表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/81

第四十四話 蕪島事件

【注意!!】

※今話も前話に引き続き、国立十文字学園高等部祓い科担任兼精霊省特別顧問、夜太刀白亜の視線でお送りいたします。


【遡ること少し前 東京都千代田区 東京駅屋上】


「そ、そんな……

 そんな残酷なことが、精霊刀剣の使い手になれる条件だなんて!?」


愛淫は言葉を失い、震える手を無意識に握り締めていた。

信じたくない現実に直面した愛淫は、しばらく黙って目を伏せる。

だが、その思いはやがて抑えきれなくなり、無言のまま目に涙を溜め、ゆっくりと顔をうずめた。


「”条件“じゃないわ

 ”共通点“だって言ったでしょう?」

「だとしても……だとしても!!

 ううっ……!

 そんなの……ひどすぎる……!」


そして愛淫は耐えきれず、静かに嗚咽を漏らしながら泣き崩れた。


「精霊刀剣の使い手に選ばれるってことは、ただ特別な力を手に入れるだけじゃない

 この“悪霊時代の終結”っていう重い試練を、勝手に背負わされることになる

 孤独という、人間にとってとても辛いものに耐えられる者じゃないと、きっと選ばれないのかもしれないわね」


凛花は少しだけ視線を外し俯いて話していた……が、すぐに顔を戻して再び望遠鏡を覗き込み始める。


「おい凛花

 お前、絶対そのことあいつらには言うんじゃねえぞ」

「もちろんよ

 精神が成熟しきっていない子どもたちに、こんな残酷ことを言うわけがないじゃない?

 それに何度も言うようにまだこの共通点が、大精霊に選ばれ、精霊刀剣の使い手になれる資格だって決まったわけじゃないし

 あくまで可能性の話であって、そんな曖昧なものを公に話すつもりはないわ」


凛花はそう言葉を冷たく返しながら、望遠鏡越しに桜蘭々たちの方を見つめ続けた。

だがその時、彼女の背中から哀愁が漂っているように感じたのは……俺だけなのかもしれない。


「そ、それじゃあ……

 あの子たちには……家族がいないの?」


愛淫が涙を拭いながら、震える声で尋ねてくる。


「……そうだ

 全員──亡くなっている」

「そ、そんな……みんなまだ子どもなのに……

 確かに白亜ちゃんも……

 でも、あれ……?それはやっぱりおかしいわ!

 それだったら、謙一郎ちゃんや銀河ちゃんという弟がいるはずの心二ちゃん、金翔ちゃんが精霊刀剣の使い手に選ばれるはずはないもの!!」

「そうね

 だけど、精霊省のデータが間違っていることはありえないわ

 だとしたら……考えられることは一つじゃない?」

「弟がいる……なのに、精霊刀剣の使い手に選ばれた……

 ま、まさか!?

 ──血が繋がっていない!?義弟ってこと!?」

「そのとおりよ

 彼らの家族関係はいろいろと複雑みたいね

 まあ、特段珍しい話でもないけど」

「凛花ちゃん……

 いえ、精霊省はどこまであの子たちについて知っているの?」

「全部に決まってるじゃない

 家族構成、犯罪経歴、親の職業……

 当然、あの子たちの過去についてもね

 精霊刀剣の使い手たちはみんなそれぞれ、深い過去を背負っているわ」


凛花は、変わらず望遠鏡を覗きながら冷静に淡々と話す。


「どんなことでも、一回見聞きしただけですぐに一から十を理解し実行できるが、それ故に飽きっぽいのが欠点で周囲から疎まれた──

 八戸校一年、地の大精霊・地玄武に選ばれし、地の精霊大剣の使い手

 ──“天才少年”、鈴木牙恩


 前代の地の精霊大剣の使い手で、“蕪島の英雄”と呼ばれた高橋心二の義弟──

 八戸校三年、風の大精霊・隼風丸に選ばれし、風の精霊手裏剣の使い手

 ──“英雄の弟”、高橋謙一郎


 悪魔の実験と言われた、“霊力実験”の最高傑作──

 神戸校三年、氷の大精霊・白氷狼に選ばれし、氷の精霊両刀の使い手

 ──“被験体No.1018”、田中刹那


 国立十文字学園で、代々刀剣道を指導してきた渡辺一族最後の生き残り──

 神戸校二年、水の大精霊・水青龍に選ばれし、水の精霊分離剣の使い手

 ──“Last Children”、渡辺麻璃流


 教育虐待から逃れるため、実の母親を殺害した──

 神戸校一年、樹の大精霊・青天森に選ばれし、樹の精霊双刀の使い手

 ──“マリア殺しの子”、伊藤天嶺叉


 日本でも指折りに入るほどの大企業、山本財閥の一人娘──

 東京校三年、雷の大精霊・白雷虎に選ばれし、雷の精霊長刀の使い手

 ──“散り桜”、山本桜蘭々


 罪のない人たちを100人以上も殺害、日本中が恐怖のドン底に陥った“盛岡無差別殺人事件”

 その犯人である“殺人鬼・中村吏隠(りおん)“の一人息子──

 東京校二年、影の大精霊・影鯨に選ばれし、影の精霊双短刀の使い手

 ──”鬼人の子“、中村是隠


 “絶冥(ぜつめい)教”の信者から“神使様”と呼ばれ、崇められていた教祖を殺害

 ”絶冥神(ぜつめいしん)“の銅像を破壊した──

 東京校一年、毒の大精霊・毒吐乃大蛇に選ばれし、毒の精霊短刀の使い手

 ──”神殺しの子“、小林萌華


 ──そして……」


それまで平静な顔をしていた凛花が、動揺を浮かべる。


「ふーん……あの子が……

 なんだ、写真どおり、全然パッとしない普通の男の子じゃない

 生で会ってみてもなんか……特別感が全く感じないわね」

「えっ!?

 もしかしてお目当ての子!?

 どれどれ!?どの子なの!?」


先程まで涙を流していた影響だろう、メイクが剥がれ妖怪顔になっている愛淫が凛花に尋ねる。


「あれよ……

 ──火の精霊刀を持っている子」

「今の火の精霊刀の使い手……佐藤銀河ちゃん……って!

 あの子、まだ高校生じゃない!?

 あなた、ショタコンがタイプだったっけ!?」

「そんなわけないじゃない

 私の好みは、お金持ちの男だけよ」


凛花がにっこりと笑うと、愛淫は思わず肩をすくめてみせた。


「んまっ……!

 なんて自分に正直な人!

 それで、あの子が一体なんだっていうの?」

「一年前、八戸市で起きた“蕪島事件”は知ってるわよね?」

「当たり前でしょ!

 あの事件で、前代の火の精霊刀の使い手、金斗ちゃん

 そして、地の精霊大剣の使い手、心二ちゃんが亡くなったんですもの!

 それだけに留まらず……蕪島で大爆発が起こって、新しく更新された地図には蕪島の周辺がそっくりそのまま無くなっていると聞いたわ!

 なによりも!

 ”あの大悪霊“が突然といなくなった、史上最低最悪の事件だもの!」


凛花と愛淫が言う“蕪島事件”とは、一年前に青森県八戸市で観光名所としても有名な蕪島で起こった凄惨な大事件のことだ。

精霊壁に常時囲まれていたはずの島であったが、突如として精霊壁が破壊され、島内にいた超常級悪霊50体が現れるも……信じられないことに、それらは一夜にして。

否、原因不明の大爆発により、たった一瞬で全てが消え去った。


その大爆発に巻き込まれ──

現場で対応に当たっていた精霊科の生徒、教員。

そして、精霊刀剣の使い手二名を含む、多くの命が奪われた。


蕪島周辺は完全に消失し、新しい地図にはその名残すらない。


蕪島には”あの大悪霊“が封印されていたため、蕪島は昔から精霊省によって特別危険区域として指定されていた。

蕪島を中心としたその周辺には365日24時間、精霊壁が張られ、常に精霊省の監視対象となっている。

何人たりとも、否、ネズミ一匹すら侵入不可能!

……のはずなのに、あの凄惨な事件が起きてしまった。


誰もあの日起きた真実を語らない。

いや、信じることができなかったのだ。

なぜなら、そんなことができるのは……


──あいつしかいない。


本当にあんな化け物がこの世に存在しているとは、みんな信じたくなかったのだ。


「そう、その蕪島事件で……」


凛花は深呼吸をしたかと思えば、またいつものように感情のこもっていない無機質な声色で話し出す。


「たった一人で、その場にいた超常級悪霊50体、全部を祓い──

 前代の地の精霊大剣の使い手、高橋心ニを殺し──

 そして……

 蕪島一辺を破壊した張本人が、あの子──


 八戸校二年、火の大精霊・朱炎雀に選ばれし、火の精霊刀の使い手

 ──(みなごろし)の子、佐藤銀河」 

「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ