第112話 商業ギルド王都本部へ
「おはよう、ジョン」
人形ジョン『おはよう、アン』
「何時ごろにギルドに行く」
人形ジョン『いつものように、10時30分にしましょう』
「分かった」
「朝食を食べたら、すぐにホテルに行く?」
人形ジョン『そうですね。朝早い方が混まないでしょう』
馬の世話をして、朝食を食べてからホテルに向かう。
フード付きコートを着て、フードを深くかぶり部屋から出る。
騎士たちに見つからないように、認識阻害を掛け結界を張る。
宿を出てホテルに向かうが、尾行はいないようだ。
「あと、何分くらいで着くの」
人形ジョン『10分くらいです』
「ホテルが近くなったら、コートと靴と髪型を変える」
人形ジョン『そうしましょう』
コートだけ上質に変えても、靴が冒険者用では怪しまれるし、断られる可能性もあるからね。
髪型も服に合わせて変えるし、いつもの髪型じゃないほうがバレにくいはず。
人形ジョン『見えてきました、あのホテルです』
「えっ、あれなの。すごい高級そうじゃない」
人形ジョン『いえ、そこまででもないです。ちょっと良いくらいです』
「あれで、そうなの。そろそろ服をチェンジしようか」
人形ジョン『そうですね。何かあれば私がホテルの人と話しをしますから』
「分かった」
ドアマンの横を通るが、何も言われなかった。
フロントで係の人に
人形ジョン『昨日から予約しております、タンディと申します』
「タンディ様でございますね。確認いたしますので、少々お待ちください」
「昨日から四日間二名様でご予約のタンディ様でいらっしゃいますか」
人形ジョン『はい、そうです』
「ご予約ありがとうございます。お部屋は501号室になりまして、こちらがお部屋の鍵になります」
鍵を受け取り部屋に行く。
部屋に入ると、今まで泊まったホテル以上に凄かった。
「ジョン、この部屋ものすごく高かったんじゃない」
人形ジョン『どうでしょう。そこそこでしょうか』
「うわっ、そこそこって、さすが王都だけあるのか」
「前払いなんだよね」
人形ジョン『そうですね。これで鍵さえ返せば何時でも帰れますから』
「こんなに凄い部屋なのに、泊まらないなんて勿体ない」
「来る途中で思ったんだけれど、認識阻害を掛けてきたじゃない。それならば、わざわざホテルを取らなくても、服をチェンジできたんじゃない」
人形ジョン『出来たかと思いますが、認識阻害を見破れる人もいるかもしれませんし、ホテルを予約した実績が記録に残りますから』
「そっか。王都だもんね。どのくらいの魔法が使える人がいるか分からないか」
人形ジョン『なるべく、用心深く注意しなくてはいけません』
「なんか。面倒くさいし怖いね」
「まだ、時間もあるしお茶でも飲んで休もうか」
部屋には、お茶セットが用意されている。
人形ジョン『私が入れましょう』
「そう。ありがとう」
ジョンが入れてくれた、紅茶を飲みながらまったりする。
「今日一日で三カ所のギルドに行くんだよね」
人形ジョン『その方がいいでしょう。面倒ごとは早く終わりにしたほうがいいでしょうから』
「まあ、確かに面倒だよね」
時間がきたので、ギルドに向かう。
その間も認識阻害、結界、マッピングはしている。
人が多いせいか、赤や黄のマークが多い。
物騒な街だ。
最初は、商業ギルドに行く。
新商品を渡す予定もあるから時間が掛かるからね。
商業ギルドの近くまで来ると、建物の中にも赤や黄マークがいる。
「ジョン、赤と黄マークがいるから注意しよう。入口に入る前から録画した方がいいかも知れない」
人形ジョン『そのようですね。前と後ろからも録画しましょう』
「まったく、なんでこんな場所までいるんだか」
建物に入り受付を見ると、5人が受付担当のようだ。
さすが王都なのか、受付の人も多い。
女性3人に男性が2人だ。
そのうちの女性が赤・黄一人ずついた。
当然、赤と黄を外して並ぶ。
いわゆる女性は腰かけで、男性はずっと働くので真面目なのかもしれない。
地球ならば、定年まで働く女性も多くいたが、この世界は良い縁談先を見つけるためとか、自分の評価を高めるために良い職場で働くことがある。
人気の職場は城で働くことで、一番のステータスになるようだ。
私の番になる。
「スペンサーと申しますが、スヴァロード領キルィ町のギルドマスターから王都本部のギルドマスター宛の書簡を預かっております。ギルドマスターはおいでになりますでしょうか」
私がそう話しをすると、赤いマークの女が近づいてきた。
これは、きっとクレームだ。
建物全部に声を拡散しよう。
それから、赤と黄マークの女性とお客には、私たちの名前と容姿は建物を出たら忘れるように魔法を掛けておく。
追いかけられたり、調べられたりしたら、面倒だからね。
「あなた、今ギルドマスターに会いたいとおっしゃった」
「はい、スヴァロード領キルィ町のギルドマスターから王都本部のギルドマスター宛の書簡を預かっております」
「私が受け取ります」
「いえ、直接手渡しするように言われていますから」
「いいから、私に渡しなさい」
「いえ、それは出来ません」
「あなた、誰に向かってそんな口を聞きますの」
「直接手渡しするように指示されておりますので」
「田舎者風情が、そんな田舎のギルド書簡をわざわざ私が受け取ってあげると申し上げているのですよ」
「ギルドマスターは、いらっしゃらないのですか。それでしたら、サブマスターはおいでになりますか」
「あなたも分からない人ね。私が代わりに預かると申し上げてるでしょ。いうこと聞きなさい」
「ギルドマスターがいらっしゃらないのであれば、これで失礼させていただきます」
「ちょっと、待ちなさい。誰かこの無礼な田舎者を捕まえなさい」
「エヴァ嬢、何をしている」
「えっ、サブマス」
「スペンサー様がお越しになられたら、ギルマスの部屋にご案内するように言ったはずですが、何ですかこのやり取りは」
「いえ、私はこの生意気な田舎者に分からせようと」
「どこの地域とかは関係ありません。あなたは、今すぐに事務室に戻りなさい」
「申し訳ございませんでした。スペンサー様。只今、ギルドマスターの部屋にご案内いたします」
トントン「スペンサー様をお連れ致しました」
「入りなさい」
部屋に案内され、ソファーを勧められる。
私が座り、ジョンは私の後ろに立つ。
ギルマスもサブマスも、ちょっと驚いているようだ。
「ようこそ、お越しくださいました。王都本部のギルドマスターをしております、リッキー・パーカーと申します」
「私は、サブマスターをしております、ジャック・ブラッズと申します」
「先ほどは、部下が大変申し訳ございませんでした」
「いえ」
「スペンサーと申します。後ろにいるのがタンディと申します」
「本日はお時間を頂きまして、ありがとうございます」
「こちらが、スヴァロード領キルィ町のギルドマスターからお預かりした書簡でございます」
「はい、ありがとうございます。それでは、拝見させていただきます」
トントン「お茶をお持ちいたしました」
「入りなさい」
黄マークの女だった。これは用心しないといけないな。
テーブルにお茶が配られ、退出していく。
私は、出されたお茶を左によける。
ギルマスとサブマスの眉がピクリと動くが気にしない。
「ライアン子爵の件では、お口添えをいただきましてありがとうございます」
「おかげ様で何の処罰もなく、過ごさせていただいております」
「いいえ、大切な会員様ですから、いつでもご協力させていただきます」
「では、私共はこれで失礼させていただきます」
「お時間を頂きましてありがとうございます」
「えっ、ちょ、ちょっとお待ちください」
「書簡では、新商品をお持ちいただいたとありますが」
「それは、またといたします」
「えっ、お待ちください」
私たちは、ギルマスを無視してドアまで行く。
「こちらでは、身の危険を感じますので、失礼いたします」
「そのお茶を調べればわかります。下剤入りですよ」
「それから、受付のご令嬢ですが、私たちをおとりにしたのではないですか」
「恐らく、縁故採用とかで素行も悪かったのではないですか」
「私たちで問題を起こせば、クビにする良い口実になりますからね」
「でも、その後のことは考えられましたか」
「受付のご令嬢は貴族でしょう。私たちに報復する可能性もありますよね」
「平民は貴族には逆らえませんから、恐ろしいですよね」
「ですので、こちらに留まることは、とても危険なのです」
「失礼いたします」
ギルマスとサブマスは、図星をつかれたのか呆然としていました。
部屋を出ると、すぐに強めの認識阻害を掛けて、急いで建物から出る。
「ジョン、どうする。他のギルドにも行く」
人形ジョン『明日になれば、もっと厄介かもしれません。今日中に行ってしまいましょう』
それから、治癒ギルド、薬師ギルドと挨拶とお礼に行き、何のトラブルもなくホテルに帰れた。
ここでも、のんびりしていると探される可能性が一番高いので、さっさと来た時の服装に着替えて、ホテルを出る。
時間があれば、街中も見たかったが、すぐに宿に戻ってこもることにした。
【商業ギルド 王都本部】
「どうする、ジャック」
「だから、言ったじゃないですか、あれだけの商会ですからおとりにするのはまずいって」
「だって、まだ小娘だろ。そんなことは気がつかないと思うじゃないか」
「馬鹿をいいなさい。あれだけの商品を開発出来るのですよ。ただの小娘なわけないじゃないですか」
「あっ、お茶を確認しなくては、下剤入りだと言っていたな」
「鑑定」
「本当に下剤入りだぞ。どうするんだよ」
「それより、追いかけなくていいのですか」
「ああ、そうだな。急いで探しに行ってくれ」
「私がですか」
「ああ、他の者じゃまずいだろ」
「それもそうですが、あの女と毒を運んだ女はどうします」
「当然、すぐにクビだ」
「誰が告げますか」
「そうだな。二人ですぐに告げよう。あの女のことだ。他にも報復させようとしているかも知れないからな」
「まずは、毒を運んだオーブリーから話しを聞こう」
「オーブリーを連れてきました」
「そこに座りなさい。なんで呼ばれたか分かるな」
「いえ、分かりません」
「白を切るのか」
「いえ、本当に分かりません」
「ならば、このお茶を飲め」
「えっ」
「冷めてしまったが、お前が容れた茶だ」
「いえ、私には・・・」
「自分が入れたお茶が飲めないのか」
「・・・・・」
「当り前だよな。なんたって、下剤入りなんだから」
「なっ」
「なぜ分かったのかって、顔だな」
「お前は、お客様も私たちのことも馬鹿にし過ぎじゃないか」
「お前、あのお嬢様が誰だかわかって、こんなことをしたのか」
「詳しくは言えないが、あの人はうちの上客だぞ」
「こんなことをしでかして、ただで済むと思うなよ」
「なんで、こんなことをした。正直にいえば罪を軽くしてやってもいい」
「罪って、そんな」
「お前は馬鹿か。当り前だろう。お客様に毒を盛ったんだぞ。ただで済むわけないだろうが」
「そんな、私は、わたしは・・・」
「正直に話せ」
「・・・私は、エヴァ様に言われて毒を入れました」
「なんて、言われた」
「あの女性のせいで、恥をかいたので、思い知らせるためだと」
「それで、言いなりになったのか」
「私では、爵位の上のエヴァ様には逆らえません」
「馬鹿な事をしたもんだ。その時点で私たちに報告していればいいものを」
「お前は、結論がでるまで牢屋で反省していろ」
「そんな・・・」
「お前は、罪を犯したんだ。当然の処置だ」
「さてと、次はあいつか。面倒な」
「だから、最初から言ったんですよ。縁故採用だなんて問題が起きますよと」
「仕方ないだろう。断れない相手だったんだから」
「それならば、会長にお願いすれば良かったんですよ」
「お呼びでしょうか」
「ああ、ここに座れ。エヴァ、お前は何で呼ばれたか分かるな」
「いいえ、私には分かりません」
「お前の受付での対応はなんだ。いつからお前はギルマスである、俺たちよりも偉くなった」
「私は、ギルマスの手を煩わせないようにしただけですわ」
「俺は言ったよな。大切なお客様だから丁寧に対応しろと、すぐに部屋に案内しろと」
「あんな女がですか。馬鹿馬鹿しい」
「それは、お前が判断することじゃない」
「それに地方だからとかは関係ない。どこも大切な支店だ」
「それから、オーブリーに毒を入れさせたな」
「私は知りません。オーブリーが勝手にしたことでしょう」
「白を切るんだな。まあいい。お前は本日をもってクビだ」
「なぜですの。そんなことが許されるはずありませんわ」
「馬鹿を言え。これまでもお前に対してはクレームが山ほどきていたんだ」
「そんな態度が悪い奴はギルドに必要がない」
「そんな事を言って、お父様に言いつけますわよ」
「ああ、そうしてみろ」
「今までもお前のことは報告してある」
「今度なにかしたら、クビにしてもいいと許可までとってある」
「そんなはずはありませんわ。お父様がそんなことを言うはずありません」
「とにかく、お前はすぐに出ていけ」
「あとで、後悔いたしますわよ」
パタンと大きな音をたてて、ドアから出て行った。
「まったく、現実を分かっていないのは、どっちだよ」
「ギルマス、会長にご報告に行ってくださいね」
「えっ、会長に」
「当り前ですよ。会長は数日前からスペンサー様にお会いできる日を楽しみにしていらしたのですから」
「そんなぁ。ジャックお前が行ってくれよ」
「何を言っているのですか。ギルマスであるあなたが説明に行かなくてどうするのです」
「私は、スペンサー様を探してきますよ」
「お前は、冷たいな」
トントン「ギルマスのリッキーです」
「入りなさい」
「まあ、随分としけた顔をしていますね」
「何やら下では騒動があったようですが」
「はい、エヴァ嬢がやらかしまして」
「ああ、そのようですね。なぜかここまで会話が聞こえてきましたよ」
「えっ」
「それで、スペンサー様はどちらに」
「・・・あの・・・その・・・」
「なんですか、はっきりと言いなさい」
「お帰りになりました」
「はっ、何ですって」
「ですから、もうお帰りになりました」
「どうして、会長が会われると言われていたでしょう」
「ええ、そうなんですが」
「その・・・お茶に毒が入れられていまして」
「なんですって」
「ですから、エヴァに指示されて、オーブリーが下剤入りのお茶を出し、スペンサー様はすぐに気がつかれましてお茶を弾かれて、エヴァからの報復も考えられるので、身の危険があるからとお帰りになりました」
「なんてことを。それで、エヴァとオーブリーはどうしました」
「オーブリーは、地下牢に入れてあります。エヴァはクビにして帰らせました」
「ああ、何て馬鹿な事を仕出かしたのでしょう」
「スペンサー様が心配して帰られるのも当然ではないですか」
「まさかと思いますが、スペンサー様をおとりにしたのでは、ないでしょうね」
「あー、いやあ」
「はぁ、あなたがここまで馬鹿だとは、スペンサー様はその事にも気がつかれたのではないですか」
「はい」
「エヴァについては、言いましたよね。縁故でも問題を起こせば即刻クビにするようにと。それなのに、今までなあなあにしてきたあなたが悪いのですよ」
「それに、よりによってスペンサー様をおとりにするなんて。まだ、若いから気がつかれないとでも思ったのですか」
「あれだけの商品や薬を開発する方なのですよ、見た目の年齢のままでないことはわかるでしょう」
「それで、スペンサー様のことは探しに行ったのでしょうね」
「はい、今サブマスが探しに行っています」
「スペンサー様が心配するように、エヴァが報復に出るかもしれません」
「いくら大金級の商人は伯爵と同等だからと、貴族の伯爵には逆らえないですよ」
「捕まってしまえば、私たちが対応するまで、どんな目にあわさられるか」
「あなたのことですから、そこまで考えなかったのでしょう」
「会長、どうされますか」
「スペンサー様の身柄の安全確保とリドロフ伯爵邸に使いを出しましょう」
「できるならば、エヴァより先に連絡をしないといけません」
「はい、すぐに使者をおくります」
「オーブリーのほうはどうしますか」
「本来ならば、死刑を言い渡したいですが、鉱山送りか修道院送りが妥当かもしれません」
「まあ、裁判をしてみないと分かりませんがね」
「ナン男爵にも使いを出しなさい」
「厄介なことになりました」
「これで、益々スペンサー様は貴族嫌いになってしまうでしょう」
「やはり、ここは至急白金級にしたほうがいいのではないでしょうか」
「うーん、実績は充分にあるが、短期間で位が上がれば、反発もあるだろう」
「白金仮というのは、どうでしょう」
「そうだな。仮ならばいけるか」
「こうなったら、緊急処置とするか」
「そうしましょう。スペンサー様の安全のために」
その頃、サブマスは一生懸命にアンたちを探していた。
高級ホテルから探し始めているが、王都だけでも何件あるか。
ギルドからそう遠くないだろうと近くから探し始めているが見つからない。
なかには、いくら商業ギルドのサブマスとはいえ、お客様個人のことを教えられないと断られることもあった。
当然である。お客様の情報をホイホイ渡していては、信用されないからね。
必死に探して、やっとタンディの名前で予約されたホテルが見つかった。
午後に一度帰ってきたが、また出かけていると教えてもらっていた。
仕方なく、ロビーでしばらく待つが戻ってこない、どうするか悩んだが、フロントに言付けをして一旦ギルドに戻ることにした。
「只今、戻りました」
「それで、スペンサー様は見つかったか」
「泊まっているホテルは見つけましたが、出かけているようでいませんでした」
「しばらく待っていましたが、連絡をくれるようにフロントに頼んで戻ってきました」
「そうか。仕方ないな。ご苦労様」
「それで、会長とは話しされましたか」
「ああ、こっぴどく怒られたよ」
「まあ、当たり前ですね」
「それで、今のままでは危険かもしれないから、白金仮に昇格することになった」
「緊急処置らしい」
「白金には、なれないってことですか」
「ああ、あまり急だと反感を買うからと」
「まあ、そうでしょうね。今でも反感はあると思いますよ」
「会長自ら、リドロフ伯爵邸に出向いたよ。エヴァが悪だくみする前に話しをつけに行った」
「あれの子分がどのくらいいるかによりますね」
【エヴァ・リドロフ side】
「まったく、なんなのよ」
「なぜ、私が怒られなければいけないの」
「あんな田舎小娘にどんな対応をしようと勝手じゃない」
「私を誰だと思っているのかしら」
「ただでは済まさないわ」
「オーブリー、あの田舎娘はギルマスの部屋にいるのでしょう。お茶に下剤を入れなさい」
「えっ、そんなことは出来ません」
「あなた、私に逆らう気なの。いいから、言うとおりになさい」
「私をこんな目に合わせたのだから、当然の報いだわ」
「なんですって、私をクビですって」
「私を誰だと思っていますの」
「お父様に言いつけますわ。ギルマス、サブマス、あなた方はクビになりますわよ」
「覚えておきなさい」
【リドロフ伯爵 side】
「これはこれは、商業ギルド会長のデイビス様ではいらっしゃいませんか、どうぞこちらに」
「本日は、急なお越しでいかがされましたでしょうか」
「急にお伺いして申し訳ないです」
「実はですな、困ったことが起きましてな」
「エヴァ嬢ですが、お客様にとんだ無礼を働きまして、ギルマスから叱責を受けていたんじゃが、それが気に入らなかったのであろう」
「ギルマスと話しをしているそのお客様に毒入りのお茶を出したのじゃ」
「いえ、実際に配膳したのは、子分のナン男爵オーブリー令嬢なんじゃがな」
「幸い被害はなかった。お客様ご自身で気がつかれたのでな」
「日頃からエヴァ嬢には苦情が絶えなくてのう。ギルマスがいくら注意しても身分を笠に反省もせなんだ」
「そこに今日の出来事じゃ、受付でお客様を無碍に扱ったあげくに、毒入りのお茶を出させる始末じゃ」
「当然、ギルマスからは本日付けでクビを言い渡した」
「心配なのだ、エヴァ嬢がそのお客様に報復するのではと思っているのじゃ」
「現に毒入りお茶を出しているしな」
「そのお客様は、商業ギルドにとって、とても大切なお客様なんじゃ」
「のう、伯爵言っている意味は分かるであろう」
「お主にも、散々注意したはずじゃ、このままエヴァ嬢を放置すればとんでもないことが起きると」
「それが現に起きてしまった」
「エヴァ嬢は、クビが納得できなくて、お主に言いつけて、ギルマス、サブマスをクビにすると、息巻いていたそうじゃ」
「今日のお客様は、我ら商業ギルドだけではない、治癒ギルド、薬師ギルドにとっても、とてもとても大切な方なのだ」
「どうするかのう、三つのギルドに敵対するのかのう」
「別にこれは脅しではないぞよ。判断はお主に任せるからのう。私は事実を報告にきたまでだ」
「お客様に報復するものがおれば捕まえるだけだからのう」
「じゃあ、私はこれで帰るとしよう。まだ、後始末があるからのう」
「はっ、大変申し訳ございませんでした。しっかりと処分させていただきます」
「ああ、任せたぞ」
「只今戻りました」
「お父様、聞いてください。ギルマスとサブマスが私をクビにするなんて言いますのよ」
「たかが、ギルマスとサブマスのくせに無礼ではありませんこと」
「お父様、あのギルマスとサブマスをクビにしてくださいませ」
「お前は、自分が何を言っているのか分かっているのか」
「もちろんですわ」
「今日、商業ギルドの会長様がわざわざいらっしゃった」
「まあ、きっとギルマスたちの件ですわね。会長自ら謝罪に来られたのですわね」
バシーン!!!
「何を、なにをなさいますの、お父様。頬を叩くなんてあんまりですわ」
「お前を甘やかしてしまったのは、私の責任だ」
「お前はギルドで仕出かしたそうじゃないか」
「私は、何もしておりませんわ」
「お前は、大切なお客様を無碍に扱い、そのあげく毒入りのお茶を出したそうじゃないか。なんでそんなことが出来るんだ」
「まあ、そのことですの。大したことではございません、ただの田舎者ですから」
「私をこんな目に合わせた張本人ですから、それなりの罰を与えなければいけませんわ」
「お前は、相手のことを田舎者だというが、どんな人物なのか知らないのだろう」
「そんなのただの田舎者ですわ」
「馬鹿者!!! 相手は商業、治癒、薬師にとっても、大切なお客様だそうだ。この意味がわかるか」
「あら、あんな者がですの。ギルドも大したことがないんですのね」
「お前はどうして、他者を見下すのだ。いいか、相手は上客だということだ」
「私なんかよりも、よほど大切にされる方なのだ」
「そんなはずありませんわ。私たちは貴族なんですのよ」
「お前は、知らないのか。上客ということは貴族と同等の扱いになるんだ。お前が軽くあしらっていい方じゃないんだ」
「そんなのおかしいではありませんか」
「お前には何を言っても無駄なようだな。お前は修道院に入れる。これは決定だ。それまでは部屋で謹慎していなさい」
「一歩でも屋敷から出たら、もう家族ではないからな」
「そんな、あんまりですわ。お父様」
「エヴァを部屋に連れて行け。窓とドアにはカンヌキを掛けておけ」
「只今戻りました。父上」
「ああ、お帰り」
「どうされました。なにかお疲れのようですが」
「ああ、実はなエヴァがギルドでやらかしたそうで、今日でクビになった」
「そのことでしたら、私の耳にも入りましたよ。親切に教えてくれる人がいましてね。ギルドでお客様に対して失礼なことをしたそうですね」
「ギルドでは、随分前からエヴァにクレームが入っていたと聞きましたよ。父上はご存じだったんじゃないですか」
「聞いていたが、そんなことは日常茶飯事だと軽く考えていた」
「父上には前から言いましたよね。甘やかし過ぎると大変なことになるからと」
「父上は、私には厳しくするのに妹には甘かったですから」
「お前は、跡取りなんだから当たり前だろう」
「それは当然かも知れませんが、だからと言ってエヴァに甘くすることにはなりませんよ」
「エヴァが他所で迷惑な行為をすれば、我が家に返ってくるのですから」
「今が正にそうですよ」
「ギルドでその場にいた者たちが、あちこちに話しをするでしょう」
「我が家の醜聞はすぐに広まりますよ」
「うっ、どうすればいい」
「一日でも早く処分することですね」
「明日にでも、強制的に一番きつい修道院に送ればいいですよ」
「そんな、可哀そうとは思わないのか」
「逆にお聞きしますが、ゆるい修道院に送ってもそこでも素行が悪ければ噂になりますよ」
「それに、ゆるい修道院ならば逃げ出すかもしれません」
「悪いことは言いませんから、覚悟を決めて一番きつい修道院に明日送ってください」
「今から護衛を決めればいいじゃないですか」
「ああ、冒険者ギルドに頼むのは止めた方がいいですよ。そこから話しが漏れるかもしれませんから」
「それから、騎士たちは厳選してください。エヴァの言いなりになる者もいますからね」
「そんな者がいるのか」
「父上は本当に知らないんですね。団長に聞けばいいと思いますよ」
「そうか、私にはエヴァのことが分かっていなかったのだな」
「それから、母上も説得してくださいね。騒がれるのはごめんですよ」
「いっそのこと、母上も実家に返すなり、修道院に入れたらどうですか」
「お前、母親に向かって何て言うことを」
「お金を湯水のごとく使うだけの母親なんて要りませんよ」
その後団長とよく話し合い、エヴァの子分以外が選抜され修道院へと向かった。
母親は騒いでいたが、無理やり馬車に乗せ実家に送り返した。
もしも、文句を言って来たら、その時は娘と同じ修道院に入れようと心に誓った。
【ジョン side】
アンには、用心のためと宿に籠るようにしたが、ジョンはしっかりとギルドとエヴァを監視した。
信用できない輩は、見張らないと安心できないから。
ギルドでのやりとりやサブマスが予約したホテルを見つけて言付けたことも見ていた。
このホテルは、お客の情報を他者に漏らしたので、今後は泊まることはないと思う。
エヴァやリドロウ伯爵邸でのことも、見ていたので、とりあえずは安心かとホットした。




