第78話 初めての指名依頼②
患者であるモーラの家から帰宅して、すぐにお風呂に入った。
クリーンを掛けたので、大丈夫だとは思うが念入りに身体や髪の毛を洗う。
ドライをかけて乾かし、普段着用のワンピースに着替える。
冒険者ギルドのギルマスとの約束は、10時だから急いでいる。
モーラの状態を簡単にメモしていく。
ギルマスに報告するためだ。
昼間なので、私一人でギルドに行く。
9時50分には、ギルドに到着して受付にいく。
「おはようございます。レジーナさん」
「おはよう、アンさん」
「ギルマスが待っているよ」
ギルマスの執務室に案内される。
「おはようございます。ギルドマスター」
「おはよう、アンちゃん」
「さあ、こっちに掛けて」
「彼女が女将のリー・タピアさんだ」
「女将、彼女がアンちゃんだ」
「アンと申します。よろしくお願いいたします」
「私が娼館の女将のリーだ。畏まらなくてもいいよ」
「アンちゃん、女将にも俺に説明してくれたように、話してくれないか」
「はい、分かりました」
ギルマスに話したように、女将さんにも説明する。
「なるほどねぇ。今まで見てきた娼婦病と似ているね」
「想像はつくが、どうやって感染するんだい」
「皮膚や粘膜の接触による感染です」
「皮膚や粘膜・・・?」
「感染している人との皮膚や粘膜、小さな傷とかの接触で感染します」
「粘膜は、男女の部分と口とかお尻です」
「男女関係なく接触した場合も感染する可能性があります」
「防ぐ方法はあるのかい」
「一般的には、適切な避妊をする、信頼できる相手を選ぶ、不特定の相手はしない、です」
「女将さんのところでは、難しいですよね」
「そうさね。ところで、適切な避妊ってなんだい」
「男性の方に避妊していただく方法です」
「それは、どんなものだい」
「・・・えっと、無いのですか」
「避妊するならば、避妊薬を飲むぐらいだね」
「えーっと、そうなんですね」
「それで、アンさんがいう、避妊はどんなのをいうんだい」
「・・・えっと、男性に避妊具を付けてもらうんです」
「それは、見せてもらえるのかな」
「いえ、持ってはいません」
「家に帰ればあるのかい」
「いえ、家にもありません」
「そっか、まあアンさんの年齢ならば仕方ないね」
「しかし、男性の避妊具とは聞いたことが無いね」
「ギルマスは知っているかい」
「いや、俺も初めて聞いた」
「アンさんは、どこでそれを知ったのかな。見たことはあるのかい」
ハァ~、今更だが言わなければ良かったかも。どうしよう。
念話『ジョン、避妊具の話しをしちゃったの、どうしようか』
人形ジョン『そうですか。こちらの世界で作れるか検討するか。地球から取り寄せるかですね』
『とりあえず、今は無いと答えてください』
『分かった』
「母から聞いたことがありましたが、亡くなっていますので」
「あ、悪かったね」
「でも、客は嫌がるだろうな」
「そうですね」
「あとは、身体を清潔に保つことです」
「お風呂はありますか」
「ああ、一応はあるよ。午前中に使うことが多いね」
「それは、一日に一度ですか」
「そうだね。湯を沸かすのも大変だから」
「出来れば、都度入るのがいいのですが」
「女将さんのところでは、魔法が使える人はいますか」
「いや、分からないね」
「アンちゃん、教会に行かないと、自分のステータスは分からないんだよ」
「お布施を払うからね。行かない人も多いんだよ」
「なるほど~」
「女将さんのところで、水や火の魔法が使える人がいれば、日に何度も入れますよね」
「それから、薬草風呂もいいと思います。身体にいいですから」
「嫌がるかも知れませんが、月に一度は医者の検診を受けるべきです」
「早く発見できれば、治りも早いですから」
「いかがですか」
「そうさねぇ。客でもない相手に身体を見せるのは、嫌がる子も出で来るだろうね」
「それに、費用も掛かるし」
「男性の医者が嫌ならばお産婆さんはどうです。症状が分かれば診察出来るんじゃないですか」
「皆さんも、重症になるまえに発見できるのは、良いことだと思いますが」
「そうさね。自分の為に診察受けるんだものな」
「それと、行為の後に中を洗っているならば、止めた方がいいです」
「あー、皆洗っているね」
「洗ってしまうと、中を守っている菌が洗い流されてしまい、無防備な状態になるんです」
「そうなると、悪い菌が集まってしまうんです」
「かゆくなる人はいませんか」
「あー偶にいるね」
「全部の人には、賛同を得られないかもしれませんが、了承した人からだけでも始められたらいかがですか」
「そうさね。考えてみるよ」
「あと、これは関係ない話しですが、女将さんのところでは、教育を受けた人はいますか」
「あー、商人の娘とか下位貴族の娘とかはいるさね。それがどうかしたのか」
「その人たちから、学んだりはしないのですか」
「文字が書け、計算が出来れば普段の生活にも役に立つと思うのです」
「他にも、礼儀作法や裁縫、料理などもです」
「皆さんが普段どのような生活をしているのかは、知りませんが、お店で買い物する時も間違えたり、騙されたりすることが無くなるのではないですか」
「そうさね。騙されても気がつかないだろうさね」
「裁縫が出来れば、自分の服も直せますし、仕事にもなるかもしれません」
「文字が読めれば、新聞や本を読むことができて、知識を得られるでしょう」
「お客様相手には、会話が弾んだりしないですか」
「ほとんどが身体目当てだから、話しなんかしている暇はないが、なかには会話を楽しむ人もいるさね」
「今日は、ありがとうね。色々とためになったよ」
「いえ、また何かございましたら、お声かけください」
「アンちゃん、ありがとうね」
「いえ、お役に立てたかどうか」
「女将も色々と知られて良かったと思うぜ」
「今朝、モーラさんのところに行ってきました」
「昨日よりも回復していますし、受け答えもしっかりとしてきました」
「食事も重湯ですが食べれていますので、明日にはもっと回復していると思います」
「ああ、俺も朝に寄ってきたけれど、最初よりも調子が良さそうだったな」
「これも、アンちゃんのおかげだよ」
「いえ、明日も様子みに行ってきます」
「よろしく頼むな」
「はい」
「ただいまぁ、ジョン」
人形ジョン『お帰りなさい、アン』
「今日は、失敗しちゃった。つい地球の感覚で話しちゃったからさあ」
「この世界では無いんだよね」
人形ジョン『無いですね』
「ジョンは、どんな物か分かっているの」
人形ジョン『はい、地球のことを勉強していて知りました』
ジョンは、どんな勉強をしているんだよ。
大丈夫かな。一度詳しく聞いた方がいいか。
いや、ジョンのことだから真面目に勉強しただけかも、変な勘繰りは良くないよな。
「あれって、こちらの世界でも作れると思う」
人形ジョン『どうでしょうか。ネットでは調べられませんか』
「そうだね。後で調べてみるよ」
「女将さんは、感じの良い人だったよ」
「お店で働いている人のことも心配していたし」
「これで何か改善できるといいね」
人形ジョン『そうですね。ただ皆さんそれぞれの理由があって、お店にいるのですから難しいかも知れません』
「そうだね。私には分からないことだね」
「私も少しでも何かが違っていたら、同じ立場になっていたかも」
人形ジョン『アンなら大丈夫です。この世界に来ることで神様がお守りしていますから』
「そうだね。本当に神様には感謝しかないね。ジョンにも感謝しているよ」
「いつも私を助けてくれるし、ありがとう」
人形ジョン『アンに、そう言っていただけると、とても嬉しいです』
避妊具は、異世界のネットで作り方を調べたが分からない。
地球のネットからは、動物の腸を利用した時代もあったようだが、作り方までは分からなかった。
もっと時間をかけて調べればいいのかも知れないが、これ登録する時はどうするんだ。
かなり恥ずかしいよね。
それに、使い方の説明も必要だよね。
やっばり、無しにしよう。
翌朝もモーラさんの家に向かう。
「おはようございます。モーラさん」
「おはようございます。アンさん」
「先にクリーンをかけますね」
「お願いします」
昨日も掛けているので、さほど汚れていることは無いようだ。
「体調はいかがですか」
「随分と楽になりました。熱も下がりましたし、身体も軽い気がします」
「それは良かったです。食事はされましたか」
「今朝は、パンがゆを食べました」
「そうですか。食事がとれるようになれば、もっと回復されますね」
「では、鑑定してみます」
「鑑定」
内臓も良くなっている、あと少しって感じか。
皮膚のほうも湿疹やおできも小さくなってきている。
「内臓も良くなっています。皮膚のほうも湿疹も薄くなり、おできも小さくなってきましたね」
「順調に回復しています」
「でも、まだ数日は安静にしてください」
「回復したら、リハビリですね」
「いきなり、立ち上がったり、歩きだしたりするのはやめましょう」
「筋肉が衰えていますので、まずは横になっている状態で足や手、身体を動かすようにします」
「その時は、どのようにすればいいのかお教えしますから、自分で判断して動かしたりしないでくださいね」
「逆効果で身体の筋や筋肉を痛めてしまう場合もありますから」
「分かりました」
「桶を持ってきてください」
下働きの子に頼む。
桶にクリーンをかけて、50℃のお湯をはり乾燥したヨモギを入れる。
「これで、身体を拭いてあげてくださいね」
「タオルはありますか」
昨日渡したタオルもクリーンをかける。
「では、これで失礼します。ゆっくり休んでください。お大事に」
そのあと、ギルマスに報告に行く。
「おはようございます。レジーナさん、ギルドマスターはいらっしゃいますか」
「おはよう、アンさん。ギルマスのとこに案内するよ」
「おはようございます。ギルドマスター」
「ああ、おはようアンちゃん」
「今、モーラさんのところに寄ってきました」
「随分と回復されていて、内臓も良くなっていますし、身体のほうも湿疹やおできも良くなっています」
「ただ、完治にはなっていないので、まだ薬は飲んだほうがいいです」
「とりあえず、一本追加しますか」
「ああ、頼むよ」
薬を一本渡し、代金を受け取る。
「モーラさんにもお話したのですが、体調が良くなれば、リハビリが必要になります」
「無理に、立ったり歩き出したりしないように注意をしてきました」
「筋肉が落ちているので、まずは横になっている状態で手足や身体を動かす練習をするからと説明してきました」
「ああ、それもそうだな。寝たきりになっていたんだ、急には歩けないだろう」
「ええ、ですので、しばらくの間は様子を見に行こうかと思っています」
「悪いな、アンちゃん。その間冒険者の仕事が出来ないが大丈夫か」
「はい、指名依頼も受けましたし、大丈夫です」
「そうか。でも無理はしなくてもいいからな」
「はい、分かりました」
「あれから、女将さんは何か言ってきましたか」
「いや、まだ何もないな。店の連中に説明するのも大変なんじゃないか」
「まあそうですね。急に言われても困りますよね」
「あの女将だ。何とかなるんじゃないか」
「ふふ、そんな感じがします」
「では、また報告しにきます」
「ああ、わざわざありがとな」




