第76話 厄介ごと④
【デップ子爵家 side】
アンたちが立ち去った後も、皆しばらくは呆然として動けなかった。
マイクとヒラリーは騒いだり泣きわめいたりしていたが、少しすると大人しくなり眠り始めた。
眠りについても媚薬効果は続いており、顔は火照り「フーフー」言っている。
二人を侍女と使用人たちに自室に運ばせる。
「まったく、お前たちは親子揃ってどうしてくれるんだ」
「平民だからと見下すなと言っているだろう」
「お前がそんなんだから、息子も影響受けたんじゃないのか」
「せっかく、呼び出せたアンが帰ってしまったじゃないか」
「申し訳ございません。でも、また呼び出せばよろしいではないですか」
「彼女は二度と来るわけないだろう。誰が媚薬を盛るような屋敷にくるものか」
「ならば、捕えてしまえばいいではないですか」
「何の理由で捕らえるんだ」
「それは、貴族に逆らったからで」
「冒険者は自由なんだ。そんな理由で捕らえられる分けないだろう」
「第一お前には、彼女がただの平民に見えたのか」
「アンのドレスを見たか、あれは一流のドレスだぞ。しかも総レース仕立てだ。アクセサリーもエメラルドで、我々でも手が出せないものだぞ」
「従者のあの男だって、最上級の生地で仕立てた服だ」
「お前の目は節穴か !!!」
「言葉遣いも作法もしっかり教育を受けたものだ。あれが只の平民なわけないだろう」
「お前を信用していた私が馬鹿だった」
怒鳴り疲れた子爵は冷めたお茶を飲んでいた。
「おい、誰かお茶を入れなおせ」
侍女が新しく入れたお茶を持ってきた。
「旦那様、先ほどのお客様が持ってこられた手土産になります」
子爵が手土産を受け取り、しみじみと眺める。
こんな上質な包み紙は見たこともないな。
包み紙を開けると、クッキー缶が出てくる。
これも今までに見たこともない美しい模様が書かれた缶だ。
クッキー缶の蓋を開けると、バターやナッツの良い香りがする。
手に取り食べようとすると。
「旦那様、食べてはいけません。あのような物が持ってきたものなど何が入っているか分かりませんぞ」
「まったく、お前はまだそんなことを言うか」
「ならば丁度良い、魔法部隊長、このクッキーを鑑定してくれ」
「はい、畏まりました」
「鑑定」
「怪しい物や毒などは入っておりません」
「ならば、食べても大丈夫だな」
「はい、問題ございません」
「どれ、一つ食べてみよう」
子爵はバターの香りがするクッキーを口にする。
「ほお、これはバターの香りがして甘くてサクサクしている。こんなに美味しいクッキーを食べたのは初めてだ」
それまで、黙っていたカレンも美味しそうに食べている父親を見て、羨ましくなったのだ。
「父上、私もいただいてもよろしいでしょうか」
「ああ、カレンも食べてみなさい」
カレンも父親と同じクッキーを手にする。
一口食べると、満面の笑みを浮かべる。
「これは、なんて美味しいんだ。今までも王都で有名なクッキーを食べたことがあるが、それ以上だ」
子爵もカレンもクッキーを食べる手が止まらない。
「あーこんな素晴らしいクッキーを持って来れるアンにあんな事をしてしまった」
「もう取り返しがつかない」
「父上、私が冒険者ギルドに行って交渉してきます」
「きっと、父上の召喚には従うはずです」
「いや、無理だ。アンは只の冒険者じゃない。お前だってあの支度を見ただろう、あれは上位貴族でも買えるかわからない代物だぞ」
「えっ、そんなにですか」
「それをマイクやヒラリーのせいで台無しだ」
「そんな、ヒラリーはマイクに騙されていただけて悪くありません」
「ヒラリーは、アンを困らせることに同意して協力したのだろう」
「こちらが協力してほしくて、アンを招いたのだぞ」
「ヒラリーも同罪だ。それなりの処分を下さなければならない。お前も覚悟しろ」
「それに、いい加減に冒険者のまね事などするな」
「お前は、貴族令嬢なのだぞ。いい加減自覚を持て、いいな」
「・・・・・」
「それから、ブルーノお前と息子のマイクは、しばらくの間謹慎処分とする」
「そ、そんな、どうして私が・・・」
「お前は自分が仕出かしたことが分かっていない。ただ平民だからと侮るばかりで、相手を見ようともしない」
「そんな上っ面だけしか見られない奴は必要ないんだよ」
ブルーノは、膝から崩れ落ち、愕然としていた。
子爵は用事が済んだとばかりに、部屋を退出する。
その後、アンのお茶に媚薬を入れた侍女と媚薬を手配した使用人が、媚薬攻撃をくらい悶え苦しんだのだ。
まだまだ、デップ子爵家の悲劇は続くのであった。
【冒険者ギルド side】
アンが帰った後で。
「本当にアンさんには、悪い事をしてしまった」
「最初からアンさんは、真朱の虹色のメンバーと関わるのを良く思っていなくて」
「それなのに、女性の先輩冒険者と知り合いになれば、困った時に相談できるだろうと思って勧めてしまった」
「それがまさかこんなことになるなんて、しかも、ヒラリーさんが犯人と協力までするなんて」
「アンさんが何をしたっていうんだい」
「おおかた、嫉妬でもしたんじゃないか」
「カレンに気にかけてもらい、なお且つあの若さと美貌と実力だ。羨ましくて仕方なかったんじゃないか」
「だから、そのマイクとかいう男のちょっと困らせるが、丁度いい嫌がらせになると思ったんだろう」
「バカバカしい。そんな暇があるならば、自身を鍛えればいいものを」
「まあ、皆他人のことは羨ましく思うものさ」
「あら、サブマスでもそんなことを思うことはあるの」
「そうだな。私だって思うさ。たとえば、ギルマスぐらい戦える実力があればとか。かわいい嫁さんが羨ましいとかね」
「ハハ、そうかい。でも、サブマスがいるからこのギルドはやっていけるのにさ」
「ギルマスに任せていたら、書類の山ができるだけで、ちっともはかどらないだろうし、ギルマスは書類から逃げ回っているんじゃないか」
「それもそうだな。皆無い物ねだりしているな」
「しかし、明日はギルマスに報告だな。どうなることやら」
「それに、あの子爵家や真朱の虹色のメンバーが黙っているかどうか」
「あー、面倒だ」
「まあ、それもサブマスのお仕事ですよ」
「それにしても、ギルマスから聞いていた以上だな」
「それは、アンさんのことですか」
「ああ、武術の腕前が凄い新人が現れたと聞いていた」
「だが、魔法も凄いんだな」
「えっ、でもアンさん魔法なんて使っていませんよ」
「子爵家での話しだ。毒を入れられたと言っていただろう」
「鑑定して毒を発見し、お茶すべてに結界も張る、お茶から毒だけを抽出して、睡眠薬と媚薬も分離させ、誰が犯人かも分からないのに、媚薬を犯人と関係者に戻したと言っていた」
「これだけのことを、普通の魔法では出来ない」
「いや、考えさえ思い浮かばない。それに娼婦病についての知識もだ」
「どこでその知識をつけた。それから子爵とのやり取りもあんな娘には普通出来ないだろう」
「まず、貴族当主と話しをするだけで、ビビッてしまうはずだ」
「それに依頼を断ったり、意見したりしている。どれだけの度胸がいるのか」
「まあ、貴族の恐ろしさを知らないのかも知れないがな」
「彼女は、面白いな。これからが楽しみだ」
「嫌ですよ。これ以上アンさんに負担を掛けないでくださいね」
「ああ、私は遠くから眺めているさ」
【ジユジョア侯爵家 side】
「やあ、アーロン(イシノス神様)待っていたよ。随分と久しぶりじゃないか」
「待ちくたびれてしまったよ」
「いやぁ、あちらこちらに飛び回っているものですから、なかなかお伺い出来ませんでな。申し訳ない」
「それで、新作はあるのかい」
「新作はお持ちしたんですがね、販売してよい物か迷っておりまして」
「なぜだ、何か問題でもあるのか」
「そうですな。問題ですな」
「私は、嘘や暴力そして何より、領民である平民を見下し蔑む奴らは許せないのです」
「それは、もちろんだ。私も領民のためにあくせく働いているぞ」
「そうですな。侯爵閣下は立派な御仁であるのは、承知しております」
「ただ、家臣が皆同じ志をしているとは限りませんぞ」
「小耳に挟んだ話しでは、とある貴族では平民には何をしても良いという考えで、使用人もそれに従い、平民の女性には集団で乱暴して、男性には暴力を振るうそうじゃ」
「これは、とんでもない話しだと思わないかい」
「そんなことが、私の家臣の中にいるのか」
「ええ、そうなんですじゃ」
「名前を知りたいですかな」
「ああ、もちろんだ」
「それを聞いてどうします」
「もちろん事実ならば、処罰もしくは降格させる」
「お主の言うことだ、真実なのだろう」
「それは当然です。調べ上げていますから」
「私どもも商売ですからな。信頼できない相手に販売したとなれば、こちらの信用も無くすので慎重になるのだ」
「私も覚悟を決めたぞ。教えてくれ」
「ダーニュ町のデップ子爵家です」
「まさか、あの子爵が」
「あの男はわりと柔軟な考え方をする奴だったはずが、どうして」
「いや、家令の一人が、選民意識が強かった。使用人でも平民ならば冷たい態度をとっていた」
「あの男か」
「家令はブルーノ・カービーで、実行犯の息子はマイク・カービーじゃ」
「そのような考えの持ち主をいつまでも、家令という立場に置いているのも問題じゃないかね」
「娘のカレンは、冒険者をしているようだが、やはり平民は従って当然と思っているようじゃ」
「ああ、あの娘か。冒険者なぞして変わり者だと思っていたが、やはり貴族思想にはなってしまうのか」
「本日は、このまま帰らせていただくとしよう」
「新作の小説は、前回とは違う思考で書かれているから、期待しておいてくれ」
「じゃあ、対処できたころにまた伺わせて貰うぞ」
「そんな、売ってはくれぬのか」
「期待しております」
侯爵が引き留めるも虚しく、アーロン(イシノス神様)は帰ってしまった。
「おい、誰か。ダーニュ町のデップ子爵家に使いを出せ。至急だ」
「早馬を出して、至急都城せよと通達しろ」
侯爵は、怒り心頭である。
待ちに待ったアーロン(イシノス神様)がやってきて、新作の小説もあるというのに、家臣のせいでお預けを食らったのだ、ガッカリするやら頭にくるやらである。
【デップ子爵家 side】
「旦那様、大変でございます」
「なんだ。騒がしい」
「ジユジョア侯爵家から早馬が到着しまして、文を預かりました。すぐに返事が欲しいそうです」
文を受け取り読むが。
『至急、都城せよ』
たったそれだけの短い文である。
玄関に行き使えの者に「至急都城せよとあるが、何があったのだ」
「私はただの使いですので、何も存じません」
「それで、ご返事は」
子爵は使者に聞いても埒が明かないので、「急ぎで都城する」とだけ返答した。
それからは、何も分からないがとにかく急いで支度をして、従者と家令に騎士を連れ立って出立した。
これが最悪の命令が下されるとも知らずにいた子爵家の人々であった。
【ジユジョア侯爵家 side】
「ダニー・デップ、お呼びによりまかりこしました」
侯爵閣下は、苛立ちを隠そうともせずに、ただ子爵を見ていた。
長い沈黙が続いて。
「そなたから、私に報告することはあるか」
はて、侯爵閣下に報告するようなことは無かったはず。
税金もきちんと支払っているし、町民からの取り立ても問題ない。
後は、息子や娘たちも問題ない。
「はっ、すべて順調に執り行っております」
「本当に報告することは無いのだな」
「はい、そうでございます」
「そうか、ならば私から話してやろう」
「お前のところの使用人に、ブルーノ・カービーとマイク・カービーがいるな」
「はい、おります。ブルーノは家令であり、マイクは家令見習いでございます」
「そのブルーノやらは、随分と選民意識が強いそうじゃないか」
「いえ、確かにブルーノは選民意識がありますが、それほどのことではございません」
「ほうそうか、では息子のマイクはどうだ」
「はい、彼の息子のマイクも真面目に家令の見習いをこなしております」
「ほう、真面目にとな」
「はい、子供の頃から父親の働いている姿を見ておりますので、立派な家令になると自負しております」
侯爵の我慢も限界である。
「このたわけが。よくも白々しくそのような嘘がつけるな」
「ブルーノは、選民意識が強く、普段から平民を見下しているそうじゃないか」
「息子のマイクは、平民女性は集団で乱暴し、男には暴行を働いているそうじゃないか」
えっ、なぜバレている。密告されたのか。内通者がいたのか。
どうする。ここはしらばっくれるか。
「いえ、そのような事実はございません」
「何かの間違いでございます」
「ほう、この期に及んでまだ白を切るか」
「お前の今までの忠義に免じて、ある程度は穏便に済ませるつもりであった」
「だが、白を切るならば話しが違ってくる」
「お前は、我に嘘をついたのだ。もうお前の忠義は信用ならん」
「本日をもって子爵から降格し男爵とする」
「ジユジョア侯爵家の寄り子からも外す」
「それに伴い、領地替えをし、お前は辺境地へ赴け」
「異存は認めん」
「領地替えは、一か月を期限とする。それ以上居座る場合は、すべて引っ捕らえる」
「そんな横暴な」
「そうか、ならば今すぐにお前の首をとってもよいのだぞ」
「承知いたしました」
侯爵は、話しは終わったとばかりにその場を退出する。
残された子爵は、なぜこんなことになったのか。
打ちひしがれ、頭が真っ白になった。
どのくらいその場で佇んでいたのかはわからないが、一か月・・・という言葉がよぎり、急いで馬車を走らせた。
一方侯爵は、まだイライラが収まらない。
正直に話しさえしてくれれば、もう少し知名度のある土地や降格もしなかったかも知れない。
もう後の祭りでしかない。
寄り子には、今回の騒動を隠すこともなく通達した。
その寄り子のなかには、デップ子爵家長男の婚約者もいたが、それはどうなるかは両家次第である。
侯爵もそこまでは干渉しない。
【デップ子爵家 side】
「お帰りなさいませ。旦那様」
「それで、侯爵閣下の呼び出しは何でしたか」
「ブルーノとマイクを呼べ」
「かしこまりました」
子爵は無言で執務室に向かう。
長男を王都より呼び寄せる手紙を書くためだ。
スウェイの婚約者の家にも手紙を書かなくては、はぁ~ため息がつくばかりだ。
手紙の準備をしていると、ブルーノとマイクが伴ってやってきた。
部屋に入るなり、二人を殴り飛ばす。
いきなりのことに、傍にいた従者や筆頭家令にブルーノにマイクも驚いている。
「だ、旦那様、いきなりどうされました」
従者は、床に倒れているブルーノたちを立ち上がらせた。
「こいつらのせいで、デップ家はおしまいだ」
「こいつらの仕出かしたことが、侯爵閣下に筒抜けだった」
「まさか、そんな。なぜそのようなことに」
「分からん。侯爵閣下は調べ上げてあるとおっしゃられていた」
「以前から調べていたのかもしれない」
「我が家は降格となり、寄り子も外された、辺境地への領地替えもされる」
「期限は一か月だ。それ以上たっても居座れば、打ち首だそうだ」
「だから、今すぐに手配しろ」
「ブルーノとマイクの処分は、追って言い渡す」
「そんないきなり、横暴過ぎませんか」
「どなたかに仲裁を頼みましょう」
「いや、無駄だろう。今頃は寄り子すべてに通達しているはずだ」
「見捨てられた我が家を庇う家はない」
「そんなどうして・・・」
「みんな、ブルーノとマイクのせいだ」
「こいつらの犯した罪を侯爵閣下はご存じだったのだから」
子爵は、自分の行いを棚に上げ、すべての責任をブルーノたちに押し付けたのだ。
「父上、戻られたのですか」
家令やブルーノたちの様子を見て。
「父上、どうされたのですか。これはいったい何がありました」
「侯爵閣下には、ブルーノたちの犯罪がバレていた」
「我が家は降格となり、寄り子も外され、辺境地送りとなった。期限は一か月だ。お前も急いで準備しろ」
「そんな、あんまりでございます。私が侯爵閣下に掛け合って参ります」
娘カレンの頬を叩く。
「な、な、何をするのですか。父上」
「思いあがるな。女ごときが侯爵閣下に楯突くのか」
「そうなれば、一家諸共打ち首だぞ。そんなことも分からないのか」
「お前には、冒険者などさせて遊ばせたせいだな。今後ここを引き上げるまでは外出禁止だ。いいな」
「命令を破れば、お前とて容赦はしない」
「分かったら、出ていけ」
カレンとブルーノたちは部屋を出ていく。
残ったのは、従者と筆頭家令だけになる。
「旦那様、これからはいかがされますか」
「まず、屋敷にある不要なものはすべて売りさばけ、それと決算の集計と使用人の選別もしないと」
「辺境の地に行くのだ、使用人が多すぎても困るだろう」
「退職したい奴には、少しばかりだか退職金をだそう」
「それから、他家への挨拶状も出さないとな」
「もうどこも付き合いはしないだろうが」
「分かりました。使用人たちを集めて準備に掛かります」
はぁ~、代々続いた我が家もお終いか。
呆気ないものだな。
数日後。
王都より長男のスウェイが戻ってきた。
トントン「父上、スウェイです。只今戻りました」
「入りなさい」
「お久しぶりでございます。父上」
「それで、急な連絡で驚いています。どうされたのですか」
「ああ、落ち着いてよく聞きなさい」
「我が家は降格されて、寄り子も外され、辺境地送りとなった」
「これもすべて、ブルーノたちが罪を犯したせいだ」
はっ、父上、何をおっしゃられているのか分かりません」
「まあ、そうだろうな」
「マイクは、平民の女性たちを集団で乱暴していた、男たちには暴行を働いていた」
「そのことがすべて、侯爵閣下に筒抜けだった」
「そんな・・・マイクが」
「ああ、ブルーノは選民意識が強いだろう、それが息子にも影響したのだろう」
「私も知ってはいたが、そこまでとは思いもよらなかったよ」
「じゃあ、私はこれからどうすれば・・・」
「王都に戻るもよし、一緒に辺境に行くのでもよい」
「お前の決断に任せる」
「ああ、それと残念だがお前の婚約者の家からは、婚約解消が届けられた」
「当人たちの意志は関係ない。これは家同士の契約だからな」
「すまないな。スウェイ。婚約者のことは諦めてくれ」
「はあ~!!! そんな彼女のことだけは諦めきれません」
「仕方がないのだ。あちらのご両親も激怒されている」
「そんな野蛮な使用人がいる家には、嫁がせられないとな」
「そんな、どうして・・・どうして・・・」
「マイクのせいか。あいつを殺してやる」
「やめなさい」
「止めないでください。父上」
「止めはしないが、それは一か月後にしてくれ。今は引っ越しや引継ぎの手続きで忙しいんだ。あんなのでも役には立つ」
「くっ、私はこれからどうしたらいいのでしょう」
「王都に戻って文官を続けても良いのだぞ。ただし針の筵になると思いなさい」
「今回のことは、王都にもバレてしまうだろう」
「そうなれば、周りの人たちのお前を見る目は厳しくなるし、蔑むものも出てくるだろう」
「お前は、それに耐えられるか」
「正直、分かりません。今は何も考えられないです」
「今日は着いたばかりだ、ゆっくり休みなさい」
「母上はどうされていますか」
「ああ、実家に帰ってしまったよ」
「辺境地などには、行きたくないそうだ」
「これも仕方がないことだ」
「そうですか。母上は私たちを見捨てたのですね」
「お嬢様育ちの彼女では、無理だろうからね」
「お前も手紙くらいは書いてあげなさい」
「分かりました。失礼します」
私は、地位も妻もなくしたのだな。
政略結婚はこんなものか。
一か月後。
元デップ子爵家は、静かに誰にも見送られることもなく辺境地に旅立った。
ブルーノとマイクは、もちろん解雇され無一文で放り出された。
再就職をしようにも、紹介状もなく噂も広まっており、どこにも雇われなかった。
しばらくすると、二人が全裸で暴行や乱暴された姿で発見された。
誰が犯人かは、分かっていない。
通りすがりの犯行なのか、被害者たちの復讐なのか。分からなかった。




