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第六十四話 十文字戦隊・ハラウンジャー!!

新編【異校舎交流編】突入!


※今話は、国立十文字学園高等部八戸校祓い科三年、高橋謙一郎の視線でお送りいたします。


【東京都港区 お台場海浜公園】


「風の叫び THE FIFTH!!」


オレの手に握られた風の精霊手裏剣が、空気を切り裂くように高速回転する。

そして、オレと“あいつ”の足元に展開されたのは巨大な──風の三角形型霊法陣。


「直線風!!!!」


霊法発動の刹那。

風の三角形型霊法陣が黄緑色に輝くと、暴風が爆発するように吹き上がった。


「いーーやっほーーーー!♪ !♪」


真下から噴き上がるその上昇気流に乗り、空へと舞い上がったのはオレと──神戸校二年、渡辺麻璃流。


「ちょっと!!なに遊んでるんですかっ!?」


その光景を地上から怒り顔で見上げて、両手を振り上げているのは ──東京校一年、小林萌華。


──精霊壁が展開されているここは、お台場海浜公園。

潮の香りがほんのり漂い、目の前には透き通る海が広がる。

遠くにはレインボーブリッジが空を斬るように架かり、白い砂浜は靴越しでもひんやり心地よい。

青空をカモメが横切り、昼の陽光を浴びて水面は無数の粒子が舞うようにきらめく。

さらに視線の先──高層ビル群の間から、巨大な飛行船がゆっくりと浮上していく。

あれはただの観光船じゃない。

まるで、この物語の幕開けを告げる使者のようだった。


──オレたち三人は、お台場海浜公園に遊びに来たわけではない。

悪霊祓いの任務のために来ている……はずなのだが──


「二人とも見てみてー!空中バク転ーーっ!!」


オレが発動した霊法で遊ぶ麻璃流。


「悪霊の位置すらまだ掴めてないんですよ!?もっと真面目にやってください!!

 おっさんも!なんで一緒になってはしゃいでるんですかっ!」


怒りの叫びをあげるのはクソガキ、萌華。


「おっさんじゃない!オレの名前は高橋謙一郎だ!

 “けんさん”と呼べ!わかったか、メスガキッ!」


負けじと叫ぶのは、そうオレ。高橋謙一郎。


「メ、メスガキ!?!?むっかーー!!

 よし、ぶっ祓う!てめえはアディオス!!」

「たーのしーーー!♪」


今度は空中前転を決めながら、麻璃流が楽しそうに叫ぶ。


──え……?ちょっと待って。なに、そのメンツ?

銀河と牙恩は一緒じゃないの?なんでそんなパーティー構成?


そうツッコんでくれたみなさん、ありがとう。オレも同じ気持ちだ。

オレだって未だに意味がわからない。


なぜ、こんな布陣になってしまったのか──話は、一時間前に遡る。


─────────────────────────────────────


【一時間前 東京都新宿区 国立十文字学園高等部東京校 正面玄関】


「──以上のとおり、”渋谷“、”高円寺“、そして“お台場”の三箇所で、上級悪霊が同時発生しました。

 どこも数が多数。よって、全員の出動をお願い致します。」


冷静沈着に報告するのは、東京校精霊科三年の詩音。

その事務的で抑揚のない声が、かえって場の緊張を一層強めていた。


それを聞いたオレたちは、すぐさま現場に向かおうとする。


「はーい!じゃあ、お台場組はこの車に乗ってー!」


元気いっぱいに手を振るのは、樹々吏。


「高円寺組はこっちだ。」


淡々と指示を飛ばすのは、神戸校精霊科三年の助助。


「渋谷組はこちらです。」


再び事務的に声を発するのは、詩音。


「よし。では、妾ら東京校は渋谷へ。」

「了解ですわ!それじゃあ、わたくしたち神戸チームは高円寺に!」

「じゃあ、オレたち八戸組はお台場だな!」


それぞれが車に乗り込もうとした──まさにその時だった。


「ちょっと待てーーいっ!!」


甲高い声が校舎中に響き渡った。白亜先生だ。


「ど、どうしたんですか?」


思わずオレが問いかけると、先生はいつもの調子でさらりと語り出す。


「“三人行けば、必ず我が師あり”── かの有名な孔子の教え、『論語』にある言葉だ。

 これは、三人で行動を共にするとき、必ずその中には自分にとって師とすべき人物がいるという意味である。

 ……まあ、シンプルに言うなら『他の人から学べることはたくさんあるよ!悪いことも含めてね!だから、周りの人たちをよく観察して、自分をもっと良くしていこう!』ってことだな!

 ──古の賢人の言葉とは、時を超えた学びである。

 つまり、何が言いたいのかというと──せっかくこうして他校のやつらも集まったんだ。

 ならば──互いをよく観察し、新たな学びを得る絶好の機会だと思わないか!?諸君!」


白亜先生が、これでもかというドヤ顔を浮かべた。

 

──うわ、でた。この感じ。

大運動会のときと同じだ。絶対ロクなことを言い出さない。


「ということでだっ!」


白亜先生の目がギラリと光った。


「今から俺が指名するメンバーで、しばらくの間チームを組んでもらい、悪霊祓いに向かってもらう!

 全員、今の自分の殻を破るために──互いをよく観察し、学び、吸収するように!

 そして、なによりも……みんな仲良くなるように!!

 そう、言うなればこれは──“異校舎交流”だ!」


……案の定、ロクでもないことを言い出した。


─────────────────────────────────────


【東京都港区 お台場海浜公園】


──こうしてオレたちは、

・八戸校三年、高橋謙一郎 (オレ)。

・神戸校二年、渡辺麻璃流。

・東京校一年、小林萌華。


この三人でチームを組むことになったのである。しかも一ヶ月……この六月中ずっとだ。


「あっ!見えた!

 みんなー!前方二キロ先、悪霊がいっぱいいるよー!!」


空中で側転しながら遊んでいた麻璃流が、楽しげに報告をあげる。


「おい、麻璃流。もう十分だろ、下りるぞ!」


霊法(直線風)をゆっくりと弱めてオレたちは砂浜に軽やかに着地する。


「いやーー、楽しかった♪

 ありがとうございました、”けんさん“!!」

「ふっふっふっ。なに、“あの約束”のためならお安いご用だ。

 早速ちゃんと守ってくれているようで安心したぞ。」

「“あの約束”ってなんです?」


萌華が不思議そうに首をかしげると、麻璃流がニッコリ笑って答えた。


「えっとねー!

 風に乗せてくれたら、謙一郎さんのことを“けっさん”じゃなくて、“けんさん”って呼ぶって約束したの!」

「く、くだらな……!

 そんなことのために女の子をはべらかしたんですか!?」

「はべっ……!?誤解を招く言い方をするな!

 それにくだらないとはなんだ!?オレにとってはとても大事なことなんだぞっ!」


言い合うオレと萌華を見て、麻璃流がケラケラ笑い出す。


「仲いいね!うらやましい!」

『どこがっ!?』


オレと萌華が同時にツッコミを入れる。


「“ケンカするほど仲がいい”って言うでしょ!

 それより──ほらっ!もう見えてきたよ、悪霊ズ!

 チーム、“十文字戦隊・ハラウンジャー”!!出撃ーーっ!!」

「はぁぁ……本当にそのチーム名でいくんです……?」


萌華ががっくりと肩を落とす。


「仕方ないだろ。くじ引きで決まったんだから。」


そう、この珍妙なチーム名。

──きっかけは、移動中の車内で麻璃流が突然言い出した一言だった。


『ねえねえ!せっかくこれから一ヶ月も一緒に悪霊祓いするんだから、チーム名決めようよ!』


そう言われ、オレたちは渋々案を出し合うことになったのだが──


─────────────────────────────────────


【東京都港区 移動中の車内】


「チーム名は──“萌華と二人のパシリたち”!」

「おいっ!誰がパシリだっ!」

「あははっ♪萌華ちゃん、相変わらず毒舌でかわいいねー♡」


二列目のシートで、麻璃流が嬉しそうに萌華へ抱きつく。


「な、ななな……!?ま、麻璃流先輩!胸を押し当てないでくださいっ!

 わ、わたしに対する自慢ですかそれはっ!?」


萌華は顔を真っ赤にしながらジタバタ。

そんな様子に麻璃流はけらけら笑い続ける。


「じゃあ次あたしー!

 えっとねー……“十文字戦隊・ハラウンジャー“!!」

「……なんです、それ?」


ぽかんとする萌華。


「えっ!?知らないの!?あの戦隊モノだよ!日曜の朝にやってるやつ!

 バトルも派手だし、変身シーンとか超かっこいいんだから!

 けっさんは知ってますよね!?」

「知ってるが……あれは子ども向けの番組だぞ。

 大人っぽいオレたちが名乗るには、ちょっと恥ずかしくないか?」

「じゃあ、けっさんはどんな名前にしたんです?」

「ふっ、大人っぽいオレがリーダーのチームだぞ?

 だったら、それにふさわしいダンディな名前に決まってる。

 “渋くて大人っぽいけんさんと、まだまだ子どもな後輩たち”だ!」

「リーダーって、ただ単に“一番老けてるやつ”が選ばれただけじゃん。なにを偉そうに。」


萌華が容赦なく毒を吐いてくる。


「“一番年上のやつ”が選ばれたんだ!オレは老けてないぞっ!そう、ほんの少し周りよりお──」

「おじさんっぽい、ってだけだよね!」

「お……おじさん……。大人っぽいじゃなくて、か……。」


ガクッと肩を落としたオレは、靴を脱ぎ、その場に体育座りをした。


「アハハッ!よかったね謙一郎くん!みんなにいじってもらえて!

 だけど麻璃流ちゃんと萌華ちゃん、そのへんにしてあげて!

 これ以上いじると謙一郎くん、“Phase2”に突入してめんどくさくなるから!」


運転席から樹々吏が、楽しそうに声をかけてくる。


「……なんだ、その“Phase2”というのは?」

「えっと、ぎっくんからもらった“謙一郎さん取扱説明書”によると……これだ!

 この状態がPhase1:落込モード……で、ここからさらにいじられると…… なるほど、Phase2に!

 よし!萌華ちゃん、試しに今のけっさんをいじってみて!」

「絶対いやですっ!

 わたしもう、あのキモい”人型・ドM属性変態級悪霊“なんて見たくないですもん!」

「ぶはっ!あーはっはっはっ!“人型・ドM属性変態級悪霊”って!

 最高!萌華ちゃん天才!あーはっはっ!」


樹々吏はハンドルを叩いて爆笑。


「な、なんの話をしてるんだ……?オレにも教えてくれ……

 いや、おじさんのオレがそんなこと知る資格ないか……高三には見えないほど老けてるし……

 年齢詐称が疑われるおじさんがここにいてごめんなさい……

 そもそも地球という素晴らしい惑星にいてごめんなさい……

 貴重な酸素を吸ってごめんなさい……二酸化炭素を吐いてごめんなさい……

 ああ、オレなんて消えたほうがみんな幸せなんじゃ……」

「……うわっ、こいつめんどくさっ!

 そ、それより!チーム名を決めるんでしたよね!?」

「十文字戦隊・ハラウンジャー!!出動ーーっ!!」


結局、その後の言い合いでは決着がつかず、くじ引きで決めることに。

くじに不正があるかもしれないと疑った萌華が、代表でくじを引いた結果──

見事に当たりを引き当てたのは、麻璃流の提案したチーム名だった。


こうしてオレたちのチーム名は、めでたく──

“十文字戦隊・ハラウンジャー”

……という、どうしようもない名前に決まってしまったのである。

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