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「……!」
バーベアーは地面に深く突き刺さってしまった爪を抜くのに苦戦している。
それを好機と見た彼は、完全に彼に身を預けている少女を無理矢理立たせた。
「走れ!逃げるなら今だ!」
「……!」
少女の手を引いて、彼は走り出す。バーベアーが再度襲い掛かってくるまでに、距離を稼がなければならない。
バーベアーは嗅覚も優れているモンスターだ。めいいっぱい走ったからといって、臭いはその場に残る。バーベアーはその臭いを頼りに、臭いが途切れるまで追いかけてくるだろう。
だからその臭いが断ち切れる場所まで――つまり、水場まで走っていかなければならない。幸いにも彼は先程川に立ち寄っている。その川を何とか渡り切れば、バーベアーを振り切れるだろう。
それまでに持ってくれよ、オレの体力……!と彼が願っていた時だった。ふと、彼は自分の身体に違和感を覚える。
今更ながらに気づいたのだが、身体が普通に動けている。どうしてだか、先程まで座り込む程疲弊していた身体なのに、今では走れる程に回復している。先程までは立ち上がることすら困難だったというのに。これがどこかで聞いたことのある火事場の馬鹿力、というものだろうか。
とにかく今の彼には体力が有り余っていた。本来の力とは程遠いものの、今ならばどこへだって駆けれる自信がある。
「これなら……!」
一縷の希望を抱いた彼は、このまま行けば川に辿り着くことを確信した、その時。
「――よけてお兄ちゃん!!」
隣から聞こえてくる少女の焦った声が聞こえた瞬間、彼の身体の横から強い衝撃が襲う。