13
丁度いい場所を見つけた時には、もう空は橙色に染まり始めていた。
その場所は、森をさらに奥に行ったところに存在していた。盛り上がった土の壁に大きな穴が空いている。身体を屈めばディアでも入れるくらいの少し大きめの穴だ。実際に頭だけを入れて中を覗き込めば、そこそこの広さのある空間が広がっていた。
よし、今日の寝床はここにしようとディアは即決する。もう日も落ち始めている。今から森の中に入るのはリスクが大きすぎる。
アリスを洞穴の中に入れると、ディアも身体を屈めて中に入る。そして出入口の近くで腰を下ろし、一息吐いた。
(こいつのおかげで体力はマシになったものの、やっぱ人間の姿だと消耗が激しいな)
元の姿になれば体力の心配は殆どしなくていいのだが、何分今は貧弱な人間の姿。アリスの謎の力で助かってはいるものの、元の姿と比べるとやはり貧弱には変わりないか、とディアは苛立った。
早く元の姿に戻りたい、と思わず願う。
「ディー!ここ、ここまでしかなーい!」
そう苛立っていると、先に中に入ったアリスの声が少し遠くからした。睨みつけるように声のした方に目を向ければ、若干目視で判別できる場所にアリスは立っていて、ディアに向かって手を振っていた。
何してるんだあのガキ。と思わずにはいられなかった。
「何やってんだお前」
なんだったら口にも出していた。
問いかけられたアリスはと言うと、ディアに近づきながら答える。
「この中どれくらい広いのか見てた!」
「くだらねえ……」
場所さえ確保できればどうでもいいのに何をしているんだ、この少女は。暇ならもう黙って寝てくれ、とディアは願った。ストレスがたまった状態でアリスみたいな子供を相手にしているとさらにストレスが溜まって悪循環となってしまう。
嗚呼、もう余計なことは考えずに寝てしまおう、とディアは近寄って来たアリスの手を掴み、引き寄せた。
「わ」
小さな悲鳴を上げたアリスの身体は、すっぽりとディアの身体に収まる。そのままアリスを抱き締める世にして腕を前に回したディアは、アリスの頭に顎を乗せて呟いた。
「もう黙ってオレの湯たんぽ代わりになれ。おら、手繋ぐぞ。そっちの方が回復が早い」
そう言ってディアはアリスの手に自分の手を絡ませる。
それをきょとんと見るアリス。暫く繋がれた手を見ていると、すぅ、と頭上から寝息が聞こえた。寝たのかな、とアリスが確認しようとするけれど、頭の上にディーの顎が乗っかっているせいで頭が動かせない。
うんしょ、うんしょと奮闘したが頭を動かせないのは変わらず。アリスは早々に諦めた。
そして、もう一度繋がれている手に視線を戻る。
ぎゅ、と繋がれている手と手。幼いアリスの小さな手は、大人なディアの大きな手で覆われるようにして握られている。
ごつごつとした男の人の感触。その感触に、アリスは覚えがあった。
しかしそれがなんなのか、思い出せなかった。
確かに言えることは――この手の感触が、一番安心する、という感情だけ。
ふふふ、と笑ったアリスは、繋がった手に頬を寄せると、そのまま枕のようにして繋がった手を、空いている手で固定する。
そして目を閉じたアリスは、早々に夢の世界に旅立ったのだった。




