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『!?』
「ッえ?」
その光は、ディアを押さえつけていた巨人を怯ませるには十分だった。
光に当たった巨人は手を離し、ディア達から離れていく。その姿はまるで、何かの力の怯えているかのように見えた。
ディア達から離れた巨人はジッを身体を屈めてディア達の様子を窺う。まるで警戒するかのように、張り詰めた空気を纏いながら静止した。
「……こ、れ」
一方アリスは、自分の手を見下ろしながら茫然と座り込んでいた。
アリスの身体は、キラキラと輝いている紫色のオーラを纏っていた。まるで星空をそのまま纏ったようなオーラは、彼女の心臓を中心にふわふわと揺らいでいる。
自身の変化に戸惑いが隠せないアリスがパニックになりかけた時、目の前で倒れるディアが目に映った。
ディアの身体は、もう言葉にしたくない程の酷い状態だ。死んでいてもおかしくない彼は、ピクリとも動かない。
嫌な予感が頭を過って、無意識にアリスはディアの手に触れた。――その手に温もりが伝わった時、アリスは反射的に彼の手を両手で包み込んだ。
(生きてる!まだ生きてる!)
どうしてこんな状態で生きていられるのか、そんなことは今はどうでもいい。
今は彼が、ディアがこんな状態でも生きていることが重要なのだ。
ディアが生きていることに感激しながら、アリスは力いっぱいにディアの手を両手で掴む。
「治って、治って……!おねがい!」
ディアと手を繋ぐと、アリスの身体はいつも傷一つなく無くなっていた。
だからディアの身体もアリスのように治れと、必死に願う。
しかしディアの身体は徐々に光を纏っているものの、その身体は全く治る兆しを見せなかった。
「でぃー……!や、やだ、やだぁ……!!」
両の目からボロボロと大粒の涙が零れ、彼女の手とディアの手を濡らしていく。
ディアを失うかもしれないという不安、何も出来ない自分の不甲斐なさ、独りぼっちになってしまう恐れ。それら全ての負の感情がアリスの心を圧し潰し、アリスの涙腺を決壊させていた。
涙を止める術を持ち合わせていない彼女は、涙を拭うことも出来ない。
只管ディアの治療を願うばかり。しかし、ディアの身体は癒えず、無駄な時間だけが過ぎていくだけ。
「……死なないで、おねがいぃ……!」
その想いは届かず、地面に無残に落ちていく。
ひく、ひくと嗚咽するアリスは、ディアの手を自身の額に当てた。
「……いっしょにいてくれるって、言ったじゃんッ!!」
巨人と戦う前の、最下層に辿り着くまでの、螺旋階段を下りていた時のディアとの会話が蘇る。
不本意そうにしながらもアリスと一緒にいると明言してくれたディアのぶっきらぼうな姿が、霞のように消えていく。
それを覆うように、目の前で四肢があらぬ方向に折れ、上半身が歪な状態になっている、血だまりに沈んでいるディアの姿に書き換えられる。
それを振り払うようにアリスは頭を振るが、目の前にその光景が広がるせいで全く消えてくれない。
さらに涙が溢れてくる。
「ありすと、ずっと、いっしょに……!!」
ディアと一緒にいた記憶が蘇る。
ぶっきらぼうに「一緒にいる」と言ってくれたディア。モンスターから身を挺して守ってくれるディアの背中。剥き出しになっている根っこに躓いた時に手を引っ張って支えてくれたディアの驚いた顔。そっぽを向いたアリスを必死に宥めてくるディアの焦った顔。背中から抱きしめてくれながら一緒に寝てくれたディアの温もり。面倒臭そうにアリスと話してくれるディアの横顔。そして、初めて出会った時のディアの顔が、次々に呼び起こされる。
出会いはたったの二日間弱。しかも両者供訳アリの関係だ。しかしディアもアリスも、深いところまでは踏み込まず、お互いを必要としてこの二日間を共に過ごしてきた。
たったの二日間だったけれど、お互いを手放せないくらい、彼らはお互いを必要としてしまったのだ。
アリスにとってディアは、孤独を埋めてくれる唯一の存在。温もりを与えてくれる、優しいひとで、今は心の拠り所。
そんなひとが、今、命を潰えようとしている。
だめだ、それだけは。
「……おねがい、かみさま」
彼女は、神に祈る。
それが無駄な行為だとしても。
世迷言であろうとも。
命を産み出した神に、祈りを捧げた。
全ては。
「ありすの大切なひとを、もう、これ以上しなせないで――――!!!!」
大切な人を助ける為に、彼女は涙を流しながら、神に祈った。
――その時だった。




