第83話 冒険者ギルド side
「皆さん、帰られましたか」
「ああ、やっとな」
「しかし、どうしてこんな事になっているのでしょう」
「俺にも分からねぇが、女将か下働きの子のどちらかが関係しているだろう」
「アンさんもついていないですね」
「子爵家の件でも、嫌な思いをしたはずなのに、またとは」
「そうなんだよな。子爵家はレジーナが勧めたし、今回は俺だろ」
「もしかして、このギルドとの相性が悪いとか」
「そんなわけないでしょ」
「あー、そういえば、ジョンが言っていたな。なんでもアンちゃんがこの町を出て行かないのは、俺に義理があるからだと」
「そんな覚えはないのにな」
「もしかして、あれじゃないですか。若造がアンさんに喧嘩を吹っかけて、訓練場で模擬戦をしたでしょ」
「それで若造たちを鉱山送りにしたじゃないですか」
「そんなことでか。あれは若造が常習犯だったし、いつものことだろ」
「でも、ギルマスが模擬戦をすればいいと言ったから、アンさんも受けたんじゃないですか」
「そのことでDランクにも昇格したし」
「まあ、そんなこともあったな」
「しかし、今回は悪質すぎるよな。たぶん犯人は娼婦だろう」
「鑑定した集会所に来ていたかは、分からないがな」
「早く手を打たないと、またアンちゃんが攻撃されるかもしれないし」
「女将と下働きの子の所に行ってくる」
「女将いるかあー」
「いるさね。この前はありがとね。皆、魔法が使えると分かって喜んでいるさね」
「そうかい。そりゃあ良かったぜ」
「ちょっと、話しがあるんだがいいか」
「なんだい急に。人に聞かれないほうがいいのかい」
「ああ、そうだな」
「女将を疑っている訳じゃないからな。一応確認のために聞くだけだからな、そこのところは誤解しないでくれよ」
「なんだい。改まって。分かっているさね」
「モーラとアンちゃんのことを誰かに話ししたか」
「ハ、誰にも言ってないさね。第一モーラのことがバレたら、大変なことになるからな」
「治るにしても、治らないにしてもだ」
「女将の信頼している奴にも話しはしていないんだな」
「ああ、もちろんさね。モーラの話しをする時も、周りに人がいないか注意していたさね」
「そうか。分かった」
「なんだい。モーラかアンさんに何かあったのか」
「・・・・・」
「なんだい。私は質問に答えたんだ。そのくらい教えてくれてもいいさね」
「まあ、そうだな。絶対に誰にも言うなよ」
「下手したら、アンちゃんの命に関わるからな」
「はぁ、そんな大事なのかい」
「ああ、実はな、今日衛兵がギルドにやってきて、アンちゃんを違法行為で捕まえると大騒ぎしてな」
「モーラの件が筒抜けになっていたんだ」
「そんなバカな」
「そう思うだろ、違法な薬を与えて、違法な医療行為をしているから、捕まえるんだと息巻いていてな」
「薬師ギルドや治癒ギルドが来て説明しても、グルだとかぬかしやがって、隊長に捕まえてもらったがな」
「そこまで、詳しく知っているのはおかしいだろ」
「そうさね。私は薬の話ししか知らないし、医療行為ってなんさね」
「そうか、そうだったな。ああ、まあ簡単に言えば介護を手助けするみたいなもんだ」
「そうなると、犯人はあの下働きの子しかいないな」
「まさか、あの子がそんなことする訳がないさね」
「俺もそうは思うが、あの子も金がないだろう。今回の賃金も母親にすべて渡しているようだしな」
「だから、食事もろくに取っていないようだぜ」
「ああ、あの子も大変だからな」
「金欲しさに誰かに話したか、丸め込まれて誰かに話ししてしまったかだ」
「とにかく、今回は悪質すぎる。下手したらアンちゃんは牢屋に入れられて、鉱山送りにでもなっていたかもしれないんだ」
「そんな、アンさんは助けてくれただけなのに」
「ああ、アンちゃんはしっかりしているが、お人好しなところがあるからな」
「今でもモーラの所に朝行って様子を診ているんだ」
「そうなのかい。もう、依頼は終わっただろう」
「そうなんだが、モーラが心配なんだろうよ」
「自分で治療したしな」
「だから、早く手をうたないと、アンちゃんの身が危ないんだよ」
「そうさね。それは困ったことさね」
「ああ、だから次は、あの子に確認してくるよ」
「女将も周りの奴らを気にしておいてくれるか」
「ああ、分かったさね」
「こんちはー」
「モーラいるかぁー」
「はーい」
「おう、入るぜ」
「調子はどうだ」
「はい、とってもいいです」
「リハビリも頑張っているそうじゃないか」
「はい、少しずつですが、動かせるようになっています」
「アンちゃんがやってくれるんだろ」
「はい、とても良くしてもらっています」
「リハビリも痛くないようにゆっくり丁寧にしてくれます」
「そうか、無理はするなよ。まだ時間はかかるんだからな」
「焦ってはダメだぞ」
「はい、アンさんにも言われていますから」
「そうか、じゃあまた様子を診に来るからな」
「よう、お前さんとは一週間の約束だが、これからのことを話したいから、ちょっといいか」
「モーラ、ちょっとだけ、この子と話しをするからな」
「はい、分かりました」
「いつも、モーラの面倒をみてくれて、ありがとうな」
「はい」
「寝たきりの病人を看病するのは大変だろ」
「はい、でも大丈夫です」
「そうか、あまり無理はするなよ」
「一週間の約束だが、もっと続けることは出来るか」
「はい、女将さんがよければ」
「そうか、じゃあ女将にも聞いてみる」
「ところでアンちゃんのことを誰かに聞かれたことはあるか」
「???」
「なんかな、アンちゃんのことを調べている奴がいるんだ」
「だから、もしかして何か聞かれたりしていないかと思ってな」
「いえ、聞かれたことはないです」
「そうか、じゃあ誰かにモーラやアンちゃんのことを話ししたか」
「お母さんと姉さんに話しました」
「姉さんは、モーラさんのことを心配していたから」
「ほう、そうなのか。モーラにも友達がいたのか」
「じゃあ、俺もお礼を言わないとな」
「その姉さんの名前は何ていうんだ」
「ココ姉さん」
「そうか、分かった」
「でもな、良く聞くんだぞ。これからは、仕事を受けたらその人のことや仕事の内容は誰にも話してはダメだ」
「たとえ、母親にでもだ」
「一人に話せば、その人がまた次の人に話しをしてしまう」
「そうすると、色んな人が仕事の内容を知ってしまう」
「その中には、良い人もいれば、悪い人もいる」
「今回は、アンちゃんの事を調べている奴がいる」
「だからな。仕事を頼まれたら、その内容は誰にも言ってはいけない」
「仕事を引き受ける前ならば、誰かに相談するのは構わない」
「それと誰にも言ってはいけないと言ったが、もし、これは悪い事かも知れないと思った場合だけは、誰かに相談しなさい」
「そういう時の勘は大事にしなさい」
「勘???」
「そうだ、人は時々勘を感じることがあるんだ」
「小さなことだが、今日は良いことがあるかもしれないとか、今日は悪いことがありそうだとか」
「この人は、変な感じがするとかな」
「そういう何でもない事が大事なんだ」
「その勘を気にするようになると、色んなことが分かるようになるんだ」
「難しいが言っていることは、分かるか」
「はい、何となく分かります」
「だから、今からはお母さんにも姉さんにも、モーラたちのことは話ししてはダメだ」
「だけれど、何か聞かれて、『話せない』と答えるのもダメだ」
「そうすると、相手も何でダメなんだと、しつこく聞いてくるし、逆に怪しまれる」
「だから、そこは上手く誤魔化すんだ」
「誤魔化す???」
「そうだ、嘘を付くのとは違うぞ」
「そうだな、いつもと変りないとか、特に何もなかったとか、答えるのならばどうだ」
「それから、今日もアンちゃんが来たかと聞かれたら、外出していたから分からないとかな」
「何も答えないと、相手から怪しまれる。だから、それらしい事を答えるんだ」
「もしかしたら、ちゃんと答えないと相手は怒り出すかも知れないだろう」
「だから、それらしく、何となくな感じで答えるんだ」
「分かるか」
「うーーん、何となくですが、分かります」
「そうだな、最初は難しいだろうが、話すうちに慣れてくる」
「たとえば、今日聞かれたら、何て答えようとか前もって考えておくんだ。そうすれば、落ち着いて答えられるだろう」
「その姉さんとは、いつも会っているのか」
「ううん、女将さんの所に行ったときに会う」
「そうか、分かった」
「じゃあ、またしばらくはモーラのこと頼んだぞ」
「はい、分かりました」
「じゃあ、モーラに挨拶してから帰るから」
「モーラ、この子にはもうしばらく頼むことにしたから、よろしくな」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ、また来るから」
さて、母親と娼婦か、どちらが犯人かな。
どうやって調べるか。
衛兵の詰め所に行ってみるか、そろそろ尋問も終わっただろう。
「こんちはー、隊長いますかぁー」
「おや、誰かと思えばギルマスじゃないか、どうした」
「うちのギルドで騒いだ衛兵の尋問が終わったころだと思って聞きにきたんだ」
「あー、あいつか、本当に迷惑な奴だよ」
「あーいうのが一人でもいると、衛兵隊全部の信用を無くしちまう」
「まあ、そうだよなあ」
「それで、隊長はどこにいるんだ」
「あー尋問も終わって執務室にいるんじゃないか」
「案内するよ」
トントン「隊長、冒険者ギルドのギルマスをお連れしました」
「入れ」
「おう、邪魔するぜ」
「ああ、悪いな来てもらって」
「どうだ、吐いたか」
「ああ、どうもな、偶々女の話しを聞いたようなんだ」
「偶々」
「なんか、買い物をしていて、ある店に入ったら女と店主が話しをしていてな。そこでモーラとアンさんのことを聞いたらしいんだ」
「そこでも、娼婦病の薬なんてあるはずがないのに、騙されているんだとか、詐欺だろうって話しになっていたそうだ」
「これで手柄を立てようと思ったらしい」
「上手くいかなくても、その冒険者から脅して金でも巻き上げようと企んでいたようだ」
「はぁー偶々聞いた話しなのかよ」
「それでよく調べもせずに、ギルドに乗り込んできたのか」
「呆れて物も言えねえな」
「それで、あいつの処分はどうなる」
「今、協議中だが、アンさんにギルマスと薬師と治癒への恐喝を考慮すると、鉱山送りだな」
「今まで、放っておいたわけじゃないんだろ」
「その都度注意したり、減給したりしたんだが、ここまで酷くはなかったからな」
「今回は、偶々俺たちがいたし、アンちゃんが証明書や資格を持っていて、証言してくれる人がいたから良かったものの、それが出来なければ牢屋行きだったろうさ」
「成人しているとはいえ、まだ16歳の子供だ。大人へのましてや衛兵への対応なんて出来ないだろう」
「そのあたりの指導はどうするんだ」
「正直に言えば、急には無理だな。もちろん指導は続けていくし、今回の件を例にあげて全員に説明はする」
「だが、衛兵と一括りでいっても、素行の悪い奴はいるんだ」
「育ちが良いとか悪いとか関係なくな」
「まあ、地道に信用されるように頑張るだけさ」
「そうか、まあ、ギルドも同じだな。悪い事する奴らはいつでもいるからな」
「それで、その話しをしていた女は誰か分かったのか」
「ああ、どうやら娘の働き先だと言っていたらしいから、母親だろう」
「そうか。それでその母親には何か対処するのか」
「いや、さすがに世間話していただけだからなあ」
「それもそうだな」
「この一件で終わればいいがな」
「おいおい、怖いこと言うなよ」
「まあな、でも聞いていたのが、奴だけとは限らないからな」
「後日、各ギルドに謝罪に行くよ」
「隊長職も大変だな」
「お互い様だろ」
仕方がない、衛兵が動けないなら、俺が母親に釘を指しに行くとするか。
事前に、モーラの事を頼むから、下働きの子の周辺は調べてあったのだ。
当然、家の場所も調べてある。
信用できない子に、モーラを任せられないからな。
「こんちはー、誰かいますかあ」
「はーい、どなたですか」
「俺は冒険者ギルドのギルドマスターをしているジェームズだ」
「モーラの世話を頼んだ者だ」
「これは、娘がお世話になっています」
「ちょっと、話があってな」
「近所に聞こえてもまずいから、玄関だけでも入れてくれるか」
「ああ、すみませんね。どうぞ」
「悪いな」
「それで、話しなんだが、最近外で娘の働き先のことを誰かに話さなかったか」
「えっ」
「ああ、たぶん世間話のつもりで話したんだろうがな」
「あっ、すみません。つい店で話ししてしまいました」
「そうかい、やっぱりあんただったのか」
「それで困ったことが起きたんだ」
「その会話を偶々衛兵が聞いていてな、手柄を立てようと冒険者ギルドに乗り込んできて、その子を捕まえようとしたんだ」
「実際には、薬は出来上がって、今薬師ギルドで制作中だ。それにその子も薬師も治癒の資格もある。だから違法でも何でもないんだ」
「ところが、その衛兵は聞く耳をもたず、俺たちや薬師と治癒の人たちも捕まえると言い出してな。衛兵隊長を呼び出すまでの大事になったんだ」
「俺の言いたいことは、分かるか」
母親は、軽い気持ちで店先で話しをしたことを後悔し、ガクガク震え出した。
「別にお前さんを捕まえるとかじゃないからな」
「その衛兵は、その前にも色々やらかしている奴でな、今回の件も含めて、たぶん鉱山送りになる」
「だがな、その子が免状やギルドカードを持っていたから証明できたし、薬師ギルトと治癒ギルトの人も本物だと証言してくれたから、良かったんだ」
「もし、それが出来なければ、その子は無実なのに牢屋に入れられただろう。上司がきちんと調べなければ鉱山送りにもなっていたかもしれない」
「それに、お前さんが話したことがバレたら、娘さんはどうなる」
「あの子は口が軽いから信用できないと、仕事も失うことになる」
「お前さんが軽い気持ちで他人に話したかもしれないが、それを聞いた奴がどんな行動するかまでは分からないだろう」
「だからな、今後は娘から仕事の話しを聞いても他人に話すのは止めることだ」
「娘にはお前さんの事は話ししていない。簡単な話ししかしていないから、大丈夫だろう」
「娘さんにも言ったが、本当にやばい仕事だと思ったら誰かに相談することだ」
「だが相手は選べ。信用できる人に相談するんだ。たとえば女将とか、俺とかな。衛兵はまあ隊長なら信用できるな」
「今回は、釘を指しに来ただけだ」
「どうこうするつもりはない。もちろん衛兵もだ」
「娘さんには、俺が来たことは黙っていてくれ、まだモーラの面倒をみてもらいたいからな」
「はい、申し訳ないです」
「じゃあな」
ギルドに戻りサブマスに報告する。
「なんて運の悪さなんでしょう」
「偶々、母親が世間話をしているところに居合わせるなんて」
「まあ、そうだよな」
「母親には、釘を指してきたから大丈夫だろう」
「隊長とも話ししたんだが、この一件で終わればいいと思っている」
「他にも欲をかいた奴がいないことを祈るばかりだよ」
「本当にそうですね」
フラグではないはず。




