鍵でございます。
「教会に君を連れて行く事は出来ない」
そう言ってアレンはアルルを置いて行った。
「ちっ」と舌打ちして去って行く馬車を見送るアルル。
折角おしゃれをしてアレンの横に寄り添い、存在をアピールしようと思ったのに。妻のシエルが不在の今がチャンスなのに。
生誕祭の祈祷には沢山の領民が来るだろう。そこで、私がアレン様の腕を取り乍ら歩く姿を是非お披露目したい。そう思っていたのに。
そんな事をぶつぶつと言いながら部屋に戻って来た。
ちらりとシエルの部屋を見る。
そうだ。この隙にシエル様の部屋に忍び込んで、あれやこれやを見てやろう。どんなドレスがあるか。どんな宝石があるのか。
日記なんかあったら読んでやろう。
それを上手く使って、からかってやるのだ。
宝石だって沢山あるだろう。一つぐらい無くなっても気が付かないのでは?
小さいヤツなら平気かも。
暫く考える。
ああ、そうだ。それよりも……。
アルルは急いで部屋に戻って鞄をひっくり返すと裏地を外す。その奥に隠してあった封筒を取り出した。
封の切ってある手紙。
どこかで役に立つかも知れない。
そう思って捨てないで取っておいたのだ。
それを持ってシエルの部屋の前に向かう。
と、向こうからメイドがやって来た。
何故か椅子を持っている。
高い所の掃除でもするのだろうか?
そう思って見ていると、ドアの前に椅子を置いて行儀よくそこに座った。
いくら待っても動く気配が無い。
アルルは苛苛として来た。
何気無い風を装って、その前を歩いた。
「あら、あなた何をやっていらっしゃるの? お仕事は?」
アルルは声を掛けた。
「今日は鍵の取り付け業者が参りますので、それまでここで待つようにと家令様からのご指示で御座います」
「鍵?」
「はい」
「どこに?」
「旦那様と奥様のお部屋で御座います」
「どうして?」
「さあ?…… 私には分かり兼ねます。私は指示に従うまでですので」
「ずっとここにいるの? トイレはどうするの?」
「一時間交代で別のメイドがやって参ります。……何か、御座いましたか?」
メイドは不思議そうに尋ねた。
「いいえ。ご苦労様ね」
アルルは通り過ぎるとまた舌打ちをした。




