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「……薄々察してはいたがよぉ、テメェ、”核”をぶっ壊さなきゃ死なねえハラだな?面倒くせぇ――!!」
何度も再生する巨人を見て、ディアは確信する。
――この世に蔓延るモンスターは、総じて身体のどこかに”核”と呼ばれるものが存在する。
それは、人間で置き換えれば”心臓”の部分だ。
人間が心臓を突けばすぐに絶命するのと同じように、モンスターも”核”を壊せばすぐに絶命し、消え失せる。
それは、何度も蘇る『アンデット族』等も例外ではなく、死体からモンスターに生まれ変わったアンデット族も、普通に傷をつけても絶命しないが、”核”を壊せば活動を停止し、やがて塵となるのだ。
そして目の前の石の巨人だが、その『アンデット族』と同じ――”核”を壊さなければ何度でも蘇るモンスターであることが判明した。
”核”は必ずしも同じ場所にあるとは限らない。モンスターによって”核”の場所は異なり、モンスターを狩る者は手探りで”核”の場所を当てて狙い撃ちしなければならない。
だからディアは面倒臭いと吐き捨てた。あの石の巨人の”核”をまずは探さなくては、彼らに勝利がないのだから。
このまま当てずっぽうに攻撃してもいいのだが、こちらはアリスを片腕で抱えている状態で、手段は少ない。それにアリスの体力の消耗も考えなければならない。
今のディアはアリスの魔力を原動力に動いている状態だ。アリスが倒れてしまえば、この湧き上がる力が全て無に帰すのは想像に容易かった。
早急に、確実に、巨人の”核”を探し当てなければ、じり貧となって――また、負ける。
その最悪のパターンを思い浮かべてしまったディアは、冷や汗を垂らした。
『!!』
警戒するディア達を見た巨人は、何度目かもわからぬ腕の振り上げを行った。
「!チッ――」
ディアはもう一度腕を破壊しようと構えたが、振り落とされた腕はディア達には届かなかった。
ディア達の前に巨人の腕は振り落とされたが、その時に発生した風圧により、ディアとアリスの身体が簡単に浮き上がった。
「なっ……!!このデカブツ、姑息な真似しやがって……!!」
「わわわわ……!!」
ただ腕を振り下ろすだけでは、また腕を破壊される。だから巨人は直接ディア達に攻撃をしかけるわけではなく、攻撃した際に発生する余波を利用して攻撃するチャンスを窺う作戦にシフトチェンジしたのだ。
その行動で、そして今までの巨人の姿を思い浮かべたディアはまたも確信する。
やはりあの巨人は――明確な意思を持って動いているのだと。
『――!!』
空中に浮いたディア達に、回避する術はない。
それを狙った巨人は、またもパカリ、と頭を割り、緑色の球体を外気に晒す。
そして照準をディア達に合わせると、緑色の球体に光を、エネルギーを集め始めた。
「ディー!またあれくるよぉ!!」
直前の攻撃を思い出したアリスが悲鳴のような声でディアに伝える。あれが直撃したら一溜まりもないことは、幼いアリスでも理解していた。
だというのに、ディアはその危険を教えられていながらも、球体に集まるエネルギーを見て、ニヤリと不敵に笑った。
「そっちがその気なら、オレ様もやってやるよ……!アリス!」
「な、なに!?」
「テメェの魔力、全部借りるぜ!」
そう言うな否や、ディアは自身の手を胸元に添えた。
すると、身体に纏わっていた紫と赤のオーラが、一気に胸元に収束されていく。アリスに纏っていた紫色のオーラも例外ではなかった。
そのオーラがディアの胸元に収束されると、徐々にディアの口元へ昇っていく。
やがて、ディアの口元からぼわ、と炎のように、オーラが漏れ出した。ゆらゆらとうごめくオーラが全て口元に移動した時には、ボタボタと漏れ出ているオーラが地面に落ちていた。
『――ォオ!!』
刹那、エネルギーが貯まった緑色の球体から、閃光が放出される。
真っ直ぐ、一閃したその閃光がディア達の視界を潰し、アリスがひゅ、と言葉を失った、その時だった。
「――これが、オレとコイツで出せる、最大威力の攻撃だ」
その閃光がディア達に届く、直前。
ディアは大きく息を吸い込んで、そして。
「――――魔炎咆哮ッッ!!」
紫檀色の炎を、巨人に向けて放射した。
その攻撃は、ディアとアリスの魔力をそう集結させて貯めた、正に全力の一撃。
赤と紫が混じりあったその炎は、巨人が放った閃光を簡単に呑み込んだ。
『!?』
予想外の攻撃に巨人がたじろいだ瞬間。
紫檀色の炎は全ての閃光を呑み込み、それを伝って巨人の、正確には巨人の頭部に向かっていく。
その炎を、巨人は避けることが出来なかった。
やがて炎は巨人を呑み込んだ。
ぼうぼうと燃える炎に抗う術を持ち合わせていない巨人。折角復活した腕も、炎に焼かれてボロボロと崩れ落ちる。
身体も、足も、何もかもが焼かれていき、そして。
膝をついた巨人は、炎に燃えながら静止した。
それを空中から見たディアは、アリスに言った。
「――アリス!」
「な、なに!?」
「急加速で降りるぞ!――全部、決める!舌を噛むなよ!」
「ッわかった!」
態勢を立て直し、頭を下に向けたディアは、そのまま急加速で降りて行った。
狙う先は――緑色の球体が埋め込まれている、巨人の頭部。
「さっきぶっ壊しても、その玉だけが生き残って、他は全部ぶっ壊れてたなぁ!!――なら、その玉が”核”なんじゃねえかぁッ!?!?」
身体が破壊されても、輝きを放っていた緑色の球体。
不思議な力が凝縮されているそれは、巨人の”核”であろうと確信を持つには十分な理由が揃っていた。
「残ってる魔力を、全てこの拳に込めるッッ!!」
僅かに残っている魔力を左の拳に全て注ぐ。
確実に、その”核”を砕く為に、持てる全ての力をぶつける。
赤と紫の炎を纏った拳は、真っ直ぐに巨人の頭部に隠されていた緑色の球体に向かっていく。
「ぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!!」
やがて、その拳が球体に届く。
炎を纏った拳が直撃した球体は、徐々に大きな罅が入り、そして。
――ガシャン!!と、ガラスが割れたような音と共に、砕け散った。




