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まるで数トンもあるハンマーを横から殴られたかのように、メキ、と骨が軋む音と共に、彼の身体は横に吹き飛んだ。
「グ、ガ……!!!」
幹に強く身体を打ち付けられ、視界が点滅する。こりゃ頭も打ったなと、他人事のような感想が浮かんできた。
地面に落ちた彼は、霞む視界の中、彼に攻撃を与えた存在を見る。
(……イーゴリラ)
バーベアーと同じくらいの巨体を持つ、黒い毛に覆われた身体に、太く逞しい腕。
同じく凶暴性のある害悪モンスター「イーゴリラ」。その力は馬鹿に出来ず、その腕力だけで村一つを陥没させた記録を持つ、恐ろしいモンスターだ。
そのモンスターに身体を殴られた。なるほど、確かに身体が軋むし、痛みも尋常じゃない。どこか折れているだろうという確信もある。
どうやら敵はバーベアーだけではなかったようだ。どこへでも走れるという嬉しさが油断を生み、近づいてくる新たなモンスターに気づかなかった。完全に己の失態である。
ああ、死ぬのか。折角あの忌々しい世界から出られたというのに、つまらなく死んでしまうのか。せめて、民の皆がどうしているのかを知りたかった。
そう願っていても、もう遅い。イーゴリラは腕を振りながら、今度は傍で座り込んでいる少女に向かっていく。
この少女ももうすぐ死ぬだろう。この少女が死んでから、彼はこのモンスターに殺されるのだ。
少女は座り込んだまま動かない。怯えているのが目に取れる。あの状態では逃げることはできないであろう。
イーゴリラが腕を振り上げる。少女に向かって振り下ろされる。
数秒後には頭ごと粉々に潰れた少女の死体が転がっているだろうと男は予想した、その時だった。