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『聞いたぜ。お前、しょーふの子供なんだろ?』
それは、アリスに常に言われる言葉だった。
アリスと実親の父は、容姿が全く似ていない。金青色の髪も、淡紅色の瞳も、何もかもが父の容姿とかけ離れている。他の兄弟は父の遺伝を受け継いでいると分かる程に髪色や瞳は一緒だというのに、アリスだけは父の遺伝を全く受け継いでいないかのように、父とかけ離れていた。
後から、アリスの容姿は母の遺伝だと使用人から教えてもらった。アリスの母も、アリスと同じ金青色の髪と淡紅色の瞳を持っていたらしい。それがそっくりそのままアリスに受け継がれたのだと。
そこまでは、アリスも納得出来た。母からの遺伝だということを受け入れた。
『それにしてもしょーふの娘だなんて、なんで旦那様はこの子を家に置いているのかしら』
でもその後の言葉が、アリスには理解できなかった。
「しょーふ」という言葉が悪い意味で伝えられていることは、アリスも薄々察していた。何故ならそう言う皆の顔が、明らかにアリスを侮蔑していたから。だからアリスは、その「しょーふ」という言葉が良い意味でないことを、幼いながら知ってしまった。
それから、アリスは度々使用人や外部の人間から、「しょーふ」という言葉を使われながら下に見られてきた。
「しょーふの娘よ」「ほうこれがうわさの」「げせんなちめ」「旦那様のおてんですな」そんな言葉を何度もかけられた。
悪い言葉だとはわかっていたけれど、「しょーふ」や「げせん」の言葉の意味を理解できなかったアリスは、それに反応することが出来なかった。
ある日、いつものように庭で花を眺めていたアリスに、唯一の兄妹である兄二人が声をかけてきて冒頭の台詞をアリスに言った。
歳が二つほどしか変わらない二人に、そうだ、意味を聞こうとアリスは素直に「しょーふ」の意味を聞いた。
『おまえ、わかんないで聞いてたの?じゃあ無知なお前に教えてやるよ』
そうしてアリスは教えられた。「しょーふ」基、「娼婦」の意味を。
「娼婦」の意味を知ったアリスは、「ああ、だから皆ありすのこと悪く言うんだ」とやっと皆が自分に対して侮蔑している本当の意味を知った。
それと同時に、「聞かなければよかったな」と後悔した。意味を知らなければ、まだ心持が楽だった。
「お母さま」が「お母さん」と一緒だということに、耐えられなくなったから。
意味を知ってしまったアリスは、それから「娼婦」という言葉に嫌悪感を覚えるようになってしまった。
自分が「お母さん」の娘だということに耐えられなくて、吐いた時もあった。それを兄達に見つかって笑われた時もあった。さらに吐いた。
そうして、アリスは孤立していった。「娼婦の娘」とレッテルが張られているアリスの世話を進んでやる使用人など、いなかったから。最初は給金目当てで仕事をしていた使用人もいたが、アリスが無価値だと知ると手のひらを返したかのようにアリスを放置し始めた。
ご飯も自分で用意し、服も自分で選択をしなければならなくて、部屋も自分で掃除しなきゃいけなくて。もう何もかも自分でやらなければいけない環境だったが、それに関してアリスは特に気にしていなかった。
前もそれ相応の生活を送っていたのだから。




