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第八十六話 厨二病

【予告!!】

──今年も、クリスマスの物語がやってくる!


昨年の主人公は銀河たち、八戸校組。

そして今年は──刹那たち、神戸校組!!……ということで──!


「番外編 ⭐︎Merry Christmas⭐︎〜神戸校編〜」


12月24日18時、公開予定!お楽しみに!


【東京都杉並区 商店街通り】


舞い上がった砂埃が、ゆっくりと空へ溶けていく。

その中心に──“それ”は、静かに佇んでいた。


「が、牙恩さん……?」


思わず漏れたわたくしの声は、震えを隠せなかった。


「……待たせたな、No.16。」


返ってきた声は、つい先ほどまでの牙恩さんとはまるで別人だった。

低く沈み込み、深淵の底から響くような音色。その気配だけで背筋が総毛立つ。


右目には、禍々しい漆黒の眼帯。

左腕には、封印を思わせる白布の包帯が幾重にも巻きつけられている。


「……このモードの“ぼく氏”は、もはや自分すら制御できない。

 なぜなら封印はすでに解かれ、心の底に封じ込めていたもう一人のぼく氏──“裏牙恩”が覚醒したからな……!」

「“裏牙恩”……ですって……!?」


驚愕したNo.16さんが息を呑む。

その瞬間、商店街の空気がぶわりと震えた……“気がした”。


「貴様も感じるだろう?

 ぼく氏の肉体の奥底から噴き上がる──世界の理すら焼き尽くす、この膨大なエネルギーを!」

「な、なんか……確かに……変わったような気が……しなくもないわね……?」


No.16さんが半歩後ずさる。

恐怖からなのか、牙恩さんの“圧”に押されたのか、自分でも判然としていない様子だった。


「ぼく氏はもう、さっきまでのぼく氏ではない。

 このモードになった瞬間──

 お前たちに勝ち目など、霧散し、虚無へと還った!」

「な、なんですって……!?」


No.16さんが青ざめるより早く、牙恩さんは地の精霊大剣をゆっくりと地面へ突き立てた。

乾いた衝撃音とともに、地面がわずかに振動する。


「見せてやろう──リミッターを外したぼく氏の“本当の力”を……!

 お前たちどころか……この日本が、ひとつ残らず灰燼と化すかもしれないがなッ!」

「に、日本を……灰燼に……!?

 一体どれほどの力を……!?」

「ど、どうしましょう、是隠さん……!

 こ、このままでは日本が……牙恩さんの手で滅んでしまいますの……!」

「大丈夫ですよ、刹那さん。」


わたくしとNo.16さんが慌てふためいているその横で──

なぜか是隠さんだけが、まるでお茶でも飲んでいるかのような穏やかさで佇んでいた。


彼の手にはしっかりと一冊。“牙恩取扱説明書” が握られていた。


「おおおりゃあああああッッ!!」


狂気を孕んだ雄叫びとともに、牙恩さんがフンコロガシ型・毒属性上級悪霊へ大剣を叩きつけた。

振り下ろされる剣圧は、商店街の舗装が砕け散りそうなほどの重量と殺気を帯びている。

しかし──


──ガキィィィンッ!!


鋭い金属音とともに火花が炸裂。衝撃波のように砂埃が周囲へ押し広がる。

防御バフをまとった悪霊の異様な硬さの前に、牙恩さんの一撃はまたしても弾かれてしまった。


「な、なによ……!び、びっくりさせるだけさせて……っ!

 見た目とか口調とかは仰々しいのに……強さ自体は全然変わってないじゃないの!」


No.16さんが、怯えと困惑が入り混じった声で叫ぶ。


「……ふっ。」


牙恩さんは、舗装にめり込んだ大剣を軽々と引き抜き、静かな笑みを浮かべた。


「そんなことを言われちゃあ……仕方ない。

 超常級との対戦までとっておきたかったけど、特別に見せてあげるよ。

 ぼく氏の、“本当の力”すら越えた──“真の力”ってやつをね。」

「な、なに……?

 ”本当の力“よりもまだ上が……あるですって……!?

 こ、この男……一体何者なの……!?」


No.16さんが震える声で呟いた。


牙恩さんはゆっくりと右手を持ち上げ──

右目を覆う漆黒の眼帯へ、そっと指先を添える。


ただそれだけの動作なのに、世界が息を潜めたように空気が凍りついた。


まるで、その眼帯の奥に封じられているのは──

“一度選んだら二度と引き返せない破滅の扉” であるかのように。


No.16さんも、そしてわたくし自身も、呼吸を忘れてその場に立ち尽くす。


「気をつけなさい、あなたたちっ!

 あのガキ……なにか仕掛けてくるわよっ!」


悪霊たちが、ざざ……っと砂利を蹴り、警戒するように一斉に後退した。

その全ての視線が、牙恩さんただ一人に釘付けとなる。


「ぐっ……!がっ……!

 う、おおおおおおぉぉぉぉぉッ!!」


突然、牙恩さんが右目を押さえて片膝をつく。

その体から、なぜか茶色の光──いや、霊力が脈打つように漏れ出し、周囲の影がゆらりゆらりと揺れている。


やがて──

ふっと光が収束すると、そこに立っていたのは眼帯を外した牙恩さんだった。


「──“霊眼”、発動!!」


“霊眼” ──。

その右目は、ついさっきまでの普通の黒い瞳とはまるで別物だった。

虹色へと変色し、まるで宝石の輝きをそのまま瞳孔に詰め込んだかのように七色の光が瞬いている。


「ふう……。

 まさかこの力を使う日がこようとは……。

 さて……この眼を見てしまったな、お前たち?今までこの霊眼を見て、生きて帰った者はいない……。

 死ぬ覚悟はできたか?」


牙恩さんは静かに身をひねり、片手を顔の横へ添えた。

まるで──自らの存在意義を、今この瞬間に世界へ提示するかのような、妙に決めたポーズ。


「今こそ解き放つ!ぼく氏の“真の力”をッ……!!

 今度は日本どころではない。世界が滅んでしまうかもしれないがなッ……!!」

「そ、そんな!?世界の破滅ですって!?

 い、一体どうしましょう、ぜおんさん!?」


わたくしが不安で声を裏返す一方、隣の是隠さんだけは、やはり妙に落ち着いていた。

場違いなほど冷静で、嵐の中の灯台の如き安定感(マイペース)である。


「安心してください、刹那さん。」


そう前置きすると、彼の口から告げられたのは──

耳を疑うほどの真実だった。


「今の牙恩はただの──

 “厨二病モード”ですから。」

「……え?」


脳が理解を拒否し、わたくしは思考停止。

数秒間、ぽかんと立ち尽くすしかなかった。


「この、“牙恩取扱説明書”によると──。」


是隠さんがパラパラとページをめくり、お目当ての欄に指を当て、読み上げた。


「『一人称が「ぼく氏」のときは、“厨二病モード”!

 特徴は、厨二病のノリに付き合ってあげるとすごく喜びます!』

 ……と、書かれていますね。」

「ちゅ、厨二病……ですか?」


思わず聞き返すと、是隠さんはこくりと頷いた。


「はい。

 先ほどの変身シーン、刹那さんの位置からは砂埃で見えなかったでしょうが……

 拙者の位置からは、すべて見えてました。」


是隠さんはまるで、天気予報でも読み上げるような淡々とした口調で続けた。


「牙恩がそそくさと左腕に包帯を巻き……

 右目にカラーコンタクトを入れ……

 その上から慎重に眼帯を装着していく、一連の工程を。」

「そ、そうだったんですの……?」


わたくしの中で、何かがぷつんと切れた。

ついさっきまでの“圧倒的覚醒シーン”が、突然スタッフ総出の舞台裏へと変貌したような、どうしようもない脱力感が押し寄せる。


「厨二の(やまい)……。

 そうか、貴様も(やまい)持ちだったとはな……。

 であれば貴様、わたくし様たちの仲間ではないか!

 さあ、こっちサイドに来るがよい!!」


No.16さんが胸を張り、堂々と牙恩さんへ手招きする。


「ふざけるなッ!

 だれが──“ダークサイド”になど堕ちるものかァァァァ!!」

「“ダークサイド”ですって……!?

 ふざけたことをぬかすなっ!

 貴様たち人間の方が、ダークサイドに決まってるでしょう!?」


牙恩さんとNo.16さんの意味不明な応酬が、ギャーギャーと響き渡り始めた。

つい先ほどまでの張り詰めた空気はすっかり霧散し、世界の危機はいつの間にか“ただの子どものケンカ”へと変貌していた。


わたくしはというと、その“厨二病ワールド”にまったくついていけず、ただ呆然とその光景を見守るだけだった。


「さて、この状況……どうしましょう。」


混乱で早鐘のように脈打つ胸を深呼吸で無理やり落ち着けた、その時だった。


「『厨二病のノリに付き合ってあげると、めちゃくちゃ喜びます!』か……。拙者にお任せを。」


是隠さんが静かに前へ出る。

その声音はいつも通り穏やかだが、不思議と頼もしさを帯びていた。


「一体どうするつもりですの、是隠さん?」

「まあ見ててください。……少し考えがあります。」


是隠さんは迷いのない足取りで一歩、また一歩と前進すると──

商店街全体に響き渡るほどの大声で叫んだ。


「おいっ!No.16ッ!」

「……な、いきなり大声でなんですの?

 ようやくわたくし様に殺される覚悟ができたので?」


No.16さんは警戒しつつ、鋭い視線で是隠さんを睨みつける。

しかし是隠さんは眉ひとつ動かさず、淡々と告げた。


「お前たちは知らないようだが、この男はな……東京でも名を轟かせる“地の帝王”。

 ──土帝(どてい)・牙恩様だぞ!」


──ドンッッ!!!


その瞬間、牙恩さんの背後で茶色い霊力(オーラ)が爆ぜた。

「え?なになに?」と当の本人が一番驚いている。


悪霊たちもざわつき、空気全体がどよめいた。


わたくしはというと──

……もう何が起こっているのか、完全に理解が追いつかない……。


「ど、土帝・牙恩……?

 地の……帝王ですって……!?

 なんでそんなすごいやつが、ここに……!?」


No.16さんが震えながら目を見開く。


「だよな、牙恩?」


是隠さんが軽く促すと──


「ふっふっふっ……。

 正体がばれちゃあ、しかたねえ……。」


牙恩さんは不敵な笑みを浮かべた。


「そう、ぼく氏こそ──十文字組二番隊隊長!

 二つ名を──土帝!

 そして我が真名は──鈴木牙恩!」


再び、茶色い霊力(オーラ)がドンッ!!と爆ぜる。


「土帝・牙恩!

 微力ながら、拙者が全力で援護するッ!」

「助太刀、感謝します!

 十文字組八番隊隊長……“影王(えいおう)・是隠”!!」

「“影王・是隠”……ふっ、悪くないな。」


是隠さんは満足げに笑みを浮かべると、影の精霊双短刀を静かに構え──

そして、凜とした声で名乗りを上げた。


「戦いの礼儀だ。

 拙者も名乗らせてもらおう。

 拙者は──十文字組八番隊隊長!

 二つ名は──影王!

 そして我が真名──中村是隠!」


その瞬間、今度は是隠さんの背後で紺色の霊力(オーラ)がドンッ!!と爆ぜた。


「あらあら。それはご丁寧に。

 ならばこちらも、改めて名乗らせていただきますわ。」


No.16さんは胸に手を当て、優雅に一礼する。


「わたくし様は──殉疫の八使徒(ガーディアン)

 (あるじ)・病の大悪霊様から与えられしNo.は──16!

 そして我が俗名──石井(いしい)節子(せつこ)!」


やはり、No.16さんの背後で緑色の霊力(オーラ)がドンッ!!と爆ぜた……が。


──この悪霊、自分の俗名を知っているんですの……!?

それに、石井節子……その名前、どこかで……。


思い出せそうで思い出せない、妙な引っかかりだけを胸に残したその時。


『いざ、尋常に──勝負!!』


三人の声が同時に重なった。


──ドンッ!!

──ドンッ!!

──ドンッ!!


牙恩さんは茶色。是隠さんは紺色。No.16さんは緑色。

三者三様の霊力(オーラ)が爆ぜ、色とりどりの光が商店街を照らす。


その光景はまるで──幕末の決戦前夜。


取り残されたわたくしはただただ、呆然とその場に立ち尽くすしかなかった……。

※キャラクター紹介

プロフィール追加

名前:鈴木 牙恩

一人称:厨二病モード時。「ぼく氏」

ここだけの内緒話:

・包帯はドラッグストアで購入したもの。眼帯と霊眼カラーコンタクトは自作によるもの。

・厨二病モードになると、体から霊力オーラがあふれるなど、さまざまな派手な演出が入る。しかし実際には何ひとつパワーアップしておらず、ただの見た目だけの演出である。

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