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お互いの名を知った彼らは、暗くなる前に野営できる場所を探す為に再度森の中を歩いていた。いつまでも一か所に留まっていれば、またモンスターに襲われる可能性が高いからだ。
手を繋ぎながら森の中を探索する。なるべくディーが前に出て、その後をアリスが着いていく形だ。
アリスと触れ合っている間は力が戻ってくるので、最初の頃の弱者な己は姿を消していた。今ならそこらへんで蔓延っている雑食モンスター程度なら片手間でも簡単に気配を追えるし、殺せる。まあ気配を殺すのは傍にアリスがいるので無理なのだが。
そうやってモンスターを警戒しながら森の中を探索していた彼らであったが。
「……つかれたぁ……」
それよりも先にアリスの体力が底をついてしまい、暫く森の一角で足止めを喰らうことになってしまった。
へたりと座り込んだアリス。アリスを見て舌打ちを零したディアは、彼女の横に腰を下ろした。アリスよりは余裕があるもののディーもある程度は疲弊している。一回休むのは有りだと判断したのだ。
ふぅ、と息を吐いたアリスは、大きな木に背を預けて脱力した。そんなアリスを、ディアは横から盗み見る。
すっかり傷も無くなったアリスの身体は、森の中を探索したせいで小さな汚れが点々とついている。彼女の身体を覆うローブは木に引っかかったりしたせいで敗れており、彼女の小麦色の肌が見え隠れしていた。
まあ、そこはどうでもいい。正直衣服や汚れに関してはあまり気にしない性質だ。同族に強制的に着せられた魔法の服を、着替えるのが面倒でずっと着るくらい無頓着である。だから彼女の身体についている汚れに関しては特に関心も持たなかった。
問題なのは、傷一つなくなった彼女の身体である。
初めて会った時、彼女の身体は擦り傷や裂傷が目立っており、血も流れていた。しかもバーベアーやイーゴリラに襲われた時も盛大に転んで膝を擦りむいていたし、すぐに完治する傷でないことは確かだった。
しかし今の彼女には、その傷がない。最初から無かったのかと疑う程に、傷跡も何も残っていなかった。
人間では有り得ない異常な回復力。傷も全て無くす再生力。はっきり言って彼女は異常で、人間なのだろうかと疑う程に懐疑心を抱いていた。
……まぁ、その異常性に気づいていながらも、ディアから指摘することは何もない。特にディアに不都合を感じないことだったので、このまま放置することに決めた。下手に指摘して警戒心を抱かれるよりはマシだろう、と言い聞かせながら。
「……」
暫くして、ぼうっと木々の隙間から見える空を見上げていると、隣から視線を感じた。
その視線の主は一人しかおらず、ディアは顔を下ろさずに声をかける。
「何見てやがる、鬱陶しい」
そう言われたアリスは、にへらと笑いながら答えた。
「ディーの色、ありすと違うなっておもってた!」
「色ぉ?」
聞き返すと、アリスは「うん!」と元気に答えながら、自分の髪を掴んでディアに見せた。
「ありすはね、青色とピンク!ディーは白と赤!」
突然何を言うんだと胡乱げにアリスを見たディアだったが、アリスが自分の髪を見せたことで、彼女が何を言いたいのか理解した。
どうやらアリスは、自分の髪と瞳がディアと違う、と言いたいらしい。
腰まである金青色の髪に淡紅色の瞳を持つアリスに対し、ディアの髪はくすんだ灰色の短髪に血のような深紅の瞳だ。アリスはディアの髪色を「白」と言ったが、穢れのない白とは言い難い。ディアの肌が褐色だからより白色に見えたのだろう。
まあ色についてとやかく言うつもりはないので、ディアは「おう、そうか」と軽く流すことにした。そしてまた空を見るのを再開する。
もう会話するつもりはないという意思表示のつもりだったのだが、それはアリスには上手く伝わらず、アリスはディアに寄りかかりながらそのまま話し続けた。




