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ペタペタとディアの裸足の音が広間に響く。
虹色の蝶が出す鱗粉を頼りに歩いて暫くした後、漸く広間の壁側に辿り着いた。
戦っている時は意識しなかったが、こんなに広かったのかと驚くディアを他所に、蝶は壁側に近づくと――その身体を壁に埋めていった。
「は!?」
ズズズと壁に呑み込まれていく蝶を、ディアは見ることしか出来ない。
完全に蝶が壁に呑み込まれたのを見て、ディアは慌てて壁側に駆け寄った。
「おいおい!一体何がどうなって……ぉお!?」
壁に手をつくと、手が壁に呑み込まれ始める。
慌てて手を引っ込めると、引っ込めた後が壁に残ったのか、小さな穴が空いていた。その穴は時間をかけて閉じていき、やがて先程の壁に元通りとなる。
それを見たディアは、壁を見上げながら口にした。
「……まさか、この向こう側に空間があんのか?」
いや、まさか、そんなからくりが?だがそうでないと、蝶や自身の手が壁に呑み込まれた理由がつかない。
暫く壁を見つめたディアは、ごくりと生唾を呑むと、恐る恐る、再度壁に手をつく。
ずぶずぶと呑まれる手に、ディアは覚悟を決めて腕に抱えたアリスと一緒に壁に呑み込まれていった。
「――は、ぁ」
呑み込まれる直前、思わず目を瞑っていたディアは、恐る恐る目を開けて僅かに見開く。
巨人がいた広間を抜けると、そこには森が広がっていた。
豊かな緑の自然が眼前に広がり、土壁からは青色の滝が上から下へと流れている。地面に咲いている花々は風に揺れ、花弁を散らし、森の中を舞った。
「……ンだ、こりゃ。元は洞窟か遺跡だろ?その下になんでこんな森があるってんだ?」
ディアが最初に目を醒ました大森林を引けを取らないくらい、ここの森は自然豊かで、植物が生き生きとしていた。
最下層にあんな広間があったのにも驚きなのに、その先を抜けたら森が広がっていたとか、人伝手に聞いたら信じられないことばかりが起きる。
茫然と森の中を見渡していると、その先にあの虹色の蝶がその場で飛んでいるのを発見した。
虹色の蝶はディア達を見つけると、さらに森の奥へ進んでいく。
「……追うしかねえか」
いつの間にか眠ってしまっているアリスを抱え直したディアは、虹色の蝶を再度追う為に森の中へ入っていった。




