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第70話 商業ギルド⑥

保存食を作った日から、四日が過ぎた。

流石にすぐに行くのは気が引けたからだ。

あまり行き過ぎて、嫌がられても困るからね。


「ねえ、ジョン。明日キルィ町の商業ギルドに行くのでいいかな」

人形ジョン『そうですね。まだ早いとも思いますが、いいのではないですか』

「そう、よかった。じゃあ、いつもの時間でよろしくね」

人形ジョン『はい、分かりました』


今日は、明るめのワインレッド色のワンピースにした。

秋らしくしてみました。

ジョンは、前回とは違う従者服です。

よく見ないと気がつかないけれど、ベストに模様が入っている。

隠れたおしゃれだ。


翌日の10時30分。

受付けにサブマスがいるのを確認して、近くの路地に出る。


ギルドに入り、サブマスの前に行く。

「こんにちは、グリーンさん、先週振りでございます」

「こんにちは、スペンサー様、タンディ様」

「何か問題がございましたか」

「いいえ、今回も登録のお願いに伺いました」

「えっ、もうですか」

「あっ、失礼致しました。では、個室にご案内致します」

「はい、お願いいたします」


いつもの部屋に案内される。

「本日は、どのようなご用事でしょうか」

「今回は、保存食の登録をお願いしたく、お伺いしました」

「テーブルに出しても宜しいでしょうか」

「はい、お願い致します」

作った保存食を全て出していく。


「こちらが、梅昆布茶、干し野菜、ドライフルーツ、野菜の出汁、フリーズドライ、クッキーバー、ザワークラウト、アセロラ飴、ビタミンC野菜出汁となります」

サブマスが唖然とした顔をして固まっている。

そうだろう、そうだろう、作るの大変だったのだよ。サブマス君。


「えっと、こちら全てでございますか」

「はい、作っていたら多くなってしまいました」

「では、それぞれをご紹介させていただきます」

「梅昆布茶になります。梅干しを乾燥させたもの、昆布を乾燥させたものを合わせてあります」

「カップに小さじ一杯を入れて、お湯を注ぎます。塩分がございますので、一日一杯から三杯までです」

「効能といたしまして、疲労回復、新陳代謝、便通がよくなります」

「カップとお湯を持参致しましたので、飲んでみてください」

鞄からカップとお湯を取り出し、注いでいく。

「どうぞ、熱いのでお気をつけください」

「はい、ありがとうございます」

「これは、酸味と旨味を感じて美味しいです」

「はい、身体によい物ですから、毎日飲むといいのです」


「次は、干し野菜と干し果物です。ドライフルーツですね」

「こちらは、野菜や果物を乾燥させたものです」

「乾燥させていますので、持ち運びにもかさばらなくて良いし、保管にも場所を取らないです」

「ドライフルーツは、甘味も増しますので、おやつ代わりにもなります」

「干し野菜は、スープにすれば、元に戻りますので、とても便利だと思います」

「干し野菜はこのままでは食べられませんので、ドライフルーツはいかがですか」

何種類かのドライフルーツを皿にのせサブマスに渡す。

「これは、甘味が強く感じます」

「干すことにより、甘味が凝縮されるのです」


「次は、野菜の出汁になります」

「こちらは、数種類の野菜を乾燥させて粉末にして合わせてあります」

「スープや煮込み料理の出汁になります」

「野菜が凝縮されていますので、栄養的にも優れています」

カップに少量の出汁とお湯を注ぎ、サブマスに渡す。

「どうぞ、味見なさってください」

サブマスが恐る恐る口にする。

「・・・美味しい」

「ええ、出汁だけで飲んでも美味しいのです」


「次は、フリーズドライになります」

「こちらは、煮込んだポトフをカップ一杯分凝縮したものです」

「遠征などに良いかと思いまして、色んな種類の味も作りました」

「味は、コンソメ、カレー、豚骨、醤油、味噌、唐辛子です」

「全部の味見は大変ですので、コンソメ味にいたします」

カップに凝縮したコンソメ味を一つ入れてお湯を注ぐ。

2分ほど待つ。

「どうぞ」

「ありがとうございます。いただきます」

「これは、なんとも、凄いです。煮込んだポトフそのままです」

「いえ、やはり食感などが、生のものとは違いますが、遠征先で食べる分には申し分ないかと思いまして」

「ええ、もちろんでございます。これがあれば、まずい干し肉だけでなくなり喜びます」

「味も色々あるのが飽きずに食べられていいです」


「次は、携帯食のクッキーバーになります」

「こちらは、二種類の味でドライフルーツとナッツと干しぶどうが入っています」

「通常ですと、保存期間が三日~五日ですが、保存魔法を付与しています」

二種類ともサブマスに出す。

「どちらもしっとりしていて、ドライフルーツやナッツがアクセントになり美味しいです」


「次は、ザワークラウトになります」

「こちらは、キャベツを千切りにして発酵させたものです」

「グリーンさんは、壊血病をご存じですか」

「いえ、聞いたこともございません」

「症状としまして、筋肉痛、関節痛、歯茎から出血、皮膚から点状出血、だるい、めまいなどが発症いたします」

「長い遠征や船乗りがなりやすい病気です」

「・・・まさか、そんな・・・」

えーっと、サブマス! どうしました。酸欠ですか。

「どうして!!!」

「どうして、そんな物が作れるのですか!!!」

なんか、急に立ち上がって、怒鳴りだしたよ。

おっかないよぉ~。ジョンにしがみついちゃうよ。

しばらくの間、わなわなしていたが、冷静になったのか、静かに椅子に座りなおした。

「えーー、大変失礼いたしました」

「あまりのことに、驚きすぎて取り乱しました」

「えっと、はい」

「只今、ギルマスを呼びますので、少々お待ちください」


「なんか、今日のサブマス、怖くない」

人形ジョン『当然ではないですか』

『先日の娼婦病に続き、今度は壊血病ですから、驚いてしまうのも無理はないです』

「まあ、そっかあ。良かれと思って作ったのにね」

人形ジョン『そうですね』


「ギルマスを連れてまいりました」

「こんにちは、スペンサー様、タンディ様」

「こんにちは、エルフマンさん。またお邪魔させていただいております」

「聞くところによると、船乗り病の治療薬をお持ちになったとか」

「そうでございます。病名は壊血病といいまして、治療薬といえるかは分かりませんが、症状を改善させることはできます」

「長期の遠征や船乗りの方は、野菜不足や栄養バランスの偏りにより起こる病気に掛かりやすくなります」

「ですので、それらの野菜や果物を簡単に取れるように、保存食にいたしました」

「野菜ならばどれでも言い訳ではございません」

「ある栄養が沢山ある野菜と果物が重要になります」


「まずは、ザワークラウトになります」

「こちらは、キャベツを千切りにして発酵させたものです」


「次は、アセロラを飴にしたものです」

「酸味種のアセロラは、果汁を飴にしたもの」

「甘味種のアセロラは、アセロラの実を飴にしたものです」


「壊血病に効果のある野菜を乾燥させ粉末にして、出汁として使えるようにしたものです」

「こちらは、そのままお湯を注いで飲んでもよいし、スープの出汁にしてもよいです」

「味見をしてみますか」

アセロラの飴とビタミンC出汁をお湯に注いだものを二人分用意してだす。

二人とも、ゆっくりと手をのばして、飴を舐める。

「ちょっと、酸っぱいですね」

「アセロラの実の飴はおいしいです」

「こちらの野菜出汁も野菜のうま味が出ていて美味しいです」

ついでに、サワークラウトも小皿に盛ってだす。

「あー酸味がありますが、美味しいです」

「えー確かに」

「それで本当にこれが、船乗り病に効くのですか」

「そうです。こちらは特にある栄養分が沢山含まれる野菜ですので、効果はあります」

「栄養とは、色々な種類があるのです」

「こちらの野菜や果物は、ビタミンCが多く含まれています」

「聞きなれない言葉とは存じますが、たとえば病気の症状により食べるものを変えることはございませんか」

「お腹が痛いときに食べるものとか、熱があるときに食べるものとかは無いですか」

「そういえば、お腹が痛いときは、じゃがいもやにんじん、ほうれん草などを柔らかく煮込んだものを食べます」

「熱があるときは、パンがゆなどを食べます」

「そうでございます。それは症状に合わせて、調理方法や食材を選んでいるのでございます」

「もし、症状のある方がいらっしゃいましたら、食べていただけるといいのですが」

「野菜や果物ですので、害になることもごさいませんでしょう」


そんなやり取りをしていると、ドアを叩く音がする。

ギルマスが「どうぞ」と声をかけると、薬師ギルドのギルマスが入ってきた。

「こんにちは、スペンサー様、タンディ様」

「こんにちは、ロペスさん」

「スペンサー様がいらっしゃるので、呼ばれたのですが」

「梅毒の認可でしたら、正式におりました」

「こちらが薬の証明書と会員証となります」

「薬師ギルドは、5級から始まりますが、スペンサー様は3級となります」

「ありがとうございます」

「テーブルの上には、色んな種類の食品が置かれていますね」

「はい、今回も登録をお願いしたく参りました」

「それで、私が呼ばれたのは、梅毒の件で宜しかったですか」

「いや、船乗り病のことだ」

「それがどうした」

「スペンサー様が治癒できる薬をお持ちになった」

「ハッ???」

「何言っているんだ。お前は」

「いや、だから、船乗り病が治癒できるの」

「はぁあ、まさか、そんなわけないだろ」

薬師ギルドのギルマスが疑いの目で私を見る。

「完全に治癒できるかは、まだ分かりません」

「ですが、効果は期待できると思います」

薬師ギルドのギルマスにも、商業ギルドのギルマスにしたように説明する。

「えっ、まさか娼婦病に続いて、船乗り病まで治しちまうのか」

「ええ、ですので同じようにどなたか治験に協力していただける方は居りませんでしょうか」

「あーそれなら、船乗りはいないが、長期遠征で帰ってきたなかにいたから頼んでみましょう」

「是非お願いいたします」

「しかし、スペンサー様、以前にまた新薬がありましたら、薬師ギルドにとお話したかと思いますが、なぜ商業ギルドにいらしたのですか」

「いえ、決して攻めているわけではございません」

「これは失礼いたしました。保存食を登録に商業ギルドに参りましたので、こちらも流れで商業ギルドで良いかなと思ってしまいました」

「あーまーそうですか」

「それが、このテーブルにあるものですか」

「はいそうでございます。野菜や果物を乾燥させたものと、煮込み料理をフリーズドライにしたものになります」

「それはまた、凄いですね」

「味見されますか」

「え、いいんですか」

「はい、どうぞ」

サブマスに食べさせた物をギルマスにも出す。

「これは、美味しい上に使い勝手がいいです」

「はい、ありがとうございます」

「では、壊血病が薬師ギルド扱いになりますでしょうか」

「おい、構わないか」

「ああ、いいぜ」

「では、薬師ギルドの申請書に記入をお願いします」

「おい、なんで申請書なんか持ってきているんだ」

「スペンサー様がいらっしゃるんだ、何があるか分からないだろう」

それはなんだね。良いことなのかね。ギルマス君。

そんなことは顔には出さずに、ジョンと手続きを進めていく。

「では、こちらが申請書の控えになります」

「治験が済みましたら、冒険者ギルド経由でご連絡いたします」

「はい、宜しくお願いいたします」

治験用に見本品を多めに渡しておく。


商業ギルドの方も手続きをしていく。

「いくつか見本を置いていきますので、味見をなさってください」

「あー助かります。ありがとうございます」

「こちらは、同等品の登録がございませんので、すぐに登録が済みます」

申請書の控えも貰ったので、手続きは終わりである。


「スペンサー様、商業ギルドの階級を上げますので、今お持ちのメダルを頂けますか」

「えっ、でも店舗を持たない商会は、銅だと伺ったのですが」

「登録時はそうでございますが、これだけの数の登録ですので本来でしたら、金でも良いのですが決まり事ですので銀級となります」

「そうですか、それではお願いいたします」

銅メタルを渡して、銀に上げてもらう。

これっていいのかなあ。また上げてくれるのならばそれでもいいか。

念話『ねえ、ジョン問題あるかな』

人形ジョン『いえ、ギルド側がそのように言うのであれば問題ないと思いますよ』

『分かった』

その後、銀メダルを受け取り、ギルドをあとにする。


【薬師ギルド side】


「おう、すまないが、ケンを呼んでくれ」

「分かりました」


トントン「ケンです、お呼びですか」

「ああ、入れ」

ケンが入ると、ドアに鍵をかけて、盗聴防止の結界を張る。

ケンは、また面倒な案件かなと思っている。

小声で話しだすギルマス。

「ケン、いいか。また例の顧客からだ」

「また治験者を集めてくれ。もちろん内密にだ。誰にも気がつかれないようにしろ」

「誰かに聞かれたら、俺から面倒な客の雑用を押し付けられたとでも言っておけ」

「分かりました。それでどんな治験ですか」

「いいか、驚いて声なんか出すなよ」

コクコクと頷く。

「船乗り病だ」

「え!!!」

思わず声を上げそうになり、慌てて口を手でおさえる。

「船乗り病ですか。まさか。本当ですか」

「ああ、そうだ。ここから船乗りを探すのは大変だから、長期遠征に出た奴らで船乗り病になった奴がいるだろう」

「そいつらと交渉して、治験を受けてもらえ」

「治療に効果のある食品を預かってきたから、これを使ってくれ」

「分かりました。すぐに行ってきます」

「いいか、尾行とかにも気をつけろ。それと直接治癒院とか患者の元に行くなよ。何件も色んな店に立ち寄りながら行け」

「分かりました」

また、王都の本部に報告しないとまずいな。

これは、喜ぶことだよな。


【商業ギルドキルィ町 side 】


「本当に来たな」

「ええ、来ましたね」

「こんなに手土産を持ってな」

「銀級で良かったのですか」

「金級でも、大金級でもいいはずです」

「まあ、本来ならばな。あの快挙なら当然だが」

「店舗もないし、この短期間だ。反対する輩も出てくるだろう」

「そうですねぇ」

「一応は、王都の本部に掛け合うが」

「年齢もあるしな」

「そうなんですよね。本当なら年齢など関係ないはずですがねぇ」

「ああ、本人も分かっているのだろう。だから表に出たくないんだろうさ」

「それにしても、これみんな旨いですね」

「そうなんだよなぁ。旨いんだよ」


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