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経費節減で御座います。

夕食のテーブルに着いたのはアルルとアレンだった。

アレンは疲れた顔でワイングラスを傾けていた。アルルがむすりとした顔で黙っていても彼は気が付かない位に何かを考えている様子だった。

一人置いて行かれた事に対して腹を立てていたが、アレンは謝る気配も無い。


ふとシエルがいない事に気が付く。

「あら? シエル様は……?」


皆、無言。


「アレン様。シエル様は、まだお帰りにならないのですか? 私、今日の事をお話しようと思いましたのに」

「今日の事とは?」

アレンはアルルに視線を向ける。

さっきとは違うドレスだ。それに何故か宝石も付けている。

「その首飾りは……?」

「ああ、これですか? ドレスと一緒に注文しましたの。どうですか。似合います?」

「そうか。分かった。アルル。もう君へのプレゼントはそれで終わりだ。我が領地は今の所酷い財政困難だった。私は現状をちゃんと把握していなかったのだ」


「まあ、アレン様。だったら削れる所を削ればいいでは無いですか」

「削れる所とは?」

「そのお話をシエル様とアレン様にしようと思ったのですよ。なのにシエル様が……」

アルルはきょろきょろと辺りを見渡す。

「シエルは今日は仕事で泊まりだ」

「あら、そうなのですか? まあまあご主人様を放置して、お仕事ばかりだとは……。アレン様もお気の毒ですわねえ。愛情も冷めておしまいになられますよねえ……」

アルルはそう言って気の毒そうにアレンを見る。

アレンは大きく息を吐くと腕を組んだ。

「いいから、その話とやらを言ってみなさい」


コホン。

アルルは咳払いを一つすると「私は今日教会に行って参りました」と言った。

アレンの顔を見る。

「……」

アレンが何も言わないのでそのまま続ける。

「それで、孤児院を神父様に見せて頂きました。神父様は私が伯爵家に客人として滞在していると聞いて親切にもてなしてくださいました。同時に私が看護師として北の戦場からお怪我をされて戻ってきたアレン様に」

「アルル、要点だけ言ってくれ」


「あ、……はい。コホン。そこでこれからの孤児院の経営について色々と神父様と検討した結果、食事や衣服などもう少し切り詰められる事が判明したしました」

「どうやって切り詰めるのだ?」

「それは量をもう少し減らすとか、質を落とすとか、色々とありますでしょう? どうせ子供だから味など分かりませんもの」

「それから教会では子供達に勉強を教えていました。あれは必要ありません。むしろ5歳を過ぎたら働かせるべきです。そうすれば、孤児院で必要な人間の数も減る。そうなれば給料も払わなくて済むと言う事で御座います。経費削減で御座います」

「如何でしょうか?」

アルルは自信たっぷりに言った。

「神父は何と?」

「勿論、困った顔をしていましたよ。だって、支援が減らされるのだから。でも、私はこの後、伯爵家の財務アドバイザーとして多分起用されるからと言って来ました。アレン様の個人秘書になるかも知れないと。そうしたら……」

「もういい。分かった。だったら減らそう。おい、肉もデザートも要らない。パンとスープだけにしてくれ。これからはパンとスープだけだ」

アレンは給仕に向かって言う。

「畏まりました」

美味しそうな前菜を運んで来た給仕はそのままUターンをする。


「えっ?」

ナプキンを膝に掛けたアルルは慌てて返す。

「いえ、アレン様。それは孤児院のお話で」

「君は飢えた孤児達に我慢させて、自分だけ旨い物を食おうと言うのか?」

アレンの言葉にむっとする。

「それはそれ、これはこれで御座います。伯爵様のお屋敷では」

「君は平民だ。それに財務アドバイザーなど要らん。秘書も要らん。金が掛かるからな」

「くっ……」


突然、ばしゃりとアルルの服にスープが掛かった。

「あ、熱い!」

思わず立ち上がる。

「申し訳が有りません。申し訳が有りません」

スープを運んでいたメイドが慌てて謝る。

「何て事をしてくれたの! これは今日下ろしたての新しいドレスで」

「今、お拭き致します。済みません」

そう言いながらスープを広げる。

「ああ、ちょっと止めて!余計に酷くなるじゃないの。あなた、弁償してもらうからね」

ギャーギャーと騒ぐ。

「うるさい。アルル。いい加減にしてくれ。誰にでも失敗はあるんだ。謝っているのだからもう許してやりなさい」

うんざりした様にアレンは言った。

「だって、アレン様に頂いた新しいドレスなのに。もう、酷い!」

「着替えて来ればいいだろう」

「良いです!もう、失礼します! 夕食は要らないわ!」

ぷんぷんと怒って出て行く。


スープを掛けたメイドがアレンに謝った。

「申し訳が有りません。ご主人様。あの……」。

「もういい。皿を片付けなさい」

「はい」

アレンはふうっと息を吐くとばたりとテーブルに突っ伏した。


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