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そうして彼は歩き続けた。
生い茂る木々を掻き分け、ぼうぼうと生える草むらを悪戦苦闘しながら進み、たまに見かける見慣れたモンスターや、反対に見たことのないモンスターを捕まえようとして空振りしてショックを受けたりと、彼は息を切らしながら森林を只管進み、現在の状況を確認していく。途中で川があったので喉を潤し、長年出せなかった声の調子を確かめた。ついでに先程石をぶつけられた顬もここで洗っておいた。
暫くして体力の限界を感じた彼は、日陰になっている幹の傍で座り込む。ぽたぽたと垂れ地面に落ちる汗と、あっさりと開いたせいでダラダラと顬の傷口から流れる血を睨みつけながら、彼は現在の己の状況を考え始めた。
まず、彼がいる場所は、恐らく最後に見たあの王国付近で間違いないだろう。この森林を歩き回っている時に、見たことのある城壁の残骸や、焼け焦げているとある王国の紋章が描かれた旗が埋もれているのを見た。その紋章は、最後に彼が破壊した胸糞悪い王国の紋章に間違いなかったため、今彼がいる地は破滅したあの王国の跡地だろうと推測できる。
彼があの憎たらしい賢者に封印されてから、随分と時が経っているようだ。ざっと数百年は経過しなければ、ここはこんなにも生い茂る森林にはなっていないだろう。あの賢者め、無駄に力がありやがって、と彼は内心で毒づいた。
さて、この地があの王国の跡地だと気づいたのは幸先がいい。後は周辺の地形を思い出して、人里がある方に歩けばいいだけだ。人里につけば、とりあえず食料にはありつけるだろう。道中木の実がなっている木が見つかれば尚いい。まずは食料の確保を目標にして、この森から脱出することを目指そうと彼が決めた、その時だった。
ガサリ、と彼の背後にある草むらが揺れる。一瞬で警戒態勢に入った彼は、振り返り、ジッと目を細めて動向を見張った。
音は次第に大きくなり、揺れも激しくなる。――誰かが、こちらに向かって来ている。野生モンスターか、それとも人間か、今の彼では判別できない。
どちらであろうと迎え撃つのみ。彼は周辺にある武器になりそうな大振りの石や木の破片に目を配りながら、今か今かと待ち続けた。
やがて、草むらの音の正体が姿を現す。