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またまた説教で御座います。

「シエルはまだ帰らないのか? 何時ごろに帰る?」

アレンは外を見ながら聞いた。

「……」

「ステファン?」


「旦那様。奥様は暫く屋敷を留守にすると仰いました。レナル川の堤防工事を視察すると仰って。それからロサ村の今後について国の役人と相談すると」

ステファンは答えた。

「何だって?」

アレンは思わず大きな声を出した。

「そんな事は一言も言っていなかった。どうして家令のお前に言って、夫の私に言わないんだ!」

「それは旦那様が奥様の信用を失ってしまったからでしょうね」

ステファンはさらりと言った。

「な、何だと……?」

「あなた様はアルル様ばかりを大切にされて奥様を蔑ろにされています。先日、アルル様の為に布地を買い入れましたね? どうして奥様には買ってあげないのですか?」


「うっ……。そ、それはシエルはドレスを持っているが、アルルはドレスなど持っていないからで……、アルルにねだられて、彼女には色々と世話になったから……」

「ほう。シエル様には世話になっていないと。そう言う事ですね? あなた様が不在の時、この領地をたった一人で守って来た奥様には世話になっていないと、そう言う事ですね?」

「そう言う事では無い! 分かっている。分かっているが、シエルは我が妻で領地の事をやるのは当たり前では無いか。だから……それに欲しがらなかったし、領地の財政を握っているのだからドレスなどいくらでも好きなだけ作る事も出来る。だから、あえて聞かなかったのだ……」


ステファンはじっとアレンの顔を見詰めた。

「な、何だ」

「お話を致しましたよね? 昨年の大災害で大変だったと。収入は激減した上に堤防工事やら村の復興やらで大変金を使いました。どこに奥様が贅沢するゆとりがおありだと?」

「でも、ドレス位……」

「教会に孤児院も作りました。修道院の病室も綺麗に保たれています。教会、修道院には毎月援助をしております。ご覧になられましたか?」

「そ、それはそうだが……」

「旦那様。奥様は18歳でこちらへ嫁いで参りました。領地経営の事も何も知らずに。ドレスは旦那様がこちらにいらっしゃった時にお作りになった数着だけで御座います。奥様はご自分でお作りになる事はありませんでした。ドレスどころでは無かったのです。奥様の生活は。

貴金属も何も買っていません。私が今から財政の記録簿を持って参ります。その腐れ眼をしっかりと見開いてご覧ください」

「く、腐れ眼?」

「そうやって陰ながら必死で旦那様を支えて来てくださった奥様にドレスの一着も作ってやらないで、わざわざ戦地から伴って帰って来た愛人に贅沢させ、ずっと奥様を遠ざけて来たのですよ。あなた様は」

「アルルは愛人なんかじゃない!」

「主人夫婦のベッドに勝手に寝ているなど愛人以外の何者でも御座いません。世間はそう見ますし、奥様もそう見ます。勿論、私達家人一同も。

言語道断で御座います。もしも私の妻にその様な男が居たなら、私は速攻離縁いたします。旦那様は奥様に離縁されないだけましだと思った方が宜しいかと。

それに、そんなベッドなど捨ててしまいます。……汚らわしい」


「け、汚らわ……」

アレンは言葉も出ない

「あの看護師のあの態度は旦那様の愛人以外の何者でもありません。奥様は旦那様とアルル様がご一緒なのをご覧になりたくなくてお出かけになられたのです」


「何だって?」

「奥様は勿論そんな事を仰りにはなりませんでした。堤防工事が心配だと仰っていましたが……けれど私はきっとそうだと思います」

「そ、そんな。……違う。ちゃんと言った。シエルにも言った。アルルはただの看護師だ。世話になった看護師なんだ。愛人なんかじゃない!」

「だったら、きちんとけじめをお付けください。召使達一同、腹に据えかねております。 このままアルル様をこちらに置かれるのなら、奥様は帰って来られないかも知れませんよ」

「えっ……?」

唖然と口を開けたままの呆けたアレンを一瞥するとステファンは言った。

「今から帳簿をお持ちしますから。……それから、これは奥様からの言伝です。アルル様はこの領地の財政に興味がおありな様子なので、帳簿類はアルル様にはお見せしない方がよいでしょうと。私もそう思いますので、ご覧になりましたら私の方へお返しください」

「……全く、呆れたモノだ」

最後の一言を呟く様に言って「それでは失礼致します」と言って部屋を出て行った。


ステファンがドアから出ると、やたらと家人達が廊下を掃除していた。シェフまでも箒を持っている。

知らぬ振りで掃除をしていた家人達が一斉にステファンの顔を見た。

ステファンは素知らぬ顔で親指を立てて通り過ぎた。

家人達は顔を見合わせ頷くと、小さくガッツポーズを取った。


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