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第六十五話 ポルノ中毒

※用語解説

・召喚(追加):精霊刀剣の使い手の場合、召喚の意味は術士とは異なる。

 術士の場合は、霊法を使うために精霊を召喚する。

 だが、精霊刀剣の使い手の場合は、未完の精霊刀剣を完成させるために、大精霊を召喚する。


【東京都港区 お台場海浜公園】


「よーーーっし!燃えてきたぁぁーーっ!!

 いくよッ!ハラウンイエローグリーンッ!ハラウンパープルッ!!」

「おっしゃーーッ!!

 ブルーもパープルも、このオレ──ハラウンイエローグリーン先輩についてこいっ!!」

「……なにそれ?

 ってことは、わたしがハラウンパープルってことです?

 はあ……どうせここで頑張ったところで、桜蘭々様にわたしの活躍を見ていただけないんじゃ、テンション上がんないわぁ……」


二人は臨戦態勢に入り、呼吸を合わせるように同時に柄へ手を伸ばした──静かに、しかし確実に抜き放つ。


オレたちの前に迫り来るのは──

・カメレオン型・影属性中級悪霊、50体。

・ハエトリグサ型・雷属性中級悪霊、50体。

・ラッコ型・樹属性中級悪霊、50体。

合計およそ150体。


その群れが、一斉に遠距離攻撃を仕掛けてきた。

カメレオン型の悪霊は矢印型の舌を矢のように飛ばし、ハエトリグサ型の悪霊は雷の牙をむき出しに襲いかかり、ラッコ型の悪霊は両手に持った貝の形をした木材を次々と投げつけてくる。


「来なさい!!水青龍(すいせいりゅう)!!」

「やるよ!!毒吐乃大蛇(どくとのおろち)!!」


麻璃流は、“水の大精霊・水青龍”を召喚し、萌華は、“毒の大精霊・毒吐乃大蛇”を召喚。

柄はそれぞれ“水の精霊分離剣”、“毒の精霊短刀”へと姿を変えた。


ラッコ型が投げつけた木材を、麻璃流は両剣で軽やかに弾き払い、すぐさま飛び込んできたカメレオン型の影舌を、身体をひねりながら一閃──鋭く斬り裂いた。

そこへ、背後からハエトリグサ型の雷牙が唸りを上げて襲いかかる。

だが麻璃流は、なにかを感じとったのか、瞬時に地を蹴り、紙一重で雷牙を躱した。


「なんて動きだ……」


オレは、その動きに自然と惚れ惚れしていた。


木材を捌き、影舌を斬り、雷牙を躱す。

一連の流れはまるで舞踏の即興──型破りだが、妙に理に適っていた。


「ハラウンブルー!ここにありーー!!

 今だ!第二形態!!」


両剣から双剣へ──そして、双剣から再び両剣へ。

水の精霊分離剣の持つ二形態を自在に切り替え、その特性を存分に活かしていく。

振るわれる剣筋は自由奔放で型破り。

だが不思議と理に適い、流れるように次々と敵の攻撃をいなしていった。


──麻璃流は、“直感型”だな。考える前に、もう斬っている。

舞うように、勘で動く“直感自由人”ってところか。


──型を重視するオレとは、真逆の動き方だ。


麻璃流が自由奔放に、中級悪霊たちの攻撃をいなしていく一方──

対して萌華は、冷静に状況を読み取っていた。


ラッコ型が投げた木材を、萌華は短刀で正確に斬り裂く。

飛び込んできたカメレオン型の影舌は、ほんの数センチの軌道のズレを読み取り、するりと蛇のように身を滑らせて躱した。

そして、続くハエトリグサ型の雷牙は、力の流れを冷静に見切り、最小限の手首の返しで短刀を添わせ──難なく受け流した。


「これは……見事な動きだ。」


オレは思わず息を呑んだ。


視界から読み取れる情報を決して見逃さず、わずかな間合いの変化や軌道の微差を拾い上げている。

見て、頭の中で即座に処理して、どう動くべきか、その答えを瞬時に選び取っている。


あれは理屈を積み重ねて辿り着く結論じゃない。

研ぎ澄まされた頭の回転の速さから導き出される、まさに最適解ってやつだ。


「ふんっ!その程度の速さと射程で、わたしに当たるわけないでしょ!」


木材を斬り、影舌を躱し、雷牙を捌く。

その一連の動きは、冷静な機転と瞬時の判断力の結晶にしか見えなかった。


──萌華は頭の回転が速い、まさに“臨機応変型”だな。

目に入った情報を即座に処理し、その場で迷わず正しい動きを選び取っている。


──応用の効かないオレには真似できない芸当だ。


同じ「躱す」「捌く」でも──麻璃流と萌華のスタイルはまるで違っていた。


「中級悪霊レベルであれば、二人とも特に心配はないな。問題は……」

「ほんと、報告通り数が多いですね……

 ここは──FOURTH(フォース)で一気に祓いますか。」


そう言って、萌華は毒の精霊短刀を構え直し、今にも霊技を放とうとしていた。が──


「ちょっと待て!」


オレは即座に制止した。


「なんです?」

「お前に任せたら、また前みたいにオレたちまで巻き込まれるだろっ!

 霊力をまだうまく制御(コントロール)できてないからそうなるんだぞっ!」


──そう、オレは忘れていない。

あの“東京駅丸の内広場の戦い”で、一年生たちの霊法(FOURTH)が敵だけでなくオレたちにも襲いかかり、戦場は味方からの攻撃で阿鼻叫喚の地獄絵図と化したことを……!

今でもあの惨劇の光景が脳裏に焼き付いている。


「霊力制御つったって、そんなのわたし、まだできないですよ。」

「──なん……だと?

 霊力制御もろくにできないのに、味方がいる中で霊法(FOURTH)を出してたのか、お前は……?なんて恐ろしい……

 はっ!?ということは、まさか天嶺叉も……?」


ちらっと麻璃流を見る。

麻璃流は腕を組み、なぜか自慢げに、うんうん!と大きく頷いていた。


「マジか……

 そんなんだとすぐに霊力が尽きて、肝心な時に霊技が使えなくなるぞ……!」


衝撃に言葉を失うオレ。

空いた口が塞がらず、ただ呆然と萌華を見つめるしかなかった。


「……とはいえ、オレも不器用な方だから、霊力制御ができるようになるまでには、けっこう時間がかかったがな。

 まだ、精霊刀剣の使い手に選ばれて二、三ヶ月じゃ無理もない。

 やっぱり牙恩がおかしいんだろうな……」

「その口ぶり……まるで、狂人牙恩はすでに霊力制御ができるかのような言い方ですね。」

「そうだが?」

「嘘つけ!あいつの攻撃(FOURTH)が一番最初に、わたしたちに向かって降ってきてたじゃないですか!

 ああ、思い出しただけでムカついてきた……!

 他のやつらはどうでもいいとして、あの桜蘭々様にご迷惑をおかけしやがって、あの狂人!

 やっぱりあいつは、あとで毒漬けにしてボロボロにしてやらないとっ!

 なに中毒にしてやろうか……アルコールに漬けてアルコール中毒?

 それか、エナジードリンクに漬けてカフェイン中毒?

 それとも──」


萌華は物騒すぎる独り言を呟き始めた。


「ふっ、心配するな。

 オレもあいつも、既に中毒に侵されている。

 そう──ポルノ中毒になっ!!」

「なに最低なことを堂々と言ってるんですかぁーーっ!!」


萌華の盛大なツッコミの叫びが炸裂した。


「確かにあの時、牙恩の霊法(FOURTH)もオレたちに襲いかかってきていた。

 だが、あの時のあいつはな──わざとやって、オレたちの反応を楽しんでたんだよ。」

「んなっ……!?あの状況で!?いや、否定できない……!

 確かに、“エンジョイモード”のあいつなら……有り得る!」

「悔しいが、あいつは言ったことはすぐにできる天才タイプ。

 だから、あのモード以外だったら、ちゃんとできてたはずだ。」


そして、なおも続く中級悪霊たちの攻撃を躱し、捌きながらオレは続けた。


「だがまあ、霊力制御もちゃんと努力すればできるようになるからな。仕方ない……

 ここは先輩として、オレが霊力制御のお手本を見せてやろう。」

「大丈夫でーす!

 さっさと終わらせて帰りたい(桜蘭々様に会いたい)ので、わたし、向こうで上級悪霊がいないか探してますね。」

「ダメだよ萌華ちゃん!白亜先生が言ってたじゃん!

 『全員、今の自分の殻を破るために──互いをよく観察し、学び、吸収するように!

  そして、なによりも……みんな仲良くなるように!!』って!

 あたしも、けんさんの霊技、もっと見てみたーい!」

「えぇぇ……だるっ。」


萌華はまるでいじめっ子のように、側にいた中級悪霊をひょいと蹴り飛ばすと、その小さな体をオレのほうへ傾けた。


「いいか?

 既に教わってると思うが、霊力制御で一番大事なことは──“イメージ”だ。」

「イメージ?」


萌華はぽかんと首をかしげていた。

その顔を見た途端、オレの胸に嫌な予感がよぎる。


──この反応……まさかとは思うがこいつ、もしかして……


だが、今はそれを確かめている暇はない。

まずは、さっきから襲いかかってきているあの中級悪霊たちを祓わないと。


「”百聞は一見にしかず“だ。こんな状況じゃまともに話もできないしな。

 よく見てろよ。」


オレは、風の精霊手裏剣を空へ放り投げ、両目の間に二本の指を当てて目を閉じる。


「風の叫び THE() FOURTH(フォース)!!」

 

次の瞬間──風の剣身が柄から分離。

その軌跡は空を十字に切り裂き──やがて鋭角を描きながら、風の線は形を成していく。

形成されるのは巨大な——


“風の三角形型霊法陣”


竜巻(たつまき)連風陣(れんぷうじん)!!!!」


霊法発動の刹那。

風の三角形型霊法陣が黄緑色に輝き、繰り出されるのは──無数の竜巻。


轟音を伴い、空を裂き、地を抉り、荒れ狂う風の柱が次々と立ち上がる。

一本、また一本。

次々と立ち上がる竜巻は、やがて数え切れぬほどに増殖し、“敵陣のみ”を覆い尽くした。

まるで天地そのものが反転するかのような暴風。

竜巻は絡み合い、弾け合い、暴走する風の群れとなって敵陣へ突進していく。


「ゴオオオオオオオッ!!」


咆哮のような風音が鼓膜を突き破り、肺の奥まで震わせる。

立ち向かう意思など存在する余地はない。抗う意思すら許さない。


竜巻は悪霊を絡め取り、そのまま空へと引きずり上げ、肉体ごと粉砕していく。

カメレオン型も、ハエトリグサ型も、ラッコ型も、全ての中級悪霊たちが──オレの霊法に蹴散らされていく。


そして、空中で乾いた音が響き渡る。


「パキッ……パキッ……パキィン!!」


悪霊玉が次々と割れ、黒い粒子となって暴風に呑み込まれていく。


やがて竜巻が収まり、訪れたのは静寂。

そこに立つのはオレと──祓われ、跡形もなく消え去った150体の悪霊の亡骸なき痕跡だけだった。

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