第106話 イアンVS冒険者ギルド
最近じゃあ、俺の評判ががた落ちだ。
こうなったのも、あの冒険者の小娘のせいだ。
あんな小娘が強いはずないんだ。
インチキをしているに決まっている。
それを暴いてやろうとしただけなのに、なぜか怒られた。
それに、小娘に叩きのめされたあげくに、遠くまで飛ばされたし。
なんなんだよ、あいつは。
お館様まで、冒険者ギルドに行って、ギルマスやA.B.Cランクの奴と戦ってこいだなんて、馬鹿らしい。
俺様を誰だと思っていやがる。
冒険者ごときに負けるはずがないのに。
はあ、まったくついていないぜ。
「イアン、準備はいいか。今から冒険者ギルドに行くぞ」
「えっ、一緒に行くんですか」
「当り前だろ。お前の監視役だ」
「監視って・・・」
「お前が冒険者ギルドで何か仕出かさないように監視するのと、模擬戦が正規に行われたかの確認もある」
「ああ、冒険者の奴らが不正していないか、確認するんですね」
今回の件で、どうしようもない奴だとわかっていたが、ここまでとはな。
お館様の最後の慈悲だと、分からないんだろうな。
冒険者ギルドに到着する。
「アリソン子爵騎士団の者だが、ギルマスを呼んでくれるか」
「はい、伺っております。ギルマスの部屋にご案内いたします」
トントン「アリソン子爵騎士団の方をお連れしました」
「入れ」
「アリソン子爵騎士団副団長のアーロン・バーカーと申す。この度は我が騎士団員の為にお時間をいただき感謝する」
「イアン、お前も挨拶しなさい」
「あ、イアンです」
「・・・・・」
まったく、挨拶もろくにできないのか。騎士団の恥さらしめ。
「俺は、ここの冒険者ギルドのギルマスをしている、ジェームズ・カヴィーゼルだ。よろしく頼む」
「今回は、ジュリアスから面白いことを頼まれたからな」
「こっちも、本気でいかせてもらおう」
「お前、ジュリアスって、お館様のことか無礼だぞ」
「はっ、なんだ小僧。俺とジュリアスは旧知の仲だ、小僧にとやかく言われる筋合いはない」
「なんだと、お前」
「イアン!!! 口を慎め」
「申し訳ない。あなたとお館様のことは聞いております。今回の無理なお願い聞き入れてくださり感謝しております」
「まあな、ジュリアスから直々に頼まれたからな」
「では、時間も勿体ないし、早速訓練場に行こう」
訓練場につくと、多くの見物客がいた。
「ああ、前もって騎士との対戦だって言ってあるから、見物客が多くて悪いが気にしないでくれ」
「いえ、お気遣いなく」
「ハハ、腕がなるぜ。どいつから行く」
「そうだな。俺からと言いたいが、それでは復活出来ないかもしれないから、Cランクから始めよう」
「おーい、Cランクの対戦相手来てくれ」
そこそこ、ガタイのいい若い男が出てきた。
「5分間木剣で戦う。魔法は禁止だ。どちらかが降参または、剣を落とした方が負けだ。いいな」
「両者位置について、始め」
Cランクのほうから攻めてくる。
力強く、動きも速い。対戦相手を殺すつもりで挑んでいるようだ。
それは、冒険者らしい行動なのかもしれない。
殺さなければ、自分が殺されるだけの戦い。
騎士たちは、模擬戦とまではいかなくても、打ち合いの訓練は毎日行う。
それは、とても大切な訓練だが、残念なことに慣れてしまう。
そうなると、本気で相手を倒すという気持ちが薄れてくることがある。
この模擬戦も最初から本気度が違うのだから、イアンが負けるだろう。
そんなことを考えながら見ていると、「ピー、勝者、Cランク冒険者」
イアンの剣が飛ばされていた。
「「「ウォー、ウォー」」」と、観客が大声だして喜んでいる。
騎士に勝てたのが、余程嬉しいのだろう。
「嘘だろ。俺が負けるなんて。今回は油断していただけだ。次は当然俺が勝つさ」
「5分間、休憩後に次の試合だ」
「次、Bランクの冒険者」
出てきたBランクの冒険者は、細マッチョな体型だ。
細いからといって、弱いわけではない。
それなりに、技術があるのだ。
「両者位置について、始め」
さっきは、負けたからか、今度はイアンが飛び出した。
勢いよく飛び出したが、相手にはなんなく交わされている。
相手もしばらく打ち合いをして見切ったのか、瞬時に近づいて斬りこみ、一瞬で剣を飛ばした。
「ピー、勝者、Bランク冒険者」
「嘘だろう。俺様がたかが冒険者に二度も続けて負けるなんて」
「おかしい。絶対におかしい。こいつらグルになっていやがるな」
「次こそは、絶対に勝ってやる」
「次、Aランクの冒険者」
今度の相手は、大男だ。
いやあ、デカすぎるだろってくらい、デカい。
「両者位置について、始め」
両者が同時に動いたが、冒険者の一振りでイアンの身体ごと吹き飛ぶ。
もちろん、剣は落としている。
「ピー、勝者、Aランク冒険者」
イアンはというと、訓練場の隅で仰向けにのびている。
ギルマスがイアンの頬をピタン、ピタンと叩いておこす。
「おい、目が覚めたか」
「あれ、俺はどうした」
「Aランクの一撃を受けて飛ばされて、のびていたんだ」
「えっ、俺が、まさか」
「起きたのなら、次は俺だからな」
ギルマスが対戦するので、審判はサブマスに変わった。
「両者位置について、始め」
ギルマスならば、一瞬で叩きのめすことは出来たが、いたずら心が湧いたのか、イアンの攻撃を交わして遊んでいた。
「オラオラどうした、騎士様はそんなものなのか」
「もっと、本気でこないと倒せないぞ」
「ふざけるなよ。俺様を誰だと思っていやがる」
「冒険者風情が調子に乗るなよ」
「おー、おー、粋がっているじゃないか」
「どうした、どうした、頑張れ、頑張れ」
「畜生、舐めやがって」
「そろそろ、時間だし、終わりにするか」
ギルマスの剣を持つ腕に力が入る。
ばっと近づいて、脇腹に一撃をくわせて、剣を持つ手首にも一撃をくわせる。
「うわっ」
イアンは、脇腹と手首を打たれて、うずくまっていた。
「ピー、勝者、ギルマス」
「畜生、畜生、俺様は騎士で貴族なんだぞ。お前らとは違うんだ」
イアンは、ギルマスに向かって、火球を飛ばした。
ギルマスは後ろを向いていたが、振り返り火球を木剣で叩き斬った。
ギルマスは、静かにイアンに近づいて、「お前はどこまでいっても、卑怯者なんだな」
「アンにも、同じように模擬戦の最中に背中から襲ったんだろ」
「正面からだと勝てないからな」
なんだ、なんだ、アンってあの子だろ。
嘘だろ、騎士のくせに後ろから襲ったのか。
何て奴だ。卑怯者じゃないか。
騎士にあるまじき行いだな。
「どうする。副団長さんよ。本来ならばルール違反で牢屋にぶち込むところだが。そうなると奴隷落ちだぞ」
「こっちは、ジュリアスの顔をたてて、模擬戦をしたんだからな」
「騎士様は偉いのかもしれないが、冒険者を舐めるなよ」
「ここで、冒険者と対立するのは、まずいんじゃないか」
「申し訳なかった。この通りだ」
副団長が頭を下げた。
「分かった。副団長さんが頭を下げたんだ。謝罪は受け取るが、こいつはどうする」
「そうですね。とりあえず、牢屋で一晩預かってもらえますか」
「戻って、お館様と相談させていただきます」
「ああ、そうしてくれ。今回の件は貸しだからな」
副団長は、一人で屋敷に戻って行った。
イアンは、サブマスが牢屋に連れて行った。
「みんな、悪かったな」
「新しく赴任した、アリソン子爵は俺の友人なんだ」
「そいつは、今でも冒険者で俺と同じAランクだ」
「信用できる良い奴なんだ。それだけは信じて欲しい」
「偶々、イアンがクズだっただけだ」
「なんだよ。ギルマス。友人だからって手心加えたのか」
「馬鹿をいえ、俺はそんな甘ちゃんじゃないぞ」
「子爵の当主なのに、冒険者なのか」
「そうだぞ、冒険者カードも返却していないし、偶に活動もするんだぞ」
「そんな、おかしなお貴族様がいるのか。さすが、ギルマスの友人なだけあるな」
「騒がせた、詫びだ。今日は俺のおごりだ。ぞんぶんに飲め」
「やったあー、さすがはギルマスだ」
「わおー、酒だ、酒だあー」
はあ、まったく今日のつけは返してもらうからな。
【アリソン子爵 side】
「おう、副団長。戻ったのか」
「それで、どうだった」
「はい、全員に負けました」
「はっ、全員にか」
「それは、さすがにないわぁ」
「それで、イアンはどうした」
「それが、問題を起こしまして、今はギルドの牢屋に入れています」
「はあぁ、何をやらかした」
「全ての模擬戦が終わって、最後がギルマスだったのですが、余程負けたのが悔しかったのか、ギルマスが背を向けていて、そこに火球を飛ばしました」
「ギルマスは振り返り、木剣で叩き斬っていました」
「はあ、どうしようもない奴だな」
「それにしても、さすがギルマスだ、木剣で火球を叩くとは」
「ええ、本当に」
「それで、イアンの処分はどうしますか」
「ギルマスは、本来ならば奴隷落ちになると言っていました」
「そうだな。それが当然の処分だ」
「俺が試合を勧めたしなぁ」
「だからと、騎士団にも戻せないよな」
「野放しにすれば、尚更何をするか分からないし」
「負けた後も、負けるはずがないとか冒険者を侮辱する言葉をはいていました」
「あいつは、いつからあんな風になったのか。最初からか」
「うーん、どうでしょうか。自信過剰なところはありましたが、冒険者のアンと対戦するようになって、隠していた部分が出てきたのでしょう」
「そうかもな。騎士団のなかにいれば、同じ騎士同士だからな。平民もいるが騎士ということに執着のようなものがあったのかもな」
「団長も交えて相談するか」
「もしも、奴隷落ちになったら、親御さんに何ていうかな」
「あのぉ、ギルマスが貸しだと言っていました」
「ああ、なんてことだ。あいつに大きな貸を作ってしまった」
「酒か、酒だな。きっと高級な酒を要求されるぞ」
「俺の秘蔵の酒が」




