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「――――やめてッ!!」
少女が叫んだ、次の瞬間。
ビクリ、とイーゴリラの動きが止まる。振り上げられた腕はそのままに、少女をジッと見下ろしていた。
「…………?」
少女は逃げることも忘れてイーゴリラを見上げる。少女が無防備に座り込んだまま見上げても、イーゴリラはピクリとも動かない。
それどころか、イーゴリラは腕をゆっくりと下ろすと、少女に背を向けて森の奥へ消えていった。
「………………ぇ、え?」
モンスターの奇っ怪の行動に、少女は混乱する。それは彼も同様だった、
何故少女が叫んだだけでモンスターが攻撃を止めたのか、全く分からなかったから。
「ッ……」
でもとりあえず今わかっているのは、脅威は去ったということ。
その好機を逃す訳にはいかない。
彼はズリ、ズリと匍匐前進しながら少女に近づく。それに気づいた少女は、慌てた様子で彼に駆け寄った。
「お、お兄ちゃん!大丈夫……?……!ち、血が出てるよ!あたま!」
「あ……?……ああ、開いたのか……」
「お手当て!お手当てしないと!ど、どうしよう、ありすの服で止まる?」
「意味わかんねーよ……」
「こ、こう、服をやぶってえいっ!てやるの!だめ?」
「だから意味わかんねーよ……」
ローブを力いっぱい引っ張って破ろうとする少女に、彼はうんざりと言葉を吐き捨てた。もう返事するのも億劫なのだ。後少女特有の高い声が頭に響いて気分がさらに悪くなるから黙っていてほしい、と彼が願っても、勿論少女がその意図を読めるはずもなく。
匍匐前進したせいで体力を失った彼が耐えきれずに目を閉じようとすると、それに気づいた少女が慌てて彼の頬を叩いた。
「わ、わ、お兄ちゃんおめめ閉じちゃダメ!ねちゃったら死んじゃうんだよ!」
「うるせーな……」
「えーと、えーと、あ!お兄ちゃんのお名前なに!?ありすはね、ありすって言うの!!ね?お兄ちゃんは?」
「あー……?」
意地でも会話を続けようとしているのか、少女――アリスと名乗った彼女は、そう彼の名前を聞いた。
名前を問われた彼は、暫く沈黙する。返事が来ない静寂の時間に、アリスがそわそわし始めた。
「お、お兄ちゃん?」
「あー……いいや、それで……」
「え?よ、よくないと思うよ!お名前聞かないと、ありす、お兄ちゃんのことなんて呼べばいいのか……あ!お兄ちゃん!おめめ閉じちゃダメ!起きて!」
もう喋るのも、目を開けるもの億劫なのだ。だから彼はアリスの質問におざなりに答える。
しかしそれに納得しないアリスは、ゆすゆすと彼の身体を揺らした。思いっきり顔を揺らされた影響で吐き気が込み上げてきて思わず噎せる。
やめろ、と少女を無理矢理剥がそうとした時、彼は気づいた。