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 顔を伏せて目を閉じていたドラゴンは、人の気配がして目を開ける。

 顔を上げれば、入り口からてちてちとアリスが入ってきて、ドラゴンに近づいているのが見えた。


 「アリス、ディア・フィアエナは?」


 「ディーね、まだ外にいるって」


 ディアのことを聞けば、アリスはディアが出ていった方を向いて答えた。

 まだ気持ちの整理がつかず、アリスだけを戻したのか。


 「アリス、お前だけ戻って来たのか」


 「うん」


 「ディア・フィアエナに何か言われなかったか」


 「ううん。どらごんさんのとこにもどるねって言ったら、うんって言ってくれた」


 あれだけドラゴンを警戒していたディアが、あっさりとアリスがここに戻ることを許した。色々あり過ぎてキャパオーバーしたのか、それともドラゴンを”信用”だけはしたのか定かではない。

 ディアの許しが出ているならいいか、とドラゴンはそれ以上考えるのをやめて、アリスとの会話を楽しむことにした。


 「ねえ、どらごんさん。聞きたいことがあるんだ」


 その前にアリスが質問してきた。

 ドラゴンが「なんだ?」と返すと、アリスは首を傾げながら続けた。


 「どらごんさんって、名前なに?」


 「………………………………」


 名前、なに。

 暫くその言葉を頭の中で繰り返したドラゴンは、アリスに聞き返した。


 「……ワタシの名前を聞いているのか?」


 「うん!ディーとどーぞくってことは、どらごんさんにも名前があるんでしょ?おしえて!」


 無垢な瞳でアリスが強請る。

 名前、名前をまたもや言葉を繰り返したドラゴンは、次第にその意味を理解して呑み込むと、大きな口を開けて笑った。


 「は、ハハハハハハハハ!!そうか、そうかそうかそうか!!そういえば、()()()()()()()()()()()()()()()!!!いや、すまないすまない!!つい名乗ったつもりでいた!!そうか、だからオレのことをずっとどらごんなんて種族名で呼んでいたんだな!!ク、ハハハハハハハハ!!!!」


 「どらごんさん……?」


 「ク、フフ、ああ、すまん。つい笑ってしまった。名前だな、名前。どうしようか……どう名乗ろうか……」


 一頻り大笑いしたドラゴンは、ふむふむと思案する。その口ぶりは既に本名を名乗る気ではないが、アリスは特に気にしなかった。

 やがて考えがついたドラゴンは、アリスに自身の名を告げる。


 「ベラウド。ワタシのことはベラウドと呼ぶがいい」


 「……べ、べあう……?」


 「ブ、クク。呼び辛いか。なら……ベイと呼べ。こちらだったら呼べるだろう?」


 「!ベイ!!よろしくね、ベイ!!」


 ドラゴン――改め、ベラウドの名前を聞いたアリスは、嬉しそうにその名を口にしながらその場で飛び跳ねた。

 その姿を、ベラウドは愛おしそうに見つめた。

 ぴょんぴょんと飛び跳ねているアリスはそのままベラウドの傍まで来ると、地べたに座ってベラウドを見上げた。


 「ね、ね!ベイってドラゴンさんなんでしょ?なら口から火でる??飛べる??」


 「ああ、口から炎も出るし飛べる。今は炎も出せないし、飛べないがな」


 「え、なんで?」


 「ワタシの身体は、老い過ぎているからだ」


 邪気もなにもない純粋なアリスの疑問に、こちらも素直に答える。

 言葉通り、ベラウドはもう空を飛ぶことも、炎を出すことも出来ない。ベラウドは混血のフィアエナ族でありながら千年余りを生きている特異のドラゴンだ。生き永らえているのは、旧スヴェリア王国が独占していた魔力エネルギーのおかげであり、ベラウドはそれを利用して無理矢理生きているだけ。

 本来なら既に命を落としている身体を無理に鞭をうって動かしているのだ。翼が動かないのも、炎を出す力が残っていないのも当然のことだった。

 ()()()()()と、ベラウドは既に悟っている。しかしそれを、アリスに告げる気はない。


 「……アリス。改めて聞こう」


 「?」


 「ディア・フィアエナと、本当にずっと、一緒にいるつもりか?」


 改めて聞かれたその質問に、アリスは黙った。


 「ディア・フィアエナは、お前が思っているよりも恐ろしい男だぞ。アイツは、ドラゴンの血が他のフィアエナ族より多く流れている。その分アイツは力を得たが、同時に本質も、アイツはモンスター寄りだ。もしかしたらいつの日か、お前を酷く傷つける日が来るかもしれない――ワタシはお前にそんな目に遭ってほしくない。お前にはもう、ディア・フィアエナという男を忘れて、この森から出てどこか田舎の村に行って、心優しい老夫婦に拾われて、健やかに生きてほしい」


 やけに具体的なアリスの別の未来を描き、口に出すベラウド。それをアリスは黙って聞いていた。

 ベラウドが言った通り、ディア・フィアエナは血の七割をドラゴンの血が占めており、その分モンスターの思考が引っ張られる傾向にある。人間としての知識は備わっているものの、それが優先されたことはあまりなかった。

 気分次第で人を殺し、癪に障り、攻撃したら全てを返り討ちにして無き者にする。それがディア・フィアエナというドラゴンだった。

 もしかしたら彼の気分次第で、アリスの幼い身体が鋭い爪で貫かれるかもしれない。もしかしたら、もしかしたらを有り得たかもしれない最悪の事態が頭に次々に思い浮かんでしまう。

 そんな目には遭ってほしくなくて、ベラウドは縋る気持ちでアリスに言ったが。

 アリスはそのベラウドの心配も全て聞いた上で、ニッコリと笑った。


 「それでもありすは、ずっとディーといっしょにいる。ずーっと!!」


 そのアリスの返答に、ベラウドは虚を突かれた顔をして、そして「……お前は、相変わらずだな」と諦めたように息を吐いた。

 こうなったアリスは絶対に曲げないことを()()()()()()()()()()()だからこれ以上言っても無駄だろうと、ベラウドはここで話を切り上げることにした。

 

明日7/11~7/13まで旅行なので、投稿が厳しいかもしれません。申し訳ないです。

投稿出来たらします!

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