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 千年。

 言葉にすると簡単なものだが、その言葉の意味を考えればどれだけ重いものかわかるだろう。

 ディア自身、長くて数百年程度だと思っていたのだ。確かに、王国跡地にしてみれば生い茂ってるなとか、王国の影もなさすぎるなとは思いはしたが、まさかあれから千年経っているとは思わなかった。


 「……おい、そりゃなんの冗談だ。千年?笑わせるんじゃねえよ、ンな経ってるってこと、」


 現にディアは受け止めきれずに、ドラゴンの冗談だと思い笑い飛ばしたが。


 「嘘じゃない。正確には、千八十年かそこらは経っている。信じられないのならば、この森から出て人里に辿り着いた時に人間に聞いてみるといい。笑いながらワタシと同じことを言うだろう」


 ドラゴンは真剣な眼差しで、ディアに追い打ちをかける。

 その声色に、嘘ではないことが察してしまうけれど、ディアは簡単に受け止められなかった。


 「……う、そだろ。嘘に決まってやがる!そうだ、そうだぜ!あの時から千年経ってたら、おかしいところがいくらでもあるじゃねーか!!」


 「ほう、例えば?」


 「テメェのことだよ、同族!」


 ディアはドラゴンを指差した。


 「純血のドラゴンの寿命は長くて千年だ。だが、オレ達混血のフィアエナ族は、五百年余りしか生きられねえ!テメェが同族だってなら、千年も生きてるのがおかしなことになる!テメェ、なんで千年以上も生きてやがる!?」


 モンスターにも寿命が存在する。

 その中でドラゴンは長命種に部類され、長くて千年は生きる。対して人間の血が混じっている混血のフィアエナ族は、大体五百年程しか生きられない。

 その為、目の前のドラゴンが千年も生きている、というのがおかしくなってくる。ディアと同じ混血であれば、ディアが封印されている間に命を落としているはずなのだ。

 しかし目の前のドラゴンは老いてはいるものの息絶えていない。この時点で矛盾が発生し、この矛盾こそ、ディアが「封印されてから千年経っている」という事実を受け止められない原因だ。

 息を荒げ、その矛盾を指摘したディア。アリスが「だいじょうぶ?」とディアの頭を撫でて、彼を落ち付かせようと試みる。

 指摘されたドラゴンは一度目を開閉させると、ぐうと魔石で照らされている天井を見上げた。


 「お前が最後に滅ぼした王国の別の名を、お前は知っているか?」


 「あ?知らねえよ、聞いたこともねえし、聞く気もなかったからな」


 「だろうな。お前が最後に滅ぼした王国「スヴェリナ王国」は、別名「魔導大国」と呼ばれていた」


 「まどー、たいこく?」


 聞き覚えのない単語をそのまま聞き返すアリス。

 そのアリスの聞き返しに「そうだ」とドラゴンは頷く。


 「お前は興味もなかったから知らないだろうが、スヴェリナ王国の真下には、大量の魔力エネルギーが通っていたのだ。それは大地のエネルギーに混ざり合って出来ていた為、大地が魔力をエネルギーとして吸収し、現在のような大森林を作り上げた。しかしそれに目を付けたスヴェリア王国によって森林は焼き払われ、代わりに国が建てられた。その国は、大地から流れる魔力エネルギーを独占し、その魔力エネルギーによって作られる兵器や魔道具を大量に生産した。そうして魔力を用いた兵器を増産し続けた王国は、いつしか「魔導大国」と呼ばれたのだ。それが、お前が最後に滅ぼしたスヴェリア王国だ」


 「……で、その国と、お前が千年以上生きているのは何が関係あんだよ」


 「大いにあるとも。ワタシは、その魔力エネルギーによって生き永らえている」


 ディアは目を見開き、ドラゴンを凝視した。


 「お前がスヴェリア王国を滅ぼしたと同時に大賢者に封印された後、スヴェリア王国によって独占されていた魔力エネルギーが解放されたのだ。魔力エネルギーはすぐさま周辺の大地に通い、エネルギーを与え、大地を生き返らせた。数百年後には今と同じくらい森が茂り、王国が建つ前の大森林に再生したのだ。――ワタシはその強力な魔力エネルギーに目を付け、死後身体を森の養分にするのを条件に、魔力エネルギーを森から分けてもらっている。お前達にも見えるだろう、ワタシに繋がる幾つもの管が」


 「!」 


 バッ、とディアはドラゴンの頭上に目を移した。

 ドラゴンの頭上からは幾つもの管が下りている。その管を辿れば、ドラゴンの身体の節々に繋がっているのが見えた。

 その管からは緑色の液体が流れており、それは余すことなくドラゴンの身体の中に入っていく。


 「……ま、さか、嘘だろ?そんなので、生きられるわけ、」


 「実際にワタシは生きている。そろそろ現実に目を向けろ、ディア。フィアエナ。どうしてお前は信じない?ほかに何を答えれば、お前は千年も封印されていたと信じるんだ?」 


 「ッならよぉ!」


 呆れた声でそう言うドラゴンを振り払うように、ディアはドラゴンの言葉を遮って声を荒げた。

 そして必死の形相で、ドラゴンに問いかける。


 「……同族は、オレ以外の同族は一体どうなった!?……今は、どこにいんだよ、」


 千年以上時が経っているのなら、ディアと目の前のドラゴン以外のドラゴンはどうなった。

 自身を見つけてくれて、集落に誘ってくれ、そして長になったディアを認め、支えてくれたかつての同族は。

 どこかに身を潜めているのだろうか。それともディアが知らないところで暴れているのか。


 「()()()()()()()


 そんな希望を胸に問いかけたそれは、無情にも目の前のドラゴンによって切り捨てられる。



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