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(……身体が、楽だ)
あれだけ痛みを帯び、怠かった身体が、気づけば大分回復していた。なんだったらもう痛みも怠さも最小限にしか感じない。これならと身体を動かせばすんなりと上半身は起き上がり、ずっと彼の身体を揺すっていたアリスの身体が「うわっ」と転んだ。
「……あれ、元気になったの!?」
「……ああ」
驚くアリスの声に生返事を返す。
軽く己の身体を見下ろして身体の状態を確認する。傷は……残っているが、大けがという程でもない。怠さ……殆どない。痛みもチクリとするだけでそれ以外は特に感じない。
全快とは言い難いものの、それに近しい状態になった彼は驚きながらも、何故短時間でこんなに回復したのか考えた。
今の彼は人間だ。人間はこんな短時間で回復しないのは彼でもわかっている。なのに何故、たった数分寝転がっただけでここまで回復したのか。
その原因を探るべく記憶を遡らせた彼は、とある事に気づく。
(そういえばバーベアーから逃げる時もおかしかったな)
バーベアーから逃げる前は、確かに疲労困憊で一歩も動けなかったはずだ。なのにバーベアーに追いかけられた時はそれが嘘のかのように体力が回復し、たんじかんでありながらも逃げることが出来た。
あの時は火事場の馬鹿力というものかと納得していたが、今のこの事象を考えると、こちらも無視できない。もしかしたら火事場の馬鹿力なんていうものではなく、もっと別の何かの可能性もある。
あ”ー、頭痛くなってきた、と彼は顔を顰めた。
そもそも彼は考えるのが苦手なのだ。一時期は長を務めていた経験があるとはいえ、そういった考え事は別の者に任せていた。彼は専ら戦いがメインだったのだ。こんな時、あいつがいてくれたら……と作戦や情報収集を得意とする同族のことを思い浮かべていると、ふと腕辺りに温もりを感じた。
「ア?」
彼が見下ろすと、アリスがおずおずと彼の腕に手を乗せながら、彼を見上げていた。
「もう痛くない?」
そう彼に聞くアリスの表情は不安げだ。
ジッと彼の顔を見るアリスの視線から逸らすように、彼は顔を背けた。
「……痛くねぇ……よ……」
そのまま無言でアリスを無視しようとした彼だが、少女の不安げな顔が脳裏から離れられず、まあ返事くらいならいいだろうと返したところで、気づいた。
――身体が、また回復していることに。
否、現在進行形で、彼の身体が回復を続けているのだ。