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第八十三話 回想クラッシャー・萌華

【注意!!】

※今話は、国立十文字学園高等部神戸校祓い科二年、渡辺麻璃流の視線でお送りいたします。


【現代 東京都港区 お台場海浜公園】


「な、なにがあったんですか?その後……?」


あたしが尋ねると、けんさんは両の拳をぎゅっと握り締めた。


「……恐怖に負けて──逃げ出したんだ。

 上級悪霊からも、現場からもな……。」


短いやり取りのあと、周囲の波音さえ遠のくような重たい沈黙が落ちた。


「それなのに、銀河は……あいつは……!うっ……!うっ……!」


言葉を途中で区切るように、けんさんの目に溜まっていたものが堰を切ったようにこぼれ落ちる。

しゃくりあげながら、それでも必死に言葉を繋ごうとしていた。


「ああいうやつは…… 死んじゃいけないんだ!幸せにならなきゃいけないんだよ!

 だからオレ様が、あいつを守ってやらないと……。

 そばにいて……支えてやらないと……!ううっ……!」


声は震え、ついには力が抜けたようにその場に崩れ落ちる。

肩を揺らして泣き続けるけんさんから、それ以上の言葉は出てこなかった。


「・・・」


萌華ちゃんはしばらく黙ったまま、その姿を見つめていた。

風が髪を揺らしても、揺れるのは髪だけで、視線は一点から動かなかった。


やがて、何かを決めたように一歩、また一歩とけんさんの方へ歩み寄り──

深く頭を下げた。


「……すみませんでした、()()()()()。」

「うっ……!うっ……!」


けんさんは涙で濡れた顔を上げ、萌華ちゃんを見つめる。

だが、溢れる涙はまだ止まりそうになかった。


──けんさんが悪霊祓いから逃げ出した後、ぎっくんとの間に一体何があったのか。

詳しく聞くことはできなかった。

けれど、これまでの話で、ひとつだけはっきりと分かったことがある。

それは──

けんさんに限らず、八戸校のみんなが、心の底からぎっくんを大切に思っているということ。


──佐藤銀河。

八戸校二年。火の精霊刀の使い手。

にんにくをこよなく愛する、明るく人懐っこい性格の持ち主。

誰にでも優しく、いつだって自分より他人を先に思いやる──そんな、まっすぐで心の温かい“いい子”。

……なのだが──。


──けんさんがしばらく声を上げて泣き続けたのち。

ようやく呼吸を整え、袖で涙をぬぐいながら、ふらつく足取りで立ち上がった。

肩はまだ小刻みに震えていて、胸の奥に残る痛みが完全には消えていないのが伝わってくる。


「……オレ様も悪かった。首……痛いだろ。」

「ちょっ……!?」


萌華ちゃんの首元には、まだ細く血がつたっていた。

けんさんがそっと首もとに触れた瞬間──萌華ちゃんの顔が、ぱあっと一気に真っ赤に染まる。


「樹々吏、治療してやってくれ。」

「任せて!」


樹々吏さんがすぐに駆け寄る。


「だ、大丈夫です、このくらい!自分の霊法で……あっ。」

「お前、霊力もう切れてるだろ?

 だったら、こういうときは仲間を頼れ。な?」

「は、はい……。」


観念したように肩を落とし、萌華ちゃんはおとなしく治療を受け始めた。


「ふふふっ♪」

「……何を笑っているんだ、麻璃流?」

「けんさん、よかったですね!」

「なにがだ?」

「萌華ちゃんから、仲間だと思われてますよ!」

「……どういう意味だ?」


あたしは得意げに胸を張る。


「萌華ちゃん、中等部の時は“回想クラッシャー・萌華”って呼ばれてたんです!

 相手が自分語りを始めると、即ぶん殴って止めるんですよ。

 『そんなん聞きたくないわっ!』って!』

「そんな物騒な称号が……。」

「でも、今回けんさんの話、最後までちゃんと聞いてたじゃないですか?

 それってつまり──けんさんを“仲間”だって認めてる証拠ですよ!」


ニコッと笑ってそう告げると、けんさんは少しだけ目を丸くした。


「……そうか。

 そういうことなら……ふっ、嬉しいな。」


ふっと緩むような優しい笑みが口元に浮かびあがると、視線は治療を受けている萌華ちゃんへと静かに戻った。


「はい。終わったよ、萌華ちゃん!」

「あ……ありがとうございました。」


治療が終わると、萌華ちゃんはぺこりと丁寧に頭を下げた。

さっきまでの刺々しさが嘘のように、表情も声もどこか柔らかくなっている。


「さて、樹々吏。

 至急、精霊省に報告してもらいたいことがある。」

「なに?」


けんさんは、ここで起きた出来事。その全てをありのまま樹々吏さんに報告した。


殉疫の八使徒(ガーディアン)”との戦闘。

赤衣の九(レッドナイン)天使衆(エンジェルス)“、”病の大悪霊”についての情報。

そして、No.17が残した、不吉すぎる言葉。

『もう少ししたら──

 この日本をめちゃくちゃにする、ものすごい作戦が始まるって言ってたな!』


「な、なによそれ……!?」


樹々吏さんは、けんさんの口から矢継ぎ早に飛び出す異常な情報量に、目を見開いて固まってしまった。

数秒ほど唖然としたあと、「だ、だめだこれ。急いで報告しないと……!」と我に返るように叫び、慌ててスマホを取り出す。

その指は緊張で小刻みに震えていた。


「報告も終わりましたし、少し休みましょう。」


萌華ちゃんがそう促す。しかし——


「・・・」


けんさんは腕を組んだまま、何か思いつめたように沈黙していた。


「けんさん?どうしたんです?」

「……これまでの自分を、改めて見直さなきゃいけないと思ってな。」

「見直す?」

「ああ。

 No.17の情報で、敵が超常級以上なのは確定だ。当然、今のオレ様たちじゃ勝てない。

 やつらの計画を阻止するためには、超常級相手でも戦える力を身につける必要がある。

 そのための運命の分岐点が——」

「“大精霊モード”になれるか否か、ですね。」


萌華ちゃんが静かに言い切った。


「そのとおりだ。

 最終的に、オレ様たちが大精霊モードになれるかどうか。それが鍵を握っている。」

「大精霊モード……。確かに、あの力なら……。

 でも、それと“これまでの自分を見直すこと”って、どう繋がるんです?」

「白亜先生があの時、言っていたことを思い出してみろ。」


——あの時。

東京駅・丸の内広場での戦い。

白亜先生が示した、あたしたちがさらに強くなるための方法。

それこそが大精霊モードであり、その発動条件となる“必要なピース”。

白亜先生は、あの場で確かにそれを教えてくれていた。


白亜先生の言葉が、あたしの脳裏にゆっくりと蘇っていく——。


『これが……2ndセカンド STEPステップ──

 ”自分の心の叫びに気付くこと“で開かれし進化の扉

 その名も──

 “大精霊モード”』


『過去を乗り越え、嘘偽りのない自分自身の本当の心の叫びに気付いた者だけが到達できる領域

 それがこの、”大精霊モード“だ』


『いいか、みんな──

 ”欠けていることを受け止める強さ“を持て

 人間は誰しも完璧じゃない、俺だってそうだ

 でも……それでいい

 欠けていても、君たちは希望になれるんだ』


『欠けていてもいいんだ

 足りないなら、補い合えばいい

 それが“仲間”ってもんだ

 いや──“家族”ってやつなのかもしれないな』


『精霊も、元は人間だった。

 だからきっと、精霊も同じ考え方なんだろうな

 “欠けたもの”を、受け入れ、補い合い、助け合う──

 その先に、“本当の力”があるんだって』


『もう一度言う

 ──”自分の心の叫びに気付くこと“

 それが2nd STEP、次の高みへと至る鍵だ

 それを乗り超えることで、君たちの中にある霊力は覚醒し、この“大精霊モード”という、大精霊に等しい強大で強力な力を得、超常級悪霊だって祓えるようになる』


——“自分の心の叫びに気付くこと”。

そのヒントは、自分の過去にある——。


そう考えると確かにけんさんの言うとおり、これまでの自分を改めて見つめ直す必要がありそうだ。


——なんなんだろう、あたしの“心の叫び”って。

もしそれに気付けたら……あたしも白亜先生みたいに大精霊モードになれて、もっと強くなれるのかな?


あたしだって……あたしなんかでも……。

本当にあんなふうに強くなれるのなら——なりたいっ!


その瞬間、気付けば拳をぎゅっと握りしめていた。


——もう、今までみたいにただ戦っているだけじゃダメだ。ただ訓練しているだけじゃきっとダメなんだ。


白亜先生が今朝言っていた、“三人行けば、必ず我が師あり”。

周りの人をよく観察し、自分をより良くしていく。

あれもきっと——心の叫びに気付くための、なにかのきっかけになるはずだ。


「なんなんだろうな……。“心の叫び”って……」


けんさんがぽつりと呟いた。

その声に引き寄せられるように、あたしたちはそろって空を見上げた。


ふわふわと漂う三つの雲が──

どう見ても、神戸ビーフ、明石焼き、瀬戸内レモンケーキにしか見えなかった。


──あっ……!

お腹の奥から湧き上がってくる、この感じ……!

間違いない……“あれ”が来る!!


「けんさん、萌華ちゃん。気づいちゃった!

 あたしの、心の叫び!」

「なんだと!?」

「なんです、それは!?」


二人が同時にこちらを向いた、その瞬間──


──ぐぅぅぅぅぅ!


盛大に響き渡る腹の音。


「──早くご飯が食べたい!!」

「……なんだ。いつものことじゃないですか……。」

「……なるほど。盲点だったな。

 案外、そんな単純なことなのかもしれない。」

「え……?そんなんでいいんだったら……。」


萌華ちゃんが遠くを見つめ、ふわぁ……っと頬を染めながら妄想の世界へ旅立っていく。


「わたしの心の叫びは、やっぱり──

 桜蘭々様といちゃいちゃして、あーんなことやこーんなことをして、そして最後には二人で一生を添い遂げ……ぶはっ!」


盛大に鼻血を噴き、萌華ちゃんは崩れ落ちた。

その横で、けんさんは真顔のまま静かに息を吸う。


「オレ様の……オレ様の心の叫びは──

 多くの魅力的なお尻に囲まれて、窒息死したい……ぶはっ!」


今度はけんさんが吹き飛ぶ勢いで鼻血を噴き、倒れ込んだ。


ふたりが地面に倒れ、ビクビクッと痙攣している中──あたしは背中に手を伸ばし、柄を引き抜く。


「よし、気づいたよ!あたしの本当の心の叫び!

 これであたしも白亜先生みたいに、大精霊モードに……!

 さあ来い! あたしの内なる何かーー!

 燃えろーー! あたしの内なる力ーー!」


……しかし。

何も変化は起きなかった。


「あれ……?変身しない……?」

「そ、そんな……桜蘭々様……♡

 桜蘭々様も、わたしのことをそんなふうに…… ぶはっ!」

「丸みがあって、桃みたいにキュッと締まってて……。

 垂れず上向きで、太ももとの境界も完璧で……。

 そんな世界最高級のお尻に囲まれたら、いくら攻め好きのオレ様でも……ぶはっ!」


ふたりは立て続けに鼻血を噴き散らし、再び沈黙した。


──こうして、あたしたちはいつもの賑やかな……いや、騒がしいだけの平穏に戻っていった。……けれど。


別の現場に向かったみんなも……大丈夫だよね?


高円寺に向かった刹那さん、ぜっくん、がっくん。

渋谷へ向かった桜蘭々さん、天嶺叉、そして──。


ぎっくん……か……。


なんていうんだろ……。

ぎっくんと一緒にいると、なぜか妙に胸騒ぎがするんだよね……。

いや……胸騒ぎというより——どちらかといえば“嫌な予感”に近いのかもしれない。


あの時、ほんの少し戦っているところを見ただけだから、まだ断定なんてできない。

だけど、あたしの直感だと、ぎっくんの戦い方はなんていうか──。


「“死にたがり”に見えるんだよなぁ……。」


ぽつりと漏れたその言葉は、自分でも驚くほど重く響いた。


──ちなみに、その後はというと……。


「よし、みんなで昼飯でも行くか!」


けんさんが元気よく声を上げた……のだが。


「あ、わたしこれからご飯なんで無理です。」


萌華ちゃんは即答。

きっぱりと言い切ると、そのままスタスタと歩き出してしまった。


「飯を飯で断るとは……!!

 なんという攻めの姿勢……!!

 素晴らしい……!!」


けんさんは意味のわからない称賛を叫んでいた。


——結局、あたしたちは近くに停泊していた飛行船で昼食をとることになった。


そこで待ち受けていたのは、またしても次から次へと押し寄せるトラブルの嵐──。

それでも、みんなで力を合わせて、支え合って……気付けばなんとか全部乗り越えていた。


こうして——

あたしたちは、今日という一日をどうにか生き延びることができたのだった。

記載しましたとおり、飛行船での昼食でも、謙一郎たちは相変わらずトラブル続きでした。

実はこの裏で、赤衣の九天使衆の一人・No.弐が出現して、なんと飛行船を撃ち落としてしまうのです。

もちろん船内には、謙一郎たちだけでなく、多くの乗客や乗組員がいます。

そんな状況で訪れた最大の危機を、彼らは一体どう切り抜けたのか?

そもそもNo.弐は、なぜ飛行船を撃ち落とすような真似をしたのか?

……この後の第一章に多少なりとも繋がる部分でもあったので、本当はそのあたりも詳しく描きたかったのですが、そうすると話がまったく先に進まなくなるので、泣く泣く今回は割愛しました。

いずれ余裕がある時に、補足として描けたらと思っています。

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