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第六十三話 円卓会議

更新が遅れ、大変申し訳ございませんでした!


【注意!!】

※今話は、国立十文字学園高等部祓い科担任兼精霊省特別顧問、夜太刀白亜の視線でお送りいたします。


※用語解説

・精霊大臣:日本国内における霊災から国民を守ることを目的として設置された、内閣直轄の特別機関「精霊省」の最高責任者。

 

【東京都千代田区霞が関 精霊省 最上階 第一会議室】


「──以上が、先日発生した超常級悪霊祓いの報告です。」


円卓を囲む、精霊省最上階の第一会議室。

白光を反射する大理石の床は、まるで舞台のように冷たく、緊張の空気が張り詰めている。

ここで──定例の報告会が行われていた。


報告を終えた俺は、自席に戻り、腰を下ろす。


「ご苦労。」


正面に座るのは、精霊省のトップ。

“精霊大臣” ──“田中“ 十兵衛(じゅうべえ)

そう、俺のかわいい生徒──田中刹那の“養父”でもある。


「学生たちはまだ、超常級すら祓えないのか……」


その左隣に座るのは、副大臣── 雨垂(あまだれ) 女々子(めめこ)

大臣のような人情味はなく、冷徹で融通の利かない女だ。


「白亜、わかっているな?

 初代以降初めて、同時期に全精霊刀剣の使い手が揃ったんだ。

 だから、絶対にこの機会を逃すなよ?

 必ずあの”三大悪霊“を祓い、この悪霊時代に決着をつけるんだ。

 そのためにも、早くあの子たちを使い物にしろ。

 わかったな?」


……はい、出ました。

雨垂副大臣の、耳にタコができるほど聞き飽きたテンプレ台詞。


──ったく、毎回それを言わなきゃ気が済まねえのか。


何度でも言うが、あいつらは“物”ではない。

俺にとって、あの子たちは大事な“家族”だ。


──人を道具扱いすんじゃねえよ、くそったれ!……と、言ってやりところだが──大臣とは違い、この女は話が通じない。

人の情を切り捨ててばかりで、結果しか追い求めない──まさに結果至上主義者。

そんな考え方しかできないこの女を、俺はどうしても好きになれない。


──だが、聞いたことがある。

昔の彼女は温厚で、人情深く、誰にでも優しかったらしい。

結果よりも過程の努力を大事にし、よく人を褒めていたとか。

今の姿からは、到底想像できない。


霊災で、一人息子を失った日を境に……まるで人が変わってしまったのだそうだ。


──俺もまた、喪失に心を裂かれた人間だ。

大切な人を失えば、人は変わらざるを得ない──その現実を、身をもって知っている。

だから、副大臣が変わってしまったのも仕方のないことだと、心のどこかで理解できる。


「ガハハハッ!!

 まあまあ、雨垂副大臣!

 そんなにカリカリなさらずともよいではありませんか!

 まずは白亜が、超常級をきっちり祓って──今回も無事に生きて戻ったことを、褒めてやるべきでしょうぞ!

 しかも聞けば、一般人の被害は“ゼロ”だったとか!

 さすがだな!歴代最強の祓い士!!」


豪快な笑い声で場を和ませ、険悪な空気を吹き飛ばしたのは──石川警備科長。


「いや〜、ヒアリングしましたよ、白亜さん。

 本来ならこの定例会、月初のキックオフと、超常級祓い直後──その2スパンでアサインされるはずですよね?

 なのに今回は、後ろ倒しリスケ。

 なぜかと思えば、祓い科で“大運動会”とかいうノンコアなアクティビティをローンチしていたとか。

 そのオフサイト感にインパクトされて、この定例会をポストポーンするようリクエストした……そういうことですよね?

 でも正直、それはガバナンス的にナンセンス。

 あまり生徒たちにエモーショナルにコミットして、リソースをオーバーアロケートするのはリスクですよ。

 だって、彼らはどうせ──すぐにデッドラインを迎えてしまうんですから……」


ねっとりと舌を這わせるような、意識高い系コンサル喋り口調で、冷たく言葉を突き刺したのは──山下管理科長。


──相変わらず、なに言ってるか全然わかんねえ。

英語なら英語で。日本語なら日本語で話せ。中途半端が一番むかつく。

ぶん殴っていいか、こいつ?


──当然この場には、精霊省の幹部たちも会議に参加している。

副大臣の左隣から順に──


・通信指令科科長──山崎(やまさき) 歩世(ほせ)

(悪霊の霊気を探知、あるいは霊災通報を受理し、十文字学園に伝達する、“通信指令科”の最高責任者。)


・広報科科長──(もり) 嶺南(れいな)

(通信指令科からの連絡を受け、SNSやメディアを通じて世間への注意喚起及び情報発信を行う、”広報科“の最高責任者。)


・防犯科科長──池田(いけだ) 大真(だいま)

(霊力を用いて悪事を働く人間を取り締まる、”防犯科“の最高責任者。)


・精霊省特別顧問(兼国立十文字学園高等部祓い科担任)──俺、夜太刀 白亜

(”特別顧問“の名の通り、現場で得た悪霊の知識を提供、精霊刀剣の使い手の人材育成など、その役割は多岐に渡る。……これも何度も言うけど……過労死レベルの労働量だよね?)


・分析科科長──橋本(はしもと) 陽毬(ひまり)

(発生した悪霊の能力や性質、行動傾向などを分析する、“分析科”の最高責任者。)


・教育科科長補佐──阿部(あべ) 乃々乃(ののの)

(国立十文字学園の生徒教育と管理を行う、“教育科”の科長補佐(No.2)。)


・警備科科長──石川(いしかわ) 修造(しゅうぞう)

(警察庁や防衛省等と連携し、総理などの重要人物を悪霊から守る、“警備科”の最高責任者。)


・管理科科長──山下(やました) 豪勝(ごうしょう)

(持ち主未定の精霊刀剣の保管・護衛管理を担当する、“管理科”の最高責任者。)


──バンッ!!


机を叩きつける轟音が、会議室の空気を震わせた。

怒気を隠そうともせず立ち上がったのは、雨垂副大臣だ。


「”大運動会“……だと!?

 そんな遊んでいる暇があったら、あの子たちをもっと鍛え上げろ!!

 ”大精霊モード“にもなれて、“超常級”を祓えるようになったのは、まだ山本しかいないじゃないかっ!

 そんな調子で、さらに上の霊格……”神霊級“の”三大悪霊“を相手にできると思っているのか!

 いいかっ!悪霊の根絶!そして、この悪霊時代を終結させる!

 この機を逃したらもう二度と、私らの悲願を果たすことはできないのかもしれないのだぞっ!」


鬼の形相で睨み据える副大臣。

だが、俺も負けじと口を開く。


「遊んでいるわけではありません。あの子たちは、まだ高校生です。

 “悪霊祓い”のような非日常ばかりに身を置き、常に緊張状態では心が壊れてしまいます。

 だからこそ、普通の高校生活を送り、仲間と笑い合う日常も必要なのです。

 心配ご無用。

 三大悪霊を相手にするのは俺ですし、それに全員──皆さんが思っている以上に成長しています。

 ……とはいえ、個人だけで力を伸ばすのには限界があります。

 今の彼らにとって大事なのは、周囲からの刺激を受け、互いに影響し合い、切磋琢磨しながら成長していくことなのです。」


俺は力強く、しかし静かに言い切った。


「そそそそうですよっ!

 こここ今回の件だって、一般人に一人の犠牲者も出なかったのは、祓い科の生徒たち、そして精霊科の生徒たち全員が、それぞれの役割を立派に果たしたからです!

 いいい一歩ずつかもしれませんが、みんな着実に成長しています!

 みみみみなさん、それをどうか……おおおお忘れなきように!」


阿部教育科長補佐が必死に声を張り上げた瞬間、会議室には沈黙が落ちた。

誰も言葉を発せず、副大臣の顔色をうかがう。

山下管理科長は視線を逸らし、橋本分析科長は小さくため息をつき──石川警備科長は腕を組み、口元にニヤリと笑みを浮かべていた。


「そう言うけどな──

 あの桜蘭々を超える実力を持ち、今や“蕪島の英雄”などと称される高橋心ニでさえ……それと同等の力を誇った佐藤金翔でさえ、あっさりと命を落としたんだぞ。

 そんな悠長に構えて、本当に大丈夫なのか?」


低く唸るように言ったのは、池田防犯科長。

その声には、現場で悪を取り締まってきた男の重みが宿っていた。


「そうそう。」


続けたのは、山崎通信指令科長。


爆覇無惡屠(ばはむうと)の封印が万が一解けた場合に備え、精霊刀剣の使い手の中でも特に優秀な人材を選抜し、常に八戸校に配属していたというのに……まさか、あんなにもあっけなく殺られるなんて、想定外だったわ。」


会議室の空気がさらに張り詰める。

その沈黙を断ち切るように、冷ややかで鋭利な刃のような声が響いた。


「そして今や、その爆覇無惡屠(ばはむうと)をインストールしている佐藤銀河が……ここ、東京というロケーションにステイしている。」


山下管理科長は、ここぞとばかりに、耳に絡みつくような粘り気を帯びた声で続ける。


「これは……危険なシグナルですよねぇ。

 リスクヘッジの観点から申し上げれば、やはり今のうちにあの小僧を“処分”しておく……

 それもまた一つのソリューションでは?」


銀河処分肯定派の一人、山下管理科長のその発言をきっかけに、またしても“銀河問題”の議論が再燃。

──しばらくの間、白熱していた。


「・・・」


無言で冷静に場を観察しているのは──保守派の一人、橋本分析科長。


「みな、やめんか!!」


精霊大臣・田中十兵衛の一喝が、雷鳴のように会議室に轟いた。

机上のペンが微かに震え、空気が押し潰されるかのように沈む。

その声に、全員が思わず背筋を正した。


「田中大臣っちの言うとおりだし!とりま、みんな落ち着こ?って感じ〜!

 つかさ、そろそろ次の議題にいくっしょ!」


司会役の森広報科長が、キラッキラにデコられた長い爪でリモコンを操作すると、モニターの映像が切り替わる。

そこに映し出されたのは──


「え、なにコレ……?もしかして……

 田中大臣っち、ま〜たやっちゃった系!?

 ガチおもろすぎ!マジでワロタ〜!草生えるんだけど!」


画面に映っていたのは──中等部時代の刹那の写真だった。


「ふっふっふっ。

 次の議題は……これじゃ!

 “刹那ちゃんのかわいいところを100個あげてみよう!”

 さあ皆の者、見てくれい!儂のかわいい愛娘を──!」


高らかに宣言する精霊大臣。


だが、写真の刹那は──全くの無表情。

いや、まるで“感情を持たぬ生き物”のようにすら思えるほどの──虚無であった。


「これはのう、刹那ちゃんが初めて儂の家に来おった時に撮った写真でしてな♡」


──はぁ……まーた始まったよ、このおっさん。


「そしてこれが、中等部の卒業式の日の写真じゃ♡

 忘れもしない……この日、初めて刹那ちゃんが儂のことを『お父様』と呼んでくれてのぅ……うっ!」


大臣は感極まり、目尻を押さえてハンカチで涙を拭い、さらにポケットからティッシュを取り出すと、盛大に鼻をかんだ。


──その後もしばらく、大臣の“養娘(刹那)自慢”が、デレデレ顔と共に続く。


「大臣、養娘自慢はその辺でお願いします。

 森科長、早く次の議題を。」


冷徹な声で、雨垂副大臣がばっさりと話を切る。


「そんな……まだ刹那ちゃんのかわいいところを、60個ほどしか言えておらんのじゃが……」


肩を落とし、しょぼくれる大臣。


「まあ……また次の機会にしようかのぅ。

 ──ところで、白亜。」


突如、大臣の表情が引き締まる。


「十文字学園長は、今回も参加されないのか?」

「みたいです。いつも通り──

 『エロは世界を救う』

と、言伝だけ預かっております」


幹部連中の反応は、いつも通り──無言。

そして──これまたいつも通り、会議室は一瞬で凍りついた。


──毎度毎度勘弁してくれよ……俺がすべったみたいになってるじゃねぇか……


“精霊省教育科科長”兼“国立十文字学園学園長”を務める十文字学園長を、俺を含め見た者は誰もいない。

教育科のNo.2である阿部教育科長補佐でさえ、精霊大臣ですら、その姿を見たことがないのだとか。

噂によると、十文字学園長と出会ったら最後……存在を消されるらしい。

つまり、その素性はすべて謎に包まれた、極めて不思議なお方というわけだ。


「そうか……じゃあ儂からもいつも通り──

 “刹那ちゃんに手を出したら殺す”とだけ伝えておいてくれ」

「は〜い」


これもまた、いつも通りのやりとり。

会議室の空気がさらに張り詰め、誰も息を飲み、重苦しい沈黙が続く。


「そういえば今、”お台場“と”渋谷“、そして”高円寺“の三箇所で、上級悪霊が同時発生しているようじゃが……

 そちらの方は大丈夫なのか?」

「はい、問題ありません。

 すでに、うちの生徒を向かわせています。」

「儂の刹那ちゃんもか?」

「はい。“俺の”刹那ちゃんもです!」


俺は笑顔で答えた。


「じゃあ、今すぐにお前は刹那ちゃんの護衛に行け。

 またいつ、今回のように超常級が出てくるのかわからんのじゃからな。

 儂の娘になにかあったらタダでは済まさんぞ。」

「お言葉ですが、“彼女”はすでにもう立派な祓い士です。

 そのように過保護にしてしまいますと、“彼女”の成長を妨げ──」


その瞬間、大臣の顔が一気に真っ赤に染まった。


「“彼女”……じゃと……?

 貴様、刹那ちゃんと付き合っておるのかーーーー!?

 この淫行教師がーーーー!?」


──はぁぁ……まったく。

なんで毎回こんな茶番に付き合わされないといけないんだか……


俺は深くため息を吐いた。


──さーて……“あの面子”でチームを組んでみたけど……みんな、ちゃんと仲良くやっているかな?

後の感想が楽しみだ♪ふっふっふっ♪


たくさんの人と出会い、たくさんのことを知り、たくさん刺激を受けることで、人は成長する。

それを、ぜひ学んでほしい。

少しでも2nd STEP──”自分の心の叫びに気付くこと“。

それに気づくきっかけになれれば……


──しかし、その思いに浸る暇もなく、突如として事態は動き出した。


──バンッ!!


勢いよくドアが開かれ、重厚な音と共に、一人の女性職員が飛び込んできた。

左胸のあのワッペン──通信科の職員だ。


「大臣!会議の途中に大変申し訳ございません!大事なご報告が!」


その女性は急ぎ足で駆けてきたためか、呼吸は乱れ、額に汗が滲んでいた。


「なんじゃ?」

「つい先ほど、豊島区内で──

 “(やまい)の大悪霊”の霊力が探知されました!」

「な、なんじゃとぉぉぉ!?」


会議室が一斉にざわめきだす。緊張が走る。


「ですが、すぐにその反応は消失!被害は一切出ておりません!」

「そうか……場所はどこじゃ?」

「はい、“豊島池袋病院”です!

 そこでほんの一瞬だけですが、確かに“病の大悪霊”と思われる悪霊の霊力を探知いたしました!」

「……“霊力”とな?“霊気”ではなくてか?」

「はいっ!霊力ですっ!!」

「おぉおぉおぉ……!

 霊気じゃなくて霊力が探知されるとは……!それじゃあ、霊法を使ったということじゃないか!?

 ……ん?じゃが、被害は出とらんとな……?」

「そうですっ!人的、物的……いずれも被害は確認されておりませんっ!」

「ほほぅ……妙じゃのう。力を使ったのに、被害がないとは……」


全員が不思議そうに顔を見合わせ、息を飲む。


「白亜っ!」


精霊大臣が突如、鬼の形相で俺を見据えた。


「はい。今すぐに豊島池袋病院に向かいます。」


俺は立ち上がり、すぐさま会議室を出ようとした。


胸の奥で、鼓動が速まるのを感じる。

ついに──この瞬間が来たのだ。


「白亜さん。分析科からも現場に職員を派遣いたします。

 連携してお願いしますね。」


橋本分析科長の冷静な声が背中に届く。

俺は軽く頷き、颯爽と会議室を後にした。


──ようやく……やっとだ。やっと、この時がきた。

俺が……俺が必ず、お前を祓ってやる!


三大悪霊が一柱──


(やまい)の大悪霊──


霊母(れいぼ)No.(ナンバー)(れい)

※キャラクター紹介

プロフィール

名前:田中 十兵衛

年齢:58歳

身長:188cm

体重:108kg

職業:精霊大臣

性格:ドウコン(ドウター(娘) コンプレックス)

一人称:「わし

好きな食べ物:団子や煎餅などの和菓子

最近気になっていること:刹那の人間関係、刹那の学校生活、刹那の日常生活、刹那の……他多数。


「ep.19  第十話 フジコ公園の戦い」から始まりました【同校舎交流編】でしたが、これにて終了となります。

いかがでしたでしょうか?


次話からは新編をお届けします。

“同校舎”とくれば、もちろん次は……


【異校舎交流編】


どうぞお楽しみに!!

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