トラブル勃発で御座います。
アルルはくうくう寝息を立てて眠っている。
「ううん……アレン様、嬉しいわ。……うふふ」
眠りながら幸せそうに微笑んだ。そしてアレンの枕を抱き締める。
その言葉にかっとしたシエルは思わずベッドに近寄るとアルルを引っ張り上げた。
「起きなさい!」
寝ぼけたアルルがはっとして跳び起きた。
「シエル様……」
まずい所を見られてしまったという顔をしていたが、シエルが怒りで震えているのを見て「ふん」という表情をした。
開き直る事に決めたらしい。
「なんですかあ。シエル様。乱暴はよしてくださいよお」
アルルはわざと欠伸をする。
「あーあ。いい夢を見ていたのになあ。残念だわ」
「どうしてあなたが旦那様のベッドに寝ているの?」
シエルは言った。
「アレン様を待っていたら眠ってしまっただけですよ。そんなに青筋立てて怒らなくてもいいじゃ無いですか。ただ横になっていただけです」
「朝から夜までずっとアレン様のお傍にいるんですよ。アレン様は甘えん坊さんだから御用も多いんです。朝も早いから疲れて眠ってしまっただけです。奥様じゃ駄目みたいです。アレン様」
「何が駄目なの?」
「色々とです。……シエル様。嫉妬の鬼になってしまうと益々嫌われますよお。だから夜の営みにも呼ばれないんですよ」
アルルはさらりと言った。
思わず体が凍った。
「何ですって……?」
「もう、傷は平気だからどうぞご自由にと言ったのですが、何か、渋っていらっしゃいましたねえ。何故かしら? あ、でもまだ肩は痛いかも知れませんね。無理して動くと。動かなければ平気ですよー」
アルルは平静な顔でそう言うとベットからするりと滑り降りた。
「何ですって……」
アルルの白い脹脛が露わになる。
シエルは思わず目を逸らす。
「奥様にはきっと女としての魅力が欠けているんですよ。だから駄目なんだと思いますよ? はっきり言って地味。背が高くてスレンダー過ぎてまるで案山子だわ。女の色気が無いもの」
「よ、余計なお世話です!」
「それに……」
アルルは意味ありげに言った。
「それに、何なの?」
「あのですねえ。きっと昔の事を思い出して、シエル様を抱けないでいらっしゃるのでしょうね。所謂、良心の呵責ってやつです。でも、シエル様はとてもお心の広い方だから、きっとアレン様をお許しになられますよね。一度や二度の間違いなんて。私はそう言ってアレン様をお支えしているのですけれどねえ……。変に真面目な方だから」
シエルはアルルが何を言っているのか分からなかった。
「良心の呵責って……?」
「一度や二度の間違い……?」
アルルはにこりと笑った。
「私達は負傷した兵士を看護するのが仕事だけれど、求められれば同衾してお慰めする事もあるのですよ。ふふふ。一度肌を合わせれば、同じベッドで眠るなんて何でもないですよねえ」
シエルはその言葉を聞いて真っ青になった。
「じゃあ……」
朝、アルルが居たのはそう言う事だったのか?
ずっと一緒に眠っていたって事なの?
わなわなと震える。
だから呼ばれなかったの?
怪我の所為では無くて?
アルルは軽蔑した顔をした。
「旦那が死ぬ思いをしているのにぬくぬくと領地にいて見舞いも来ない。多くの召使にかしずかれて、偉そうにしていているけれど、何も分かっていないわ。明日死ぬかもしれない軍人に純潔を守れってそんな酷な話もないですよねえ。お優しくてお心の広いあなた様なら笑顔でお許しになるでしょうねえ」
そう言って嗤ったその頬をシエルは思い切り叩いた。