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 「……ケッ」


 悪態をついて、自身も着替えようとベラウドから離れようとした時だった。


 「ディア」


 ベラウドがディアを呼んだ。……フルネームではなく、彼の名前を。

 僅かに目を見開いたディアが振り向けば、相変わらず焦点の合わないベラウドの瞳がこちらに向けられる。

 「ンだよ」と不機嫌さを隠さずに返せば、ベラウドは言った。


 「このままアリスと、共に行くのであれば――ワタシと、"誓約"を交わせ」


 「……あぁ?誓約ぅ?」


 誓約――決して破ってはいけない契りを交わせと、ベラウドは言っている。

 何故そんなことをしなければならない。ディアは誓約を交わす意味を見い出せずそのまま言い返してしまう。


 「誓約なんか交わしてどうすんだ。オレになんこ得でもあるのか?」


 「……正直に言ってしまえば、ない。これは、ワタシの、自己満足だ……」


 「テメェの自己満足に付き合ってられるかよ」


 「だが――アリスを守らなければ、お前は直ぐに死ぬ。それはお前も、わかっているだろう」


 「……」


 その指摘に、ディアは口を噤んだ。

 ベラウドの言うことは最もだ。ここまで来れたのも、アリスと出会ってからだと断言出来る。あそこでアリスに出会わず、そしてアリスの特異性に気づかなければ、今頃ディアは森の中で野垂れ死んでいたことだろう。

 それに力が戻っているといっても、本来の力には全然程遠い。アリスと手を繋がっていない状態であれば、人間より少し体力がある程度の力しかない。

 逆にアリスと手を繋がっていれば、少しではあるけれど力も取り戻すし、自動回復も遅くではあれど復活する。アリスを傍に置き、守った方がディアに得があった。


 「……誓約の内容は?」

 

 ベラウドの口振りからして、誓約の内容も察せれる。

 しかし念の為にディアは聞いた。

 その問いに、ベラウドは直ぐに答えてくれた。


 「アリスを守れ。お前の全てを使って、アリスを守り通せ。アリスを何ものよりも優先し、アリスを信じ続けろ」


 「…………」


 「アリスはお前にとって生命線、命同然の存在だ。アリスは絶対に守り通せ」


 「……何がお前をそうさせるんだよ……って聞いても、テメェは何も答えねえんだろうな。チッ、ムカつくぜ」


 だが、とディアはベラウドを睨みながらも続けた。


 「テメェの誓約の内容は言わんでもやることだ。……じゃねえと、オレは生きてられねえからな」


 「……ふっ、今は、それでいい、か……」


 ディアの答えを聞いたベラウドは微笑むと、そのまま目を閉じた。


 「――勝手に行くがいい。蝶は、いつでも傍にいる」

 

 すると少しして、すぅ、すぅ、とか細い寝息が聞こえてきた。

 ――()()()()()()()()()()、と息を吐いたディアは、中断していた支度を整える為に自身が纏っているボロ布に手をかけた。




 ベージュ色の五分丈のシャツを着て、茶色のズボンを穿く。よく探してみればベルトもあったが、締めると窮屈に感じたのでズボンに通すだけにして終わった。黒色のブーツを履き、脱げないか確認をした後、最後に赤色のロングローブを羽織って全身を覆う。


 (ピッタリ過ぎて気持ち悪いな……)


 あまりにもピッタリ過ぎて思わずドン引いてしまう。

 衣服を纏った後は、リュックに宝箱に入っていたものを全て詰め込む。全部入れてもまだリュックには余裕があった。口を絞めてリュックを背負うと、ガサガサと反対側から音が聞こえた。

 音のした方に視線を向ければ、アリスがローブを手に持ったまま歩いてきていた。

 白のレースに灰色の生地の膝丈のドレスを身にまとい、太ももを覆う革ブーツを履いている。とてとてと歩いてきた彼女は、寝息を立てているベラウドを見た。


 「……ベイ……」


 「寝てるだけだ」


 アリスからローブを奪ったディアは、ローブをアリスに羽織らせた。首元をしっかり留め、アリスの全身を覆わせる。

 ちょっと苦しそうにアリスは首元を触る。


 「暑い」


 「我慢しろ」


 リュックから布に包まれたパンを取り出し、それをアリスに差し出した。


 「ほら食え。全然食ってねえだろ、お前」


 「……!ふわふわパン!」


 「固くなる前に食えよ。――よし、出るか」


 パンを目の前にキラキラさせ、幸せそうに齧り付くアリス。

 リュックを背負ったディアがそう呟くと、ヒラヒラと虹色の蝶が前を横切った。そのままこの部屋の入口まで飛ぶと、その場で八の字を描く。


 「……ベイは……?」


 「――アイツはもう起きねえだろうよ」


 最後までベラウドのことを気にかけているアリスを、ディアは冷たく突き放す。

 もうベラウドは目覚めない。目を閉じて、夢を見ながら――静かに死を待つ。その状態となってしまったのを、ディアは察してしまった。

 何か言いたそうなアリスに、ディアは黙って手を差し出す。

 それに戸惑いながらも置いたアリスは、そのままディアと手を繋ぎ、一緒に蝶のいる方に向かった。

 アリスは最後、ベラウドの方を振り返る。

 ベラウドは穏やかな笑みを浮かべて、くぅ、くぅと眠っていた。――もう死の間際だとは思わない程に、穏やかに眠っていた。




大変お待たせしました!次話で第一章完結です!




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