第六十一話 第二回戦・AX③
【注意!!】
※今話も、国立十文字学園高等部八戸校祓い科一年、鈴木牙恩の視線でお送りいたします。
第二回戦 AX(AOMORI X)
AX:First Person Shooter(略称FPS)形式の、チーム対戦型バトルロワイアルゲーム。
FPSゲーム:プレイヤーの操作するキャラクターが、一人称視点でゲーム画面に表示されるシューティングゲーム。
基本ルール
・形式:チーム戦によるバトルロワイアル制
・チーム構成:1チーム3名
・参加チーム:計9人の全3チーム(本来のAXは、計60人の全20チーム)
・勝利条件:最後まで生き残ったチーム(尚、今回はキル数やダウン数は順位に影響しない)
ゲームの流れ
①キャラクターを選択
②ジャンプマスターが降下地点を決定、マップに降下して装備を収集
③他チームと戦い、最後まで生き残る
ゲーム用語解説
・ダウン:プレイヤーが戦闘不能状態になること。
・蘇生:ダウンした味方を回復して戦線復帰させる行為。
・キル:敵をダウン状態から完全に戦線離脱させること。
・リスポーン:キルされた味方を、リスポーンポータルにより再登場させること。
・リング:時間経過で縮小していく安全地帯(範囲外ではダメージを受ける)
・ウルト:キャラクター固有の、必殺魔法(クールタイム有り)
・スキル:キャラクター固有の、状況に応じて使える魔法(クールタイム有り)
・クールタイム:ウルト、スキルが使えるようになるまでの所要時間
【AX 森林ステージ(最終リング)】
「大丈夫、天嶺叉?回復アイテム足りてる?」
「い、いえ……シールドの方は切れてしまって……」
「はいこれ、シールドバッテリー(シールド回復アイテム)」
「あ、ありがとうございます!」
「さっき交戦してたチーム、別パに潰されたみたいね
今、誰がクレイジー(AX最強武器)を持ってるか分からないから、気をつけて
頭抜かれたら、さっきみたいに一発で即ダウンしちゃうから」
ダウン状態から復活したのはセラフィム。となると、あれが天嶺叉さんか。
「了解です!」
天嶺叉さんのキャラクター「セラフィム」は、聖属性、シールド回復特化のヒーラータイプの魔法使い。
ウルト“セラフィック・レイン”は、自身の一定範囲内にいる味方のシールドを継続回復させる聖属性の必殺魔法。
スキル“ブレス・オブ・ライト”は、味方一人のシールドを即座に半分回復させることができる。
じゃあ、その隣で回復アイテムを渡したのは麻璃流さんだな。
「さて……ポジション的には不利だけど……」
麻璃流さんのキャラクター「パラディア」も同じく聖属性で、こちらはHP回復特化のヒーラータイプの魔法使い。
ウルト“ホーリーフィールド”は、回復領域を展開し、その領域内にいる間、HPを継続回復させる聖属性の必殺魔法。
スキル“ヒーリングショット”は、回復弾を撃ち、味方に当てることで少しHPを回復させることができる。
じゃあ──
さっきからずっとぼくに当たっているレーザーの正体は……刹那さんだな。
「さあ、いつでも来なさい……
わたくしのガトリング銃が、火を噴きますわよ……!」
刹那さんのキャラクター「アルクレア」は、火属性のアタッカータイプの魔法使い。
ウルト“ソーラーレイ”は、チャージ式の高威力ガトリングレーザーを放つ火属性の必殺魔法。
スキル“リフレクター”は一定時間、攻撃魔法を反射できるバリケードを展開する。
「牙恩、どうする!?最終リングがもうそこまできてるよ!」
「少々お待ちを…… 今、一人落とします」
ぼくはクレイジーを構え、セラフィム(天嶺叉さん)をロックオン。
セラフィム(天嶺叉さん)は、右にトコトコ……左にトコトコ……
一定のリズムで、左右交互に体を揺らすように歩いていた。
銃声が飛び交い、緊迫感が張り詰めるこの最終リングの中で、まるで“戦場”という言葉を知らないかのような、のんびりとした足取り。
身をかがめるでもなく、スライディングもジャンプもない。
ただ、左右に歩くだけ。それも、完全な等間隔で。
そう、まさしく──とてもかわいらしい初心者の動きだった。
戦場での生存技術や、撃たれないための意識はまだ追いついていない。
けれど、ぎこちないその動きからは、不思議と伝わってくるものがあった。
緊張、あるいは、必死さ。あるいは、仲間のために何とか立ち回ろうとする意志、必死にみんなに追いつこうとする強い意志。
だからこそ、胸がチクッと痛む……が、ここは戦場だ。
ぼくは心を鬼にし、動きに合わせてそっと狙いを定め、クレイジーを撃ち放った。
バンッ!!
──ヘッドショット。
セラフィム(天嶺叉さん)ダウン。
「一人抜きました!一気に詰めましょう!」
『了!』
ぼくたちは崖を滑り降り、一気に距離を詰めた。
しかし──
「なっ……!?なんだ!?このパラディアの動きは!?」
「全然弾が当たらん!!」
謙一郎さんも、銀河さんもパラディア(麻璃流さん)に狙いを定めて撃ち込むが、まるで当たっていない。
パラディア(麻璃流さん)は横にジャンプしたり、スライディングしたり、壁ジャンしたりしてうまくかわしていた。
「こ、これは……キャラコン!?
この動き……もしや上位ランク勢か!?」
“キャラコン”とは、“キャラクターコントロール”の略で、 射撃精度やエイム力とは別に、キャラクターをうまく動かして相手を混乱させたり射線を切ったりする操作技術のことだ。
その種類は、“スライディングジャンプ”(ダッシュ中にしゃがみ → ジャンプ)や“壁ジャンプ”(壁に向かってジャンプ → 壁に触れた瞬間にジャンプ)、”バニーホップ“(スライディング中に連続ジャンプを繰り返す)など多岐にわたる。
今紹介したのは、あくまで基本的なキャラコンにすぎない。
キャラコンとは、そもそも“補助的な操作”に過ぎない──はずだった。
上位ランク勢ともなると、話はまるで違ってくる。
彼らのすごさは、エイム力(照準を正確に合わせる力)が優れているだけじゃない。
圧倒的なキャラコン。
その一挙手一投足が、“補助”ではなく“主戦力”に昇華されている。
動きに一切の無駄がなく、自然で、なめらか。
そして何より恐ろしいのは、それを攻撃と“同時に”やってのけることだ。
敵の攻撃をギリギリでかわす回避の動き、弾を避けながらの正確な射撃、わざとジャンプして視界から外れ、反撃するフェイント。
まるで、戦場をダンスフロアにでもしているような、しなやかで予測不能な動き。
攻撃と回避、そのすべてが一体化している。
そうなると──いくら狙っても、弾は当たらない。
照準を合わせたつもりが、スライディングで横にズレ、ジャンプしたと思ったら、壁に当たって方向を変え、視界の端から突然撃たれる。
「動きを読めない」どころか、そもそも“見えない”のだ。
銀河さんのように、そこそこ経験を積んでいても追いつくのは難しい。
まして、今日始めたばかりの謙一郎さんのような完全な初心者勢にとっては……
その動きを目で追うことすら、ほぼ不可能。
キャラクターがぬるぬると滑るように動き、当たるはずの弾がすり抜けるように外れていく。
「なんだこの動き……!?」
そう思った時には、もうやられている。
まるで、見えない壁を相手にしているような無力感。
それが──
上位ランク勢のキャラコンという壁だった。
「これはもう……バサマス(バーサーカー+マスター)レベル!?」
「ほう……そこに気づくとは……がっくんも中々の猛者とみた……
実はね、あたしと刹那さんは……
過去に一度だけマスターを踏んでいるんだよねー♪へっへっへっ♪」
「ま、まじですか!?」
謙一郎さんと銀河さんは、パラディア(麻璃流さん)のキャラコンの動きに翻弄され、あえなくダウン。
「すまん!やられた!」
「おれも!だけど、なんとかシールドは割ったよ!」
「了!」
──戦況は2対1。
しかし、ぼくはなんとかキャラコンの動きを追い、謙一郎さんと銀河さんが追い詰めたパラディア(麻璃流さん)をダウンさせた。
「やった!」
「くっそーー!まさかこの動きについてくるなんて!
しかもこの状況でクレイジーを腰撃ちしてくるとか、なんてメンタル……!
ごめんなさい刹那さん!レヴィン割れてません!」
最後は……レヴィン(ぼく)とアルクレア(刹那さん)の1v1。
最高でもルビーランクのぼくが、過去とはいえマスターランクになったことがあるこの人に勝てるのだろうか。
いや、1v1だけならぼくにも自信はある。
──必ず、勝ってみせるぞ!
「大丈夫ですわ!後はわたくしにお任せください!
ウルト発動──
ソーラーレイ!!」
ガトリングレーザーが火を噴き、無数の弾丸が迫る。
バリンッ!
レヴィン(ぼく)のシールドが割れた。
「やばっ!!」
アルクレアのウルトは、正面からの攻撃では全キャラクターの中でも一番の火力を誇る性能を持っているが、横の動きには弱い。
ならば──
「ウルト発動──
バースト・サンダー!!」
ぼくはアルクレア(刹那さん)目掛け、避雷針を投げつけた。
バリンっ!!
避雷針を中心として発生した雷撃により、アルクレア(刹那さん)のシールドも割れる。
アルクレア(刹那さん)は、ぼくのウルトの効果範囲から離脱を測る。その間にぼくは素早く側面へ展開。
「やりますわねっ!……ですが、ウルトだけに頼るわたくしではありませんわよ!」
アルクレア(刹那さん)は迷いなくガトリング銃を手放し、ショットガンに切り替えた。
「ぼくだって!!」
ぼくも同時にショットガンを構える。
──お互い、シールドはすでに砕け散っている。
残るは、HPのみ。
「はああああああああああっ!!」
「やああああああああああっ!!」
両者の“魂の叫び”と同時に、ショットガンの銃声が炸裂する。
至近距離。反動で視界が大きく跳ね、画面が揺れる。
バンッ──バンッ──バンッ!!
ショットガン同士の打ち合い。
わずか数メートルの距離で、削り合いが始まった。
レヴィン(ぼく)の弾が、アルクレア(刹那さん)のボディにヒット。
相手もすかさずやり返してくる。
「ぐっ……!!」
「くっ……!!」
HPバーはお互いほぼゼロ。赤く点滅する体力ゲージ。
もう、考える余裕なんてない。
遮蔽もない。撃つしかない。
目の前の敵を──絶対に落とす。
ラストショット。
引き金を、渾身の思いで引いたその瞬間──
画面に表示されたのは、無情な文字だった。
──“部隊全滅”
そう……ぼくは……
敗北してしまった。
ほんの一瞬、静寂が訪れる。
全身の力が抜けていく。
握っていたコントローラーが、汗でじっとりと濡れていた。
──悔しい。
あと一発──
あとコンマ一秒早く撃てていれば、勝っていたのは、ぼくだったかもしれない。
でも、それでも……負けた。
頭では理解しているのに、心がなかなか追いつかない。
画面を見つめたまま、息を呑み、現実を飲み込もうとしていると──
「うおおおおおっ!!
すげー!!すげーな!!」
白亜先生が、まるで子どものように目を輝かせて叫んだ。
まるで敗者すら讃えるような、純粋な歓声だった。
その声で、ふっと肩の力が抜けた。
悔しさと同時に、どこか心地よい充足感が胸に広がっていく。
「ふぅ……すみませんでした、謙一郎さん、銀河さん」
ぼくはヘッドホンを外し、深く頭を下げた。
「なに言ってるんだよ!すごかったぞ、牙恩!」
「ほんとだよ!!よくあんな、わけわかんない動きについていけたね!?」
「え……?うわっ!ちょっ……!?」
謙一郎さんも銀河さんも、笑顔でぼくの頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。
試合に負けても、二人は負けを責めない。
それどころか、こうして称えてくれる。
そのあたたかさに、胸の奥が熱くなった。
本当にぼくは、良き先輩に恵まれたと改めて思う。
「いい試合でしたわ!」
「NGだったよ!がっくん!」
「す、すごかったです……!」
刹那さんと麻璃流さん、天嶺叉さんもヘッドホンを外し、ゆっくりと歩み寄ってきた。
敗者のぼくを、勝者である三人が真っ直ぐに見つめ、言葉をくれる。
まるで、戦士同士が互いを認め合うように。
「まさか、お二人がマスター経験者だったとは……恐れ入りました」
「まあ、もう一年くらい前の話だけどね〜!
でも、1v1見てた感じ、がっくんもバサマス帯にいても全然おかしくないほどうまかったよ?」
「えっ!?本当ですか!?」
「本当本当!立ち回りも良かったし、エイムも正確だったし……
ね、今度あたしたちと一緒にランク回ってみない?
なんだか今回ので、またランクやりたくなっちゃったんだよね〜♪」
「ぜ、ぜひお願いします!!」
夢のような誘いに、思わず即答してしまった。
さっきまでの悔しさが、少しずつ、温かな誇りに変わっていく。
ぼくたちはお互いの健闘を讃え合い、笑顔でしっかりと握手を交わした。
その光景を、白亜先生が目を輝かせながら見つめていた。
「すげーなぁ……!かっこいいなぁ……!
俺もあんな風に動けたら……よしっ!
練習あるのみだっ!」
白亜先生が再びコントローラーを握り、気合いを入れてゲームを起動しようとしたが、
「白亜ちゃん、解説解説」
「あっ……はいはい、コホン!」
愛淫主審に促され、白亜先生はコントーラーを置き、実況用のマイクを手に取った。
「いや〜〜、全チーム本当に素晴らしい戦いを見せてくれました!
しかし、この激闘を制し、チャンピオンとなったのは──
神戸校チーーーーーーム!!」
『イエーーイ♪』
パンッ!
神戸校チームがハイタッチを交わし、他のチームは惜しみない拍手を送った。
こうして──
“青春だよ!全員集合!大運動会!”
その第二回戦・AXは──
第一位:神戸校チーム
第二位:八戸校チーム
第三位:東京校チーム
という結果で幕を閉じた。
【ホワイトボード】
⭐︎⭐︎⭐︎青春だよ!全員集合!大運動会!⭐︎⭐︎⭐︎
全三回戦による総合ポイント制
第一位:3pt
第二位:2pt
第三位:1pt
種目発案者(くじ引きにより、各チームから一種目を採用)
・東京校チーム:桜蘭々「総合格闘技」/是隠「3on3 」/萌華「ダンス」
・八戸校チーム:謙一郎「マラソン」/銀河「テニス」/牙恩「AX」
・神戸校チーム:刹那「フィギュアスケート」/麻璃流「大食い競争」/天嶺叉「かくれんぼ」
第一回戦 3on3
第一位:東京校チーム(不戦勝) 3pt
第二位:無し
第三位:無し
失格:八戸校チーム・神戸校チーム 0pt
第二回戦 AX
第一位:神戸校チーム 3pt
第二位:八戸校チーム 2pt
第三位:東京校チーム 1pt
第三回戦
第一位:
第二位:
第三位:
総合順位(暫定)
第一位:東京校チーム 4pt
第二位:神戸校チーム 3pt
第三位:八戸校チーム 2pt
♡優勝賞品♡
超高級焼肉or寿司食べ放題(銀座or六本木)
みんな大好き♡白亜先生からの奢りだよ♡キャピキャピ♡