34
「アリスは"フィアエナ族"について知っているか?」
ドラゴンがそうアリスに問いかけた。
アリスは「ふぃあえな?」と反芻させると、ディアの方に顔を向けた。
「ディーのみょーじ?」
「みょ……は?」
「間違ってはいない。ファミリーネーム、種族名、そんなものと同じように考えればいい」
ディアの疑問をわかっているかのように補足したドラゴンは、そのまま話を続けた。
「フィアエナ族は、大昔に世界を混沌に陥れた種族。先祖「フィアエナ」の名を継ぎ、己が敵を全て討ち滅ぼし、世界に恐怖と絶望を与えた者達のことを言う」
「……??」
「嗚呼、お前に対して難しい言葉を使ってしまったな、許してくれ」
つまり簡単に言うと、とドラゴンが一度咳払いをした後、アリスにもわかるように簡潔に答えた。
「お前が気を許しているそこのディア・フィアエナは、かつて幾つもの国を滅ぼし、人間を殺した、凶悪なモンスターだということだ」
「………………………………………………」
もう一度、アリスはディアの顔を見て、そしてドラゴンを見て、またディアを見て。
「ディー、こわいもんすたーじゃないよ?」
彼らの顔を交互に見たアリスは、キョトンと疑問を落とす。
アリスの疑問も最もだ。ドラゴンはディアのことを「モンスター」と称したが、アリスから見てもディアはちょっと力の強い人間にしか見えない。アリスが思い浮かべるモンスターは、ディアと出会う前に遭遇したバーベアーとイーゴリラのような怖いモンスターだ。それとディアが同列だとは、彼女はとても思えなかった。
アリスのその疑問に、ドラゴンはクツクツと嗤う。
「そうだろうな。お前からしてみれば、今のソイツはただの人間だ。だが、ソイツは正真正銘のモンスターだよ、ワタシと一緒の、な」
「いっしょ……?」
ああ、と肯定したドラゴンは、そのまま話を続ける。
「フィアエナ族は、他のモンスターとは違う特性を持つ」
「とく、せい?」
「他のモンスターには無く、フィアエナ族にはあるものだ。それがなにか、アリスはわかるか?」
「わかんない」
「そうだろうな。折角だ、少し遠回りしながら答えてやろう」
ドラゴンは身動ぎした後、『フィアエナ族』について話し始めた。
「先程も言った通り、フィアエナ族は、先祖「フィアエナ」の名を継いで生きている種族のことだ。さてアリス、この先祖「フィアエナ」だが、コイツが何のモンスターかわかるか?」
「……?なに?」
「――ドラゴンだよ」
どら、ごん、とアリスは反芻する。
ディアは、つまらなさそうに黙ったままだ。
「フィアエナは、元々はドラゴンだった。しかし他のドラゴンとは違うものを、フィアエナは持っていた。なんだと思う?」
「えーと……?うーん……」
「わからないのも無理はない。…他のモンスターには無く、フィアエナが持っていたものは」
そこでドラゴンは一度言葉を区切り、ディアを見た。
ディアが依然としてつまらなさそうだ。それを一瞥したドラゴンは視線を元に戻すと、答えた。
「――人間の血だ」
…………………………。
「……にんげんの、ち?」
「そうだ、アリス」
肯定したドラゴンは、言い切る。
「フィアエナ族は、ドラゴンと人間の血が混じった混血の種族。奴らは人間にも、ドラゴンにもなれる特性を持った、異質なモンスターだよ」




