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「――しかし、もしかしたら生き残りがいるかもしれないな。人類の攻撃から運良く免れて、身を隠している同族が。例えば、ワタシのようにな」
「……!」
パッ、とディアは顔を上げ、ベラウドの顔を凝視した。
「……テメェみたいに逃げ延びた同族がいて、ソイツが血を途絶えさせてない、てことか?」
「可能性の話だ。血を残さずに死んだかも知れん」
「でも、その可能性はあるってことだろ」
ベラウドは否定しない。
もし、ベラウドのように危機を逃れて生きていた同族がいたら。ベラウドのように身を隠して、フィアエナ族ということを隠し、どこかで血筋を繋ぎ続けている可能性が少しでもあるのだとしたら。
「………………」
決意を固めたディアが踵を返し、出口の方へ足を向けた。
「どこに行く」
出口に近づくディアの背中を、ベラウドが呼び止める。
ディアは振り向かずに答える。
「目的が固まった。だからオレはこの森を出る」
「森を出るのはお前の勝手だが、アリスを置いていくのか」
ハッとディアは思い出し、アリスの方を振り返った。
アリスは今もすぅすぅと、ベラウドに寄りかかりながら眠っている。
「早々にアリスとの約束を破るな。アリスとの約束を破ることは、ワタシが許さん」
「……あー、はいはい。悪かったよ。気が早くなってた」
素直に自分の非を認めたディアは、アリスに近づいて彼女を抱き上げようとしたが、それをベラウドへ制した。
「待て、今すぐ出るのはやめろ」
「あ?なんでだよ。オレは早く出て行きてえんだけど」
「よく考えろ。今のお前はただの人間だ。傷も体力も、少し休めば回復していたドラゴンとは訳が違う。アリスがいるとはいえ、お前達はここに至るまでに様々な戦いを繰り広げただろう。その疲労は凄まじい」
「……」
確かに、ベラウドの指摘通り。ディアとアリスはここに至るまでに様々な戦いをしてきた。バーベアーやイーゴリラ。洞窟のモンスター達に、あの巨人との戦い。一度死にかけたこともあるし、魔力が枯渇した瞬間も存在した。その証拠に、ディアとアリスの衣服はボロボロで、無事な部分を探すのが難しいくらい衣服は布と化している。
ディアとアリスは互いに肌を触れ合うだけで回復する特性を持つが、それでも追いつけれない程のダメージを、彼らは受けていた。未だに完全回復にも至っていない。
……確かにこの状態で森に出るのは、些か早計か。そうディアは思い直した。
「今日はここで休め。明日には回復するだろう」
「……」
「警戒しているのか?ワタシは何もしない。……しようとしても、動けないさ」
「……確かにな。んじゃ、お言葉に甘えさせてもらうぜ」




