第五十九話 第二回戦・AX①
【注意!!】
※今話は、国立十文字学園高等部八戸校祓い科一年、鈴木牙恩の視線でお送りいたします。
第二回戦 AX(AOMORI X)
AX:First Person Shooter(略称FPS)形式の、チーム対戦型バトルロワイアルゲーム。
FPSゲーム:プレイヤーの操作するキャラクターが、一人称視点でゲーム画面に表示されるシューティングゲーム。
基本ルール
・形式:チーム戦によるバトルロワイアル制
・チーム構成:1チーム3名
・参加チーム:計9人の全3チーム(本来のAXは、計60人の全20チーム)
・勝利条件:最後まで生き残ったチーム(尚、今回はキル数やダウン数は順位に影響しない)
ゲームの流れ
①キャラクターを選択
②ジャンプマスターが降下地点を決定、マップに降下して装備を収集
③他チームと戦い、最後まで生き残る
ゲーム用語解説
・ダウン:プレイヤーが戦闘不能状態になること。
・蘇生:ダウンした味方を回復して戦線復帰させる行為。
・キル:敵をダウン状態から完全に戦線離脱させること。
・リスポーン:キルされた味方を、リスポーンポータルにより再登場させること。
・リング:時間経過で縮小していく安全地帯(範囲外ではダメージを受ける)
・ウルト:キャラクター固有の、必殺魔法(クールタイム有り)
・スキル:キャラクター固有の、状況に応じて使える魔法(クールタイム有り)
・クールタイム:ウルト、スキルが使えるようになるまでの所要時間
【国立十文字学園高等部東京校 五階 情報室】
「すみません、愛淫主審!」
「ん?どうしたの、牙恩ちゃん?」
これから始まる「第二回戦・AX」の準備を進めていた愛淫主審に、ぼくは思わず声をかけた。
「あの、ここの電波は……
死んでいますよね?」
ポカンッ!
すかさず隣にいた謙一郎さんに、軽く頭を小突かれる。
「なにを言っとるんだお前は」
「だって見てください!……ほらっ!!キャラの挙動、完全に紙芝居ですよ!?
動きがカクッ、ピタッ、カクッ、ピタッ、カクッ、ピタッ……
平均Ping220ms(ミリ秒)、パケットロス3%、しかも時々スパイクで400超えるとか……
地獄のLANパーティーか何かですか!?」
「第一回戦・3on3」を終えたぼくは、体育館からPCがずらりと並ぶ情報室へと一足先に移動。
PC、そしてゲームを起動し、試しに射撃訓練場に入ってみたのだけれど……
キャラはまるでリアルタイムから取り残されたかのように動きがカクカク。
もうこれ、プレイというよりスライドショー。
謙一郎さんが眉をひそめた。
「ちょっと待て!
“Ping”とか“スパイク”だとか、オレにはサッパリなんだが……」
「おっと、失礼しました!では、簡単に解説いきます!」
ネットやPCに詳しくない人向けに、ぼくはざっくり説明を始める。
「まず、“Ping”っていうのは、ネットの“反応の速さ”のことです
FPSみたいに一瞬の判断で勝敗が決まるゲームだと、理想は30ms以下(=0.03秒)
今は220ms……つまり、0.2秒以上の遅れがありますね
FPSでこれはもう、撃ち負け確定になります」
「0.2秒って聞くと一瞬に思えるが……」
「FPSは0.1秒の差で勝負が決まる世界です
音ゲーで0.2秒ズレてたら、全部“MISS”になるじゃないですか?
FPSはそれ以上にシビアなんです!」
「音ゲーしたことないからよくわからんが、なるほど……
で、“パケットロス”ってのは?」
「データの一部がネットの途中で迷子になっちゃう現象ですね
今は3%ロス……ってことは、100発撃って3発が勝手に消えるってことです!」
「いやそれ、銃撃戦としてダメだろ……」
「その通りなんです!そしてさらに厄介なのが“スパイク”!!」
気づけば、ぼくは身振り手振りを交えながら熱っぽく解説していた。
「スパイク?」
「普段でもラグいのに、たまにPingが一気に400ms以上に跳ね上がる現象です
タイムスリップするみたいに、敵がワープしてきたり、自分の弾が空振りしたり……
いわば、“ラグの爆発”です!」
「もはや戦場というより、異世界転移だな……」
「そうなんです!これ見てください!
撃つたびに0.3秒くらい遅れて当たるんですけど、予知能力でも試されてるんじゃないかってレベルですよ!?」
──0.3秒って、たかが0.3秒でしょ?
いやいや、FPSではそれだけで命取り。
FPSでは“撃つのが遅い=即死”なのだ。
「ネットが重い原因はいろいろありますけど、大体は回線ですね
一応、情報室の中を調査してみます!」
ぼくは部屋の隅から隅までチェックを開始した。
「うーん……有線じゃないな、Wi-Fi使ってる……
SSIDが“JUMONJI-PRINCIPAL-5GHz”……うわ、地味にダサい……」
机の下に潜り込み、ケーブルを追っていく。
やがて、ごちゃっとした電源タップの中から、目的のブツを発見。
「あった!……って、これ……!?」
ゴクリと唾を飲んでから、ぼくは断言した。
「見ればわかる、しょぼいやつやんっ!」
そこにあったのは、5年以上前の某社製ルーター。
アンテナ内蔵の廉価版で、スペック表には「最大通信速度866Mbps(理論値)」の文字。
「謙一郎さん、見てくださいこれ!」
謙一郎さんが覗き込む。
「すまんが、見てもわからん……理論値ってなんだ?」
「“理論値”ってのは、誰も使ってない、障害物もない、理想状態での数字なんです!
実際はその半分も出ないし、複数人で使ったらガクッと落ちます!」
「でも“866”って、数字だけ見れば速そうじゃないか?」
「速そうにみえますけど、でもそれはスペック詐欺みたいなもんで……
このルーターは“IEEE802.11ac”って規格には対応してますけど、中身が時代遅れなんです
処理能力も通信制御も完全に時代遅れだぁ!」
──わかりやすく言えば、最新の3Dゲームを5年前のスマホで動かそうとしてるようなもの。
ハードの性能が追いつかず、止まるのも当然。
「たぶん校舎全体で回線を共有してますし、QoS(通信の優先度)の設定もしてないでしょうね……
これじゃあ、FPSなんて無理ですわいっ!!」
「そ、そうなのか……」
「AXやるなら最低でも──
1Gbps回線 + 低遅延ルーター + 有線LAN
これが鉄則です!」
「も、もうだめだ……語彙がガチすぎて、脳が処理落ちしそうだ……」
謙一郎さんが、ゆっくり白旗をあげた。
その横で、愛淫主審が「うーん」と首をかしげる。
「ネット環境に関しては、この部屋……というより、この校舎全体が“通信指令室”に全振りしてるから、その影響かもね」
ぼくは全力でうなずく。
「絶対それです!
たぶんそこに帯域(通信の通り道)を全部吸われてます!
VPN通してるのかってくらい、遅延の仕方が不自然ですし!」
──ちなみに“VPN”とは、企業がよく使う“遠隔ネットワーク”のことで、セキュリティは高いけど、通信速度はガクッと落ちることが多くてリアルタイム通信には向かない。
今のこの遅さは、まさにそれ。
「まあ、そもそもここでまさかFPSゲームをやるなんて想定してなかったから、仕方ないっちゃ仕方ないんだけどね!
とりあえずちょっと待ってて!別の回線に切り替えてみるわ!」
そう言い残して、愛淫主審は情報室を出ていった。
「AXって……ゲームじゃん!!
運動会でこんな種目ありなんです!?
もっとこう……リレーとか、大玉転がしとか、借り物競争とか……
「これぞまさしく運動会です!」っていうのじゃなくていいの!?」
萌華さんがぷりぷり文句を垂れている。
「ふっふっふっ……!
eスポーツは今や、れっきとしたスポーツなのだよ、萌華くん!」
ドヤ顔で返すのは、もちろんぼく。
「別にいいんじゃないか?
白亜先生が『スポーツ系だったらなんでもOK!』って言ってたし
それに、萌華だってダンスにしてたじゃん」
是隠さんがなだめるように言う。
「ところで、AXの経験者はどのくらいいるんだ?」
白亜先生が問いかけると、意外にも謙一郎さんと桜蘭々さんを除く全員が手を挙げた。
さすがは、年々プレイヤー人口が右肩上がりの大人気ゲーム。
「未経験者が混じっている以上、このまま開始するのは不公平か……よし!
三時間、練習時間を設ける!その後、試合を始めよう!」
先生はそう言って椅子に腰を下ろし、コントローラーを握った。
「さーて、俺も久々にプレイしてみるか♪」
「えっ!?
白亜先生もやってたんですか!?」
「たま〜にね!
ストレス解消のつもりで始めたら、逆にストレスが溜まったけどな!はっはっはっ!」
「ち、ちなみにランクは……?」
ぼくは恐る恐る尋ねた。
ま、まさか……
祓い士としてだけではなく、ゲームの方でも……
やはり──“バーサーカー”なのか!?
「ふっふっふっ……!聞いて驚くなよ、いや驚け!
なんと──“銀”だ!!」
先生は誇らしげに、胸を張って答えた。
「なんだぁ……」
AXには様々なゲームモードがある。
•デュオ(2人組×30部隊)
•トリオ(3人組×20部隊)
•ミックステープ(人気モードが1時間ごとに入れ替わるプレイリスト)
•射撃訓練場(装備やキャラの練習が可能)
などなど。
だが、なんと言っても花形はやはり“ランク”。
プレイヤーはスキルに応じてマッチングされ、パフォーマンスによって報酬が与えられる。
ランクの階級は以下の通り。下から順に、
「ルーキー」→「銅」→「銀」→「金」→「ルビー」→「アクアマリン」→「名人」→「狂戦士」。
下にいくほど初心者帯、上にいくほど猛者の領域。
特にマスター以上は全プレイヤーの中でもほんの一握り。
バーサーカーに至っては、もはや伝説の域。
つまり、どのランク帯にいるかが、その人の実力を示す明確な指標になる。
「な、なんだとはなんだ!?」
「ぼくより下じゃないですか」
……やはり、白亜先生があの“青空教室”で言ってたように、完璧な人間なんて存在しないということか。
「仕方ないだろ!
おれだってもっと上を目指したいけどさ……
精霊省にいっぱいこき使われて、ゲームする時間を中々確保できなくて……ウルウル……ぴえん……
そう、今の俺の名は“ぴえん君”」
半べそをかきながら意味わからないことをぼやく白亜先生。
「ちなみに、ぼくは“ルビー”です」
「なんだとっ……!?
抜かれてるじゃないかぁぁぁ!!」
嘆きの叫びが情報室に響き渡る。
「と、とにかく、三時間後に試合開始なっ!
それまでに操作やルールに慣れておけよ!」
こうして、各チームの練習が始まった。
「桜蘭々様!ご安心を!わたしが手取り足取りお教えいたします!」
「ありがとう萌華、よろしく頼む」
「それでは早速、銃を撃ってみましょう!
撃つにはまず構える必要があるので……Lボタンを押してみてください!」
「Lボタン……?」
桜蘭々さんは不器用な手つきで、コントローラーをひっくり返したり、じっと見つめたりしながら必死にLボタンを探している。
「はうっ!
桜蘭々様が慣れない手つきで、一生懸命Lボタンを探しておられる!
普段見ることができない……なんてかわいいお姿……!尊い……!
写真撮って、新たなコレクションに加えたい……!」
萌華さんは興奮鼻血を抑えるため、鼻をすすりまくっていた。
その光景を横目に、是隠さんは一人で黙々と射撃訓練中。
「ふふふ、死ね……ふふふ、死ね……ふふふ、死ね」
不気味な笑みを浮かべながら、ダミー人形の頭を正確に撃ち抜いている。
車の運転もそうらしいけど、AXも……
その人の本性が出るよなあ……
一方その頃──
「麻璃流さんは、あの日以降もAX続けてたんですの?」
「あの一年前の“チーター増殖事件”のことですよね?
あたしもあれ以降やめてたんですけど……
実はこの前、おもしろい新キャラが出たらしいので、天嶺叉を誘ってまたやり始めたんですよ!」
「ランクの方も?」
「さすがにそっちの方はやってないですね……チーターどもがトラウマで……」
「あれは本当にひどかったですものね……
全弾ヘッショ、出会った瞬間即死……
ううっ、思い出したら悪寒が……!」
刹那さんと麻璃流さんが、お互いの腕をさすりながら震えている。
「『天嶺叉を誘って』って、天嶺叉さんは元々やってたんですの?」
刹那さんの隣で、一人黙々と射撃訓練をしていた天嶺叉さん。
その手元は不慣れで、撃つ弾は一発も的に当たっていなかった。
「先月から……麻璃流さんに強引に誘われて始めたばかりです……」
「それじゃあ、ほぼほぼ初心者ということですわね
ルールや操作でわからないことはあります?」
「いえ、麻璃流さんから一通り教わりましたので……」
「それだけでも十分ですわ!
でしたら、最初の一時間は、チーム構成を含めた作戦会議から始めましょう
その後の一時間は、実戦形式の模擬戦
残りの一時間は、各自で射撃訓練という感じでまいりましょうか!」
『はいっ!』
士気高まる神戸校チーム。
──さて、ぼくたちも負けていられないな。
「それじゃ、一番上手な牙恩が謙一郎さんに教えてあげて!
おれは一人で練習してるから!」
「了解です!」
そう言って、銀河さんは射撃訓練場でエイム練習を始めた。
銀河さんは、まだ始めて一ヶ月の初心者。ぼくが誘って始めた。
一人ではやらないようだが、ぼくが誘うといつものってくれる。
本当に……ぼくのわがままに、いつも付き合ってくれるとても優しい先輩だ。
「くっそぉ……ちょっとやってなかっただけで、こんなにエイム下手くそになってる……
せっかくだし、感度変えてやってみようかな!
えっと、前に牙恩と見た有名配信者の“NERU J 8”さんの動画だと、4−3リニアがいいんだったっけ……
まずは設定を開いてっと……」
「・・・」
──絶対に……絶対に銀河さんだけは、ぼくが……
あの日──
精霊省のデータベースに不正アクセスして知った、衝撃の真実。
たとえ銀河さんが──
あの“蕪島事件”を引き起こした張本人だろうが。
それによって、精霊省の人たちから“鏖の子”と呼ばれ、恐れられていようが。
そして──
“三大悪霊”が一柱、”悪の大悪霊・爆覇無惡屠“ に取り憑かれていようが──
ぼくだけは……必ず……
「よろしく頼む、牙恩」
「えっ……!?」
心の中で“決意の叫び”をしかけたところに、謙一郎さんがぼくにお辞儀をし、隣に座った。
「あっ、はい!任せてください!
それじゃあまずは……そうですね、時間もあまりありませんし、実際に試合をしながら教えた方が早そうですね」
「も、もう試合をするのか!?」
「はい、そっちの方がルールや仕組みを知るのも、上達するのも早いので!
ぼくがキャリーするので、付いてきてください!」
「キャリー……うまい人に付いていくってことだな!
わかった、よろしく頼む!」
「教えながらやりますけど、途中でどんどん死んでもらって大丈夫です!
一つ一つ覚えていきましょう!」
こうしてぼくと謙一郎さんはひたすらデュオに潜り、実戦形式での練習を重ねていった。
そして、あっという間に三時間が経過。
「はーい!
時間になったから、そろそろ本番始めるぞ〜!」
“青春だよ!全員集合!大運動会!”
第二回戦・AXが──ついに幕を開ける!
【ホワイトボード】
⭐︎⭐︎⭐︎青春だよ!全員集合!大運動会!⭐︎⭐︎⭐︎
全三回戦による総合ポイント制
第一位:3pt
第二位:2pt
第三位:1pt
種目発案者(くじ引きにより、各チームから一種目を採用)
・東京校チーム:桜蘭々「総合格闘技」/是隠「3on3 」/萌華「ダンス」
・八戸校チーム:謙一郎「マラソン」/銀河「テニス」/牙恩「AX」
・神戸校チーム:刹那「フィギュアスケート」/麻璃流「大食い競争」/天嶺叉「かくれんぼ」
第一回戦 3on3
第一位:東京校チーム(不戦勝) 3pt
第二位:無し
第三位:無し
失格:八戸校チーム・神戸校チーム 0pt
第二回戦 AX
第一位:
第二位:
第三位:
第三回戦
第一位:
第二位:
第三位:
総合順位(暫定)
第一位:東京校チーム 3pt
第二位:八戸校チーム・神戸校チーム 0pt
第三位:
♡優勝賞品♡
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