49
宝箱の中身を覗き込む。
「……んだこりゃ?」
宝箱の中には、二人分の衣服と食料、バック、最低限の道具に、巾着に包まれた金銭が詰められていた。食料は干し肉とパンで傷んでいる様子はなく、道具も錆はない。新品同然のようにピカピカだ。衣服は大きいのと小さいのがあり、明らかに大人の男性用の衣服と子供の少女用の衣服で分けられている。金銭がたんまり入っている巾着を手に取って中身を見れば、ディアが見たことの無い金貨と銀貨、銅貨が入っていた。
……明らかに、ディアとアリスに向けて用意された物資が、宝箱の中に入っていた。
「……どういうことだ、これ」
「理由は話せないが、最低限の旅支度は用意した。ここから出る前に準備しろ」
「またそれかよ。……あー、もういい。どうせ詰め寄ってもなんも話さねえからな。聞くだけ無駄だ」
問い質そうとしたがベラウドはまたもや予防線を貼る。それにもう慣れてしまったディアは、早々に諦めてベラウドが用意したであろうものを物色し始めた。
先程も記述した通り、食料も道具も傷んでいない。……恐らく宝箱に纏われていたオーラ。あれは宝箱次第に魔法が掛けられている証明だった。保護魔法のような類のものがかけられており、それで食料と道具が痛まずにいたのだろう。
大人用の衣服を手に取る。ベージュ色の五分丈のシャツに、足全体を隠す茶色のズボン。ガッチリとした黒色のブーツは足首まで覆い、今までの衣服を全て隠す赤色のロングローブが入っている。全部、ディアのサイズにピッタリだった。
「……魔法衣じゃねえのか」
「元の姿にも戻れないお前が着てどうする。今のお前には人間用の服で十分だ」
「チッ」
不満げに呟いた言葉を掬われ、ディアは舌打ちをした。
魔法衣とはその名の通り、魔法が掛けられた衣服である。姿形が変わる獣人族や人魚族を主に対象として作られた衣服であり、魔法がかけられた衣服は、姿を変えるとその姿に準じた衣服になる優れものだ。例えば人魚族が人間から人魚になれば、人間の頃に纏っていた衣服は消え、人間に戻ると今まで消えていた衣服が戻ってくる。原理がどうなっているか作った本人しかわからないが、姿が変わる種族にとっては諸手を挙げて喜ぶ程の代物だった。
フィアエナ族も例外ではなく、殆どの同族が魔法衣を身につけていた。ディアもその一人であり今も身にまとっているのだが、戦いが連続して今やボロ雑巾のようになっている。とてもこのままの格好で出れるものではなかった。
そらにベラウドの言った通り、ディアは元の姿のドラゴンには戻れない。今のディアが魔法衣を纏っても、ちょっと高価な衣服を纏っているだけで本来の機能は全く機能しなくなる、宝の持ち腐れだった。
ベラウドの言うことも事実で、ディアは舌打ちこそはしたものの反論しなかった。
「わー!かわいい〜!」
アリスはきゃっきゃっと自分に用意された服を無邪気に喜んでいる。呑気なやつ、とディアは呆れた目を彼女に向けた。
「……んで、お前はこれを持って街に行けって言いたいんだろ」
「それだけあれば十分だろう」
「十分じゃねえか?オレは金なんてあんま使ってこなかったから価値なんてわかんなくて、金貨が一番高ぇってことしか知らねえけどよ、これだけ金貨があれば十分だろ」
「そうか、ならいい」




