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第五十六話 枕投げ大会

【注意!!】

※今話は、国立十文字学園高等部八戸校祓い科二年、佐藤銀河の視線に戻ります。


【国立十文字学園高等部東京校 学生寮10階 大広間“青”】


「うぐっ……まだ、体が若干……痺れてる……」


痺れた身体を引きずりながら、ようやく和室の敷居を跨いだ。

その背後には、おれと同じくボロ雑巾のようになった男子三人組が、列を成して這うように続く。


原因はもちろん、男湯での——


“雷獣の桜蘭々”による無慈悲の雷撃制裁だった。


ともあれ、ここがおれたちが今夜から共同生活を送ることになった大広間、その名も“(あお)”。

つい数時間前に突如として爆誕したばかりの、新設・男子専用大部屋らしい。


とはいえ、“大広間”とは名ばかりで、部屋自体は10畳程度の縦長和室。

布団四つ敷いたらもうほぼ満室、というやや過密設計である。


もともと10階は、八戸校の学生寮と同様、部屋は全て個室だったと是隠から聞いている。

だが、歓迎会終了後の、あの白亜先生の電撃宣言が、すべてを変えた——


─────────────────────────────────────


【国立十文字学園高等部東京校 屋上】


「さて、今日からお前たちは——

 同じ屋根の下で、同じ釜の飯を食う仲間だっ!!

 これぞ青春!!これぞ高校生!!VIVA!!青春!!」


白亜先生が両手を天に掲げ、夜空に向かって声を響かせる。


「……ということで、東京校の諸君!

 君たちも今夜から“大広間”で共同生活スタートな!!」


白亜先生が満面の笑みで叫んだ。


「大広間?」

「そんなの学生寮にありましたっけ?」

「誰も知らぬ隠し部屋

 ……そうか、これが“秘密の部屋”」


桜蘭々さん、そして是隠と萌華さんの東京校組が、一斉に首を傾げた。


「今日、新しく作ったんだよ!

 ……10階の個室を、ぜ〜んぶぶち抜いてね ♡」


『はあああああ!?!?』


見事な三重絶叫が東京の夜に響く。


「ちょ、ちょっと待ってください!

 ……え!?意味がわからないんですけど!?

 わたしたちの部屋はどうなったんですか!?」

「だからもう、無くなったんだよ!

 心配するな、荷物はちゃんと全部、大広間に移しておいたから♪」

「そ、そんな……」


その場に力なく崩れ落ちる萌華さん。


「えっと……あの……白亜先生?」

「ん?どうした?……おい、大丈夫か?

 なにやらずいぶん顔色が悪いぞ」


白亜先生が言う通り、萌華さんの顔はひどく青ざめていた。


「も、もしかして……“アレ“……

 バレてます?」

「ああ、”アレ“か!……もちろん……

 全部没収しといた♡」

「ふっざけんなああああああああ!!!!!!」


萌華さんの怒号が、東京の夜に響き渡った。


「一体、なにを没収されたんです?」


そう尋ねても、萌華さんは虚ろな目で呟くだけだった。


「わたしの……大事な……コレクションが……

 汗と涙の……結晶が……」


彼女の“アレ”の正体は、とうとう明かされなかった——。

一体、なにを没収されたのだろう……


─────────────────────────────────────


【国立十文字学園高等部東京校 学生寮10階 大広間“青”】


「ふふっ♪」

「どうしたんだ銀河?」


荷物を整理しながら思わず笑ってしまったおれに、布団で寝転ぶ是隠が声をかけてくる。


「なんか楽しくってさ♪

 たまに夜遅くまでゲームとかアニメとか見てて、牙恩の部屋でそのまま寝落ちしちゃったり、

 勉強とか語り合いとかして、謙一郎さんの部屋でそのまま寝落ちしちゃったことは何度かあるんだけど、

 こうやって、ちゃんとみんなとひとつの部屋で寝るのは初めてだから、なんか嬉しくなっちゃって♪」


そこへ、謙一郎さんが腕をぐるぐる回しながら呟いた。


「さて……

 それじゃあ、始めるか……」


謎の気合いを入れ始める謙一郎さん。


「なにを始めるんです、謙一郎さん?」

「本当の夜はこれからだぞ

 修学旅行先、気心の知れた仲間たち、そして、みんなと同じ部屋……」

「こ、これって修学旅行でしたっけ……?」

「と言ったらもう、やることは一つしかないだろう?」

「そ、それは一体……?」


ごくり。

妙な緊張感が走る。


「もちろん──

 “枕投げ大会”だ!!」


ズバンッ!!


「ぶほっ!!」


謙一郎さんの全力投球した枕が、おれの顔面を撃ち抜いた。


「さあ!来い!是隠!

 オレに当てられるか!?」

「枕を全力で投げ、相手の顔にぶつける

 ……そうか、これが“ドッジボール”」

「いっけぇぇぇぇ!!是隠ーーーっ!!」


こうして枕投げ大会が突如幕を開けた。


「うう〜……ぼくもう眠いです〜……」


ナイトキャップを被り、就寝準備に入った牙恩は眠そうな顔で言った。


「ふっ!そう言って……

 本当は負けるのが怖いのだろう!牙恩!」


ズバンッ!!


「ぶほっ!!」


謙一郎さんの全力投球した枕が、今度は牙恩の顔面にクリーンヒット。


「な、なにするんですか!?えいっ!!」


牙恩が反撃。投げた枕が宙を舞い──


「よっと!」


謙一郎さんが華麗に回避。枕は一直線に入口ドアへ──


ガチャッ。


「うるさいぞ男ども!いったいなにを……ぶほっ!!」


『あっ!』


命中。

ちょうどドアを開け、顔を覗かせた桜蘭々さんの顔面に。

見事なクリティカルヒット。


ゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!!!!!


目に見えて怒りゲージが上昇していく桜蘭々さん。

そして──


“雷獣の桜蘭々”再降臨。


「誰だ、この妾に枕を投げつけたのは?」


『牙恩です』


おれたちは一斉に牙恩を指差した。


「え……? えええぇぇぇっっ!?」

「そうか、牙恩……」


次の瞬間、鬼の形相の雷獣の桜蘭々はこう言い放った。


「良き、来世を」

「いぃぃぃぃやぁぁぁぁだああああああああ!!」


泣き叫ぶ牙恩。次の瞬間──

雷獣の桜蘭々は一瞬で牙恩との距離をつめ、そして──

うつ伏せ状態の相手の顎を掴み、背中を反らせる絞め技。その名も──

“キャメルクラッチ”を炸裂させた。


「ぎゃああああああああああっっっ!!!!」


あまりの痛さからか泣き叫ぶ牙恩。


「ワンッ!!ツーッ!!」


すかさず謙一郎さんがカウントに入る。


「ギ、ギブッ!!ギブゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」


床をばんばん叩く牙恩。


是隠は、まるでこれが青春かと言わんばかりに、納得するようにうんうんと頷きながらこの光景を眺めていた。


そこへ騒ぎを聞きつけてか、女子陣が続々と男子部屋に集結。


「なっ!桜蘭々様!?なぜ狂人牙恩にそのようなご褒美プレイを!?

 こらっ!どきなさい狂人牙恩!そこはわたしのポジションよ!」

「うわぁ〜〜っ! 楽しそーーーっ!!

 いいなーー!あたしも混ぜて!!“夜のプロレス“!!」

「ま、麻璃流さんっ!それは意味が違ってきますよ……!」

「ダーリーン♡

 眠れませんのね?それではわたくしが眠れるまで……

 添い寝いたしますわああああ♡♡♡♡」


──混沌。爆誕。


その後、女性陣も加わっての枕投げ大会が始まった──

が、そのクライマックスはあまりに唐突だった。


ガシャァァァァンッ!!!


雷獣の桜蘭々が牙恩に放った“本気の一投”が窓ガラスを粉砕。

そして──


ジリリリリリリリリッッッッ!!!!!!


警報音が鳴り響く学生寮。

数分後——


「なにやってるのぉぉぉぉ!!あなたたちぃぃぃぃ!!」


寮長、愛淫先生、襲来。


「全員、正座しなさぁぁぁぁっい!!!!」


一時間に及ぶ説教。


混沌が、激しさを増していく。


翌日、連帯責任として全員が反省文を書き終えるまで帰れなかったのは……言うまでもない。


なぜ、柔らかい素材でできているはずの枕が窓ガラスを突き破ったのか。

この物理学では証明できない事象に、翌日の東京校は生徒たちの間で大いに盛り上がっていたらしい。

後に、この事案は、十文字学園東京校の七不思議として語り継がれることになったとか、ならないとか──。

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