少しうろついてから帰る』
『また、誰か釣れるかもしれないし』
人形ジョン『そうですね。お店でも見ている振りをしながら帰りますか』
先ほどと同じように気配察知して声を拾いながら歩く。
まだ残党がいたようで、その人たちも衛兵に連れて行かれていた。
念話『今日はこのへんで終わりにしようか』
人形ジョン『そうですね。そろそろ帰りましょう』
「あの人たちは、誰の指示だったんだろうね」
人形ジョン『衛兵の詰め所を覗いてみますか』
「そうだね。そうすれば何か分かるかも」
お得意の【ビューview】機能で詰め所を覗く。
「隊長自ら尋問しているね」
人形ジョン『この前ギルドに来た人ですね』
【衛兵詰め所 side】
「お前たちがある人を攫おうとしていたのは、分かっているんだぞ」
「そんなあ、誤解ですよ俺たちはただ歩いていただけです」
「ほう、ならば、なぜ、目的の対象者はあれだとか」
「バレないように近づけとか」
「周りで取り囲めばいいとか」
「抵抗するならば、殴ってもいいとか」
「そんな会話が聞こえてくるんだ」
『おい、なんで俺たちの話していたことがバレているんだ』
『周りに衛兵なんかいなかったよな』
「俺たちには、たっぷりと時間があるからな、いくらでもしらばっくれているがいいさ」
「そんなぁ、こんなのは違法取り調べじゃないですか」
「お前たちでも、そんな難しい言葉を知っているんだな」
「いくら衛兵だからって、それは酷いですよ」
「お前たちのように、人を攫うのは酷くないのか」
「だから、誤解ですって」
「誰が一番に吐くかな」
「一番の奴だけは、温情をかけるかな」
「二番手、三番手は鉱山送りだな」
「隊長それじゃあ甘いですよ」
「極寒の地へ行かせて道路整備をさせればいいんですよ」
「おーそうだった。あそこはいくら人をやっても、すぐに倒れてしまうから常に人手不足だったな。そうしよう。送り先を変更して極寒地だな」
「はあ、そんな馬鹿な話しはありませんぜ」
「あーいいんだ、いいんだよ。お前らのような奴は、こっちで決めて良いことになっているからな」
「とりあえず、一週間はここで過ごせる、ここが最後の楽園になるからな」
「せいぜい、楽しめ」
『おい、どうするよ。このまましらばっくれても、極寒地送りになるんだぞ』
『あんなのは、張ったりに決まっているだろ』
『何も証拠はないんだ。黙っていれば解放されるさ』
『そんなこと言って、解放されなかったらどうするんだよ』
『こんなことで、極寒地に行くのは御免だよ』
『いいから、喋っちまおうぜ』
『馬鹿、それが衛兵たちのやり方なんだぞ』
「隊長、あいつら疑心暗鬼になっていますぜ」
「ああ、そうだな。あとはしばらく放っておいてから、一人ずつ取り調べをしていこう」
「ねえ、ジョン。試しに一人だけ浄化してみてもいい」
人形ジョン『それは、面白そうですね。やってみましょう。誰が良いですかね』
「一番手ごわそうな人がいいよね」
人形ジョン『そうですね。あの髭を生やした人はどうですか』
「あの人ね。いいかも。じゃあやるよ」
髭の人をターゲットにして。
「浄化」
「なんか、ちょっとぼーっとしているね」
人形ジョン『浄化中なんでしょうか』
「ハハ、何それ、面白いかも」
自分が狙われていたのに、楽しそうである。
「ウウウ、ウゥ、ウゥ」
『おい、どうした急に』
『こいつ泣いてやがるぜ』
『おい、おい、しっかりしろ、どうしたんだよ急に』
「ウー、ウー、ウー」
『おい、こいつヤバイ薬とかやってんじゃないだろうな』
『いや、今までそんな様子はなかったぜ』
『まさか、さっき飲んだお茶じゃないのか。あれに薬でも入っていたのかもよ』
『そんなわけないだろ、衛兵がするわけないじゃないか』
『わからないじゃないか、だって衛兵の奴ら、俺たちを極寒地に送るって言っていたし』
『まさか』
「おーい、だれかぁー、水、水をくれー」
「なんだ。騒がしいぞ。水ならそこにあるだろ」
「いや、これじゃなくて、新しいみずをくれ」
「頼むよ。新しい水が欲しいんだ」
「いや、ダメだな」
「喋るから、何でも喋るから、水をくれ」
「あー分かった」
「じゃあ、お前だけ出ろ」
「おい、きたねえぞ。俺も俺も喋るから水をくれ」
「一体どうしたんだ、急に水を欲しがって、奥にいるあいつは、泣き出しているし」
「とりあえず、お前だけ出すからな」
「へい、助かりやしたぜ」
それからは早かった。水を欲しがった連中は、浴びるように水をがぶ飲みして、喋りだしたのである。
取り調べた結果、依頼した犯人は、娼館のココ姉さんだったのだ。
元々、モーラさんのことは気に入らなくて、そこにギルマスが現れて運び出されて治療まで受けさせてもらっていたことも許せなかったようだ。
治療したのが、小娘の私で鑑定まで使えてギルマスに可愛がられているのも気に入らなかったらしい。
彼女は、即日逮捕された。
これには、女将もショックを受けていたようだ。
あんなに親身にモーラのことを心配していたのが、全て嘘だったのだからね。
下働きの子にも、話したそうだ。
あの子も優しい姉さんだと思っていたのに、騙され裏切られたのはショックだったことだろう。
これも、良い経験だったと思うしかないね。
衛兵隊の人たちも、急に犯人たちが水を欲しがったのが理解できないようだった。
勝手に勘違いしていたなんて、笑っちゃうよね。
私とジョンはギルドにきて、ギルドマスターに説明を受けていた。
「なんか予想していた通りってことですかね」
「まあ、そうだな。やっかみは恐ろしいな」
「そうですよねぇ」
「これで、もう安心していいんですか」
「まだ分からないが、まあ、そうそう聞いたからと悪用しようとは思わないからな」
「でも、用心のために注意することだけは続けてくれ」
「これは、今回のことだけじゃなくて、アンちゃんは狙われやすいんだからな」
「えーそうなんですか。怖いこと言わないでください」
「本当だからな、いいか、ジョン、お前さんからもよく言い聞かせるんだぞ」
人形ジョン『ええ、もちろんです』
「えー、ジョンまで」
「大人の忠告は聞くもんだ」
「はーい、分かりました」
「ねえ、ジョン、これで終わりかな」
人形ジョン『ギルマスの言っていたように、まだ他にも企んでいる人はいるかもしれません』
『注意することは続けないとダメですね』
「分かったよ。それにジョンと一緒でしょ」
人形ジョン『はい、もちろんです。ずっと一緒ですから』




