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それから暫くした後だった。
「!ディー見て!下見えた!」
「マジか!」
外を覗き込めば、うっすらと石畳の床が見える。
漸く、この螺旋階段とおさらばする時が来たらしい。
長い長い螺旋階段は身体的にも精神的にも辛かったので、一番下まで辿り着く希望を持てたのは良いことだった。
不思議と足早になり、階段を下りるスピードも速くなる。
そうして最下層に近づくにつれて……ディアは気づいた。
この螺旋階段を下る最中でも、今までも感じていた『己の力』はもう勘違いとは言えない程に感じている。それは良い。
(……なにかいる?)
問題は、最下層に近づくにつれてモンスターの気配が濃くなっていくことだった。
この最下層に、何かいる。それも今まで遭遇してきたモンスターとは比べ物にならないくらいの、何かが。
そのモンスターの気配に注意しながら、ディア達はついに遺跡の最下層に降り立った。
最下層に降りてまず目に付いたのは、どこまでも広い大広間だった。
目を凝らしても端が見えない程の大きな広間。その場に立つとコツリと足音が寂しく反響する。
そのまま足音を響かせながら、ディアとアリスは部屋の中央と思わしきところまで歩いた。
暫く歩いて、ディアは気づく。何か、前方にいることに。
足を止めたディアに伴ってアリスも足を止め、真っ直ぐ前を見つめた。
その瞬間、ボボボッ!と広間の壁を沿うように、壁に取り付けられていたであろう紫色の蝋燭が全て灯る。そのおかげで大広間が明るく照らされ、目の前にいる存在が明らかとなった。
「――これ、は」
ディアとアリスは、目の前の存在に息を呑む。
ディア達の目の前にいたのは、一言でいえば『巨人』だった。
全てが石で出来ている巨人の体躯はディア達の背を一気に追い抜く程の大きさである。少なくとも20メートル以上は有に超えるだろう。ジッと傅く姿勢で静止している石の巨人を見上げるような形となったディア達は、その巨人の大きさに圧倒されていた。
「……おお、きい」
「こんなのがなんでこんなとこにあるんだ……」
何故こんなにも大きなものがこんなところにあるのか。そもそもこの空間は、最初入った洞窟と雰囲気が一変している。この場所が、あの洞窟から入って発見されたと言われても信じれないだろう。
「……あ?」
巨人を見上げていると、ひらりと虹色の蝶が前に出た。
蝶はひらひらと巨人の周りを飛び回ると、暫くしてディア達の前に戻ってくる。眼前に来た蝶に顔を引いていたその時だった。
『――試練を果たせ』
突然、声が聞こえた。
その声は直接ディアとアリスの耳元に囁いたかのように聴こえ、思わずディア達は耳を押さえた。
しかし耳を押さえていても、声は途切れることなく続いた。
『失われた力を取り戻せ。さすれば、行くべき道が示されるだろう』
男とも、女とも取れない不思議な声。
「……ちょうちょ、さん?」
ディアがアリスがそう言うまで、この声が目の前にいる蝶の声だと全く気付かなかった。
どうして蝶がテレパシーなるものが使えるのかと疑問をぶつけようとした、刹那。
ギギ、と何かが擦れる音が聞こえた。
「……?」
その音は前、正確には蝶の後ろから聞こえた。
ディアがそっ、と顔を上げれば――瞼を上げている巨人と目が合った。




