第67話 商業ギルド side②
【スヴァロード領のキルィ町 商業ギルド side】
「彼女たちは、帰ったのか」
「はい、先ほど帰られました」
「しかし、本当にまた来るとはな」
「そうですね。もう来ないと思っていました」
「ダーニュ町の商業ギルドには、本部から調査団が入ったらしいからな」
「それもあるんじゃないか」
「あーそうかもしれませんね」
「で、どうするよ。これ」
「まずは、相談に乗ってくれそうな薬師を探しますか」
「そうだな。利権を奪いそうな奴はダメだ」
「こんな薬をどうして作れたんだろうか」
「それが、不思議です。今まで誰も治癒できなかったのですから」
「そうだな。それもあるが、患者に娼館の女やそこいらの野郎ばかりだから、真剣に治療しようなどと思われなかったんだろうよ」
「そうかもしれません。貴族が患者ならば、もっと真剣に取り組んでいたかも知れません」
「やっぱり、本部に連絡するようだよな」
「それがいいと思います。この手の患者は全国にいると思いますから」
「そうなると、大発見だよな」
「ええ、本当に。どんな扱いになるか分かりません」
「まずは、協力してくれる薬師から探しましょう」
「治験を受けてくれる患者も探さないといけないし」
「それは、薬師に頼めないかな」
「そうですね。薬師のほうが色んな情報を持っているかもしれません」
「薬師ギルドのギルマスには連絡しますか」
「そうなんだよな。黙っていて後から知られたら厄介だからな」
「これから、連絡するか。打ち合わせは明日以降にしよう」
「では、私は薬師を探しておきます」
「それと、結界魔道具の販売規定はどうしますか」
「まずは、買い取りは本人のみとし、代理人は不可としよう」
「鑑定も受けてもらい、犯罪歴が無ければ良しとするか」
「後は、なにかあるか」
「スペンサー様が作った鑑定魔道具を使えれば、もっと細かく判定出来るのですがね」
「そうだなあ。でも今はまだ無理だろう」
「無理ですね。では、その2つの条件で販売としますか」
「そうしよう。その規定で本部に報告しよう」
「あと、ミルミキサー魔道具か。あれも凄いな」
「食材がカットされて、ジュースとかが作れるのだろう」
「料理にも便利そうだし」
「アタッチメントを変えれば、粉にもできるなんて」
「これも、薬師が喜ぶだろうさ」
「この三点は、本部へ至急連絡いれよう」
「彼女の連絡先だが、冒険者ギルドと言っていたよな。何でだ」
「商業ギルドを避けているからですかね」
「いや、冒険者ギルドの会員でなければ、ことづけを受付けないだろう」
「そうなると、彼女は冒険者ギルドに登録していることになるな」
「えー、スペンサー様が冒険者ですか」
「考えられないが、そうなんだろう」
「本当に何者なんでしょうか」
夕方になると、薬師ギルドのギルマスがやってきた。
「おい、ビル、新薬の相談って、どういうことだ」
「いつから、おまえは薬師の仕事をするようになった」
「落ち着け、エリック」
「だから、わざわざ連絡しただろう」
「・・・それもそうか」
「今から説明してやるから、黙って聞けよ」
「ああ、分かった」
「俺のところの顧客が新薬を作ったと持ってきたんだ」
「それで、治癒率は高く薬としては、成功しているが治験をしていないので、協力を頼まれた」
「その新薬は、梅毒の治療薬だと言っていた」
「たぶんだが、いわゆる娼婦病のことだと思う」
「なに!!!」
「まあ、聞けって」
「なんでも、ダーニュ町でそれらしき病気の患者が出たとかで、治癒薬を作ったそうだ」
「彼女は、その病気のことを詳しく知っていた」
「申請書類には、症状が細かく記載されていたよ」
「それで、その治癒率はなんと97%だった」
「はあ、完治不可能といわれている、娼婦病がか」
「そうだ。まだ治験していないから、確定ではないがな」
「それで、エリックおまえにも協力してもらいたい」
「まずは、権力になびかない薬師、それと治験に協力してくれる患者を探すことだ」
「この件は、商業ギルドの本部にも連絡はした」
「それで、その治癒薬を作った人は、どこにいる」
「なんで、薬師ギルドではなくて、お前のところに来たんだ」
「あー、それは以前ここのギルドを利用したことがあって、まあ多少は信用されたんだろう」
「なんだ、その信用されたとは」
「彼女は、ダーニュ町にいるらしいんだが、そこのギルドにまあな。色々あったんだ」
「なんだよ。その言い方は」
「だって、一応は違う組織だろ」
「そんなのお前と俺の仲じゃないか」
「まあ、そうだが。お前だから話すが、他言無用だぞ」
「ああ、分かった」
「あそこのギルドは、彼女に不義理をしたんだ。それで信用を無くした」
「担当職員に、事前に職員に信用できない物がいると話しをしたのに、その時点で調べもせずに信用できる職員だと言い切ったそうだ」
「そして、事件が起こり彼女たちの話しが本当だったと証明されたわけだ」
「そいつらは、捕縛されて王都に輸送された」
「ついでに、ギルマスもサブマスもやらかした」
「ギルマスは、日常的に顧客を鑑定していた。もちろん無断でだ」
「彼女は鑑定された時点で、ギルドを完全に見切ったのだろう」
「サブマスも謝罪するよりも、彼女の能力の方が気になったようだ」
「まあ、ギルド組織として、裏切ったんだ」
「そこまでされたら信用出来ないだろう」
「そうか、まああのギルマスなら仕方ないか」
「そうだろう」
「それで、こっちのギルドに鞍替えしたのか」
「まあ、完全に見捨てたかまでは分からないが、今回も結構な申請を持ってきたよ」
「そんなに凄いのか」
「ああ、そうだ。扱いに困るぐらいだ」
「それならば、俺にも紹介してくれよ」
「その新薬とやらは、うちで登録してもいいんだよな」
「それはどうかな。なんせうちに申請された案件だからな」
「なんだよぉ。本来ならば薬師ギルドに申請するべきものだろう」
「そうなんだが、薬の手続きに協力するために、色んな新商品の申請を持ってきたからな」
「こちらとしても、無碍にはできないのさ」
「で、どうする。協力してくれるのか」
「まず、その薬を見せてくれ」
「わかった。今用意するから」
「これだ」
「鑑定してもいいか」
「ああ」
「鑑定」
エリックは、テーブルに置かれた、小さなビンを手に取り、鑑定する。
少しの間だが、ジッとビンを眺めている。
「これは・・・凄いなんてもんじゃないぞ」
「抗菌作用の薬で、本当に娼婦病が治るようだ」
「こうしちゃいられない。すぐに薬師と患者を集めるよ」
「じゃあ、協力してくれるんだな」
「登録はうちのギルドでするぞ」
「ああ、わかっているって。今回は特別だ」
「申請書のコピーはいるか」
「いや、まだいい。どこかで漏れるとまずいからな」
「人が確保できたら、その時にまた見るさ」
「そうか。じゃあ頼んだ」
「ふー、疲れたな」
サブマスが部屋にやってくる。
「お疲れ様でした。どうでしたか、上手くいきそうですか」
「ああ、今回は特別に登録も許可されたし、協力もしてくれるそうだ」
「やっぱり、娼婦病で間違いないようだ」
「奴も治癒薬ができるとは思わなかったようで、随分と驚いていたよ」
「まあ、そうでしょうね」
「それならば尚更、緊急で王都に連絡いれましょう」
「これから書類を作るよ」
「だいたいの書類は作成しておきましたよ」
「ああ、助かる」
【商業ギルド 王都本部 side】
「ジャック、どうした、そんな辛気臭い顔をして」
「また、スヴァロード領のギルマス、ビル・エルフマンから、緊急で書簡が届きました」
「またか、それに随分と分厚い書簡だな」
「厄介ごとの予感しかしませんが」
「まあ、そう言うな」
ギルマスのリッキー・パーカーは、書簡を受け取る。
「三束あるな」
それぞれの送付状を読んでいく。
・ミルミキサー魔道具、食材を細かくカット、乾燥物は粉末状にもできる。
・結界魔道具、結界範囲10m 馬と荷台一台分、ドーム型」
・病名、梅毒(通称:娼婦病)の治癒薬。治験をこれから開始。薬師ギルドと内密に協力。
「これはとんでもない物を送って来たぞ」
申請者の名前を見ると、『アース商会』とある。
「また、アース商会だ」
「この送付状を見てみろよ」
サブマスも手に取り、読んでいく。
「はぁ、どうしますか。ギルマス」
「どうもこうもねえだろ」
「このミルミキサーとやらは、まあ何とかなるが、他はダメだ」
「とりあえず、この三点とも会長に報告してくる」
「どうして、こんな短期間で色々申請するんだよなぁ」
「私には、分かりかねます」
「まあ、そうだよな。ちょっと行ってくる」
「はい、いってらっしゃいませ」
ギルマスは、またも、重い足取りで会長室に向かう。
トントン「ギルマスのリッキーです」
「入りなさい」
会長のロニー・デイビス。
「おや、またあなたですか」
「はい、お忙しいところ恐れ入りますが、確認して頂きたい申請書があります」
「こちらをご覧ください」
秘書に手渡す。
「スヴァロード領のキルィ町のギルドマスターから届いたものです」
「ミルミキサー魔道具、結界魔道具、新薬の申請です」
「申請者は、あの『アース商会』です」
「ほう、また彼女かね」
会長も送付状を読んでいく。
「これはまた、凄い内容ですな」
「完治不可能といわれた病気だったはず」
「いや、誰も真剣に取り組まなかったか」
「そうです。なんせ通称娼婦病ですから」
「なぜ、彼女が」
「どうも住んでいる町に、該当する患者がでたとかで、薬を作り始めたようです」
「彼女に薬の知識があったのかね」
「いえ、その当たりの詳しいことは書かれていませんでした」
「これから治験するとあるな。それも薬師ギルドと内密でと」
「おそらく、利権の問題もあり、内密に事を進めているのでしょう」
「ずる賢い奴ならば、彼女から利権や発案者の権利まで奪いかねないですから」
「ああ、そうだね。どこにでも強欲で馬鹿者はいるからね」
「さて、どうしたものか。あそこのギルドだけで任せていいものか」
「誰か派遣しますか。それに薬師ギルド本部には連絡入れますか」
「そうよのう。無視する訳にもいかないだろうよ」
「今回はわしらに任せて貰うことにしよう。一筆書いてもらうとするか」
「あとは、こちらで処理するから」
「はい、お手数をおかけしますがよろしくお願いいたします」
ギルマスは、ホッとした顔をして退出していった。
会長は、すべての書類を読んでいく。
「ふむ、どうやら、薬を作るのにも苦労したようじゃ」
「何度も失敗しては、作り直しておる」
「そこも丁寧に記録してある」
「まあ、そんなに簡単には作れませんでしょう」
「ああそうだな。だが、おおよその材料の検討はついていたようじゃ」
「どこで、その知識を得たのじゃろうかのう」
「ああ、詮索はいかんかったな」
「では、薬師ギルドに先ぶれを出してくれ」
「はい、畏まりました」
薬師ギルドの会長とは、裏取引をした。
アース商会出版の次回作を渡すことで、手を打った。
つまり、アース商会の案件をアース商会の次作で解決したのだ。
なんとも、間の抜けたような話しである。
ちなみに、ミルミキサー魔道具と結界魔道具はすんなりと許可がおりた。




