第62話 商業ギルド side
商業ギルド本部の調査団一行がジユジョア領ダーニュ町に到着。
宿を手配し、部屋で打ち合わせをする。
「まずは私がギルドに行って、顔合わせをしてきます」
「すぐに捕縛できた時のことを考えて、先輩と警備員の皆さまはギルドのそばで待機してください」
「しばらく待って、ヘンリーが出てこなければ、見張りを一人残して宿で待機している」
「それがいいですね」
「では、私が先に出ます。先輩たちは時間差でギルド近くに来てください」
「確認ですが、先輩の顔は知られていませんか」
「そうだな、ここの連中は知らないと思うぞ」
「わかりました、捕縛出来た場合は、笛を吹くか外に出て呼びに行きます」
「あ~、わかった。油断するなよ」
「あそこのギルマスは抜けているが、サブマスは切れ者だからな」
「そうですか。気をつけます」
商業ギルドに到着して受付を見るが、サブマスは居ないようだ。
「こんにちは、私は商業ギルド本部の新人ヘンリーと申します」
「急なんですが、こちらで新人研修を受けることになりました」
「こちらがギルマス宛の書簡となります、ギルマスまでご案内頂けますか」
受付の男性ディックは、新人が来るなど聞いてはいないが、急に決まることもあるだろうと、ギルマスの部屋まで案内する。
「受付のディックです。本部から新人だという方をお連れいたしました」
「入れ」
「こちらが本部よりいらした、新人のヘンリーさんです」
ディックは案内すると受付業務に戻った。
「こんにちは、本部より新人研修に来ました、ヘンリーです。よろしくお願いいたします」
「研修の話しなど聞いていないぞ」
「はい、申し訳ございません。何しろ急に決まりましたので」
「こちらが、研修依頼の書簡となります。ご確認お願いします」
ギルマスが書簡を読んでいる間、ギルマスを観察し周りの様子も伺っている。
サブマスは部屋にいて、こちらには気がついていないようだ。
「まったく、本部も何を考えているのか」
「こっちだって、都合ってものがあるんだ」
「そうですよねぇ。私も急に指示されて困っているんですよ」
「まあ、お偉いさん方は何を考えているかなんてわからないからな」
「そうですよねぇ、本当に」
「それで、おまえさんは何をするんだ」
「いえ、特に指示はありませんでしたので、こちらの意向にお任せなのだと思います」
「まったくよう、勝手だなぁ」
『ビリッ』と感じた。
これは、『鑑定』されたな。
「ギルマスさん、あなた今私を無断で鑑定しましたね。それは規約違反ですよ」
「規約違反により、捕縛」
すぐに、ギルマスに手枷をかける。
瞬時に床に倒し、足枷もする。
窓を開けて、笛を吹く。
音を聞きつけて、サブマスがすごい勢いでドアを開け入ってくる。
「何ごとだ!!!」
「私は本部から来ました。ヘンリーです」
「このギルマスは、許可なく無断で私を鑑定しました」
「よって、規約違反により捕縛しました」
「いきなり捕縛は無いでしょう」
「あなたが、そんな甘い考えだから、ギルマスが調子に乗るのではないですか」
そうこうしている間に、ドタドタと音がする。
先輩と警備員たちの到着だ。
「私は、本部から派遣されたロン・ブレイクリーだ」
「ギルマスの規約違反による捕縛とサブマスであるダーモット・ロンドンあなたと受付のナタリア・カヴァナーを告発により、事情聴取する」
「それと、職員のスコット・クラーク、スティーヴン・トリバー、ゼイビア・ケアーの三名を規約違反及び犯罪行為により、捕縛、事情聴取後、本部に連行する」
「そんな、どうして」
「まさか、彼女が・・・」
「告発は顧客からではない。他のギルドからだ。詳しく説明する必要はない」
「すくに犯罪者のところに案内するように」
「犯罪者はどこにいる」
「・・・・・」
「聞こえているのか!!!」
「はい、地下牢に入れています」
「そこに案内しろ」
手枷、足枷をされた状態のギルマスも地下牢に連れていく。
ギルマス内が何ごとかと騒いで、遠目で見ているが関係ない。
犯罪者の三名は、最初はのらりくらりとしていたが、本部の人間は甘いわけもなく、厳しい取り調べで全てを白状した。
管理されていたはずの部屋の鍵は、二人がいない隙を狙って合鍵を作り、気密扱いの書類や申請書などを写し書き、色んな人に売りさばき金儲けをしていたのだ。
流出した書類はおおよそ判明したので、それはこれから調べることになる。
すぐに警備員により護送車に乗せられて、冒険者たちと王都へ帰還した。
ギルマスへの聴取も地下牢で行われ、日常的な鑑定行為と今回の犯罪の報告義務違反についても、追求された。
鑑定については、好奇心から癖になっていたとのことで、犯罪者たちの報告は取り調べが終わってからするつもりだったと、なんとも甘い判断といえよう。
ギルマスには、ギルドを退職するか、一年の減俸か自分で選ぶように説明した。
まさか、こんな大事になるとは予想もしていなかったそうだ。
ギルマスという役職の意味を理解していないのだ。
もちろん、退職しないのであれば今後も監視され、例の顧客に対して接触することは禁止とした。
サブマスの監督不行き届きは、何度も注意はしていたが、一日中監視している訳にもいかず、どうしようもなかったと。
なぜ、本部に報告しなかったといえば、情もあるしギルドの評価にも繋がるからということだった。
顧客への不誠実な対応については、なぜ知っていると驚いていたが、やはり興味の方が勝ってしまったのだろう。
本人としては、そんなつもりはなかったようだが、態度に出ていたからこそ、顧客が不誠実だと感じたのだろう。
次に、受付の女性を呼び出すと、何をされるのか何を言われるのか、始終ビクビクしていた。
顧客に対しては、才能が有りそうだったので、自分が担当となり嬉しかったし誠実に対応しようとしたが、サブマスからの指示で申し訳ないと思いながら、後で謝罪するのだからと同意してしまったと。
驚いたことに、その後も例の顧客からは、郵送で新規登録の申請書が届いていた。
ギルマスやサブマスには、そのことは報告していないようだ。
また、不誠実なことをされては、二度と信用されないだろうとの判断からだ。
申請内容を確認すれば、上司の許可は必要ないかといえば、判断が難しい。
今までにない商品だから、上司の承認印が必要ともいえる。
ただ、ギルマスもサブマスも信用できなくなった今となっては、仕方のないことかもしれない。
今後は私に報告するように指示した。
二人には事情聴取後に処分の書簡を渡すと、肩を落としうなだれていた。
それでも、軽い処分だとは思う。
さて、問題の偽装、盗撮疑惑の書類を調べなくてはならない。
ヘンリーと協力して、早く解決しなければ。
該当する書類をコピーし、類似品の申請や販売がされていないか調べつくした。
幸いというべきか、類似品などの申請は受付の段階で却下されており、その点については一安心だ。
ただ、申請せずに裏で取引などをしている物までは、調べられない。
申請者にどのように報告するかは、本部に戻ってからになる。
ただ、全部調べ終わるには、最低でも三か月は掛かるだろう。




