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温室での一幕で御座います。

アレンは家に帰って来た。

丁度、錠前屋が帰った所で、ドアには新しい鍵が付けられていた。

スペアキーがあったので一つをステファンに保管するように言って渡した。

「アルルはどこだろうか? 話があるのだ」

そう言うと「シエル様の温室の前で庭師と揉めております」と答えた。

「揉めている? 何故?」

「さあ? 庭の事は口出しするなとジョンに言われておりますので口出しはしておりません」

ステファンの言葉にアレンはため息を吐いた。

「家令だろうが。ステファン」

「ジョンとアルルさんのトラブルに関わって余計なストレスは溜めたくありませんから。彼女は旦那様のお客様ですから、旦那様がどうぞ」

そう言うとステファンはさっさと行ってしまった。


「クソ!」

アレンは温室前に行ってみた。

アルルが腕を組んでジョンとアズを睨んでいる。

ジョンが温室の扉の前にでんと座っている。

「アルル。話がある。ちょっとこちらへ」

そう言うとアルルはわっと泣き出した。アレンの胸に縋りつく。

その姿を軽蔑の眼で見ているアズとジョンの親子。

「ちょ、ちょっと離れなさい。誤解を招く」

アレンは慌ててアルルを押し戻す。

「このわからずやの庭師が私を温室に入れないって言うんです」

アルルは泣きながら訴えた。

「部屋に飾る花を切りたいって言ったのに、それは罷りならんって、こうやってとうせんぼをしているんです」

アレンは庭師親子を見た。

「この温室はシエル様のプライベートな温室ですからね。シエル様のご許可が無くては入れる事は出来ません」

老庭師のジョンが言った。

「でも、前は入れてくれたわ」

「それはご主人様が御一緒だったからです。本当はご主人だって入れたくないんですよ。それなのにこの看護師がいい気になって。花を切りたいだって? ふざけるな。ここはねえ。奥様が丹精込めて育てた花や作物があるんだ。あんたになんか一本だってやりたくないね」

― 言い方!

アレンは思った。

「何ですって?!」

アルルは叫ぶ。

ジョンはふんと横を向いた。


アズは「父さん。その言い方はちょっと」と言った。

「ご主人様。申し訳が有りません。でも、ご主人様のご許可があれば、残念ですが我々もここを退くしか無いのですが……」

アズはアレンの顔を見る。

「何が残念よ!私はアレン様の大切な客人なのよ!庭師風情が」

アルルが怒鳴る。

アレンはうんざりした。

「分かった。温室は妻のプライベートスペースだったとは知らなかった。知らない私が悪かった。許してくれ。これからは許可を貰うよ。アルル。温室は諦めてくれ。それよりも話があるんだ。こっちへ来なさい」

「何でなの? 何で庭師に遠慮するの?アレン様。アレン様が当主でしょう?こいつら親子をクビにしておやりなさいよ!」

「アルル。いい加減にしろ。 この家は俺よりも庭師のが古いんだ! ジョンは俺の父親よりも古いんだ! 俺はジョンに頭が上がらない! いちいち文句を言うな」

アレンはそう言うとぎゃあぎゃあと騒ぐアルルの手を引いて屋敷に戻って行った。

それを見ながらジョンはふんと鼻を鳴らし、アズはにやりと笑った。


◇◇◇◇


「明日から君はここの修道院で働く」

ロビーの椅子に座ったアレンはそう言った。

「えっ?」

アルルはそう言った切り、ぽかんと口を開いてアレンを見詰めた。


「嫌です。何で私が修道院で働くんですか!」

慌てて言い返す。

「もう決めた。それが嫌なら北の修道院へ帰りなさい。本当は北へ帰すのが筋だが、君があの場所でもう働きたくは無いと言うから、私が修道院長と話して決めて来た。君がこちらに住みたいと言ったから頼んで来たんだ」

「……私をこの家から追い出すんですか? 命の恩人の私を」

アルルはアレンを睨んだ。



アレンはため息を吐いた。

「何か思い違いをしているみたいだな。アルル。君は看護師として付いて来ただけだ。君の仕事だろう? それにここで雇うなんて約束はしていない。怪我が治れば北へ帰す。兵に送り届けてもらう」

「くっ……」

「君は余りにも身勝手だ。自分の立場を分かっていない。ここには置いて置けない。君のお陰で屋敷の中はぐちゃぐちゃだ」

「シエル様にそう言われたのですね? ああ、そうですね? それをアレン様に言わせて自分は逃げたんですね。卑怯と言うかずるいと言うか」

アルルは蔑んだ顔で言った

途端にその顔を掠めて何かが飛んで来た。

どんと後の柱に刺さった短剣。

アルルの顔からつうーっと血が流れた。

アルルは真っ青になった。

「な、な、何を」

舌がもつれる。

「今度妻を侮辱したら殺す。修道院へ行かないのなら荷物をまとめろ。すぐに北へ送り返す」

柱に刺さった短剣を目で指し示しアレンは冷たく言った。

アルルはへなへなと腰を抜かした。

流石に怖過ぎる。


「わ、分かりました。分かりました。修道院へ行きます。明日から修道院で働きます」


「良かった。これで解決だ。言って置くがシエルは君の事など何も言っていない。君など眼中に無いよ。妻は今、堤防工事に夢中だ。明日、私もそれに同行する積りだ。じゃあ、今日はここでの最後の晩餐だ。パンとスープだけだがね」

アレンはそう言うと「これでさっぱりした」と言って去って行った。



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