第100話 アリソン子爵邸で模擬戦②
「おはよう、ジョン」
人形ジョン『おはよう、アン』
「今日は、どうするの」
人形ジョン『そうですね。久しぶりに狩りに行きましょう』
「わかった。じゃあ、冒険者の支度をするね」
いつものように草原でシェルターから外に出る。
「今日もウルフとワイルドボアを狩るの」
人形ジョン『そうですね。まだしばらくの間は、その2種類を狩ることにしましょう』
魔法だけ、剣だけ、魔法と剣でと、都度倒し方を変えていく。
そうして、身体を馴らしていき、瞬時に色んな倒し方が出来るようにしていく。
「こんにちは、レジーナさん」
「こんにちは、アンさん、ジョンさん」
「今日も狩りだけして来ました」
「そうなのかい。じゃあ解体所に行っておいで」
「はい、ありがとうございます」
「こんにちは、ウルフとワイルドボアを狩ってきました」
「そこに置いてくれ」
「結構量があるな」
「そうですね。二人で倒しましたから」
「そうか、それは大変だったな。今日の査定だ」
「ありがとうございます」
「レジーナさん、査定です」
「はいよ、今日の会計ね。あー、それからまた子爵から来るように言付かっているよ」
「いつでも、いいそうだよ」
チラッと、ジョンを見ると頷いているので「それでは、明日の午後1時に伺いますと返事してください」
「今度も、模擬戦なのかな」
人形ジョン『たぶん、そうでしょう』
『訓練の成果がでるといいですね』
「そうだよね。あれだけ訓練したんだから、前回と違う戦いが出来ると嬉しいよね」
当日は、また馬車で伺う。
貴族は、体面をきにするからね。
貴族門も屋敷の門もすんなり通された。
玄関には、家令らしき人が待っていた。
「旦那様は、まだ執務が終わっておりませんので、直接訓練場にてお待ちください」
訓練場に到着すると、副団長が近づいてきた。
「旦那様は、まだ来れませんので、それまでの間誰か手合わせをしていてください」
「分かりました」
それだけ言うと、家令の人は戻って行った。
「今日も私と団長が相手する。時間があれば団員も加わる。それでいいか」
「はい、大丈夫です」
「では、時間がもったいないので、それぞれ二人同時に対戦しよう」
「まずは、私とアン。団長とジョンだ。いいか」
「はい、問題ありません」
パンパン、副団長が手を叩いて、皆の意識をこちらに向ける。
「これから、ジョンとアンと同時に対戦する。場所を開けて皆は離れて訓練してくれ」
「お館様がまだ来られなければ、誰か相手をさせる。いいな」
「オー」
団員たちの威勢のいい声が響く。
ジョンたちとも危なくないようにかなり距離をとる。
もちろん、団員たちも離れて訓練するようにしていた。
それぞれに監視員が一人ずつたち。
「それでは、模擬戦を開始する。始め」
副団長は相変わらず、受けにくい箇所を攻めてくる。
だが、前回は受けることで精いっぱいだったが、今回は少し攻めることが出来た。
太刀筋が見えるとまではいかないが、なんとなく分かるようになってきた。
副団長もこちらが攻めることが出来ていることに驚いているようだ。
それはそうだろう。
一週間ちょっとでこうも変われば驚くよな。
訓練づけだったのだ、多少は成果がでなければ、やる気に繋がらないからな。
後は、経験の差だけだ。
こればかりは、どうしようもない。
こちらも追いつくように訓練を続けるしかない。
「ピー、そこまで」
剣を取られなくて良かった。
また、10分休憩したら、次は団長とだ。
ジョンのほうはどうだったのかな。
今回は、同時に対戦しているから、ジョンがどのように戦ったのかは分からない。
シェルターに帰ったら聞いてみよう。
どうせならば、動画を撮っておけばよかった。
次は、団長とだ。
団長は騎士らしく力強い戦い方だ。
この時の為に、身体強化だけではなくて、腕により強く強化が出来るようにしてきたのだ。
一撃一撃が強くて重い。
だけれど、こちらも負けてはいない。
力強く受け流しながらも、攻撃する。
剣の動きも速くなっているはず。
それでも、団長からしたら赤子相手にしている様なものかもしれない。
団長という役職についているだけのことはある。
もちろん、それだけではなく、統率力もあるのだろう。
はあ、しかし身体強化が出来ていなければ、こんな力は受け止めきれないな。
それに、的確に相手の隙を狙ってくる。
こういうのも、情報として人形に取り込めているのかな。
後で、ジョンに確認してみよう。
「ピー、そこまで」
「おいおい、兄ちゃんだけでなく嬢ちゃんも引き分けだぞ。どうなっている」
「馬鹿言え、あれは団長や副団長が相手に合わせて手を抜いているんだよ」
「そうなのか、でも、この前よりも強くなっていないか」
「はっ、そんなわけないだろう。一週間そこいらで変わるはずないだろう」
「でも、なんでまた冒険者が来ているんだよ」
「そりゃあ、お館様が呼んだんだろう」
「そんなの俺たちがいれば、充分じゃないか」
「さあな、冒険者が珍しいんじゃないか」
「馬鹿だなあ、お館様は今も冒険者の資格はあるんだぞ」
「えっ、そうなのか」
「あー、ここの冒険者ギルドのギルマスとは旧知の仲らしいぞ」
団員たちの雑談が良く聞こえてくる。
まあ、彼らも色々と思うことはあるだろうな。
急にしゃしゃり出てきた冒険者は、気に入らないだろう。
パンパン「お館様がお越しだ。整列しろ」
「あー、良いって、わざわざ集まらなくていいぞ」
「俺は、対戦しにきただけだから、皆はそのまま訓練を続けてくれ」
副団長から声がかかる。
「アン、あと2回は対戦できるか」
「はい、大丈夫です」
「それならば、ジョンがお館様と対戦している時に、団員と対戦してみるか」
「はい、問題ありません」
「そうか、イアン、お前はアンと対戦しろ」
「はい、分かりました」
「アン、こいつはイアンだ」
「アンです。よろしくお願いいたします」
「ああ、よろしく」
「では、お館様。まずはジョンと対戦して下さい。次にアンです」
「ああ、分かった」
この人は、上位に入っていた人だ。人形で戦ったことがある。
顔と名前が覚えられるように、訓練の途中からは顔にはコピーした人の顔が写真のように張り付いていたから。
知らない団員よりは、訓練した相手で良かったかも。
落ち着いて戦えるからな。
「それでは、始め」
開始の合図とともに、こちらに向かって来た。
やる気満々のようだ。
今までの恨み妬みがあるのか。
まあ、それでもいい。こちらはいつも通りに戦えばいいだけだ。
団長や副団長まではいかないが、さすが上位だけはある。
力もあるし、剣筋もいいようだ。
だが、勝たせてもらうよ。
その為に、コピー人形と訓練したんだから。
相手の攻撃をなんなく打ち返し、攻撃をする。
カンカン、キンキンと音が鳴り響く。
木剣なのに音がするんだよね。
打ち合いが続いたが、ここで勝負を仕掛ける。
相手にちょっと隙が出来た。
素早く力強く踏み込み、剣を叩く。
「カーン」と音をたてて、相手の剣が飛んだ。
「勝者、アン」
「嘘だろう。もう一度、もう一度対戦させてくれ」
「ダメだ。次はお館様と対戦するんだから」
「いや、だって俺が負けるはずがないんだ」
「もし、対戦したいとしても、次回だ」
「それに、対戦したいのはお前だけじゃないんだぞ」
「他の奴らだって、アンやジョンと戦いたいだろうからな」
「えっ、それは、まあそうかも知れないが、納得できない」
「イアン、対戦とはそういうものだ」
「一回が勝負だ。二回目は無いんだ」
「これが実践だったらどうする。次はあるのか、そんなことは無いだろう」
「そう・・・ですね」
なんか、こちらが悪いような感じになるじゃないか。
勝負は、勝負だ。
「次は、お館様とアンだ」
「準備はいいですか、始め」
この人は、元冒険者だけあって、荒々しい戦いなんだよなあ。
皆、それぞれ戦い方が違って面白いといえば面白いかも。
これは、良い経験になるよな。
真剣なのか遊ばれているのか、分からないが、この人と対戦するのは楽しいかも。
ジョンとは違う指導者のような感じもする。
しばらく打ち合いが続いたが時間のようだ。
「ピー、そこまで」
「はぁー、スッキリしたぜ」
「やっぱり、机にかじりついているよりも剣を持っているほうが楽しいな」
「何を言っているんですか、お館様の仕事は机に向かうことですよ」
「あんなのは、出来る奴がすればいいんだよ」
「また、奥様に叱られても知りませんよ」
「あー、それを言うなよ」
「なあ、ジョンとアン。毎週ここに来ないか」
「お前らだって、良い訓練になるだろう」
ジョンの顔を見ると。
人形ジョン『そうですね。まあ、構いませんが、逆にお聞きしますが大丈夫なんですか』
「何がた」
人形ジョン『仕事もそうですが、他の団員たちが良く思わないのではないですか』
「それはあるかも知れませんね。ては、次回からはお館様と団員と対戦しましょう」
「お館様は、団員とも対戦するようになりましたから、そこまでは悪く思わないでしょう」
「団員たちも、ジョンたちと訓練するのは経験になりますから」
「じゃあ決まりだな。来週のこの時間にまた来てくれ。依頼書はすぐ書くから」
【アリソン子爵 side】
「今日の報告はあるか」
「森や町の見回りも特に問題はありません」
「装備も修理したし追加発注もしましたから大丈夫です」
「団員たちの訓練はどうだ」
「皆やる気にあふれていますよ」
「これも、ジョンとアンの影響かも知れません」
「ほう、そうなのか」
「ええ、お館様や私たちとの戦いを見て、頑張れば自分もと思ったんでしょう」
「まあ、無理しない程度で頼む」
「今日のジョンとアンはどうだった」
「いやぁ、驚きましたよ。一週間ちょいで強くなっていましたから」
「そうか、やっぱりお前たちもそう感じたか」
「ええ、ジョンはもちろんですが、アンも動きが違いましたね」
「あちらはあちらで、その間に訓練していたのでしょう」
「そうだよな、アンはこちらの動きも読んでいるようだし、腕の力も強くなっていたな」
「どんな訓練すればそうなるのか。団員たちも同じように、いやもっと訓練しているはずだろう、それなのに何が違うのか」
「そうなんですよ。普通に考えれば団員たちの方が指導しているし訓練もしている」
「アンの指導はジョンがしているのだろう」
「そうですが、それだけではないような気がします」
「私たちとも戦い慣れているというか、なんか不思議な感じです」
「やはり、調べますか」
「うーん、いや、まだいい」
「特にこちらに被害があるわけでは無いしな」
「まあ、そうなんですよ。貴族は嫌いなようですが、だからといって敵対心があるわけではないようですし」
「そうだな、向かってきた敵には容赦しないってところだろう」
「そうかも知れない。しばらくは、このまま様子をみよう。依頼もしていることだしな」
「ジョン、今日の戦いはどうだった」
人形ジョン『そうですね。訓練の成果はありました』
『ただ、まだまだ経験の差は埋まらないです』
「それはそうだよ。いくら訓練しても、そう簡単には追いつけないよ」
「ジョンも焦って無理に訓練を続けちゃダメだよ。きちんと夜は休まないと身体がもたないからね」
人形ジョン『そうですね。いくらメンテナンスしたからといって無理をして、アンを悲しませたくないですから』
「そうだよ、分かってくれるならいいけれど、あまり無理をするようならば、毎晩一緒に寝るからね」
人形ジョン『それは、嬉しいお誘いですね。では、今晩から一緒に寝ましょう』
「いや、それは無理をしたらの話しだよ」
人形ジョン『アンは、私と一緒に寝るのは嫌なのですか』
「イヤじゃないよ。もう、分かったよ。一緒に寝よう」




