24
アリスが身の回りを全て自分でやるようになった頃に、長く外国に滞在していた父が戻って来た。
『食え』
父は戻ってくるな否やアリスを呼び出して、食卓の席に着かせた。
今まで呼ばれなかった食事の席に、兄達も使用人達も吃驚していた。アリスはこういう場があること自体今日知って、それに驚いていた。
アリスの目の前に並べられたのは、クリーム色のスープに固形物が何個も入っているものだった。他の兄達の食事を見れば、肉料理がいっぱい並べられている。
スープだけなんだ、と思いはしたものの、それ以外は特に何も思わなかったアリスは、父に言われるがままスープを飲み干した。中に入っていた固形物も全て食べて、呑み込んだ。
それを見た父は大きく笑ったかと思えば、食え、食えと休む暇もなくアリスにスープを与え続け、アリスはそれを全て飲み干した。何故かこの日だけ、アリスのお腹は常に空腹を訴えていた。
その夜、アリスは高熱を出して生死を彷徨った。
目を醒ましたアリスの環境は一変していた。
今まで誰もいなかった部屋に、使用人がずらりと待っていて、アリスの身の回りの世話をし始めた。
よく見ればその使用人は今まで見た事ない人達で、今までアリスに散々悪口を言っていた使用人達はどこにもいなかった。
身の回りの世話を終えた後は今までやったことのない勉強やダンス、礼儀作法――全てを教え込まれた。
突然の環境の変化に一番アリスが追いついておらず、アリスは混乱したままやることだけはやった。
そうして日々が過ぎていき、アリスにも余裕が出てきたところで、アリスは気づいた。使用人達が、自分を見る表情に。
今までの使用人はアリスを「娼婦の娘」だと蔑み、冷たい表情を浮かべていた。
しかし今の使用人達の表情は――恐怖を浮かべていた。
アリスの一挙一動を見逃さないように目を配り、アリスが不機嫌になれば頬を引き攣らせながら対応する。まるで、地雷を踏まないよう慎重に行動しているかのように。
そう、使用人達は、何故か皆アリスを怖がっていたのだ。
なんで使用人達がアリスを怖がるのか、アリスは終ぞ理解できなかった。




