第五十二話 ゴリラの大精霊
※用語解説
・地の精霊:“地属性”の精霊。
その魂の起源は、土砂崩れや岩盤の崩落、流砂による圧死、または窒息死・溺死など、“大地に起因する死”によって命を終えた者に由来するとされている。
主に、戦闘などによって破壊された地形を修復するために召喚される。
大地との親和性が高く、土系の攻防にも応用されることがある。
・光の精霊:“光属性”の精霊。
その魂の起源は、老衰による自然死など“ 他属性に分類されない死”によって命を終えた者に由来するとされている。
攻撃的な力は持たないが、精霊壁の展開や、治癒術を行う際に召喚されることが多く、祓い士の支援や医療に特化した性質を持つ。
【東京都千代田区 東京駅 丸の内駅前広場】
直径約100メートルにも及ぶ超巨大な空洞は、まるでこの地に「存在」が刻まれていたこと自体を否定するかのようにぽっかりと穿たれていた。
穴というには不自然すぎる。
それは──“空間の剥離”
まるでこの世の理からその場所だけが摘み取られたかのような、異質な光景だった。
ひゅう、と音もなく風が吹く。
空洞の中央から静かに、だが確かに流れ出す風。
しかしその風には、耳に感じるはずの「音」がない。
否──
あらゆる音を吸い込み、気配すらも掻き消すような“沈黙の風”だった。
そんな異様な光景のなかで、白亜先生は唐突にくるりとこちらを振り向くと、ひときわ明るい声で言った。
「あっちゃーー!!やっべ!!
やり過ぎちゃった♡
ごっめーーん♡キャピキャピ♡」
いつものおちゃらけた感じで話し出す。
『・・・』
しかし、そのおちゃらけた感じとは相反し、あの桜蘭々さんも含め、誰もがその場に凍りついたように立ち尽くしていた。
まだ、目の前の現実を、脳が理解しきれていなかった。
これが──
この圧倒的な力こそが──
“現代最強の祓い士”
光の精霊剣の使い手──夜太刀白亜。
「さてさて!
これが“超常級悪霊の祓い方”の模範回答だよ!
みんなわかったかな!?
じゃ、ここにて……
青空教室を!閉幕しまーっす!」
テンション高く宣言する白亜先生の背後で、超巨大な空洞からはまだ黒煙が立ち上っていた。
「い、異次元過ぎて理解が追いつきませんわ……」
「な、なんなんだこの穴……
人間技じゃないぞ……」
「すっげーーーー!♪
これが狂戦士!!
レベルがダンチ過ぎるーーーー!♪ !♪
だーーひゃっひゃっひゃっ!♪」
「……ぽかぁぁぁぁん」
「あ、開いた口が塞がらない……」
「なーにが模範回答よ!?
あんな超広範囲、且つ超破壊的な攻撃ができるなら……最初から悪霊玉を探すとか関係ないじゃん!?」
「……違うぞ、萌華
あれは……白亜先生だからこそ成せる技なのだ……
妾でも……あそこまではできん」
「この圧倒的な破壊力
……そうか、これが“青春の果て”」
みんながざわつき始めた頃、周囲に展開されていた精霊壁が解かれる。
全員揃ってまだその場に呆然と立ち尽くす中、突如、見知らぬ叫び声が聞こえてきた。
「白亜ちゅわぁぁぁぁぁぁん♡♡♡
お疲れぇぇぇぇぇぇ♡♡♡」
耳に突き刺さるほどの甲高い声が東京駅の方角から響き渡る。
体長二メートルを超える、ピンク一色の身なりで、その肌は異様に黒光りし、筋肉の筋が浮き上がった巨大なゴリラ型の悪霊が、ドスドスと地響きのような足音をたてながら、猛スピードでこちらに突っ込んできた。
「うわっ!!
悪霊の残党が!?」
おれは即座に火の精霊刀の柄に手を伸ばした。
「心配するな、銀河」
白亜先生がそっと、おれの肩に手を置いた。
「よく見ろ
確かにぱっと見は“ゴリラ型・オカマ属性ド変態級悪霊”にしか見えないが、あれは悪霊じゃない……ギリな」
「えっ、じゃあ……
あの生物は一体なんなんですか!?」
「うむ、あれはな……
“新種の珍獣”だ」
「ち、珍獣……!?
しかも、新種ですか!?」
「そうだ
俺が初めて発見したんだが、まだ名前をつけていないんだ
特別に、命名権をお前に譲ってやろう
さあ、好きな名前を……」
「おどれらぁぁぁぁ!!
ぜぇぇぇぇんぶ丸聞こえなのよぉぉぉぉ!!
おんどりゃああああああ!!!!」
雄叫びとともに、ゴリラ型・オカマ属性ド変態級悪霊……
もとい、新種の珍獣は飛び上がると、華麗なフォームで空中回転しながら──
「ぐはっ!!」
白亜先生にドロップキックをお見舞いし、先生の身体は豪快に宙を舞って彼方へと吹っ飛んでいった。
「おーい!!みんなーー!!」
東京駅の方から、ひときわ明るい声が響いた。
手を振りながら駆け寄ってくるのは、いつもの優しい笑顔を浮かべた樹々吏さんだった。
そのすぐ隣には、ガタイのいい男の子と、クールな雰囲気の女の子。
いずれも精霊科の制服を着用していた。
「良かった……!みんな、無事だったんだね……!」
心底ほっとしたように胸を撫で下ろす樹々吏さんに、おれたちも自然と頷き返す。
「はい!この通りです!」
「だーーひゃっひゃっひゃっ!♪
おれっちも、ちょー元気です⭐︎」
未だ“エンジョイモード“の牙恩が、無駄に弾けた笑顔でぴょんぴょん飛び跳ねる。
「え……?牙恩くん……だよね?
なに、そのテンション……初めて見るモードなんだけど……」
「あ、あとで、おれからちゃんと説明します……」
正直、今の牙恩のはしゃぎっぷりは、初見の人間には識別困難なほどだった。
「怪我人の方は大丈夫か?」
「うん!
謙一郎くんの咄嗟の判断で全員無事だったよ!」
「そうか……良かった……」
謙一郎さんはとても安堵した表情を浮かべた。
「それじゃあ……
いつもの、いっちゃいますか!」
「はい!」
「いっちゃいましょう!♪」
「そうだな!」
自然と、皆の顔に笑みが戻った。
「いくよー!せーの!!」
『おつかれーい!!』
おれたちは、いつものハイタッチを交わした。
乾いた音が、東京の空にパシンと響いた。
「ん……?
銀河くん、背中……痛めてるね?」
「え……?
あ、大丈夫ですよ!このくらい!」
上級悪霊、そして超常級悪霊から受けた攻撃のダメージが残ってはいるが、そこまで大した痛みではない。
「だめだめ!
はい、すぐに横になる!!」
「あっ、はい、ありがとうございます!」
言われるがままに地面に腰を下ろそうとすると、樹々吏さんはあらかじめ用意していたブルーシートを手際よく敷いてくれた。
この、戦闘後のハイタッチは、実は樹々吏さんが考案したものだ。
樹々吏さんは、相手の体を触るだけで、その人の体の具合を探知することができる。
これは、医学用語で”触診“と呼ばれているものだ。
直接本人に確認はしていないが、戦闘後におれたちの無事を“触れて”確かめられるこのハイタッチを導入することで、怪我の確認を自然に行おうという樹々吏さんなりの優しい工夫、気遣いなのではないかとおれは思っている。
「はい、OK!次、牙恩くん!
君も背中、怪我してるね?」
「だーーひゃっひゃっひゃっ!♪
大丈夫です!♪
寝れば全回復するので♪♪」
「ゲームかっ!!」
牙恩は得意げに胸を張り、ブルーシートに寝転がる素振りを見せた。
「あの、ところで隣にいらっしゃるお二人は?」
「あっ、ごめんごめん、紹介するね!
こちら、神戸校の桜井助助くん!で、こちらが東京校の飯田詩音ちゃん!
二人ともわたしと同じ、精霊科の三年生よ!」
「桜井だ、よろしく頼む」
「飯田です
みなさま、お疲れ様でした
この度は応援に来てくださり、誠にありがとうございます」
二人とも丁寧すぎるくらいの深いお辞儀。
自然と、おれたちも頭を下げていた。
「あっ!!
助助さーーん!!」
駆け寄ってきたのは、神戸校祓い科の三人組。
「麻璃流!それに刹那と天嶺叉も!
みんな無事か!?」
「はい!もちのろんです!」
助助さんは三人を順に見ていくと、鼻をひくつかせながらつぶやいた。
「うん……?
刹那と天嶺叉は……右腕から
麻璃流は、左腕から血の臭いがするぞ……
三人ともすぐに手当するから、そこに横になれ」
助助さんは、その場にブルーシートを敷き始めた。
「っきゃああああああ!!
出たっ!!助助さんの”嗅診“!!
匂いだけで怪我を嗅ぎ分ける変態医療行為!!」
麻璃流さんが叫ぶように言い放つ。
「乙女の匂いを勝手に嗅ぐなんて最低!!女の敵!!
へんたーーーーっい!!」
「なっ、なにを言う!!
これは立派な治療の一つで……」
「誰かぁぁぁぁ!!助けてぇぇぇぇ!!
犯されるぅぅぅーーーー!!
「ぶほっ!!
バ、バカ!麻璃流!
変なことを言うんじゃない!!
誤解されたらどうするんだ!?」
麻璃流さんが逃げ出し、助助さんが顔を赤くしてその後を追いかける。
その騒ぎに他の二人は呆れつつも、場の空気は少しずつ明るさを取り戻していった。
一方で詩音さんは、東京校祓い科のメンバーに歩み寄り、深々と一礼する。
「皆様、お疲れ様でした
……萌華さん、右足から異音がします、痛めておりますね?
是隠さんは左膝から……
すぐに治療いたしますので、こちらへ」
詩音さんは静かに言い切った。
相手の目も合わせず、耳だけを澄ませるようにして。
「さすが、音だけで怪我を聴き分ける詩音さんの”聴診“
……そうか、これが“白衣の天使”」
「ありがとうございまーす、あとついでに全身のマッサージもおねがいしまー……」
ゴンっ!
萌華さんの頭に、桜蘭々さんの容赦ない拳が振り下ろされる。
「甘え過ぎだ、萌華」
「し、失礼しましたっ!
わたしともあろうものが、まずは桜蘭々様のマッサージを優先するべきでした!」
「別に妾は今回なにもしておらぬ
よって、どこも痛めていない」
「おっしゃる通り、桜蘭々さんからは異音が一切いたしません
いたって正常です」
詩音さんは無表情のまま、診断を下す。
「さ、さすがです!桜蘭々様!」
詩音さんもまた、静かにブルーシートを敷き始める。
「はあ……とはいえ、まだ昼過ぎなのに、今日だけでもう三戦目ですよ!?
しかも今回は超常級悪霊まで出てきましたし、さすがにつっかれた〜〜
もうくったくた……早く帰ってお風呂入りたい……」
「心配するな萌華、拙者が代わりにマッサージしてやろう」
「ぜっっったいに、嫌です!!
前みたいに、逆に痛めさせる気でしょう!!」
「あれは不可抗力だ
もしくは相性の問題だ」
「絶対ちがーう!!」
各自が治療を受けながら、場の空気は徐々に日常へと戻っていく。
「しっかし白亜ちゃん、また派手にやってくれたわね!!」
「まあな
かわいい生徒たちの手前、つい張り切り過ぎてしまった
でもお前なら、これぐらい余裕だろ?」
「もちろんよ!!
この後のこともあるから、一気に終わらせちゃうわよーー!!」
新種の珍獣は、胸の前で両の拳を突き合わせると、目を閉じて祈るように詠唱を始めた。
「精霊よ 我が霊力を糧とし 今ここに大いなる力 地の力を与え賜え」
その瞬間、先ほどまで目に見えなかった“地の精霊”たちが実体化される。
その姿は全身茶色の人型で、背中には羽が生えていた。
地の精霊たちは次々と新種の珍獣の体内に入り込んでいく。
その後、新種の珍獣の両拳が茶色く淡く光ると、両拳の甲には小さな“地の円形型霊法陣“が展開された。
次の瞬間──
「ふんっ!!!!」
新種の珍獣が地面を殴りつけると──
崩壊した駅前広場が、瞬く間に修復されていく。
「え、えええ……!?すごい!!
どんどん修復されていく!!
……たった一人で、どんな荒れ果てた戦場も修復し、そして“とある特殊プレイ”で、どんな怪我でも完治させる人がいるとは噂には聞いていたけど……」
「いやでも、これだけの修復を一人で!?
普通なら霊力が尽きて死ぬレベルだぞ!?どんな霊力量してんだこの人!?
一体何者なんだ!?」
樹々吏さんと助助さんは、とても驚いた表情をしている。
「みんな見たか、あれが──
“ゴリラの大精霊”の力だ!」
「ゴ、ゴリラの大精霊……!?
そんな大精霊が存在していたんですか!?」
思わず驚きの叫びをあげてしまったおれ。
「ああ、ただ、あまりにも凶暴すぎて誰も制御できず、精霊省の地下にある檻に閉じ込められていたんだが……
最近、檻をぶち破って逃げ出したんだ」
「え、えええ……!?そ、そんな!!
それじゃあ、捕まえないといけないですね!!」
「そうだ、だが気をつけろ
あのゴリラの大精霊は、筋肉属性……
そして、精霊省でも“第一級珍獣大精霊”に指定されるほどの超危険捕獲対象だ
あれが“暴走モード”になったらもう……この俺でも手が追えん」
「白亜先生でもですか!?」
「ああ、それでも……
手伝ってくれるか、銀河?」
「っ……!?もちろんです!
おれはなにをすれば……!?」
「ありがとう、協力に感謝する
それじゃあ、まずはバナナとプロテインを用意してだな──」
「だからああああ!!
全部丸聞こえなのよおおおおお!!!!
おんどれらああああああ!!!!」
ブンッ!!
豪快なダブルラリアットが炸裂した。
「っんごふっ!!」
「っおえっ!!」
白亜先生とおれは、そろって弧を描きながら空中を舞い、地面に激突して吹き飛ばされた。
「な、なんで……おれまで……」
視界が揺れ、意識が遠のいていく。
「んもうっ!!
乙女に対して“ゴリラ型・オカマ属性ド変態級悪霊”だの、“ゴリラの大精霊”だの、失礼しちゃうわ!!」
怒り顔のゴリラの大精霊であったがすぐに笑顔となり、くるりと華麗にターンを決めてみんなの方を振り返った。
「って、あ~~ら、ごめんなさいね、みんなっ☆
ちょっとだけ、お恥ずかしいところをお見せしちゃったわ♡」
その声は妙に高く、艶っぽく、どこか妖気すら帯びていた。
「初めましての子もいるかしらね?
私は、東京校・精霊科三年の担任、裸舞愛淫よ♡
気軽に“愛淫ちゃん”って呼んでね〜〜♡
チュッ♡」
──衝撃だった、色々な意味で。
人間だったというのにも驚いたが、この見た目にも驚きだ。
東京は変人が多いとは事前に牙恩から聞いてはいたが……
おれはこのとき、確信した。
──東京には、まだまだ理解の範疇を超えた存在がいると!
「“白亜先生いるところに、愛淫ちゃんあり”
……そうか、これが青春」
「あらぁ♡嬉しいこと言ってくれるじゃないの是隠ちゃん♡
そうよ♡
私と白亜ちゃんは、切っても切れない赤い糸で結ばれているの♡」
そこへ、刹那さんが目を輝かせノリノリで会話に混ざっていく。
「っんまあぁぁぁぁ♡
お二方はつまり……そのようなご関係で!?♡」
「うふふ♡それはねぇ……」
愛淫先生は一瞬、妖艶に微笑み──そして小指を口元にあてた。
「大人の秘密よっ♡」
「っきゃあああああああああああああ♡♡♡」
刹那さんは顔を両手で覆い、夢見心地で跳ね回る。
「BLキタコレェェェェーーーー!♡ !♡」
隣で樹々吏さんまでもが、どこからか取り出したペンライトを両手に持ち、まるでアイドルライブのように振り始めていた。
『・・・』
それ以外の全員は、無言のまま絶句していた。
──と、そのとき。
「……って、あら?」
愛淫先生の視線がするりと謙一郎さんに移動する。
「謙一郎ちゃん、あなた……お腹、痛めてるじゃないの」
愛淫先生が、すっと謙一郎さんの腹部を指差した。
「んもうっ、樹々吏ちゃん!
見落としたらだめじゃない!!
私たち精霊科は、祓い科のサポートを万全にするのが仕事なのに!!
愛淫ちゃんプンプンよ!!プンプン!!」
「あっ、すみません!
わたしとしたことが……えへへ♡」
あの感じ……
樹々吏さん、わざと見逃したな……
でもなんでだ?なぜそんなことをする必要がある?
そう言えばさっき、奇妙なことを言っていたな……
『たった一人でどんな荒れ果てた戦場も修復し、そして“とある特殊プレイ”で、どんな怪我でも完治させる人がいるとは噂には聞いていたけど……』
“とある特殊プレイ”ってなんだ……?
これは……なんだか嫌な予感がするぞ……
「ほらっ!
謙一郎ちゃん、こっちに来てちょうだい!」
「えっ、あ、いえ、大丈夫です、このくらい」
「ダ~メ!
塵も積もれば山となる!
こういう些細な怪我を見逃すと、積もり積もって大きな怪我に繋がるのよ!
はい、こっちにおいで!!」
「わ、わかりました……」
愛淫先生の強引さに押され、謙一郎さんは観念したように歩み寄る。
「……でも、どうしてわかったんですか?」
「ふふっ♡それはね……
”視診“って言って、私、相手の体を視ただけで、その人の体の異常がわかっちゃうの!
樹々吏ちゃんが、体を触るだけで
助助ちゃんが、体の臭いを嗅ぐだけで
詩音ちゃんが、体の音を聞くだけでその人の体の異常に気付くのと同じように、私は体を視るだけでわかっちゃうのよ!」
「そ、そうなんですか……それはすごいですね……」
「じゃあ──いくわよ♡」
再び、愛淫先生は両の拳を胸の前で突き合わせると、静かに目を閉じ、祈るように詠唱を始めた。
「精霊よ 我が霊力を糧とし 今ここに大いなる力 癒しの力を与え賜え」
その瞬間、今度は“光の精霊”たちが実体化される。
その姿は全身白色の人型で、地の精霊と同じく背中には羽が生えていた。
光の精霊たちは次々と愛淫先生の体内に入り込んでいく。
そして、次の瞬間──
やはり、おれの嫌な予感が的中した。
淡い白い光が光り、小さな“光の円形型霊法陣“が展開された場所は──
愛淫先生の唇だった。
「ぶちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ♡♡♡」
愛淫先生と謙一郎さんの唇が重なる。
「はい!治療完了!!
これでもう大丈夫よ♡」
「っか、はっ……!」
謙一郎さんの全身がビクビクと痙攣し、白目を剥いてその場に倒れ込んだ。
「っっっっっっっっっきゃああああああああああああああああああっ♡♡♡♡♡♡♡♡
今の、今の見ましたぁぁぁぁぁぁっ!?!?!?♡♡♡♡
愛し合う者同士が交わす神聖なる儀式──“キス”!!
……それを、生で……この目で……わたくし、この目で……!!!♡♡♡」
刹那さんは顔を真っ赤に染め、よろけるように倒れこむ。
隣では、ペンライトを振るのをやめ、号泣し出した樹々吏さんが小さく呟いた。
「……尊すぎて……書くしかない……
この感動は……紙に……後世に残さなければ……」
たぶん今夜あたり、“これ”を題材にした新しいBL小説が誕生するのだろう。
『・・・』
二人以外は当然、もはや何も言えず、ただ空を見上げていた。
なるほど……これは……謀ったな、樹々吏さん。
“とある特殊プレイ” ──
まさかそれが──“キス”だったとは。
「それでは改めて──」
愛淫先生は両手を大きく広げ、みんなに向かって満面の笑顔で叫んだ。
「みんなようこそ、東京へ!!
心から歓迎するわ!!」
※キャラクター紹介
プロフィール追加
名前:裸舞 愛淫
特殊能力:視診(視るだけで、体の異常を探知できる)
禁句:ゴリラ型・オカマ属性ド変態級悪霊
ゴリラの大精霊
ここだけの内緒話:実は、視るだけでその人のスリーサイズがわかる。
名前:杉本 樹々吏
特殊能力:触診(触るだけで、体の異常を探知できる)
ここだけの内緒話:当然、“とある特殊プレイ”がキスのことだと知っていた。
後日、いつものようにファンタジー小説を執筆するが、今回の出来事が頭から離れず、やはり気付いたらBL作品へと変わっていた。
名前:桜井 助助
特殊能力:嗅診(臭いだけで、体の異常を探知できる)
ここだけの内緒話:実は、刹那からはフローラル系、麻璃流からはトロピカル系、天嶺叉からはハーブ系のいい匂いがしている。
名前:飯田 詩音
特殊能力:聴診(音だけで、体の異常を探知できる)
ここだけの内緒話:頭がイカれてる輩からは常に、頭から異音が聞こえるが、実は東京校祓い科の三人も常に頭から異音が聞こえている。