第74話 厄介ごと②
「おはよう、ジョン」
人形ジョン『おはよう、アン』
「昨日は色々ありすぎて疲れたね」
「今日、使者が来るかなぁ」
人形ジョン『そうですね。今日来ると思います』
「協力するのは嫌じゃないけれど、上から目線で平民なら従うのが当然って感じでこられると、なんだかなぁと思うわけよ」
「日本にはもう特権階級制度は廃止されてないからねぇ」
「貴族っていうだけで偉いのかってね」
人形ジョン『貴族が皆そのような考えではないですが、多いのは確かですね』
「あの子爵がどうでるかだね」
「使者が来たら、迎えに来るのかな。それともこちらから出向くのかな」
人形ジョン『馬車を借りて行きましょう』
「そうだね。迎えに来られても、正装している姿を誰かに見られるのも困るよね」
人形ジョン『馬車は、これから予約してきます』
いつものように薬草採取をして、冒険者ギルドに行く。
レジーナさんに買い取りをお願いして預かり木札を受け取ると、男性が話しかけてきた。
ギルドに入る前から、気配察知でこの男がギルド内に居るのは分かっていた。
あーこの人が使者なんだと様子を伺っていたのだ。
「失礼、あなたがアンさんですか」
「はい、そうです」
「私は、デップ子爵家から参りました、フォスと申します」
「ご当主様よりお手紙を預かって参りました。この場でお返事をいただきたく存じます」
断るわけにも、逃げるわけにもいかないので、仕方なく手紙を受け取る。
手紙の内容は、簡単にいえば『三日後、都合がつけば訪問してほしい』ということだった。
念話『ジョンいる、今冒険者ギルドに居るんだけれど、子爵の使者がきて手紙を渡されて、三日後に来いってことなんだけれど、どうする』
人形ジョン『分かりました。こちらから伺うと返答してください』
『分かった』
「分かりました。三日後にこちらからお伺いさせていただきます」
「では、その際はこちらの手紙を門番にお見せください」
そう言うと使者の人は帰って行った。
「大丈夫かい」
「なんか子爵様から呼び出されてしまいました」
「こういうのは、断れないんですよね」
「そうさね。冒険者だから断れないことはないが、あまり良くないかもしれないね」
「どうしても、困ったらギルマスに相談するといいよ。あんなのでも役に立つだろうからね」
「フフ、ギルマスは十分に凄い人ですよ。でも本当に困ったらお願いするようにします」
「あーそうだね。気をつけるんだよ」
「はい、ありがとうございます」
「ただいまぁ、ジョン」
人形ジョン『お帰りなさい、アン』
「やっぱり、使者が来たね」
人形ジョン『ええ、本当に。馬車は頼んできましたから、三日後の朝からいつでも使えます』
「御者は、ジョンがするの」
人形ジョン『そうです。他人がいるのは良くないと思いますので』
「そうねぇ。何が起こるか分からないものね」
「ねえ、ジョン。薬師ギルドのギルマスが言っていた免許の件どう思う?」
人形ジョン『そうですね。もう少し詳しく説明を聞いた方がいいかも知れません』
「そうだよね。メリット、デメリットを聞いた方がいいよね」
「なんか、縛りがあるかも知れないしね」
「どうする。今から行って面会の予約を取る?」
人形ジョン『そうですね。行ってみましょう』
二人で外出用の服に着替えて薬師ギルドに向かう。
薬師ギルドに行くと、昨日の女性は居なかった。
「あの女は居ないね。よかった」
人形ジョン『そうですね。正式に首になったようですね』
「こんにちは、スペンサーと申しますが、ギルドマスターに面会の予約をお願いしたく、お伺いいたしました」
「こんにちは、スペンサー様。失礼ですがスペンサー様は薬師ギルドの会員様でいらっしゃいますか?」
「はい、そうでございます」
「会員証はお持ちでしょうか」
会員証を提示する。
「はい、確認が取れました。ありがとうございました。それでは、ギルドマスターの日程を確認して参りますので、少々お待ちください」
念話『今日は、問題なく受付してもらえたね』
人形ジョン『そうですね。でも、これが普通です』
「お待たせいたしました。ギルドマスターはすぐに面会されるようですので、部屋にご案内させていただきます」
トントン「スペンサー様をお連れいたしました」
「入りなさい」
受付の男性に案内されてギルマスの部屋に入る。
「こんにちは、スペンサー様、タンディ様。どうぞこちらの席におかけください」
「さて、本日はいかがなさいましたか」
「こんにちは、ロペスさん。急にお伺いいたしまして、申し訳ございません」
「いえ、スペンサー様ならば、いつでも大丈夫です」
「昨日、お話しされていました、薬師ギルドの免許について詳しくお伺いしたく参りました」
「そうでございますか。それは前向きに検討していただけて何よりです」
「まず、免許が取得できれば、ご自身で薬師の店舗を構えることができます」
「もちろん、薬づくりに販売もできます」
「それから、薬に関係する案内も定期的にご連絡いたします」
「たとえば、ポーションの作り方に変更があったとか、薬草の新たな効能や新たな薬草の情報などと新薬のお知らせなどをご連絡いたします」
「店舗が無い場合や定住されていない場合は、会員様が定期的に薬師ギルドに確認していただく必要があります」
「薬草や薬について情報がいただけるのはいいですね」
「そうでございましょう。会員の皆さまに情報が届きますので、ポーション作りや薬作りに支障が起こることがないのです」
「分かりました。それで、デメリットはありますでしょうか」
「デメリットとは、何でございますでしょうか」
「そうですね。お互いもしくは、会員の方からみた、不都合なことでしょうか」
「免許制度にするからには、なんらかのギルド側にも特することがおありなのでしょう」
「ハハ、さすがでございますね。まずは、薬師の人数を把握できることです」
「緊急時に薬師を召喚して、薬作りに参加させることができます」
「また、指名依頼もできるようになります」
「緊急時とは、病気が蔓延するとか、魔物により怪我人が多いときなどでしょうか」
「そうでございます」
「戦争が起きた場合なども、強制的に参加させるのでしょうか」
「強制的ではないですが、協力依頼は出します」
「それは、拒否することは出来るのでしょうか」
「もちろんでございます」
「建前はそうなっていても、実際には違うということは無いですか」
「正直に申しますとなかには勘違いしている物もおりまして。資格の剥奪や降格などはございませんが、嫌がらせのようなことはあるかと思います」
「それは、指名依頼もそうですか」
「そうですね」
「われわれ薬師ギルドは、薬師や会員を守ることも仕事になりますので、そのような愚か者には都度対処していきます」
「それは、相手が貴族や権力者でもですか」
「もちろんでございます。ただお互いに折り合いをつけていただけると助かりますね」
「まあ、そうでございますよね」
「あまり煩わしい場合は免許を返上して、会員資格だけを持ち続けることは出来ますか」
「それは可能ですが、再度免許を取得するのに一年間は出来なくなります」
「まあ、その程度でしたら、問題はございませんね」
「それで、実際に試験はどのようにされるのでしょうか」
「素材の薬草や器具はこちらで用意します。スペンサー様が持参なされても問題はございません」
「ただ、その時は予め薬草と器具の点検はさせていただきます」
「不正がないかの確認ですね」
「そのようなことは無いとは思っていますが、不正無しの事実を外部へのアピールも兼ねています」
「試験中は職員二人が立ち会います」
「今からですと、いつ頃に受けることができますか」
「こちらの準備もございますから、早くて明日の午後でしょうか」
「必要な薬草と器具を見せていただけますか」
「薬草一覧は今お持ちします。器具は別室にありますので、ご案内いたします」
「器具はこちらです。使い方で分からないことはございますか」
「これでしたら、使い慣れている私の器具を使いたいと存じます」
「薬草一覧はこちらです。不明な薬草はございますか」
「大丈夫でございます」
「もしも、合格した場合は、免許証はいつ頃発行していただけるのでしょうか」
「それは、ギルマスである私が発行いたしますので、その場でお渡しできます」
「まあ、それは随分と早いのですね」
「皆、それぞれ忙しいですから、時間を無駄にしない為です」
「では、明日よろしくお願いいたします」
シェルターに戻ってから、【ビューview】機能で試験に使用する薬草を多めに自動採取していった。
器具も付与魔法を掛けているので、壊れることは無いはずだか、念のために5個ずつコピーしておく。
翌日の午後、ジョンと一緒に薬師ギルドに行く。
受付でギルマスを呼んでもらう。
一度、ギルマスの部屋に案内される。
「こちらは、本日の試験の立ち合いをする、ケン・トンプソンです」
「ケン・トンプソンです。本日は試験に立ち会わせていただきます。また、スペンサー様の担当もさせていただいております」
「こんにちは、初めまして。アン・スペンサーと申します。こちらが、ジョン、タンディです」
「本日はよろしくお願いいたします」
人形ジョン『ジョンです。よろしくお願いいたします』
「今日の試験には、ギルマスである私も立ち会います」
「え、お忙しいのではないですか」
「ああ、大丈夫です。仕事はサブマスに手伝ってもらいますから」
それは、大丈夫といえるのだろうか。
試験を受ける部屋に移動する。
ジョンは、立ち合いの二人と一緒にいる。
試験は、私一人で受けるのだ。
アシスタントが手伝うと本人とアシスタントのどちらの実力か分からないので、試験は基本一人で受けるのだ。
まあ、最もな話しである。
下準備も薬師の仕事なのだから。
「では、試験を始めます。初級ポーション、解毒、治癒、魔力回復の三種類の制作を開始願います」
私は、器具と薬草を並べて、黙々と作業を始める。
その間は、誰一人として言葉を発することはない。
完成したら、ギルマスに手渡す。
ケンがサブマスを呼びに行く。
「こんにちは、初めまして。サブギルドマスターをしております、オーティス・ジョンソンと申します」
「本日は、薬師試験を受けていただきありがとうございます。初級ポーション試験の結果を鑑定させていただきます」
ギルマスとサブマスがそれぞれ鑑定していく。
「「はい、合格です」」
合格したポーションは、ギルマスの部屋で鍵の付いた棚で一時保管する。
「では、30分の休憩といたします」
別室に移動して休憩をするが、その間もギルマスとケンは一緒にいる。
これも、受講者の監視をする為である。
監視役がいないところで、不正行為が行われない為である。
監視役は、本来職員が二名選抜されるのだが、用心のためギルマスと信用できるケンとなった経緯がある。
休憩が終わり、試験部屋に戻ると一人の男性がグルグル巻きになり、床に転がっていた。
「おい、ザイオンどうした」
「あー、その方でしたら、私の用意した試験の材料または器具に細工しようとしたのでしょう」
「手には、薬草と薬瓶を持っているようですし」
「まさか、ザイオンがなぜそんな事をする必要がある」
「私を不合格にする為ではないでしょうか」
猿ぐつわを外すと叫び始める。
「私は何もしていない、この部屋には偶々入っただけだ」
「それならば、その手に持っているのはなんだ」
「これは、関係ありません」
「それより、この縄をほどいてください」
「こんなことは、許されませんよ」
「ここは、試験部屋です。なぜ関係のないあなたが入ったのですか」
「女のお前には関係ないことだ。いいから、これを解け」
「どうしますか、ギルドマスター」
「この部屋に入ったのはいただけないが、何かした証拠はないからなぁ」
「証拠ならば、ございますよ」
「えっ」
アンとジョンは、こんなこともあるかと予想していたので、部屋を退出する時に持ち込んだ薬草や器具には結界を張っておいたのだ。
その上、付与魔法で悪意のあるもの、罠を仕掛けるものが近づいたら、捕縛して証拠品は結界で守り、自害出来るようなものも結界で保護した。
部屋には、監視魔導具を数か所に設置して、どの角度からでも撮影できるようにしてあった。
アンやジョンに抜かりはないのだ。
監視魔道具を回収する。
「念のため、この部屋に仕掛けておきました」
「こちらは、録画できる魔道具になります」
「再生」
ザイオンがコソコソと周りを伺いながら部屋に入ってくる。
アンの作業するテーブルに近づき、薬草や器具に触ろうとするが、何かに阻まれて近づけない。
どの位置に移動しても近づけないので、薬瓶の蓋を開けて液体を掛けようとするも、阻まれている。
撮影がしっかり出来たところで、いきなり何かに捕縛される。
ミノムシ状態で動こうとするが、その場からは進めないでいた。
そうこうしているうちに、アンたちが戻ってきたのだ。
「お前、証拠はこの通りあるぞ」
「なぜ、関係のないお前がこんな事をしでかした」
「その女が悪いんだ。生意気にもミーガンちゃんを首にして追い出しやがった」
「ミーガンちゃんは、俺に泣きついてきたんだ」
「何も悪いことはしていないのに、色仕掛けでギルマスを手玉に取って私を追い出したってな」
「だから、俺はミーガンちゃんの仕返しをしただけだ。俺は何も悪くない。正当な行動だ」
「さっさと、この縄をほどけ!!!」
はぁ、どいつもこいつも、ここにも碌な奴はいない。
私がついていないだけか。
「ギルドマスターどうするんですか」
「ああ、すまない。おい、警備員を呼んでくれ」
数分後、警備員が到着して地下牢に引っ張っていった。
「あの~、このまま試験は続けてもよろしいのでしょうか」
「ああ、薬草と器具に問題がなければ続けてもいいし、後日にしてもいいです」
結界を張ってあったので大丈夫なはずだが、念のため確認をした。
「問題ないようですので、試験は続けたいです」
「スペンサー様がそれで宜しければ続けます」
「それよりも、前回に続きまた当ギルド職員がご迷惑をおかけいたしました。申し訳ございません」
「まあ、もしかしたらこのようなことがあるかと予想はしておりました」
「ですので、許可もなく魔道具を設置させていただきました」
「あの、その魔道具は初めて見ますが、とんでもない代物ですね」
「あーこれでございますか、一応商業ギルドには登録してございます。私が作ったものです。ただ、悪用される可能性がありますので登録だけで販売はしておりません」
「はあ、それは凄い物ですね」
「では、試験の続きをさせていただいても宜しいでしょうか」
「あ、そうですね。中級ポーション、解毒、治癒、魔力回復の制作開始」
中級ポーションも合格し、続いて上級も合格する。
「初級、中級、上級とも合格いたしましたので、こちらが薬師の上級免許証となります」
「上級の免許となりますので、ランクも上がります。会員証をお借り出来ますか」
「ランクは1級となります。会員証も書き換えてありますので、ご確認ください」
「はい、確かに」
「それで、あの職員はどうなりますか」
「取り調べを行い、憲兵に引き渡します」
「この件は、元職員のミーガンの父親にも連絡は致しますし、本部にも報告いたします」
「誠に申し訳ございませんでした」
「もしかして、ギルドマスターも予測していたのではありませんか」
「だから、ギルドマスター自ら、試験に立ち会われたのではないですか」
「ハハ、スペンサー様は何でもお見通しですな」
「そうでございます。あのミーガンですから、大人しく引き下がるとは思えませんでしたので」
「ですが、今回のことで、もうあの父親も庇いはしないでしょう」
「本当にお客様に手を出してしまったのですから」
「おおかた、問題のある当主の後妻にでもなるのではないでしょうか」
「そうなると、もうお屋敷からも出られないでしょうな」
「あのようなタイプの女性は、世の中に出ない方がいいでしょう」
「話しは変わりますが、あのポーションを作る器具は、スペンサー様が作られたのですか」
「はい、そうでございます」
「あれは、我々が使用している物とは違うようですので、商品登録した方が宜しいかと存じますよ」
「そうなのですか。分かりました。検討してみます」
「では、本日はお忙しいところありがとうございました」
「あ~、やっと帰って来れたねぇ、ジョン」
人形ジョン『そうですね』
「午後は、試験を受けるだけで緊張しているのに、あんな事が起きるんだものねぇ」
人形ジョン『本当に予想が当たってしまいました』
「ねえ、ジョン。私は本当に使命とかないよね。なんかさぁ。トラブルが多くない」
「これって、私が引き寄せてるのかなあ」
人形ジョン『いえ、そのようなことは無いはずです』
『ご心配ならば、後で神様に確認しておきます』
「そうね。できたらお願い。なんか落ち着かないよね。こうも続くとさあ」
「お祓いした方がいいかも。ああ、でも出来るところないし」
「仮想地球でもそんなことしたら、余計になんか引き寄せそうだしね」
「子爵に会うとき大丈夫かな」
人形ジョン『そうですね。今以上に用心しましょう』
「ジョンは、自分でもバリアや結界は張れるよね」
人形ジョン『もちろんです』
「行くときには、私もジョンにもバリアと結界は張るけれど、何かトラブルがあったら自分でも掛けてね」
人形ジョン『分かりました』




