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――草むらから出てきたのは、一頭の蝶だった。
しかし、ただの蝶ではない。羽、体躯、全てが色鮮やかな虹色に輝いている蝶だ。
蝶は草むらから出た後、ふわりふわりと彼の横を通り過ぎていく。蝶が去った後の鱗粉は空気中に霧散していった。
……まさか草むらの音の正体が蝶だとは思わず、彼は硬直する。あんな小さい虫の気配さえわからなくなった自分に嫌気が差した彼は、苛立った感情を発散させる為に転がっていた石に手を伸ばしたその時、またもや草むらが大きく揺れ出した。
ハッと彼が警戒を再度高めたと同時に、草むらからガサリと、ソレは飛び出してきた。
草むらから現れたのは、まだ幼い少女だった。
腰まであるであろう金青色の髪をゆるく巻いている、淡紅色の瞳を持つ幼い少女。幼さながらも一目でわかる美しさを兼ねそろえており、彼は驚きに目を見開く。しかしこの驚愕は、少女があまりにも美しかったから現れた表情ではない。彼が驚いたのは、今の少女の状態にある。
草むらから出てきた少女は、その外見に似つかわしくない程傷だらけだった。羽織っているローブは所々が切れており、その切れ口から裂傷が痛々しく覗いている。ぎゅ、と前で握り込まれている両手は真っ赤に染まっており、顔も擦り傷だらけ。足に至っては裸足であり、石や木に引っ掛けた傷跡が見え隠れする。
身体中がボロボロの少女は、ボサボサの金青色の髪を振りながら辺りを見渡す。まるで何かから逃げているかのような挙動に、彼の目が吊りあがった。
やがて、少女は漸く彼を視界に収める。汗と血を流しながら座り込む彼を見つけると、少女は茫然とした様子で呟いた。