地雷を踏んだ男、それは旦那様で御座います。
温室で一人でぼうっとしていた。
気が付いたら、外はもう薄暗い。
ああ、もうどれ位ここにいたのだろうと思った。
アレンがやって来た。
「シエル。探したぞ」
「アレン様……」
「アルルが君に謝りたいと言っていた。失礼な事を言って仕舞ったと言って」
「そうですか……」
「だが、私の命の恩人を叩くとは君らしくも無い。君も謝って欲しい」
「……」
シエルは深々とため息を吐いた。
「アルルさんが夫婦のベッドに眠っていたのです。当たり前の様に。……ずっとそうやって彼女と眠っていたのですか?」
シエルは尋ねた。
アレンは驚いた。
暫く声が出なかった。
「……一体何を言っているんだ?」と言った。
「だって……当たり前の様にアルルさんが」
「そんな事は有り得ない。何を言っているんだ。たまたま眠ってしまったと言っていた。君にも私にも申し訳が無いと泣いて謝っていた」
「あなたは私を抱きたくないから怪我が治らない振りをして……そうなのですか?」
「ええっ? 何を言っているんだ。アルルが止めたからだ。そう説明しただろう? 君の言っている事は支離滅裂だ。一体どうしたんだ。シエル」
シエルはぼろぼろと涙を零した。
「シエル……?」
「あなたはアルルさんを抱いたのですね? あの場所で。北の修道院で」
「えっ?」
「一度抱いてしまえば一緒に眠るのは何でもない事だって……」
その言葉にアレンは狼狽えた。
「違う。違うんだ。話を聞いてくれ。そんな事は無い。私は薬の所為で意識が膿漏としていて…………君を抱いている積りで、もしかしたら彼女を抱いてしまったかも知れないとそう思った。アルルにそう言われた時。……記憶が無いんだ」
「でも、あの時、私は女を抱けるような状態では無かった。わき腹を切られた上に肩を骨折したいたんだぞ? 抱ける訳が無い。痛みで動けないのだから。私は領地の君の元に帰りたくて医者が止めるのも振り切って帰って来たのだ。シエル。信じてくれ」
「……」
「私が是が非でも領地へ帰ると言ったら、修道院はアルルを付けて寄越した。アルルは有能な看護師だったからだ。私の怪我がこんなに早く回復したのも修道院の薬と彼女の献身的な介護のお陰だ」
「じゃあ、何でアルルさんはそんな事に私に言うのですか?」
「それは……」
今度はアレンが黙った。
「アルルさんは嘘を言っているのでしょう?」
「それはそうだが……」
「私と旦那様の間に割り込もうとしているのです。アルルさんは。アルルさんはご主人様を好きなのです。そしてあなた様もアルルさんを大切に思っていらっしゃる。……旦那様は私を捨ててアルルさんとご結婚されるお積りですか?」
アレンは目を丸くした。
「何を言っている! アルルは平民だぞ! くだらない事を言っていないでさっさと戻って来なさい。召使達に示しが付かん! 呆れた物だ! そんな事だから不注意で子供を流してしまったりするのだ!」
その言葉にシエルはびくりと固まった。目を大きく見開いてアレンを見詰める。
「君は子供の事で嘘を吐いた。それについてはどう思っているんだ! 私を責めるだけでは無くて自分も反省すべきだ!」
そう言うとアレンは温室を出て行ってしまった。
アレンが出て行ってしまった後で、しくしくと泣いていたシエルだったが、涙を拭うと温室から出て、とぼとぼと歩き出した。